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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第1回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第1回/全3回)
空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第1回/全3回) 空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第1回/全3回)

リアクション


chapter.9 意図と糸 


「……ここまでか」
 箒を掴む手も弱々しく、樹が遥か下の海を見る。彼とフォルクス、クロスの周りを囲んでいるのは7機の小型飛空艇。
「そろそろ、落ちてもらおうか」
 空賊たちがその距離を縮めた時だった。
「待つのじゃーっ!!」
 小型飛空艇に乗って現れたのは、後ろにマシュを乗せたロミーだった。
「さあマシュ、やるのじゃ!」
「分かったよ、ロミー殿」
 マシュは生徒を取り囲んでいる空賊たちに向かって、アシッドミストを放つ。酸の濃度を薄めているため、実質ダメージはなく濃い霧が発生しただけだったが、この状況下ではそれがベストだった。樹らを取り囲むため一ヶ所に固まっていた空賊たちは技の範囲内にまとまっていたため、一時的に視界が奪われた。また、敵中にいる生徒たちもただの濃霧であるため被害を受けることなく囲みから脱することが出来たのだ。
「ふぅ……助かりました」
 ピンチを切り抜けたクロスが礼を言う。
「礼には及ばないのじゃ! これが助け合いの精神なのじゃ!」
 しかし、この霧も一時的なもの。ロミーの飛空艇を合わせても、こちら側の戦力は4機。数的にも、地形的にも不利なことに変わりはなかった。
「大丈夫ッスか!? 助けに来たッスよ!!」
 この劣勢を打開すべく、助っ人が彼らの元へと飛んできた。サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)が、パートナーのヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)と共に飛空艇で参戦したのだ。なぜかスクール水着で。しかもサレンが着ているその水着はサイズが小さめなのか、横から胸が若干はみ出している。
「え、えっと、その格好は……?」
 一同の当然の疑問に、自信満々でサレンは答える。
「空戦は風が強いから、空気抵抗を少なくしないと動きが制限されてしまうらしいッス! そうッスよね、ヨーさん?」
「もちろんそうよ!」
「ということで、思いっきり暴れるッスよ!!」
 言葉通り、激しい動きを見せるサレン。とサレンの胸。さすがの空賊たちもこれには運転そっちのけで目を奪われた。視線を独占したサレンのすぐ横で、ヨーフィアも激しく踊る。こちらも色々と激しい動きを見せている。もうすっかり空賊たちは彼女らの虜だ。ヨーフィアは視線を浴びウットリとするが、まだ100点ではないらしい。
「そろそろ、よね」
 ヨーフィアはちらりとサレンの方を見る。激しく動いたサレンは汗をかいており、水着がうっすら透け始めている。
「白の水着にして正解ね!」
 そしてとうとう、サレンの水着越しにぷっくりと何かがふたつ浮かび上がった。
「ヒャッホーーーーーッッッ!!」
「うおおおっ、ねえちゃん、最高だぜ!!!」
 テンションが上がりまくった空賊たちに驚き、ヨーフィアを見るサレン。
「ど、どうしたんスかね? この人たち」
「ふふふ、さあ、もしかしたらサッちゃんの正義のヒロインっぷりに感動したのかも」
「おおっ、一生懸命頑張れば、気持ちは伝わるものなんスね! ヨーさん、私嬉しいッス!」
 本当に嬉しいのは周りの男性陣である。が、サレンはそんなことに気付かず、ノリノリで動き回っていた。ヨーフィアは「これで100点ね」と満足そうに首を縦に振っているのだった。

「あらあら……面白い注目の集め方をしていますわね。沙幸さんの上を行く方がいるとは思いませんでしたわ」
 少し離れたところから箒に乗り、藍玉 美海(あいだま・みうみ)がそんな彼女らの様子を眺めていた。
「まあ、沙幸さんも沙幸さんでなかなかお茶目なことをしでかしてますけれど」
 そう言うと美海は視線を上へと移す。その先には、彼女の契約者、久世 沙幸(くぜ・さゆき)がシヴァ船の上部から侵入をしようとしていた。が、ただでさえ短いスカートをはいている沙幸が上空へと昇ったお陰で、そこにはとてつもなくチラリズムを刺激する景色が広がっていた。
「沙幸さんはパンチラ死守とかおっしゃってましたけど……まあ、あの様子では守れそうにもありませんわね」
 独り言をしばらく漏らした後、美海は箒をサレンたちのところへ向かわせた。
「さて……わたくしは沙幸さんを守らせていただくことにしますわ」
 その言葉と同時に、美海は雷術や火術などをオーバーに使い、注目を集めた。彼女は、自らが囮となることで沙幸を無事に侵入させようとしていたのだ。サレンたちの豊満な胸の力も相まって、見事彼女たちは飛空艇全ての注目を集めていた。というか、胸に見とれた空賊たちは運転が疎かになり、そこを美海の魔法に狙われるとひとりまたひとりと墜落していった。よそ見運転は危険である。

 これを好機と見たヨサーク軍は、一気にシヴァ船への侵攻を開始した。六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)と彼女のパートナー、ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)が真っ先に飛び出すと、その後にイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)と彼のふたりのパートナー、フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が続いた。
 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)も、光学迷彩を使用しながら箒にパートナーのジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)を乗せて船内へと潜り込んだ。
「おめえらもそろそろ行くか?」
 部屋に集ったナガン、梓、武尊、又吉らにヨサークが声をかける。
「ヨサークさん、行く前に、アレやりましょうよ」
「ははっ、よおし、行ってこいおめえら! Yosark working on kill!」
「Hey,Hey,Ho!」
 掛け声と共に飛び立った一同をヨサークは見送った。そんな彼に、優希のもうひとりのパートナー、アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が話しかける。
「なあ、ヨサークのおっさんよ」
「ん? なんだ、おめえはあいつらと行かねえのか?」
「その前に、聞いておきたいことがあってな。あいつら……シヴァ空賊団ってのは、強えのか?」
「……あぁ、強いぜ。卑怯なことでも平然と出来ちまうヤツだからな」
「うちの校長はあれでも結構な腕の持ち主なんだが……その強さは、ヤツらだけで誘拐事件を成し遂げられるほどなのか?」
 アレクセイの問い掛けに、黙り込むヨサーク。少しして、彼は口を開く。
「おめえらの校長がどれくらい強えのか知らねえが、もしかしたら、背後に誰かがついてるかもしれねえな」
 慎重派のシヴァがこんな大胆な事件を起こすってことは、何か強力な後ろ盾を得たって可能性は充分ある……ヨサークはそう考えた。しかし、だからといって仕掛けた争いを止めるほど、彼のプライドは小さくなかった。
「はっ、いっぺん土を掘っといて『やっぱ良くない土でした』なんてみっともねえことが出来るかよ!」
 ヨサークはアグリを呼び寄せ、鉈を手に取る。自ら戦地に赴こうとするヨサークを見て、アレクセイと同じく部屋にいた影野 陽太(かげの・ようた)が同行を申し出る。
「ヨサークさん、俺も行かせてください」
 陽太の男気にヨサークは二つ返事で頷く。そんな意気揚々としたヨサークに、乗船してすぐ揉め事を起こしたさけが再び現れ、声をかけていった。
「あんだ、やればできるだばね。空の畑、耕せそうだてね」
「……あ?」
 それだけを言って去っていくさけを、ヨサークは無意識のうちに一瞬目で追ったが、そんな自分を打ち消すようにすぐに正面へ向き直った。そして、声を上げ空へと駆け出す。
「いよいよ刈り取りの時期が来たぜ、シヴァ!!」



「慌しくなってきましたね……」
 小型飛空艇第1陣、第2陣共にやられ、船内への侵入まで許したシヴァ。しかし彼に特別焦りは見えない。
「……結構なピンチだと思うけど、何か秘策でもあるの?」
 メニエスが尋ねると、シヴァは携帯を取り出し、誰かに電話をかけ出した。

 そのシヴァ船内では、飛空艇上部に穴を開けた先導役、刀真が鬼のような形相で通路を突き進んでいた。
「なっ、なんだ貴様っ……!」
「うるさい、殺すぞ」
 有無を言わさず自身の名付けた光条兵器『黒の剣』で斬り進んでいく刀真。本来の威力ならばその場で致命傷を与え命を奪うことも不可能ではなかったはずだったが、刀真の剣がそこまでの斬撃を与えなかったのは、出発前の呼雪の言葉のせいか、それとも……。
 とは言えその傷は決して浅くはなく、その後を変装姿で通った薫と周はお陰で怪しまれることなくスムーズに移動出来ていた。

 一方、沙幸はトレジャーセンスを使い船内を捜索していた。
 彼女が探していたもの、それは通信記録。
「今回の事件、何か裏がありそうな気がするんだよね……」
 空賊逮捕の依頼、そして空賊による誘拐事件……タイミングが良すぎるよ。
沙幸は、そんな思いの元、裏を探ろうとしていた。やがて沙幸は、船内の一室へと辿りつく。おそらく記録室と思われるその部屋には、様々な機械が置いてあった。
「うー、機械がいっぱいでよく分かんない……適当に押したら、何か起きないかな?」
 沙幸は手当たり次第にスイッチを押していく。すると次々に文章が書かれた紙がカタカタとあちこちから出てきた。
「わ、わわっ」
 慌てて紙を拾い集める沙幸。と、彼女の目に1枚の紙が留まった。『誘拐』という文字が書かれていたからだ。沙幸は始めからじっくりと文章を読む。
「あなたに……依頼をします。依頼内容は、蒼空学園校長、御神楽環菜の誘拐です……」
 一区切り読み終えると、沙幸はその紙をもう一度まじまじと見つめた。
「これが本当なら……カンナ様をさらったのは、シヴァじゃない……?」
 沙幸はさらなる手がかりを探すため、1枚1枚紙をチェックしていった。

「ミラベルさん、ちょっと前進しすぎちゃいました……」
「大丈夫です、わたくしの命に代えても、優希様はお守りいたします」
 飛空艇撃破後、シヴァ船に突入したグループのひとりである優希はその勇敢な姿勢が裏目に出てしまっていた。
グループ内で先陣を切って侵入し歩を進めたは良いものの、常に先制攻撃を行うというその戦術は裏を返せば真っ先に敵と対峙しなければならないという、諸刃の剣だった。
「わ、私、諦めませんっ!」
 狭い通路で敵船員に囲まれ、それでも目は死んでいない優希。そんな彼女らの窮地に、武尊が現れた。
「おらおらっ、こんな狭い通路でたむろっているんじゃないっ! こちとら就職がかかってるんだよ!!」
 ジュラルミンシールドを構えたまま突進し、至近距離まで到達するとライトブレードで敵を切りつける。通路という狭い空間を活かしたその戦法に、船員たちはとっさに対応出来ないでいた。そこに相方の又吉も追い打ちをかける。
「俺はもっと派手に行くぜ!」
 アーミーショットガンで、スプレーショットを放つ又吉。
「ば、馬鹿っ、こんなところで乱射したら……!」
 案の定銃弾は跳ね、通路はあっという間に危険区域と化した。が、道を塞がれていた優希にとってこの混戦は逆に好都合だった。混乱に乗じ包囲網を脱した優希は、武尊にお礼を言った。
「あ、ありがとうございますっ!」
「君の生死はどうだっていいんだよ! これはオレの将来がかかった戦いなんだからな!」
 武尊にもう一度頭を下げ、優希はミラベルと共に再び通路を走った。

 シヴァ船の船員用部屋があるエリア。
 イーオンは相方のセルウィーと一部屋一部屋しらみつぶしに捜索していた。言うまでもなく、校長、環菜を。
 彼、イーオンは環菜の救出を最優先に考えていたため、他の対象――敵船員やシヴァには目もくれずただひたすらに環菜を探していた。
「セル、そっちはどうだ」
「残念ですが、この辺りにはいないようです」
「そうか、では次のエリアを探す」
 一切の無駄がないイーオンたちのやり取り。その時彼の電話が震えた。
「フェルか、どうした」
 それは、パートナーのフェリークスからの電話だった。フェリークスは侵入後ふたりと別れ、単身環菜の監禁場所を探していたのだ。手分けして捜索した方が効率が良いだろうというイーオンのアイディアである。
「厨房周りを探ってみたが、駄目だ、こちらにもいない」
「そうか、ならば一旦戻って来い」
 電話を切り、再び捜索に当たるイーオンたち。
 しかし彼らにはひとつ、忘れている情報があった。それは、シヴァの性格。敵が母船に侵入し、人質を取り戻しに来た場合、わざわざ手元から離れたところに人質を置くだろうか?
 答えはノーである。
 そう、環菜は現在、監禁場所を変えられ、シヴァのいる司令室の隣室に閉じ込められていた。そしてこの部屋には、司令室を通らなければ入れない。

 そのシヴァは、電話越しに今まで出したことのない声を出していた。
「何……? 船内にいない……?」
 信じられない、といった様子でシヴァは確認する。
「ごめんごめん、あんまりむさ苦しいし暇だったから、ちょっと抜け出しちゃった」
「今、敵軍が侵入しているんですよ? こんな時に働かないで、何のための用心棒ですか!?」
「うるさいなー、言われた通りあの女さらってきてあげたのに」
「それが原因で今襲撃を受けているんですよ! とにかく、早く戻ってきてください!」
「分かった分かった、今から行くから」
 ぶちっ、と勢い良く電話を切るシヴァを見て、メニエスがにやにやと笑う。
「予想外の事態、ってわけ? 狡猾な空賊として有名だって聞いたけど、案外たいしたことないのね」
「黙りなさいっ! さっきの人質を嬲り殺してあげましょうか!?」
 ロザリアスを引っ張り出し、喉元に刃物を突きつけようとするシヴァ。しかしロザリアスは素早く体を動かすと、目の前にある刃物で自らを縛っていた縄を切り抜け出した。そして懐に隠し持っていたハンドガンを取り出し、シヴァへと向ける。
「てめーみてーな3流空賊が、あたしに刃物向けてんじゃねーよ!」
「ロザ!」
 メニエスが、興奮して口調が荒くなったロザリアスを止める。
「ねえ、誤解しないでほしいんだけど、あたしはあなたについてるの。あたしの敵はあなたじゃなくてあの校長、そしてそれを助けに来るあいつらよ。分かったら、あたしの持ち物返してくれない?」
「……」
 シヴァが3人に武器を返すと、メニエスとミストラル、ロザリアスは出口へと向かった。
「次ここに戻ってくる時は、あの校長の頭蓋骨半分に割って、そこに助けに来た生徒たちの血を注いで美味しくいただきたいものね」
 そう言い残し、メニエスたちは部屋を後にした。それを見送ったシヴァは、携帯を見つめて独り呟く。
「時間さえ稼げれば……あの用心棒が戻ってくるまで持てば、こちらのもの……!」
 司令室から伸びた通路を歩いていたメニエスは、しばらくしてその足を止めた。
「メニエス様……?」
 彼女たちの前に立っていたのは、ナガン、そして梓だった。
「さっきは、面白いことしてくれたじゃねぇか」
「あなたがそっち側につく方が、あたしは意外で面白かったけど?」
「ナガンはもう、ヨサーク空賊団の一員なんだぜぇ」
「ふうん、そう。ならあたしは、シヴァ空賊団の一員ってとこかな」
 互いの利益と欲望のため、避けて通れない争いをふたりは始めた。