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サンタ少女とサバイバルハイキング

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サンタ少女とサバイバルハイキング
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第5章 ところかわって。


 道を開く者達は、順調に作業を続けていた。
「よし、こんなものだろう」
 イリーナは、持ってきたハチミツを木に塗りつけ、熊がハイキングルートから離れた場所へ向かうように仕向ける作業中だ。
「イリーナさーん、次、行くよー!」
 鳳明の呼ぶ声に合流して先へ進むと、
「えーと、次はこの崖だね!」
 鳳明が、地図と目の前の10メートルはある崖を見比べながら言った。
「やはり、ハイキングというより訓練だな」
 イリーナの脳裏にいままでの行程が蘇る。部隊で移動する時とはまた違ったルートの取り方に、感心するやら他校生が心配になるやらだ。
「イリーナさん、ハーケン打ち込むのに、パイルバンカーで穴を開けるから少し離れてて!」
「パイルバンカーって……大丈夫なのか?」
 パイルバンカーとは『杭』を打ち出して厚い装甲をも打ち抜く格闘武器の事だ。イリーナが先端恐怖症の鳳明を心配するのも無理はない。
「平気、見ないように打つから!」
 そういうと、鳳明は、パイルバンカーを布で覆ったまま、目をそらして目の前の岩壁を打ち抜いて行く。
 その様子をハラハラしながら見守るイリーナの前で、パイルバンカーは正確に次々と小さな穴を作っていった。
「すごいな、手元を見ないであれだけ正確に打てるとは」
友人の普段とは違う一面を垣間見たイリーナだった。
 穴開けが終わり、ハーケンを設置しながら崖を登り終えた3人がひと息ついていると、イリーナの超感覚が少し離れた茂みのあたりに異変を感じとった。
「すまん、少し様子を見てくる!」
 そういい残して走り出すイリーナの後に、鳳明とヒラニィも続いた。
 林の中では、後ろ足を引きずる仔トナカイに、数匹の鷹が襲いかかっていた。小さな背にはいくつもの血が滲み、鋭い鷹の爪や嘴が容赦なく幼い肉を引きちぎろうと仔トナカイの周りを飛び交っている。
「やめろ!!」
 イリーナは、たまらず飛び出すと、手近な木の枝を拾い空中で振り回した。
 ヒラニィは、乗っていた大型騎狼を操り、怯える仔トナカイをその影に庇った。
 3人は、ハイキングの道は血で汚さないと決めていたので、むやみに武器を使うわけにもいかず、鳳明に至っては困り果てておろおろとするばかりだったが、その時、ひと際大きい鷹がヒラニィの乗った大型騎狼へとその尖った爪を伸ばした。……ん? 尖った爪?
「ひぃゃあああああっっっ!!」
 まともにその尖った爪を見てしまった鳳明は、反射的にパイルバンカーを打ち出してしまった!
「よけろっ!!」
 イリーナがそう叫びながら横へと飛び退き、ヒラニィも騎狼を走らせた。
 パイルバンカーから打ち出された杭は、巨大鷲の羽をかすめると、イリーナ達のいた場所に正確に突き刺さった。
「り…琳〜〜〜っ!」
「なにをしておるかっ!!」
「ごめんなさ〜いっ!!」
 しかし、まだ時折、羽音が間近に迫ってくる。油断のならない状況だ。
「ちっ、あきらめの悪い」
 ヒラニィが腹いせに食べかけの柏餅を放り投げると、一羽の鷹がすいっとそれを攫って、離れて行った。
「………」
 それを見ていたイリーナと鳳明は顔を見合わせて頷くと、荷物からおやつの芋ケンピを取り出し、鷹に向かって投げつける。
 芋ケンピを手に入れた鷹は、1羽、また1羽といずこかへ去って行った。
「よし、もう大丈夫だぞ!」
 イリーナが振り向くと、仔トナカイはよろよろとした足取りで、その場を離れようとしていた。
「あ、待て。治療を……、」
「う…う〜ん…」
 仔トナカイを追おうとしたイリーナは、鳳明のうめき声に慌てて振り向いた。
 見れば、ヒラニィが憮然とした表情で、座り込む鳳明の背を撫でてやっている。
「琳、どうした、どこか痛いのか?」
「い…芋ケンピの…とがったやつ、まともに見ちゃっ……」
「………そ、そうか」
 イリーナは脱力しながらも安堵して、鳳明を助け起こしてやる。
 柏餅を鷹にやってしまったヒラニィは、芋ケンピの入った袋を鳳明から取り上げ、ひとつを口に放り込んだ。
「ふむ。芋ケンピとは、案外、旨いものだな」
 芋ケンピを気に入ったヒラニィは、再び大型騎狼にまたがり、ぽりぽりとそれを食べ始めた。
 イリーナは、気になって仔トナカイの向かった先を振り返ったが、すでにその姿はなく、心配しながらも3人は道を先に進む事にした。


 一方、麓に伽羅が設営したベースキャンプでは、彼女のパートナーの嵩、協、うんちょうと、手伝いを申し出た長門が、長い机に横並びに座り、せっせと内職に勤しんでいた。
「義姉者、いざというときに備えるべき者が必要なのはわかるのでござるが、何ゆえ待機中まで内職をせねばならぬのでござるか?」
 長時間の単純作業に頭の芯がぼーっとしてきたうんちょうが、造花の出来栄えに微笑む伽羅に聞いてきた。
「教導団にお金がないからに決まってるじゃないですかぁ」
「だからといって、造花造りや封筒張りごときでは焼け石に水というものではござらぬか?」
 うんちょうのもっともな疑問に、淡々と作業をこなしていた協が口をはさむ。
「いや、いざという時に中断できない様な作業では待機になりませんし、伽羅さんの発想はそれほど的外れではないと思いますよ。…っ!」
 紙の端でうっかり指を切ってしまった協に、嵩が絆創膏をそっと差し出した。
「陛下、どうぞお使い下さいませ」
「義真さん、『陛下』と呼ぶのは、なしにして下さいとあれほど……、」
 協が嵩の言葉遣いを嗜めるが、嵩はいつものようにそれを流し、絆創膏で小さな切り傷を包んだ。
「愛ですねぇ」
 伽羅が笑いながらからかうと、真に受けた長門が嵩と協を見た。
「そうなのか?」
「違いますよ」
「紛らわしい言い方は慎んで頂きたい」
 嵩と協は伽羅と長門を睨みつけ、むっとしながら再び封筒張りの作業へ戻った。
 重くなった空気とちまちました作業に耐えきれず、長門が伽羅に話し掛ける。
「なぁ、オレには、こがぁな細かい作業は向いとらんけん、どうせ待機せにゃぁいけんのじゃったら、筋トレしょぉっていいか?」
「あらぁ、細かい作業が苦手なら、そこを鍛えるいいチャンスじゃありませんかぁ。指の先の先まで思い通りに扱えてこそ、格闘家だと思いますけどぉ? それとも、ご自分で細かい作業の特訓とか出来るんですかぁ?」
 伽羅にそう言われてしばらく考えた長門は、鍛えるチャンスを受け入れる事にした。
「確かに、自分じゃこがぁな事はせんけぇ、いいチャンスじゃのぉ」
 素直に封筒を折る長門に、伽羅は鉄扇の影でほくそ笑んだ。
(ふっふっふ、すべては私の思うがまま、なのですぅ…)