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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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「なんだか、皆さんとはぐれてしまったようですね」
「いいじゃないか、めんどくさくなくて。まあ、ちゃんとついてきたのもいるにはいるが」
 西の亀裂にむかったペコ・フラワリーとマサラ・アッサムは、遺跡の中に入り込んでから、同行者の少なさにちょっと意外そうな顔をした。
 確実に敵を迂回して遺跡に潜入する予定が、予想よりも早く戦闘が始まってしまったために、同行する予定の者たちがかなりバラバラにされてしまっている。これでは、他の入り口にむかったグループも、ちゃんと潜入できたか難しいかもしれない。
「へぇー、遺跡の探索ってこんな感じなのね。一度体験してみたかったのよ」
 橘 カナ(たちばな・かな)が、脳天気に言った。
「申し訳ありませんッス。カナさん、初めての遺跡探索で浮かれてるみたいッス。あなた様方には御迷惑おかけするッス」
 初めての遺跡探検に、必要以上に周囲をキョロキョロする橘カナに、兎野 ミミ(うさぎの・みみ)ははらはらしながらペコ・フラワリーたちに謝ってばかりだ。
 とりあえずついてきたのがこの二人だけということに、マサラ・アッサムはがっくりと肩を落として落胆した。
「とりあえず進もうか。お宝って言うのには、ボクも興味がある」
「ああ、それがいいですね。そこの男、あなたも一緒に来なさい」
 うながすマサラ・アッサムに同意したペコ・フラワリーだったが、ついと立ち止まると、背後の闇にむかって声をかけた。
「さすが、お見通しだねぇ」
 暗闇からひょいと飛び出るようにして、黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が姿を現した。
「玄武甲とやらまで、案内しようかなぁ」
「分かるのですか?」
「もちろ……いや」
 自信満々に言いかけて、黒脛巾にゃん丸が言いよどんだ。自慢のトレジャーセンスに何も感じない。
「どんどん探そうよ。その方がきっと見つかるよ」
 そう言うと、橘カナが先陣を切って遺跡の中を勝手に進んでいった。
「あっ、カナさん! あちこち勝手に行っちゃ危ないッス!」
 あわてて、兎野ミミが追いかけていく。
「行こう。あいつらなら、罠を全部引き受けてくれそうだ」
 物騒なことを言いながら、マサラ・アッサムが歩き出した。
 
「動き出したようだ。さて、むこうはうまくやっているだろうか」
 光学迷彩で姿を隠したまま景山 悪徒(かげやま・あくと)は、ペコ・フラワリーたちの後を気づかれぬように充分距離をとって追っていった。幸いにして、橘カナが目立ちまくっているので、追跡は凄く楽だ。
 ここへやってくる前の、小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)の命令が思い出される。
『――そこでファントムアクト、貴様に今回の任務を言い渡す。この五獣の女王器の一つ、玄武甲を見事奪取してくるのだ! 女王器が本物ならば、恐らくクイーンヴァンガードや盗賊どもも狙ってくるだろう。交戦は避けられんかもしれぬが、健闘を祈っているぞ』
「見事、玄武甲を我が手の内に……」
 遺跡の中に広がる闇の中へと、景山悪徒はその身を溶け込ませていった。
 
    ★    ★    ★
 
「いいですか、くれぐれも遺跡を破壊しないようにしてくださいね。玄武甲の確保が最優先事項なのですから」
 チャイ・セイロンとリン・ダージたちと一緒に東の亀裂から遺跡の中に入ったとたん、日野晶は二人に念を押した。
「そういうことはリーダーに言ってよ」
「そうですねえ。焼いちゃったりしちゃうかもしれませんけれど、壊すのは無理ですよねえ」
 即行で、ゴチメイ隊の二人が反論する。
「まあまあ。もめてないで早く探すといたしましょう。他の誰かの手に渡ったら大変ですから」
 荒巻さけが、とりなすように言った。クイーン・ヴァンガードとしては、敵の手に玄武甲が渡ることだけは防がなくてはならない。現状では、下手をするとすでに敵が持ち去っている可能性もある。
「ほなら、いきまひょか」
 信太の森葛の葉がリン・ダージの手を引いて歩き出そうとする。
「子供扱いしないの!」
 ちょっと怒って、リン・ダージが走り出した。
「そんな反応するから子供扱いされるってのに、分かってないぜ」
 勝ち誇ったように、新田実が言った。
「あらあら、ではあたしたちも行きましょうか」
「うん」
 チャイに手を引かれて、新田実は思わず返事をしてしまった。彼の、チャイが握ったのとは反対の手を、なぜか弥涼 総司(いすず・そうじ)が握っている。
「こうしていると、子供連れの夫婦みたいですね」
「あらあらあら、どなたでしかしら。どこかでお会いしたような気も……」
 弥涼総司の声を聞いて、チャイ・セイロンが小首をかしげた。まさか、生け簀でココ・カンパーニュに戦いを挑んだ無謀な覆面男だとは名乗れず、弥涼総司はしきりに苦笑いしてごまかした。
「気持ち悪いなあ」
 それを見て、新田実があわてて弥涼総司の手を振り払う。
「うーん、こんなメンバーについていって、大丈夫なんでしょうか」
 こっそりと一行の後をつけていたタカイワ ジロウ(たかいわ・じろう)が、ちょっと心配になる。こんなことなら、尾行する相手を景山悪徒と交換してもらえばよかったかもしれない。とにかく、玄武甲をかすめ取るためには、誰かの後をつけて隙をうかがうのが一番だ。
「暗いなあ、とにかく、もっと明かりをつけようよ」
 リン・ダージが、行く手を照らそうと、光精を呼び出した。暗い遺跡の通路が、先の方まで照らし出される。そこに、毒蛇の群れを従えた敵の姿が浮かびあがった。リン・ダージたちの話し声を聞いて、こちらへむかってくる途中だったらしい。
「あらあらあら、じゃあ、もっと明るくしましょうか」
 言うなり。チャイ・セイロンが通路いっぱいの大きさの炎の柱を走らせた。
「ミーも!」
 その容赦なさにしびれた新田実が、後を追うように火球を放つ。
「うわっちちち」
 炎に焼かれかけた海賊が、あわてて逃げ出していった。もちろん、ペットの毒蛇たちは、一匹残らずこんがりと黒焼きになっている。
「追いかけよう!」
「おう」
 一同をうながす弥涼総司に、元気よく新田実が応えた。
 
    ★    ★    ★
 
「ゆくにゃ、シス様あにゃまる探検隊!」
 遺跡の中で自分のペットたちを集めて、シス・ブラッドフィールドは叫んだ。
 吸血鬼のくせに、自分自身が猫の姿のままなので、ペットたちになじみすぎている。
 すでに遺跡の中は、海賊たちが要所要所においたペットや使い魔たちと、ココ・カンパーニュたちの戦闘でかなり無茶苦茶だった。そこかしこに、砕かれたゴーレムの破片やスライスされたお化けキノコなどが転がっている。やはり、アルディミアク・ミトゥナが通ったらしい正面ルートであるため、抵抗も一番だ。
「よし、かたっぱしから部屋を探すにゃん。玄武甲どころか、お宝はコイン一枚まで俺様の物にゃん。者ども、かかるにゃー」
 ポニーの背中の上で、シス・ブラッドフィールドが言った。犬やらフクロウやら、はてはゆるスターの群れやらが一斉に遺跡の中を探索する。
 うまくココ・カンパーニュたちを利用して安全になった遺跡の中で、シス・ブラッドフィールドは絶好調だった。
 だが、そこへ、敵のデビルゆるスター軍団が立ちはだかった。
「むむむ、敵にゃ、やっつけるにゃ!!」
 たちまち、ミニミニアニマル大戦が始まった。
 
    ★    ★    ★
 
「敵がビーストマスター主体のジャタの獣人とは、ずいぶんと特徴的ですね。ここは、ジャタ族の遺跡なのでしょうか?」
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が、遺跡内部を見回しながら言った。
「どうだろうな。それよりも、早くココたちを見つけないと。はぐれたままではまずいぞ」
 ハルバードを担いだ白砂 司(しらすな・つかさ)が、敵に注意を配りつつ答えた。うまく突入できたまではよかったが、暗い内部での戦闘は、進むにつれて一行を分断していった。迷路となっているため、一端はぐれるとココ・カンパーニュたちがどこにいるのか非常に分かりにくい。
 それでも、戦闘の跡をたどるという方法で、なんとか少しずつ再合流を果たしている。ココ・カンパーニュを中心とする一隊は、よほどの快進撃を続けているのか、かすかに戦闘の音が聞こえるだけで遙か先に行ってしまっているようだ。あるいは、分厚い石壁一枚隔てた隣の通路だろうか。
「私としては、せっかくですから、過去の文献を探してみたいのですよ。玄武甲があるという遺跡ですから、きっと私たちの役に立つ文献が残っていると思うのですよ」
「……はたして、それは……どうかな」
 通路の先の暗闇を見据えながら、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が言った。クイーン・ヴァンガードである彼としては、密かにココ・カンパーニュたちを監視するつもりだったのだが、肝心なところで分断されたのでは意味がない。
「そうだな。だいたい、こんな遺跡になぜ玄武甲があるのかということには、非常に興味がある」
「うむ……」
 白砂司の言葉に、クルード・フォルスマイヤーがうなずいた。ここは、遺跡としてはあまりにありふれている。
「玄武甲の性能も気にはなるが、あるいは玄武甲自体には何の力もないとか、あるいは玄武甲には量産品が存在するとか」
 イルミンスールらしい好奇心を全開にして、白砂司が言った。
「そうだよね。どうも、詩穂の勘が鈍ったのか、全然お宝の感じがしないんだもん」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、うーんと腕を組んで考え込んだ。
「文献の気配も感じられないのですか?」
 残念そうに、サクラコ・カーディが訊ねた。
「遺跡としては、盗掘され尽くされたふうにも見えるし、最深部の玄武甲以外何もないんじゃないの?」
 ズィーベン・ズューデンが、あっさりと言った。
「そうですね。そうでなければ、よほどうまくカモフラージュされているとしか思えませんから」
 ナナ・ノルデンが、パートナーの意見に同意した。
「あ、そこ気をつけてだもん。落とし穴があるんだもん。ええと、床にいくつかスイッチがあるから、印つけるから踏まないでよね」
 罠を見つけた騎沙良詩穂が、一同を止めた。
「……ふむ。確かに……」
 クルード・フォルスマイヤーが手伝って、床に印をつけていく。
「踏まなければ……、問題……ない」
 安全を確認し終えると、一同はゆっくりと進み始めた。
「みんな、無事か」
 通路の奥から声がする。目を凝らすと、闇の中からブラックコートに身をつつんだココ・カンパーニュが現れた。
「よかった、はぐれてしまったので、目立たないように敵のコートを奪ってから探しに来たんだ。みんな、この先で待ってる。さあ、早くこちらへ」
 ブラックコートから顔だけ出したココ・カンパーニュが、コートの隙間から手だけを出して一同を手招きした。
「よかった。助かりましたですね。さあ、行きますよぉ」(V)
「……いや、待て」
 喜び勇んでココ・カンパーニュに駆け寄ろうとするサクラコ・カーディを、クルード・フォルスマイヤーが押しとどめた。
「……なぜ、殺気を……纏っている」
「戦場だ、当たり前じゃないか」
 クルード・フォルスマイヤーの問いに、なんでそんなことを聞くのだろうかとココ・カンパーニュがとまどいの表情を浮かべた。
「ああ、よかった。孤立したかと思ったら、やっとお仲間に会えました」
 そこへ、アンドリュー・カーたちがどやどやとやってきた。
「気をつけてください。印がある床は罠のスイッチです。それから、あそこにいるココさんにも」
 同じく殺気を看破したナナ・ノルデンが、アンドリュー・カーたちに注意をうながした。
「それって……。あら、本当に危険信号が、なぜココさんから?」
 禁漁区で危険を感じて、フィオナ・クロスフィールドが思い切りとまどいの表情を浮かべた。
「ついに本性を現したね。きっと、お宝を独り占めするつもりなんだわ。そうはさせないから」
 なぜか待ってましたとばかりに、葛城沙耶がエンシャントワンドを構えた。
「そうだとしたら、お仕置きなんだもん。詩穂がたっぷりと躾けてあげますからね、ふふふ♪」
 騎沙良詩穂が、葛城沙耶の隣に進み出ていった。
「さようなら。串刺しになりなさい」
 彼女たちにはまるでとりあわずに、ココ・カンパーニュがすっと一歩前に出た。その足が、床のスイッチを踏む。
「あーれー!!」
 一同の足下の床が、ぱかっと開いた。何かにつかまる暇もあらばこそ、全員が落とし穴のトラップに落ちていったのだった。深い穴の底から、悲鳴が聞こえてきて消えた。
「さて。邪魔者の一部はこれで片づいた……」
 ココ・カンパーニュは、再び闇の中に姿を消した。
「ふっ、うかつな奴らだ。だから、人は簡単に信じちゃいけないっていうんだよ。まあ、遺品でもあれば、ゴチメイの翻意の証拠となって、クイーン・ヴァンガードに取り入るいい取引材料になりそうだが」
 光学迷彩を解いて現れたサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)が、落とし穴の縁まで歩み寄ってその場にしゃがみ込んだ。
「おい、生きてる奴はいるか?」
 真っ暗な穴の中にむかって呼びかけてみる。
「まあ、この手のパターンは、床に槍の林と決まってるからな。全滅か」
「勝手に殺さないでください。ちゃんと、生きてますよー」
 落とし穴の底から、アンドリュー・カーのか細い声が返ってきた。
 ズィーベン・ズューデンの光術で明かりがつく。
 穴の底では、一同が折り重なるように倒れていた。予想通り底には槍が仕掛けられていたのだが、間一髪でズィーベン・ズューデンが穴の底をまるまる氷術で凍り漬けにしたたため、槍がすべて氷の中につつまれて九死に一生を得たのであった。とはいえ、深い穴に落ちたので、全員無傷とは言えなかった。騎沙良詩穂とフィオナ・クロスフィールドが、かいがいしく皆をヒールをしている。
「とにかくあがってこい。面倒だが、手伝ってやる」
 本当に面倒そうに、サルヴァトーレ・リッジョは言った。多少苦労しつつも、氷術で足場を作って全員が穴の中から這い出した。
「まったく、絶対お仕置きだよね」
 憤慨して、騎沙良詩穂が言った。
「追うぞ……」
 一切動じることなく、クルード・フォルスマイヤーは先頭に立って歩き出した。