校長室
男子生徒全滅!?
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第一章:河童とオカマと戦士たち 蒼空学園の一角にあるカフェテラスの屋外のテーブル席は、雨に晒されており、生徒の姿はない。 放課後の今、本来ならば外で思いっきり友人や恋人と会話を楽しみたい生徒達は、店内からうっとおしそうにそんなテーブルと雨を観て溜息をついている。 「雨降り過ぎよね・・・もう何日目だろう?」 「あーあ、今週も部活の試合、流れるのかなぁ」 雨の季節特有の湿気でベタついた髪を触りながら、女子生徒達がそう話している。 だが、彼女たちを陰鬱にするモノは店内にもいた。 腰の細いスーツ姿でタイトスカートからすらりとした細く白い足が見えているプリーストの神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)と同様に深いスリットのチャイナドレス姿のバトラー、山南 桂(やまなみ・けい)である。 「はあ・・・ううこれ・・恥ずかしいかも・・丈が短いです」 と、真っ赤になっている翡翠。 「こうなっちゃんだもの。諦めが肝心でしょう?まあ、なるようになるわよ」 と、妙にサバサバした顔でお茶を飲む桂。 普段は女性と言われると機嫌が悪くなる桂だが、どこからどう見ても正真正銘の女性になってしまったので、怒る事を止めていた。いや、割り切ったという方が正しいか? そんな、お淑やかなと姉御系の二大美女の間にはウィザードの柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)の姿も見える。 「……元が綺麗なので、二人共美人ですね」 じ〜っと見つめる美鈴の心境はいかほどのものであろうか? 「桂さん、もし、もしナンパされたらどうしよう?」 「……さぁ、放っておいたらいいんじゃない?」 「美鈴さんが、こんな衣装を着せるから、余計に女の子っぽくなっちゃったし……」 と、困った顔で美鈴を見る翡翠。 「でもああいう方々よりはマシですわ」 美鈴が示す先には、文字通り一歩引いている生徒達の間を行軍するオカマの軍団がいた。 「なぜ、チアガールの衣装なの?」 桂が物珍しそうに一団を見ている横で、翡翠が頭を抱える。 「ああはならなくてよかったですわね……」 美鈴の呟きに、桂が静かに頷く。 翡翠達から少し離れた所ではネクロマンサーのウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が生徒達と話をしている。 「早くアレ何とかしてよ! 愛美達も何かやっているけど問題の根源を叩かないと意味ないよ」 「わかっています。私の魔法剣術部の部員も……相当オカマにされましたからね」 部活仲間がオカマ化したことによって、彼には彼なりの苦労があったのであろう。そう思える少々疲れた顔で頷くウィングが店内を見渡す。 元々、彼はここで働いていたことがあり、店にやって来る生徒達には顔見知りも多い。 ある程度の情報収集を行ったウィングは、少し考えをまとめてみる事にした。 「(雨で部活の大会がなくなると実績が残せませんね。そうなると運動部の活動費も減らされる……。校長が実績のないクラブの予算を削ると言った事と関係が? そして変わりに文化部側の活動費が増える、といったところか)」 高速で考えをまとめつつあったウィングであったが、頭を振り、生徒にはこう話した。 「とにかく聞き込みをしなければ真実はわかりませんから、先入観は持たないようにしませんと……しかし、久しぶりに蒼空学園に顔を出しに来たらなんか大変なことになって……」 ――ドゴォォーーンッッ!! ウィングの話を遮るように、校内に響く爆発音。 「校庭の池の方だ」 誰かが叫び、皆が一斉にその方角を向く。 「(少し、急いだ方がいいみたいですね)」 ウィングは生徒達の間を抜けるようにカフェテラスを後にした。 野太い悲鳴を上げるオカマ達の中に、ウィングの所属する魔法剣術部員らしき元男子の姿がちらほら見えた気がしたが、「あえて見なかったことにした」と、後ほどウィングは語ってくれた。 雨が降る蒼空学園の校庭の池。 ナイトの赤羽 美央(あかばね・みお)が忘却の槍とタワーシールドを構えている。 「愛美達は男子生徒以外ならスルーしちゃうんですね……ひどいです」 背後の池には河童が水面から緑色の頭部を出している。 振り返った美央が優しく河童に微笑む。 「大丈夫です。私は、いえ、私たちはあなたの味方です」 美央の前には数十人の怒りの形相をしたオカマ達が立っており、次々に美央に怒声を浴びせている。 「彼女にふられちゃったじゃない!」 「そうよ! どうしてくれるのよ!」 「河童を倒せば元に戻るって誰か言ってたわ、ちょっと、あなたどいて!!」 「愚かです。あなた達は……」 美央は、ふぅと溜息を付いた後、オカマ達を眼光鋭く睨みつける。 「河童さんも大切なもの――お皿ががないんです。その気持ち、私には痛いほどわかります。私にも大切なもの(胸)がないですから……。あるべきなのに、それがない。それは本当に辛いことです……その悲しみがわかりますか!? あなた達に!!」 美央の叫びに、オカマ達が口々に反論する。 「何よ!? 私達だって大切なものをなくしたのよ!!」 「そうよ! あるべきなのにないのよ!!」 「アンタなんて元々ないじゃない!!」 ヒクリと、眉を釣り上げた美央が、隠形の術で物陰に隠れているニンジャの四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)にこっそり目配せする。 ターゲットが接近したらしびれ粉を散布する手はずだったのだが、今の目配せには「こいつら絶滅させても問題ないですよね?」というハードな意味が同時に込められていた。 ニンジャの読心術だろうか? その提案はあっさりと唯乃に却下された。 「(無理! 数が多すぎる!! あと、ジェノサイドは駄目! 美央ちゃん、こらえて!!)」 との無言のサインを美央に返した唯乃は、計画の練り直しを迫られていた。 「さっきの魔法は護国の聖域で防げたけど、人多すぎよ! オカマって暇なのかしら?」 物陰で唯乃はブツブツと呟き、次の一手を考え始めようとしたが、なかなか集中できない。 唯乃は恨めしそうな視線を、付近にいる謎の一団に向けた。 一団は円陣を組み、 「やるわよーっ、ファイッ!」 「「おおおおぉぉー!!」」 怪気炎をあげるオカマのチア軍団である。 「(鬼眼で威圧し、ブラインドナイブスで牽制を仕掛けてみる……?)」 唯乃はニンジャとしての経験から、この一団の方が危険であるという、至極真っ当な判断を下そうとしていた。 一方、同じ頃、事情はよく分からないがとにかく河童を倒そう、と考えて池にやってきたセイバーの水上 光(みなかみ・ひかる)の前に、オカマ化したネクロマンサーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が立ちはだかっていた。 世界の嫉妬する髪をなびかせ、天真爛漫で気さくな美人と化したジョセフが光を挑発する。 「ミーの事じーっと見てどうしマシタ? ミーの美しさに惚れましたカ? オーッホッホ、おねーさまって思ってくれてもいいんデスヨ♪ オホホ!」 「キミ、どいてってば!! ボクは河童どもを止めるんだ!!」 意外と美人だと思う自分のの執拗なアプローチになびかぬ光に、ムキになったジョセフがさらに詰め寄る。 「オー、光。今のままでも十分女の子みたいなのにー、さらに美を求めるのデスカー?」 「ボ……ボクは男だ!!」 「嘘はいけまセーン!! 神様が怒りマース」 ズビシッと、真顔のジョセフが光を指差す。 「な……何を……」 激しく狼狽した光が一歩、ジョセフから引き下がる。 「ミーは見てマシタ。光は、先程、生徒達と一緒に、河童の術を受けマシター!! 今のあなたは、もうオカマなのデース。 オホホホ!」 「ち、違うよ!!」 「……オヤオヤ、では、どうしてオカマにならないのデスカー?」 「うぐっ!? いやそれは……そ、そんなのどうでもいいじゃないか! それよりも事件解決するのが先決だよ!」 何故か顔を真っ赤にして反論する光に、ジョセフがチッチッチと指を振る。 「ミー程、胸が無いからと言っても、それは親や祖先や現代の医術を恨むべきデース! 美央もそれで苦しんで……」 ――ビュンッ!! どこからか全力で投擲された忘却の槍がジョセフの額を捉える。 数人のオカマ達を道連れに吹き飛んでいくジョセフ。 「オー、お洋服が汚れちゃうじゃないデスカ! ヤーネー!」 校内の遥か遠くへと吹き飛びお星様になったジョセフを見送った光は、自分の胸に手を当てホッと息をついた後、グレートソードを抜く。 「こら、河童ども! 男の子をオカマにするなんて止めるんだ!」 どこか照れのある声で光はそう宣言するのであった。 吹っ飛んでいくジョセフを上空から空飛ぶ箒に乗って眺めていた吸血鬼のウィザード、ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)が、フッと笑みをこぼす。 「満夜の読みが正しかったな。放火魔は必ず現場に戻ってくると言うが、ヤツらも同様なのであろう」 と、池の集まったオカマの集団に紛れていた黒服の生徒をじっと見つめる。 傍で同じように空飛ぶ箒に乗ったウィザードの朱宮 満夜(あけみや・まよ)も、黒服の生徒を見て頷く。 「ミハエルも下に降りて、争いを止めてくればいいのに」 「ノンケの我輩は、池には近寄りたくないのだ」 「ノンケって何です……?」 遠い目をしたミハエルが不敵に笑う。 「人間とは面白い種族だな」 頭に?マークを浮かべていた朱宮だが、黒服の生徒がそっと群集を抜けだして走り去っていくのを見逃さなかった。 「ミハエル! 私はアレを追います」 「わかった。我輩はここで事の顛末を見守ろう」 「もし、戦闘が起きた場合、河童を刺激しないように注意して食い止めて!」 「難しい事を言う」 「あ、でも、相手が男子だったらオカマ化して弱体化させるのもアリかな。それと、ミハエルもオカマにならないよう注意してよ」 ミハエルが朱宮を見る。 「……昨日まで、我輩の女になった姿を見たいと言ってたではないか?」 「私、ノンケじゃないですから」 そう笑うと朱宮は黒服の生徒を追って箒で飛び去っていく。 残されたミハエルは、しばし呆然としていたが、やがて静かに沸き上がってくる笑いを噛み殺した。 「契約したの時の宇宙意思は、やはり正解だったな」