薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

リアクション公開中!

【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回) 【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回) 【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

リアクション

 

「さて、そろそろ終わらせないといけないわねぇ」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)はいつに増して自信あり気に黒い笑いを浮かべて言う。
「ミストラル! ロザリアス!」
「メニエス様。そろそろですわね」
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)もにこやかに微笑を湛えている。
 メニエスは、ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)に後を託すと、ミストラルを伴って戦いに赴いた。今度はメニエスが前線を指揮する。綺羅瑠璃も同じく前線に出向いてくる。
 いよいよ、決戦になる。
「(教導団の皆……)」
 は、ジャレイラの傍にいた。
「ごめん、私は"私自身"を守るために、貴方たちにこの穂先を向けるよ!」
 琳の心は決まった。今まで出さなかった光条兵器の長槍を取り出して、戦う。ジャレイラと一緒に。この身をもって、ジャレイラさんを守る!
「はっ」
 喚声が、剣の響きが聞こえてくる。
 前線は、すでに衝突した。相手はイリーナの400がまた前に出てきている。今度は、隊長のレオンハルトも中央に控えている。
「ほら、ほらぁどうだ?! 進むこともできまい!!」
 メニエスは付近の山の斜面に足場を作り、ブリザードで教導団兵に強烈な向かい風を送る。
「はははは! ええい、下がれ、死ね、下等な生き物ども」
 次々に兵を襲い、カタールでの接近戦で相手をねじ伏せていくミストラル。
「ほらほらぁ!!」「ははは、死ね!」
 教導団も負けてばかりはいない。徐々に、こちらへ押してくる。
「私も……あんなふうには戦えないけど、ジャレイラさんのところへは、通さない」
 琳も長槍を携え、前に、前に進み出る。
「ティア。おまえも、自らの武器を取って、もう一度戦うのだ」
「……う、うぅ」
 その手に、弱々しい光。
 ティア・アーミルトリングス(てぃあ・あーみるとりんぐす)は光条兵器を持ちはしたものの、一層怯えるばかりである。
「ほら、戦うんでしょ? 好きにしなよ」
 ロザリアスは、すでに鎖を離している。ティアの無様を眺めてニヤニヤしている。
「ティア?」
 声をかけられても、ティアはジャレイラから目を逸らし、フラフラとどこへともなく、歩いていってしまう。
 なんで戦わなきゃいけないの? 今まで一度も戦ったこともないのに? そんな、呟きのような声が漏れるのが小さく聴こえるばかりであった。
「ティア? ……そんなことはない筈だろう。おまえのその剣(光条兵器)は何ゆえに、……」
「この人まで……私に戦えだなんて……嫌だ……」
「あたし達が命令しないと動けないモノに、戦うなんて無理だよ」
 挑発するかのように、ロザリアス。
「ロザリアスか。いい、もう下がっていろ。
 (ティアの過去を我は問えはしないが……。だが、どこかで自らの意志で立ち上がらねばならぬときが、……。おまえは何のために。剣の花嫁は……我は……)」
 ロザリアスは、言われた通りに、と引き下がり姿が見えなくなった
 ここも、すでに戦地は乱戦の様相を呈している。
 ジャレイラの手にフランベルジュが現れる。「ゆくか……」
「ねえ」
「ロザリアス。戻って来たのか。ティアを連れ、下がっていてもいい」
「……いないんだけど。ティア。すぐ死んじゃうよ。こんなところで、ほっといたら。
 あんたの言うみたいに自分の意志で剣を取ったことなんて、一度だってないんだから」
 教導団の銃撃が来る。兵が押し寄せて来る。
「ええぃ!」
 ジャレイラは、フランベルジュでなぎ払った。
「装甲兵、前に出せ。弓隊、下がれ」
「あ、ティアあっちだね!」
「く、……」
 向かい来る教導団の兵を払い、ジャレイラは向かう。
 陣地の茂みで、ティアは腹から血を流していた。片手で抑えて息を荒げているが、もう片方の手には、光条兵器が光を保ってまだしっかりと握られている。
「ティア。……致命傷ではないだろう。
 (戦うことだけにさえ自らの意志で向かえない者もいるのだ。だが、何のために我らは武器を与えられた。武器をしまっておくだけなら、我々はただの道具に過ぎない。
 戦うことは我にとって自らの証明になり得た。相手は誰でもよかったのではない。必ず戦うべき相手は存在し、我等は誰かに必要ともされている筈。だからティア、)
 何故」
 しゃがみ込んだジャレイラの胸元深くに、光条兵器が突き立っていた。深く……
 その数秒、光条兵器は輝きを増して見せた。やがてその光は収まっていく。
 ティアは、代わりに地に落ちたフランベルジュを手にした。フランベルジュは時折、血のほとばしるように、炎が増幅して見えている。「あっ熱……」
 反射的にそう発した以外終始呆然とした表情で、そのまま星剣を自らに収納すると、血を流したままティアはまたふらふらと歩き出した。「これで、いいんだ……お仕置き、されない、よね……」
 やがて後退を始めた黒羊軍。
「奴らが、教導団が殺した!」
 ミストラルのまくし立てる声が聞こえ、騒然となる。
 イリーナの部隊が幾つかの箇所を突破し、切り込んできていた。
 すぐに、あちこちで入り乱れての乱戦になる。
 そこも、ただ戦場の一角に過ぎない場所になった。ジャレイラが、倒れている。手に、もうフランベルジュは握られていない。
「えっ。嘘……」
 近くにいたと、守ると、そう思っていたのに。琳は、立ち尽くす。
 教導団の人? 誰が。イリーナさん? レオンさん?
「……」
 綺羅瑠璃はただ静かに見つめる。瑠璃が指揮を執り、混乱する兵を収拾にかかった。