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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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「候補生を保護した」
 【騎狼部隊】の林田 樹(はやしだ・いつき)
 前線からの帰途に、北の森で倒れていた一条アリーセ(いちじょう・ありーせ)を保護した。一条が行方不明になっていたため、代わって林田が本営での部隊の指揮を執っていたのだ。
 林田は、北の森でのことを、本営にて話す。
 不思議なことだった……一条だけではない、同じく行方不明になってまったく手がかりの掴めなかった者たちが皆、北の森で見つかった。何もない、北の森で……しかし、あの感じは何なのだろう。やはり、それにしてもあそこは少し変わったところであった。
 あの者たちは、眠っていた。深く……まるで、夢の中から出てきたようであった。
 林田は帰途、霧の漂っていた北の森を戻るときも、行きのときと同じく浮き上がってくる過去に迫られていた。
 それは、忘れていたおぞましい過去。
 私と共に旅芸人の一座で過ごしていた「彼」。優しかった彼が、ある日豹変した。そして皆を殺した。……これで、私は人間を信じなくなり、教導団に来たんだった。だが、今は……
 北の森を去り、本営に帰還した。
 戦いはまだ、終わっていない。


1-02 本営

 本営では、何かと忙しく動きがあった。
 北の戦線にひとまずは片が付き……
「とは言え、龍雷連隊か。厄介な問題にならねばよいがな」
 本営代表の一人クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)少尉が、最南へ向かうべく準備を行っている。
「クレア様」ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)も伴ってだ。「そのことは、あちら方面対策に残すパティに。北上へのクレア様の見解については、すでに示しています。滅多なことは起こらないでしょう?」
「まあ、それもそうだな。教導団の一員である限りは、な。それに、全般のことについては、クレーメック少尉がいる」
「うむ。任せてくれ。クレア少尉こそ、どうか気を付けて」
 クレアは頷いた。「互いに武運を祈ろう」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、クレア少尉なら同じく南へ行くロンデハイネ(ろんではいね)中佐を補佐し、大任を果たしてくれるだろう、と心に思う。「自分とは価値観や考え方が若干異なっていても、クレアもまた優秀な教導団員であるなあ」と、クレーメックはクレアに対し思っているようである。彼自身は、パートナーのクリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)を補佐として、本営に留まることとなる。
 クレアを見送ると、クレーメックは本営に残された問題の処理にあたる。
「三日月湖周辺にあると噂される敵の物資集積拠点についても検討を重ね、捜索や奪取にあたる者に臨時指揮権を与えて、どの部隊からでも必要な兵や資材を確保できるように取り計らう」――
 クレアと入れ替わりに、本営に入ってきた者たち。
 この実際の任に就くこととなった二部隊……【騎狼部隊】を率いる林田樹(はやしだ・いつき)と、【黄金の鷲】のエル・ウィンド(える・うぃんど)である。前回は、岩城への援軍として戦闘で力を発揮した二部隊だ。
 二部隊は、おのおの、敵のこの一大拠点の情報を至急、集めにかかる。
 ギルガメシュは、
「うーむ。そうだな、さきの戦で捕えた捕虜から聞きだすことはできないかな?」
「なるほどな」林田も、頷く。「それならば、すでに一部を私の預かりで内地の開拓にあたらせてある。案内しよう」
 林田とエルは、クレーメックと別れ、一旦本営を後にした。
「さて。私は本営の方を……ん?」クレーメックが振り向くと、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が残っていた。
「ありーしぇねーたん、ないじょーぶ?」
「一条アリーセか。うむ。他の者らと共に治療を受けている。
 とくに、命に別状もなく、精神などにも問題はないらしい。すぐに復帰できよう」
「かちょりねーしゃん。ありーしぇねーたんを、たのむお」
「香取ねーさん? 私はクレーメック・……」
 コタローはぴょこぴょこと行ってしまった。「むう。蛙にまで。香取も有名人になったものだ……」
 さて、林田の案内した開拓地。
「おお。こんなに開拓が進んでいるんだな」
「あそこに、ジーナがいる」
 捕虜の世話もジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)がしているのだ。
「役目は、シャンダリアが適任だろう。シャンダリア
「まかせてください」
 農地の一角に、働き始めて間もない獣人たちを集めた。
「では、私たちは私たちで情報を集めようか。ジーナ、洪庵」
「樹様。そうですね。
 物資の入り具合が滞っているので、あの子たちが心配です。
 是非、ぶんどってやりましょう!」
 あの子たち。そう、ジーナや緒方が世話をしている孤児院の子たちである。
 ジーナと緒方は、孤児院に寄って、近くに借り受けている館へ向かう。
 そこでは、
「そりぇにしちぇも、いっぱいかわったんらねー、このあたり。
 こた、もびゃーるぱそこんにまとめるお」
 先に戻ったコタローがぱそこんを学んでいる(地形の処理を実践しつつ)。
 ジーナ、緒方らが帰ってくる。
「おかえりー、じにゃ、あき。こたのおともらち、げんきらった?」
「コタ君、勉強してるね。子どもたちかい。うん……今はね。でもあの子たちがまた、おなかをすかせないでいいよう、頑張らないと。
 そのためにも……そう、ちょうどいい。
 コタ君。三日月湖付近の地形について知らせてくれないか?」
 緒方 章(おがた・あきら)が言う。
「う? あき、このあたりのじょーほー?
 うっとね、こんなかんじらお」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が、ぴっと押すと、ぱそこん画面上に付近の地図が表示される。
「北に、こないだ行ってきた岩城。東は、今戦場となっている東の谷。
 西は……まぁ、山、か。ここでは今までとくに何も起こっていないよね?」
 コタロー、頷く。
「南は谷間の宿場を抜けて、草原地方か。更に行くと、本拠地オークスバレーに着くと。南部諸国に至る道もある。
 うーん……谷間の宿場は、戦いがあったときにノイエの皆がくまなく行き回っているし、今も治安維持にあたっている。
 が、今、盗賊の一団が入り込んできている……これはこの前は、草原地方にいたのか。
 草原地方には、今、戦場となっている東の谷ルートの他に、西の山へのルートってのもあるね。
 最初に見た、西の山にはこっから入るのか。
 関連性がわからないけど、気になるな」
 エルたちが聞き込みを行っていた農地の方は……
「この戦争を一刻も早く終わらせるために、食糧・物資の一大拠点といわれている場所を教えてくださいな」
 シャンダリア・サイフィード(しゃんだりあ・さいふぃーど)が、真剣に説く。
「戦争が終われば、あなたたちもいずれ故郷へ帰ることができるし、犠牲者が増えることもないと思うの。
 あなたたちにも大切な家族がいるんでしょう? ね、お願い!」
 シャンダリアのウィンクに、獣人たちの目がハートマークになった。
「……」
 シャンダリアは、少し待ってみた。獣人たちの頬が、紅くなってきた。
「……で」
 シャンダリアは、ちょっと怒った。
「シ、知ラン」
「そうか。こいつらはドストーワの獣人だから、知らないのかもしれないな」
 そこへ、ジーナ、緒方が戻ってくる。
「気になること……?」
「ええ。ひとまず、もう一度本営へ」
 エルと林田は各々のパートナーを連れて本営に戻る。
「盗賊の一団?」二人は、クレーメックにそのことを尋ねた。クレーメックは、しばし考える。「このあいだは、草原地方に発生した者らか。……ふむ。補給物資を狙ってのものだったのではないかと思うが、大岡輸送隊は我がノイエ・シュテルンによって保護されたし、谷間の宿場は治安にあたっているものがいるし、とくに誰も退治には向かっていないな」
 緒方は、地形と示し合わせて気になったことを打ち明ける。
「ふむ。……どこから発生したのかわからないが、今、付近で気になるのは確かにこれくらいか。
 谷間の宿場なら、そう遠い距離でもない。ひとまず、これの討伐にあたって、何か敵から聞きだせる情報があればいいが。言った通り、本営から必要なものは用意する。では、頼む。
 そうだ。林田殿。騎狼部隊の者が、また戻って来た。これも共に討伐に加えてはどうだろう?」
「騎狼部隊の者がまた……? それは一体」
 林田は、ウルレミラの兵舎へ向かう。そこにいたのは……
「ウゴウゴ。久しぶりだぞ」
 パントル・ラスコー(ぱんとる・らすこー)であった。
 彼は、ボロボロに破れ、炎に焦げた騎狼旗を持って、少数の生き残りを集めて戻ってきたという。完全に療養に入った者もいるが、数名の兵と一緒に食堂でご飯を食べているところであった。
「昔、マンモスと戦っていた時もよく負けたぞ。
 でも。生き残ってさえいればいつかは勝つぞ! そうやって、オレが生きてた頃から一万年間、ヒトは戦ってきたんだぞ」
「……つらい旅だったのだな」
「詳細は、これから向かう先までに話そう」そこには、浪人の爺さんの姿もあった。「行くのじゃろう? 今から、任務に」
「しかし。戦えるのか?」
「メシさえ腹いっぱい食べたら、一緒に戦うぞ!」
 一方の黄金の鷲も、隊の準備をする。
「忘れられがちだが私が黄金の鷲の団長だからな」
 しっかり装備を整える、ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)。黄金の鷲は作戦のため、黒羊軍の装備を持参することになる。ギルガメシュが、メンバーらに声をかけ、作戦内容を指示する。
 こうして二部隊は、谷間の宿場へ向かった。
 騎狼部隊は、林田の30騎(「70は、候補生のためそれに捕虜の監視もあるし、置いていこう」)それに帰還したパントルら数騎を加え、エルら黄金の鷲のうち戦闘に出られる者を中心とした50……なので騎兵30数騎に、歩兵50といったところであった。この兵力で……まずあたることになるのは盗賊の一団だ。さて。