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リアクション
「暇つぶしとか、決してそういうんじゃないんだよ……ほら。困ってる人は放っておけないもんね!」
一方、愛美とマリエルの2人と話しながら泉までやって来た東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)。
今回の目的を訊ねられ、つい本音を……最近退屈だったから、刺激を求めて……言いそうになって首を振る。
「皆さんのことは、自分が守ります」
秋日子が言葉を濁すのを聞き、要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)が助け船を出した。
にっこり笑顔で、皆の注意を自分へと逸らす。
「来るかなぁ、パラ実生達」
「真相は分かったから、あとは現場を押さえれば完璧だよね」
愛美やマリエル達は泉の周辺にて隠密行動に務めていた。
交渉に行かない者が何らかのアクションをとるだろう、という分析からだ。
「歌声の主ですが、愛美さんとマリエルさんが言っていたモンスターの歌声というのも、間違いではないかもしれませんね。もしかしたらセイレーンとかウンディーネという可能性も……ってセイレーンは海ですね。あとはニンフ? ヴァイシャリー湖に出没したそうですけど」
依頼の相変わらず不明な部分を、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は推理していた。
水辺に棲み、歌を唱うようなモンスターといえば、案外限られるものだ。
「歌声の正体がたとえモンスターであっても、悪意や害が無ければ良いのではないでしょうか。モンスターの種別や特徴は【博識】を利用して鑑定します。悪意や害があるかは、出会えたときに【ディテクトエビル】を使用してチェックしてみましょう」
ウィングの推測に、御凪 真人(みなぎ・まこと)も言葉を返した。
気になるが、出会えない以上は考えていても仕方がないので、そのときの対策だけは練っておく。
「プリースト2人だといざ襲われた時が大変ですし、私自身も歌声の持ち主には興味がありますからお2人に同行します。念の為にパラ実生徒の奇襲に備えて常に【超感覚】を発動して周囲を警戒しましょう……猫耳と尻尾が出るのは恥ずかしいですがっ!」
愛美とマリエルの手を取り、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)はスキルを発動した。
紅く染まる頬を隠すように、愛美とマリエルから眼を離す。
「あ……静かに」
段々と大きくなるバイクのエンジン音に、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、ぐっと拳を握った。
これまでも愛美やマリエルと数々の冒険を乗り越えてきており、なおかつ同じ蒼空学園の生徒として特にマリエルと仲の良い美羽。
マリエルが愛美のことを心配しているので、愛美を守ってマリエルを安心させるためにどうしても依頼を解決したかった。
「パラ実生らの行動一部始終を見ている方が、状況把握はしやすいだろう」
【禁猟区】を張って、パラ実生達を待ち構えていたカーマル・クロスフィールド(かーまる・くろすふぃーるど)。
すぐに出ていこうとする生徒達を抑えて、様子を伺うように諭した。
「よし、これで最後だな! 早いとこずらかるぞ!」
生徒達が隠れていることなどつゆ知らず、持ってきた産業廃棄物を泉へと投げ入れるパラ実生達。
バイクへと戻ろうとするパラ実生達……だが、眼前にたくさんの生徒達が現れた。
「悪い事したんだ、お仕置きされる覚悟は出来ているのだろう?」
パラ実生の頭を掴むと、本人にだけ聞こえるよう、耳許で囁くカーマル。
「煩い……見掛け倒しですらないか」
返答を遮るように、カーマルは電流を流し込んで相手を気絶させた……電気椅子体験の刑だ。
「愛美さんは親友ですから、あらゆる敵から守りますよ!」
向かってくるパラ実生達を愛美に近付けないように、ウィングは力強く述べる。
実際のところウィングは、愛美をただの親友だと思っていない。
片想いの相手なのだ。
だからこそ必ず守り通したいと、体を張ってでも守り抜くと、心に誓っていたのだ。
「俺も、愛美さんを守ります!」
ウィングと連携をとり、真人も愛美を護り戦う。
ただし殺生をしないように、細心の注意を払いながらの戦闘だ。
「真人が魔法的手段の行動を取るなら、私は物理的な脅威から周りを守るよ!」
元気いっぱい、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)はパートナーと上手く役割分担を計って行動している。
高周波ブレードでパラ実生の攻撃を受け流し、後衛陣を護るセルファ。
真人と同じく、なるべく殺生をしないように手加減をしながら戦いに挑んでいた。
「やる気あるのか? 手加減は言い訳にしかならんぞ?」
瞬時に次の相手を見極め、カーマルは首の後ろへと手刀を決める。
行動不能にできればそれで充分だと、意識を奪う程度に留めておいた。
「下手な鉄砲も数撃てば当たる、とは言いますが、私のライフルはたとえ数発しか撃たなくても獲物は逃しませんよ?」
【シャープシューター】と【超感覚】の効果で命中率を上げ、翡翠はスナイパーライフルによる狙撃を試みる。
位置は後衛、万が一前衛を突破された際に愛美とマリエルを護ることのできる場所を、心掛けていた。
続けて【ヒロイックアサルト】と【弾幕援護】を並列使用し、機先を制して他の護衛役の援護を行う。
「何を企んでいたのかな?」
【隠れ身】の効果により、パラ実生達の背後に回り込む美羽。
愛美とマリエルを護るように立ち回りつつ、美羽もかかと落としで相手を気絶させる。
「命を奪ったりはしないよ。例え相手が悪人でも、人殺しはしたくないもんね」
倒した相手が眼を覚まさないうちに、美羽は縛り上げていった。
「オイラはエースのお手伝い。エースが武力行使は好みじゃないと言っても、降りかかる火の粉は払わなきゃならないんだし」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、パートナーを庇いながら反撃を開始する。
とは言っても身を護る程度、【スプレーショット】での威嚇に留めているのだが。
「オイラがついていないと、エース人が良すぎるから……まったくもー」
パートナーを連れて、戦闘区域から離れるクマラ。
互いの衣服の汚れを払い、乱れを直して、ことの次第を見守っていた。
「とにかく、初めての依頼だし、あたしは危険な真似は出来ないし、したくないね」
愛美やマリエルとともに、加奈氏 さりあ(かなうじ・さりあ)も【ヒール】を発動し続ける。
さりあにとっては、ともに依頼へと参加した仲間を助けられることが何よりも嬉しかった。
「とにかく俺は大事なあいつ……じゃない、ご主人様であるさりあを守るだけだ。その為には、近づく敵は容赦なく叩き斬る。あいつのことは何が何でも守り抜いてみせるっ!」
ヨーフィン・ウォンダーード(よーふぃん・うぉんだーど)は、パートナーであるさりあの前に立つ。
パラ実生達の攻撃から、さりあのみを護れればそれでいいと。
「あたしがピンチになっても、ヨーフィンが助けてくれるって信じてるっ! パートナーだもんねっ、ペットだけど」
そんなヨーフィンに、さりあは心強さを感じていた。
「他の奴には興味はないなっ。あくまで自分の使命を貫き通すのみ、だ」
「うんっ、がんばるよっ!」
不思議な絆で結ばれたさりあとヨーフィンは、お互いを助け合いながらパラ実生へと挑む。
「……テメェ……そんなにあの世がみたいのか……?」
愛美とマリエルを挟んで反対側、要が……キレていた。
秋日子に対して、とあるパラ実生が本気で攻撃を仕掛けてきたのだ。
「か、要……落ち着いて……ね?」
「あぁ!? こういう奴らはなぁ、いっぺんシメとかねぇとわかんねぇんだよ!!」
何とか攻撃を躱した秋日子がビックリしつつも、平常心を取り戻させようと呼び掛ける。
しかし要は聞く耳持たず、サーベル型の光条兵器を片手に秋日子を睨み付けた。
「落ち着けって言ってるでしょーーーーーーー!!」
キッ、と鋭い視線を要へ向けて、秋日子は叫ぶ。
泉一帯に木霊した声は、要の行動を止めるに至った。
「……じ、自分としたことが!!」
我にかえった要は、顔を真っ赤にして反省する。
秋日子に頭を下げて仲直りをし、再びお互いの背を預け合った。
「きっと、騒ぎを先導する頭領が居るはずだ。そいつをつぶして今回のパラ実生を支配下に置けば解決だ」
かかってくるパラ実生達を巧みに躱して、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は叫び走る。
狙うはただ1人……すべてのパラ実生を率いて、悪事を働いている頭(かしら)のみだ。
「こまけぇこたぁいいんです。俺がのし上がる為に、犠牲になってください!」
最奥で他のパラ実生に護られていた者を、今回の頭だと断定した大和。
光術を最大光量で発動し、相手の眼がくらんでいるうちに【奈落の鉄鎖】で限定的に重力へ干渉する。
力いっぱい踏み出す一歩の慣性を【封印解凍】で消して、始めからトップスピードで斬りかかった。
「くっ……はぁっ!」
すんでのところで受け止められるも、力は大和の方が上。
相手の武器を折って大和は、頭に止めを刺した。
「さぁ、どうしますか?」
パラ実生達の動きが一気に止まり、大和へと送られる視線。
ブレードに流れる血を払い、大和は訊ねる。
「大人しく俺達に従いますか、それとも……」
パラ実生達は武器を捨て、大和へと下った。
「パラ実生だからって悪人とは限りませんが、もしやっていることが悪い事なら、たぶんお金のためじゃないかと思います。だとしたら、そのお金の出所も断たないと、一度止めてもまた繰り返しかもしれませんよね」
そう考えた東間 リリエ(あずま・りりえ)が、パラ実生達を追求する。
しかしながらこの場にいるのは、悪いことをしている組織の末端も末端。
金をもらっていることは事実のようなのだが、誰1人として金の出所を知らなかった。
「それにしても、歌声が同じ時間に聞こえていたというのが少し気になります。もしかしたら歌で合図でも送っていたのかも? とか、その相手がパラ実生ってことは? とか……全部想像だが」
リリエのパートナーであるジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)も、パラ実生達へと追求する。
だがやはり誰も、歌のことを知らないらしい。
村人達に言い寄られたときも、何のことだか判らずに振り払おうとしたのだが、しつこすぎて身ぐるみを剥がすに至ったらしい。
もちろん許されることではないが、パラ実生達も嘘は吐いていなかったということだ。
「取引先やら命令相手やらの所まで案内してもらった上で警察機関に連絡しようかと思うのだが、可能だろうか?」
皆の後方で、パラ実生達に聞こえないように閃崎 静麻(せんざき・しずま)が疑問を呈す。
相手は、パートナーの閃崎 魅音(せんざき・みおん)とクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)だ。
「それはちょっと……難しいと思うんだよ」
「マスター、警察がいるのは空京やツァンダと言った都会だけです。この辺りは地方領主によって治められていますので、その方々を飛び越えて『警察に通報する』というのは無理でございますな」
魅音もクリュティも、口を揃えて静麻の提案を否定する。
「そうか……じゃあ、後始末に回るぜ」
「わかったんだよ、静麻お兄ちゃん。クリュティも?」
「了解、マスター」
残念そうに下を向く静麻だが、さくっと気持ちを切り替えた。
魅音とクリュティも姿勢を正し、静麻とともに仲間達と合流する。
「早く掃除しなきゃ、さぼらず片付けてよね」
罪を認めたパラ実生達も巻き込んで、泉の廃棄物を除去し始める愛美達。
綺麗にすることができればきっと、再び歌が流れることと信じて。