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【初心者向け】遙か大空の彼方・前編

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【初心者向け】遙か大空の彼方・前編

リアクション

 
 
Part.7 発見

「コ、コユキ〜〜!」
 手すりの下から声がする。
 風と空の下、小さく聞えるその声が、切羽詰っているようで、呼雪は不審に思いながら下を見た。


◇ ◇ ◇


 助手の座を一時的にオリガに明け渡し、メインマストのてっぺんで見張りの任についていた、ヨハンセンの助手、アウインが、伝声管に飛びついた。
「親分! 5時半、下方75度!」
 伝声管からの切羽詰ったその声は、艦橋だけでなく、飛空艇全体に響き渡る。

「スカイサーペントです!」


 ゆっくりと登ってくる、ドラゴンにも似た巨体。
 だが、ドラゴンのような、知能のある生き物には見えない。
 雰囲気はもっと、獣に近い。
 上がってくるスカイサーペントが、飛空艇に、ファルとブルーズに向かって大口を開けた。
「わああ〜〜〜」
「ファル、我に掴まれ!」
 ブルーズはファルを捕まえ、一塊になっている。
 地獄の天使は、この高度と風では、飛行することは不可能だった。
 自分達を引っ張り上げようとするロープの引きを感じるが、飛空艇がスピードを増して角度を変えているので、難航しているのが解る。
 自分でもロープを掴み、自力で登ろうとするが、揺れが酷くて、中々上がれない。
 くるくると木の葉のように空気の渦に飲まれながらブルーズは、このような状態で下手なことはしないものの、いつでも魔法攻撃できるようにと身構えた。

「きゃー! お魚が――!」
 バランスを崩して、釣った魚を入れておいた籠が、手すりの外に投げ出されてしまい、ミリルは手を伸ばしながら叫んだ。
 届かない。
 制止物体と違って、素早く動き回る魚を捕らえるのはとても大変で、しかも射程距離まで近づいてくる魚は中々いなくて、大きい魚は更に少なくて、それでも頑張って、小ぶりではあったものの、何匹かの空海魚を釣り(?)あげていたというのに、その努力が、飛ばされて小さな点になって、見えなくなって行く。
 手すりにしがみついて身を乗り出すミリルを、音井博季が引き戻した。
「危険ですから、飛空艇の中に入っていてください!」
 そうして、自分はスカイサーペントに最も近いところへと走った。

 シキが、メインマストに太いロープを縛り付けている。
 既に巻き付けてあるやや細めのロープを持ち、振り向いて、博季に気付いた。
「アレと戦うか?」
「必要であれば」
 簡潔に答えた博季に頷いて、走り寄ったシキは、博季の腰にそのロープを巻き付ける。
 手際良く、複雑な結び目をこしらえた。
「命綱だ。絶対に切れないから安心しろ」
「何か策が?」
「距離を縮めないと、戦えないだろう」
 しかし近づけば、飛空艇が危険に晒される。
 博季は命綱の意味に気付いた。
「……仕方ありませんね」
 やるしかない。腹を括った。

 駆けつけたトオルや神裂刹那らの力も借りて、ようやくブルーズとファルが引き上げられる。
 甲板になだれこんできたファルとブルーズの姿を見て、天音らと共に懸命にロープを引っ張っていた加夜は、ほっとして座り込んだ。
「大丈夫か、ファル?」
「びっくりしたぁ〜」
 ファルは、へろへろと呼雪に答える。
「無事だね?」
 天音に問われたブルーズは、
「無論だ」
と返した。天音はふっと笑う。ほっとしているようにも見えた。

「もーっ! 折角のバカンスを邪魔して――!」
 レキがスカイサーペントに向けて、スプレーショットで弾幕を張るが、ギリギリのところで近づけさせないようにはできているものの、決定打には至っていなかった。
 ミアも魔法を連発するも、表面を滑って行く印象がある。
「魔法は効きにくいようじゃ。サーペントごときの分際で!」
「周囲の風の流れが関係しているのかもしれんな」
 憤るミアに、遅れて攻撃に加わろうと様子を見ていたブルーズが言う。

「やはり眉間だな」
「そうですね」
 シキと博季が打ち合わせ、シキはメインマストに繋いだロープの先に結びつけた、自分の身長ほどの長さの太いモリを手に持った。
「何をするのじゃ?」
ミアが訊ねる。
「少し、攻撃を首から下にしていてくれ。
 ちょっと行ってくるから」
 シキの言葉に、ミアは首を傾げた。ちょっと行ってくる?
 シキは場所を選ぶと、手すりの上に乗り上がり、気付いたミア達が声を上げる間もなく、空に飛び込んだ。
「シキっ!」
 驚いたトオルが叫ぶ。
 シキはスカイサーペントの頭に向かって飛んで(落ちて?)行き、着地と同時に、手に持っていたモリを突き刺す。
「! ええっ?」
 状況を察して、加夜がぎょっとした。
 スカイサーペントの大きさから見て、あのモリ程度では、大して深手になったとも思えない。
 だが、スカイサーペントと飛空艇が、ロープで繋がれた。
 力関係から言って、スカイサーペントが思いきり首を振りでもしたら、飛空艇は引っ張られて振り回されてしまう。

 だから、勝負は1回、短時間だと、博季も理解していた。
 シキ同様、手すりに乗り上げ、ロープにコの字型の鉄パイプを引っかけて、それを両手で持って飛び降りる。
 一気にロープを滑り、スカイサーペントの頭上へ降り立った。
 そして、すぐさまにシキがモリを引き抜く横で、博季は、両手に構え持った大剣を、渾身の力で振り下ろした。
「――ふっ!!」
 剣が、鱗を割って、叩き込まれる。
 轟音のような嘶きが、耳を貫いた。
 眉間を割られて、スカイサーペントは苦痛の嘶きを上げ、首を、そして身体全体を仰け反らせるようにしながら、ゆっくりと離れて行く。
 モリを繋いだロープに掴まって、シキと博季はそれを見送った。
「倒したかな?」
「解りませんが……」
 だが、ここから逃げ出させることができただけで充分だろう。
 飛空艇も安定飛行に戻って、2人はロープをよじ登り、飛空艇へと戻った。

「ったく、無茶すんなよ!」
 肝を冷やして見守っていたトオルが、戻って来た2人に文句を言う。
 シキと博季は顔を見合わせ、シキが苦笑して、
「……まあ、1回で成功してよかったよな」
と肩を竦めた。
「……は?」
「だから、あいつに綱を渡してしまえば、後はヒロキが一気に決めてくれたけど、渡すのが1回目で成功できたのが、ラッキーだったな、と」
 唖然とした後、トオルは1回シキを蹴飛ばした。


「もう、大丈夫になった?」
 手すりから顔を出して、ファルがきょろきょろと周囲を見渡す。
「ああ。姿は見えなくなったな。
 また来ることもなさそうだ」
 言ってしまってから後悔した。
 ファルはよじよじと手すりによじ登り始めたのだ。まさか。
「ファル?」
 呼雪の言葉に、ファルはにっこりと笑う。
「クモサンマ。しきりなおしだねっ!」
 それを呆気にとられて見ていたブルーズの背後に、気配。
 振り返るのがこれほど躊躇われたことはない。
 パートナーがどんな表情をしているか、彼には痛いほど解った。



 そんなことがあっても、最終的に釣った魚を総計してみれば、ファルがお腹いっぱい食べて尚、飛空艇内にいる全員を満足させられるだけの量の空海魚が獲れた。
 ブルーズの献身的な努力とファルの情熱は、ついに雲海魚類、クモサンマを彼等にゲットさせたのだ。
 10メートルサイズの大物は天音と呼雪(及び餌になったパートナー達)で釣ったが、量で言うなら、レキとミアがダントツだった。
 地味にシキも釣り上げている。
 ミリルだけは、SPを使い果たしてしまっていたため、釣りを再開させることができず、しおしおとうなだれていた。
 そしてうなだれながらも、しょぼんとしながらも、
「おしおきされちゃうのかな……」
と、何故かドキドキしていた。

「さばきがいがありそうだ」
と、呼雪が腕まくりをする。
 こんな巨大な魚をさばくのは初めてだ。
 というか、普通の調理器具ではこの魚をさばくのは無理そうだ。
 誰かに剣を借りた方がいいな、と思う。

「おおっ、すげー!」
 トオル達も見物に現れた。
「でかいな。これを料理すんのか?」
「ボクが全部食べるんだよ!」
 ファルが胸を張って権利を主張する。
「ええー、無理だろ。俺にも少し分けてくれよ」
「少しならいいけど」
 そんな会話を耳に、呼雪が苦笑する。
 いくらファルが大食いでも、飛空艇にいる皆に振る舞うくらいは余裕であるだろう。
「さて」
「どんな料理にします?」
 加夜も腕まくりして協力態勢である。
「折角新鮮素材だからな。
 刺身と……、そうだな、つみれ汁や、シンプルに塩焼きにするのもいいかもな」
「ボクは天ぷらが食べたいんだよ」
 レキがリクエストして、
「ではそれは、私が作りますね」
と、加夜が請け負う。

 2人で素材の大きさに悪戦苦闘しつつ、奮闘しつつ、完成して並べられたご馳走に、集まった全員が大喜びで舌鼓を打った。
「おいしーい!」
 レキがほくほくと天ぷらを口に運びながら、加夜に礼を言って、加夜も嬉しそうに笑う。
「おまえの胃は異次元かよ!」
とトオルに驚かれるほどファルも食べまくり、ブルーズももくもくと、自分の労働の対価を口に運んだ。

 刺身には馴染みの薄い人もいるだろうと、タタキにしてみたりと、呼雪の細かい配慮も成された料理の数々は、楽しい歓談の一時ながらも、あっという間に全員の胃の中に消えた。





 ――そして。

「親分!
 目標と思われる物体を視認しました!」
 伝声管から艦橋に伝えられる、アウインの声に、全員が色めき立った。
「8時方向、上方20度。
 推測全長、50キロから60キロメートル!」
「……50?」
「……キロ?」

 耳を疑った。
 甲板へ出て、手すりから、身を乗り出すようにして目を凝らす。
 雲に紛れた、白い、細長いそれは、飛空艇からはまだ、10センチ程度にしか見えなかった。
 あまりにも距離があるのに、既に10センチにまで見えていた。


 それは、巨大な、白い鯨だった。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 トオル「おーす。改めて、初めまして!」
 シキ「ご参加ありがとうございます」
 トオル「で、早速だけど、何、ドラゴンじゃねーの?」
 シキ「そうみたいだな」
 トオル「嘘つき!」
 シキ「そんなこと言われても。俺は、嘘は言ってないぞ」
 トオル「くそー、地震を起こしてたのはウラノスドラゴンじゃなかったってことかよー。
 ドラゴン楽しみにしてたのに……」
 シキ「……まあ……すまん」
 トオル「それはともかく。
 今回は、初心者シナリオってことで、皆色々考えながらアクションかけてくれたみたいだな。
 ありがとな。
 初心者枠の皆には、次回招待をかけさせてもらったぜ」
 シキ「招待?」
 トオル「次も参加してくれる人は、優先的に抽選に通る、っていうやつ。
 招待参加になると、予約をかける必要がないんだぜ」
 シキ「……それ、このシナリオには必要ないんじゃないか?」
 トオル「そうかもしれないけどそういうこと言わない。経験てやつ。
 まあ、システム的なことで、プレイヤーさんの方に何か変化が来るわけじゃないんだけど。
 ちなみに、IDが19000以降のMCさんを初心者枠ってことにしてるんで」
 シキ「でも、参加が強制ってわけじゃないから、別に気にしないでいいよ」
 トオル「強制といえば、後編のシナリオガイドに、もしかしたら、誰かの名前が載ることがあるかもしれない。
 でもそれも別に、参加を強制するとかじゃないから、気にすんなよ」
 シキ「今回の行動を元にしたものだから、行動を限定するものでもないしな」
 トオル「そういえば、扉絵に俺達の他にも2人いるんだけど、出て来なかったな。後編?」
 シキ「そういうことだろうな」
 トオル「まあ、後編も、そのうちに。
 今回、このリア読んでこのシナリオを気に入ってくれたら、また次も会おうぜ」
 シキ「それじゃ、また」