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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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「うーん、ヒラニプラの町中で拾ったパンフレットにあった闇市だったけど、こんなに機晶姫関系のパーツを売っているとは予想外だったな。ここなら、ゴルゴルマイアルの謎も解けるかもしれないぞ」
 フリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)が、嬉しそうに言った。パラミタの各地を放浪するように旅していると、こういう地方色の表れた場所に出会えるとちょっと嬉しくなる。しかも、ここヒラニプラは機晶姫の本場だ。パートナーであるゴルゴルマイアル 雪霞(ごるごるまいある・ゆきか)の素性を知る手がかりも、ここでならつかめるかもしれない。
「ゴルゴルマイアル? さあ、聞いたことのない言葉だなあ。それより、あんちゃん、連れの機晶姫ちゃんにこの六連ミサイルポッドなんかどうだい。デザイン的に、よく似合うと思うぜ」
 フリードリッヒ・常磐の質問に首をかしげた店の主人だったが、すぐに商売っ気を発揮して商品を勧めだした。
「翼のハードポイントに設置すれば、フリッツを守る能力が上がりそうだねえ〜」
 ちょっとほしそうに、ゴルゴルマイアル・雪霞がフリードリッヒ・常磐の方を見る。
「うーん、そうだなあ」
 どうしようかと、フリードリッヒ・常磐が考え込む。
「ああ、あれほしいじゃん。ほしいじゃん、ほしいじゃん、ほしいじゃん!!」
 いきなり走り込んできたクラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)が、六連ミサイルポッドを両手でかかえ込んで叫んだ。
「こら、クラウン、何やってやがんだ」
 後から駆けつけてきたプロレスマスク姿のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が、呆れたようにクラウン・ファストナハトを叱った。
「えー、だってほしいじゃん、ほしいじゃん、ほじい……いでで、舌噛んじゃん」
 まくしたてすぎて、クラウン・ファストナハトが紫色に染めた舌をだらんと口から出してしくしくと泣きだした。
「買って、買って、買って、買って……」
 あまりの出来事に、フリードリッヒ・常磐たちは唖然としてしまって声も出ない。
「いいか、俺たちが探しているのは女王像の右手だ。右手」
 ちょっと人目をはばかって、ナガン・ウェルロッドがクラウン・ファストナハトに小声で耳打ちした。
「右手? それつければ、ナガンみたいにクラウンもパワーアップするじゃん?」
「俺の手はパワーアップじゃねえ!」
「ひっ」
 思わずナガン・ウェルロッドが声を荒げたので、クラウン・ファストナハトが持っていた六連ミサイルポッドを落っことして縮こまった。
「どうしました、何かありました?」
 騒ぎを聞きつけて、琳鳳明が口調を作りながら近づいてきた。
「はっ、何もないであります」
 なぜか、直立不動になって、ナガン・ウェルロッドが答える。
「やばいぜ、やばいぜ、やばいぜ。あいつ教導団だ。間違いねえ。俺の教導団センサーが鳴り響いてやがる」
「いつの間に、そんな機械取りつけたんじゃん。クラウンにもほしいじゃん」
「ええい、説明がめんどくさくなるようなツッコミを……」
 空気を読まないクラウン・ファストナハトのツッコミに、ナガン・ウェルロッドが頭をかかえた。
「どうかしました?」
 再度、琳鳳明が訊ねる。
「いえ、なんでもありません。失礼いたします」
 なぜか敬礼すると、ナガン・ウェルロッドはクラウン・ファストナハトを引きずるようにして、その場を逃げだしていった。
「なんだったんでしょう」
 どうコメントしていいか分からずに、フリードリッヒ・常磐が琳鳳明に訊ねる。
「さあ」
 琳鳳明としても、そう答えるしかなかった。
「追いかけて、処理するのかな?」
 南部ヒラニィが、琳鳳明に耳打ちする。
「いいえ、多分、ただの買い物客だよね。ほうっておこうよ」
 琳鳳明は、そう答えた。
「変わった人がたくさんで、面白いですねえ」
 セラフィーナ・メルファが、ゴルゴルマイアル・雪霞に話しかけた。
「……うん」
 駄々をこねるクラウン・ファストナハトにびっくりしてフリードリッヒ・常磐の後ろに隠れていたゴルゴルマイアル・雪霞が、ひよっこりと顔だけ出してうなずいた。
「いつも、あんな人が多いんですか?」
「うーん、闇市ですから」
 フリードリッヒ・常磐に訊ねられて、琳鳳明は曖昧に答えた。
 
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「魔導球は売ってないですねえ」
 『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)と一緒に歩きながら、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が言った。
「完成品で売ってるとは限らないわよ。だいたい、こういうとこはジャンク品の方が多いんだから。再生品という可能性もあるかもね」
 先ほど自費で買った闇のスクラップ帳をかかえながら、『空中庭園』ソラが説明した。
「うーん。そう言われても、部品じゃ、なんの一部分かまったく分からないですね」
 所狭しとパーツが並んだ店の前にしゃがみ込んで、ソア・ウェンボリスは唸った。
「失礼、そこの商品、よろしいですか」
 ふいに声をかけられて、ソア・ウェンボリスは軽く身をよじって声の主を見あげた。
 肩にど派手な鳥を乗せた男が、腕をのばして小さな部品を拾いあげた。
「これは最新型ですか?」
「もちろん、今朝入ってきた新品でさあ」
 男の質問に、店の主人が自慢げに告げた。
「ではいただきましょう」
 軽く値段交渉をしてから、男がその部品を購入した。
「おや、何か?」
 じっと自分を見つめいてるソア・ウェンボリスに気づいて、男が聞き返した。
「いえ、それはなんの部品かなあって思って。私、機械には疎いんです」
「そうですか。これは、トランスミッターの部品ですね。もちろん、これだけでは、まったく役にはたちませんが。部品とはそういうものです」
「そうなんですか。見ただけで、なんの部品か分かるんですね。凄いなあ」
 感心したように、ソア・ウェンボリスは言った。
「それはどうでしょうか。組み合わせによっては、本来とは別の物にすることも可能ですよ。ほら、そちらのお嬢さんの持っている魔道書など、いい例ではないですか。継ぎ接ぎとはいえ、それによってまったく別の魔道書に組み替えられている」
「確かに。邪法ではあるが、効果はちゃんと出ている」
 『空中庭園』ソラが、男の言葉にうなずいた。
「魔導球も、ここで売っているパーツから作れるのかなあ」
「ああ、それは無理ですよ。今のシャンバラで、あれを作ることはできないでしょう。機晶姫や、剣の花嫁を新たに作り出せないのと同じことですね。そういった、昔の技術に興味がおありですか?」
「ないと言ったら嘘になるかも」
「正直ですね。でしたら、いつか、創造の秘密に辿り着けるかもしれませんね」
 そう言うと、男はケツァールのエメラルドグリーンに輝く羽根を一本抜いて、ソア・ウェンボリスの髪に挿した。
「では、また」
 そう言うと、ジェイドは気づかれることもなくソア・ウェンボリスの前から去っていった。
 
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「刮目せよ! 天に輝く紅蓮の光! 悪を打ち砕く正義の焔! 魔法少女スカーレット★カナタ、ここに見参!」
「ええと、なぜ、今さらそのコスチュームに……」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は、目の前でキラキラと変身ポーズを決めた悠久ノ カナタ(とわの・かなた)にむかって訊ねた。
「何を言っておる。変装に決まっておろう」
 自慢げに、悠久ノカナタがふりふりの魔法少女衣装で答えた。普段は梳き流している銀髪も、大きな花飾りを使って縛っている。普段のほっそりとした日本人形的なシルエットとはうってかわって、ぷにっとした今風の美少女だ。
「いや、確かに、普段の和服とはまったく違うけどなあ……」
 以前見たことはあるにしても、なじめないとばかりに雪国ベアは言った。
「惚れるなよ」
 絶対領域の上で、レースのついたミニスカートの裾をひらひらとさせて悠久ノカナタが言った。いつもは隠しているほっそりとした脚が、今日は顕わになっている。
「それはないけど、やりにくいなあ」
 ちょっと困りながら、雪国ベアはいつものように悠久ノカナタをひょいと肩に乗せた。
 いつもの和装の悠久ノカナタや、イルミン制服のズボン姿のソア・ウェンボリスならなんの抵抗もないが、ひらひらしたミニスカートで肩に乗られるのはちょっと恥ずかしい。
「ひとまず、わらわたちは密輸の線で調べるぞ。闇市の外れの方なら、オプシディアンと海賊が密会をしているかもしれぬでな。さて、どう突き崩すか」(V)
「それはいいけど、どうやって見分けるんだよ」
「キマクからなくなったのは、女王像の欠片であるからな。あるいは、以前は欺されたが、玄武甲の本物もあるやもしれぬ」
「とにかく、銀髪の兄ちゃんを捜せばいいってわけだな」
「うむ」
 雪国ベアの言葉に、悠久ノカナタはとりあえずうなずいた。手がかりはあるものの、二人はオプシディアンの素顔を間近ではっきりと見たことはまだない。
 闇市の外れの方は、大型の商品の保管場所と積み込み場所になっているようであった。さすがに、人一人で運べないような商品を中央にまで運ぶのは馬鹿げている。
 今のところ、大型の扇風機のような物を飛空挺に積み込んでいる者がいる以外は、人影もまばらであった。
「積み荷がでっかいと、大変だな」
 間近に近づいて作業を観察しながら、雪国ベアが言った。
 ひょいと、肩口から悠久ノカナタが飛空挺のカーゴをのぞき込んで中を確認する。
「あまりのぞかないでくれ。恥ずかしいじゃないか」
 黒髪の男が、にこやかに笑いながら言った。
「いや、何やら面白い物を買ったのだなと思ってな」
 若々しい風体には似合わぬ口調で悠久ノカナタが言った。
「なあに、エンジンパーツか何からしいが、今じゃただのくず鉄だよ。潰して、鉄骨にでもしようと思っているのさ」
 男が嘯(うそぶ)いた。
「いったい、そういう品物って、どこから入ってくるんだろうな」
 雪国ベアが、素朴な疑問を口にする。
「まあ、シャンバラの税関も、言ってしまえばザルだからな。地上から、適当に紛れ込ませて持ってきてるんだろ。サルヴィン川では、外の国からたまに変な物が流れ着くっていう噂もあるしな。まあ、いずれにしろ、密輸はそこら中でやられてるんじゃないかな。おかげで、ここの闇市も繁盛しているみたいだし」
「ほう。何か、面白い売り物の話とか、聞いてはおらぬかな」
「うーん、俺は鉄くずしか興味ないからな。何か話せることがあればよかったんだが」
「いや、ただの好奇心であるから、気にするでない」
 すまなそうに言う男に、悠久ノカナタが答えた。魔導球なり、魔獣なりを運んでいるのであれば怪しいが、ジャンクの機械ではあまりオプシディアンとは関係ありそうにもない。飛行機でも作るのであれば、エンジンは有用なパーツだろうが、飛空挺のあるパラミタでは、ドラゴンのこともあって飛行機は有効な乗り物ではないはずだ。
「では、いずれまたの再会を、心よりお待ちしております」
 飛空挺のカーゴに乗った男が、さっと右手を前に回して悠久ノカナタたちに深々とお辞儀をした。ふわりと飛び上がった飛空挺が、光学迷彩で姿を消す。
「!」
 瞬間、悠久ノカナタが雪国ベアの肩から飛び降りて、振りむき様にファイヤーストームを空中にむかって放った。紅蓮の炎が渦を巻いて中空へとのび、そして四散した。
「逃したか。ケイ、……すまぬ」(V)
 悔しそうに悠久ノカナタがつぶやいた。
「おいおい、いったいどうしたって言うんだよ」
 突然のことに、驚いて雪国ベアが悠久ノカナタに訊ねた。
「気づかなかったのか。今の口調と仕種。フールだ」
 悠久ノカナタが言った。
「ケイの所に戻ろう。やはり、あ奴らは何かを企んでおるぞ」