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【十二の星の華】想う者、想われる者

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第8章


 秘湯温泉の広い部屋では沢山の料理が並べられていた。
 作ったのはメイベルとセシリア、フィリッパ、和子だ。
 さらに、鄙も手を貸している。
「改心の出来の料理だよ! 沢山食べてね!」
 セシリアがそう言うと、お昼を食べていなかった皆は料理にがっついた。
 もう外は完全に日が沈んでおり、月が輝く時間となっていたのだ。
 当然と言えよう。
「あらあら〜、まだ沢山ありますわよ〜」
 フィリッパはそう言うが、皆の手が止まることはない。
「トマトを使った和風料理も作ったよ! ホイップさん、食べてくれる?」
 和子がおずおずと小皿を差し出すと、ホイップは受け取り、口へと運んだ。
 旅館に着いてからウェディングドレスを脱ごうとしたのだが、美羽やリリィに止められたようで、そのままだ。
「うん、凄く美味しい!」
「よかった! この料理ね、鄙さんに聞きながら作ったんだよ!」
 和子が嬉しそうに言うのをホイップも嬉しそうに聞いている。


「ほら! まこち、もう着いたんだから観念して参加しようよ!」
 廊下ではメイコがマコトの手を無理矢理引いて連れて来ていた。
「我は……良い」
「もうここまで来たんだから! それにまこちだってお腹空いてるだろ!?」
「……そこまで言うなら、仕方ない」
「そうこなくっちゃ!」
 メイコのしつこさにマコトが観念したようだ。
「あたし達も雑ぜてくれー!」
 部屋の障子を一気に開けて、メイコがマコトを連れて入ってきたのだった。


 部屋の中ではホイップに謝罪をしている人達の姿が見える。
「ホイップちゃん、ごめんね! あれは全部ボクが考えたんだ」
 カレンがジュレール、グランを連れて頭を下げる。
「良いよ! 大丈夫だよ! だから、頭を上げて? ねっ?」
 ホイップはそれでも頭を下げようとするカレンを必死に上げさせた。
「我もすまなかった」
「ボクも……」
 ジュレールとグランまで頭を下げ始めてしまった。
「私を戻そうとしてやってくれたことなんだし……むしろ謝らなきゃいけないのはこっちだよ! あんなことさせちゃってごめんね?」
「ホイップちゃん……」
 カレンは顔を上げるとホイップに抱きついて少し泣いた。
 ホイップから離れるとカレンはグランをつついた。
 その仕草でグランは告白を促されているのを理解したが、被りを振った。
「ボクには時間がありますから……ゆっくり時間をかけて頑張ることにします」
 どうやらグランに心境の変化があったのか、カレンにそう囁いた。
「ホイムゥ! スカートめくりしてごめんね!」
 謝るチャンスをうかがっていた美羽がホイップに抱きついた。
「今回は私も計画の実行に手を貸してしまいました……すみません」
 ベアトリーチェも実に申し訳なさそうに言う。
「え、えっと……大丈夫だよ、ありがとう」
 ホイップは思い出して赤くなりながら美羽の背中をとんとんと優しく叩いた。
 そして、ベアトリーチェに笑いかけた。
「ホイムゥ……大好きーーーっ! これからも一緒に遊んでね!」
 美羽はそう叫んだ。
「あ、そうだ! 今度はティセラの洗脳を解いて、やさしかった昔のティセラに戻そうね!」
 美羽はガッツポーズをとる。
「うん、ありがとう」
 ホイップは少し驚いていた。
 言われると思っていなかったのだろう。
「それについて質問ですわ」
 そう言ったのは珠樹だ。
「うん、何?」
「玄武甲は結局どうなったんでしょうか?」
「うん……シャムシエルさんに持っていかれちゃって――」
「それならここにありますよ」
 すっと玄武甲が前に現れた。
 手に持っていたのは幸だ。
 その後ろにはメタモーフィックと、ぼろぼろになっている陣と真奈の姿があった。
「ええーーーっ!?」
 ホイップは思わず叫んだ。
「こっそり偽物とすり替えたんです」
 悪戯っぽく笑い、玄武甲をホイップへと差し出した。
「えっと……」
「必要なのでしょう?」
「でも、私が持ってて良いの?」
 ホイップは陣と真奈の方を見て、余計に手を出せずにいる。
「その為に頑張ったんですから」
「そうそう」
 幸の言葉に陣が頷く。
 幸は無理矢理ホイップの手に玄武甲を持たせた。
 ホイップは玄武甲をぎゅっと抱きしめ、顔を上げる。
「ありがとう!」
 満面の笑みでホイップはお礼を言った。
「で、もう1つ質問ですわ。その玄武甲の能力を聞いても?」
 珠樹が質問をすると、ホイップはすぐに珠樹の方へと向いた。
「玄武甲はSPの無限回復、それから精神系の魔法の解除だよ」
「その解除で洗脳も解けるんですわね」
「うん」
 珠樹の確認にホイップは頷いた。


「ホイップちゃん」
 今度、声を掛けてきたのはエルだ。
 ホイップはその声を聞いただけで顔を赤くした。
「えっと……」
「ホイップちゃんと一緒に生きていきたい」
「え……」
 エルの真剣な表情にホイップは更に顔を赤くした。
「愛してるんだ! 恋人になって欲しい。後悔はさせない!」
 部屋中に響くほどの大きな声でそう告げた。
「あ……う……えっと……ご、ごめん!」
 ホイップはエルを突き飛ばし、走って行ってしまった。
「…………ふ、振られた……?」
 エルはがくりと膝を落とし、両手を地面につき、頭を垂れたポーズのまま固まってしまった。
 その様子を見ていた皆も驚いていた。