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リアクション
第4章 身体を蝕む毒草
「2階のフロア内には小部屋らしきものがありませんね。どこに隠してあるんでしょうか」
影野 陽太(かげの・ようた)は床や壁を見ながら黒蝋を探し歩く。
「他の色はともかく、黄色と灰色は特に注意しないといけませんわね」
襲撃されないようエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は周囲を警戒する。
「そうだよね・・・石化なんて、今のところ術で治せないし。麻痺も毒によるものじゃなかったら・・・」
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)も毒草を警戒し、殺気看破で気配を察知しようとする。
「まぁそれ以外なら、噛まれても私と陽太さんが治して治せますから心配いりませんけど」
笑顔で緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が不吉なことを言う。
「ひと噛み、ふた噛みずつくらいなら、余裕で治せます」
「毒茶か・・・どんな味がするのかしら?」
捕らえて飲む気満々の一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は、毒草がいないか辺りを見回す。
「(クリーチャーでティータイム?他に喜ぶ人いるの!?)」
リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)は目を丸くして、もうどうしようもないと首を左右に振る。
カササッ。
「今、何か聞こえなかった!?」
草が地面を這うような音を聞き、ぱっと後ろを振り返る。
「んー?聞こえなかったわよ」
月実の方にはまったく聞こえなかったようだ。
「変だなぁ。たしかに聞こえたんだけど・・・。ウイルスの影響で、能力が低下しているせいかな」
ザザザッ。
「近くに何かいるよ、それもかなりの数!」
透乃は殺気を感じ、土から左右の壁へと視線を移す。
「まさかこの通路にいる植物が、毒草だったり・・・?」
目を覚ましたのかギザギザに尖った歯を見せ、ガジガジと歯を噛み合せる。
「えぇ!?なんかいっせいに、俺の方へ向いてませんか?」
毒草が頭を陽太の方へいっせいに向ける。
「キシャァアアアーッ!」
「今、きしゃぁあーって言われてましたよ、きしゃぁあーって!」
「そんなこと言わなくても分かっていますわっ」
エリシアは闇のスクラップ帳を握り、うろたえる陽太の背にバシッと叩きつける。
「あっ食べられちゃったね」
リズリットが小さな声音で言う。
「うわぐっ!?」
頭から噛みつかれてしまい、陽太はじたばたと暴れる。
「んもうっ!毒草で遊ばないのっ」
透乃は蔓を掴み、毒草を陽太からひっぺがす。
「別に遊んでいるわけじゃ・・・」
助けられた陽太は、どよーんとへこんでしまう。
「どれが美味しいのかしら?」
「えっ!?そんな危険なもの、触った瞬間に噛まれちゃうよっ」
毒草を取ろうとする月実に気づき、透乃が腕を掴んで止める。
「煎じてリズリットに飲ませるのよ」
「そっか、剣の花嫁だからね。それじゃあ1つ・・・」
ブチッと蔓を引き千切り、噛まれないように透乃は毒草の頭を抑える。
「ここじゃあ飲ませられないから、こいつらからなんとか離れないと!」
リズリットに毒茶を飲ませられる場所を探そうとフロア内を走る。
「毒草フロアに来てみたが、他の生徒たちはどこいったんだ?」
グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は黒蝋を探している生徒たちは、もう石版部屋に行ってしまったのかと歩きながら探す。
「ちょうどよかったわ、あれお願いね」
「―・・・え?あれとは何でしょうか」
勢いよく通り過ぎていった月実に、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が首を傾げる。
生徒たちがドタドタと通り過ぎると、ズズッズルズルッと蔓が這う音が近づく。
「それで来たけど、コレはないだろ!?」
李 ナタ(り・なた)が驚愕の声を上げる。
大量の毒草が彼らの方へ押し寄せてくる。
「来ちまったもんは仕方ないか。さてと・・・派手に行くぜ!」
試作型星槍で標的の口を串刺しにする。
「3匹・・・5匹、7匹っと」
「何を数えているんだ?」
「ん?あぁ、どれだけクリーチャーを倒したか数えているんだ」
「そうか・・・。(状況が状況だからな。さすがにビリのやつが罰ゲーム・・・とは言い出さないようだな)」
ふぅと息をつき、グレンは敵の方へ向き直る。
「やっぱりこういうのは効かないようですね」
メモリープロジェクターで自分たちの姿を複写投影するが、クリーチャーたちは本物のソニアたちを見つけて襲いかかる。
「100匹近くいそうだな・・・」
グレンは足元を狙う毒草を睨み撃つ。
「こいつ、いつの間に・・・っ」
ズルズルと靴に絡みつきガリッと噛みつく。
すぐさま引き離し踏みつける。
「大丈夫ですか!?今、癒しますから!」
ソニアは慌てて駆け寄り、ナーシングで毒を取り除く。
「こうなったら纏めて焼いちまうか!」
火術で蔓を燃やし、槍の柄に絡みつかせて振り回す。
「やっぱ植物っていうのはよく燃えるなぁ〜」
火の粉が毒草に飛び散り、灰となり朽ち果てていく。
「なんだかナタクさんがほとんと1人で片付けてしまいましたね」
「そうみたいだな。ふむ、術とはこういう使い方もアリなのか?」
一見無茶にも思える彼の荒業に、こんな術の使い方もいけるのかとグレンが考え込む。
「片付いたようだな、生徒たちが集まっている石版部屋へ行くとするか?」
「おうっ」
「それにしても1人でだいぶ派手にやったようだが・・・」
灰となった毒草を見下ろし苦笑いをする。
「他の生徒が装置を起動してくれたおかげで進みやすわね」
いつでも撃てるようにローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、スナイパーライフルのトリガーに指をかけ、パートナーたちの先頭を進む。
「ハルカ様?もし――大事、ありませんか?」
上杉 菊(うえすぎ・きく)はハールカリッツァ・ビェルナツカ(はーるかりっつぁ・びぇるなつか)の手を引き、顔色の悪い彼女を心配する。
「私なら・・・・・・大丈夫です・・・・・・信じていますから、ローザを、みんなを。だから、大丈夫」
心配させまいとハールカリッツァは無理やり笑顔をつくる。
「行き止まりでしょうか?」
菊たちは壁と植物の蔓しかない場所にきてしまった。
「何かあるかもしれないわ、探してみましょう」
土を覆う蔓を退かし、ローザマリアは装置がないか探す。
「あったわ」
メイベルが起動させた装置が、蔓に埋もれてしまっていたのだ。
「ここを降りて別の装置乗れば、他の通路へ行けそうね」
そこへ乗ると緑色の円型の部分が光始めた。
光は彼女たちを包み、1階へ転送した。
「2階に行く他の装置があるはずよ、探して」
ローザマリアたちは棘をそっと退かしながら、装置が埋もれていないか探す。
「御方様ありました」
棘が声に反応しないよう、菊は小声で言う。
物音・・・つまり足音などだけではなく声にも棘が反応し、襲いかかってくるのだ。
「まだ誰も起動してないやつね。やるわよ菊」
ローザマリアは菊と息を合わせて起動させる。
装置に乗り再び2階のフロアへ移動する。
「灰色の毒草があるわね。まだこっちに気づいてないみたい、射落とせる?」
「了解です御方様」
頷いた菊が蔓を射抜き、落ちた毒草を拾う。
「貸して」
菊から受け取ったそれを小皿に入れ、割り箸をすり鉢代わりにクリーチャーに止めを刺す。
すったやつを布に包み、紙コップに絞り汁を入れて薬を作る。
「まず私が飲んでみるわ」
先にローザマリアが汁を一口飲んでみる。
「―・・・まぁ、薬と思えば飲めなくもないわ」
残りをハールカリッツァに飲ませる。
「―・・・・・・っ!?」
「ウイルスの影響を和らげる薬だから」
「そっ、そうですね・・・」
ハールカリッツァは平静を装いながら、口をハンカチで拭く。
「さすがにもう1つ・・・簡単に取らしてくれそうにないわね」
ローザマリアたちに気づき、クリーチャーたちがいっせいに牙を見せる。
クロスファイアの紅の炎で蔓を焼き尽くす。
「あとはとりあえず邪魔だから片付けて」
地面に落ちたクリーチャーの残骸をかき集める。
「春にしては面妖で非常識な植物が芽生え過ぎだな!かつてのイングランド女王ともあろう者が斯様に辺鄙な所で草毟りとは!」
言葉とは裏腹にグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は内心楽しそうな様子だ。
アルティマ・トゥーレの冷気を処刑人の剣に纏わせ、切っ先で壁を擦るように両断する。
「ストックはそれくらいで大丈夫なのだな?」
「一応ね」
コップに薬を入れて、どれくらいで消滅するか試す。
5分後、コップの中の薬が気化しない。
さらに3分後、倒したクリーチャーが消滅してしまった。
「これ持ってて。で、消えたら私たちに教えてね」
薬をハールカリッツァに手渡す。
「向こうになかったからこっちかな?」
移動しようとすると、生徒たちの話し声が聞こえてきた。
「もしかして黒蝋を探しているのかな?」
「えぇそうよ」
透乃に聞かれ、ローザマリアはこくりと頷く。
「ねぇ、蔓に何か絡まっているわよ」
月実が指差す先を見ると、黒い石のようなものが蔓に絡まれ、天井にぶらさがっている。
「じゃあ私が取ってくるよ」
軽身功の体術で蔓を掴み、ひょいひょいと壁をよじ登る。
「これだね、楽勝で取れるよ。えいっ、・・・あれ?それっ!・・・むっ、この蔓・・・私をバカにしてる!?」
黒蝋らしきものを掴もうとすると蔓がガササッと動き、彼女を小ばかにするように取らせない。
「くっ・・・こうなったら!あたたたたっ!!」
ドスドスドゴスッ。
蔓を殴りまくり動けないように潰す。
「よし、今だ!受け取って」
ぶちっと憎き蔓を引き千切り、目当ての物らしきやつを陽太に投げ渡す。
「蝋燭みたいな形ね。燃料の炭とは違うみたいだけど、墨汁を固めたような感じがするわ」
傍からローザマリアが覗き込む。
「それなんだね、よかった」
透乃はぺたんっと地面へ降りる。
「―・・・透乃ちゃん上!」
「何?えっ、わぁあ!?」
毒草の逆襲と言うべきか、紫色の毒草が透乃を狙う。
「行きなさい陽太!」
「へっ、はぁああ!?」
陽太を毒霧の盾にしてエリシアが火術で焼き払う。
「あーっ焦げちゃったわね」
月実の毒茶用の毒草がちょい焦げな状態になってしまった。
「この倒した2匹もらっていいかしら?」
「いいですわよ」
「ありがとうっ」
クリーチャーを拾い大事そうに抱える。
「いつまで寝ている気ですの陽太、さっさと起きなさいっ」
彼の耳元にエリシアが悪魔の目覚まし時計をセットする。
ジリリリィイッ。
けたたましく鳴り響く音を聞き、生徒たちは思わず両手で耳を塞ぐ。
「ぁああぁあーっ!耳がーっ、鼓膜が破けてしまいそうですよっ!」
「起きましたわね、行きますわよ」
飛び起きた陽太の背をバシッ叩き、無理やり歩かせる。
生徒たちは彼を哀れむように見つめる。
「これを持って石版部屋へ急ぎますわよ!」
装置に乗り1階へ降り、メイベルが最初に起動した装置に乗り2階へ移動し、石版部屋を目指して走る。