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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

リアクション

 
 
 プロローグ
 
 
「ちっきしょう、この△◎※×ァ! どこから攻撃してきやがるんだ。だいたい、敵は誰だ!?」(V)
 周囲の木に大穴を穿ちながら、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が魔道銃を乱射していた。
 新たな七不思議が現れたというので、魔法超常現象が大好きなウィルネスト・アーカイヴスとしては、真っ先に遭遇して目立たずにはいられないと飛び出してきたのだが、まさか、予想通り、いや、予想以上にあっけなく遭遇できるとは思ってもいなかった。どうせ、また空振りで貧乏くじを引くと思っていたのだが。
「にしたって、いきなり襲いかかってくるとはいい度胸だぜ。俺を狙うなコノヤロー! いいだろうぜ、だったら消し炭だぁ。燃え上がれ、紅蓮の炎……、あっ、火術装備するの忘れてた……」(V)
 炎の魔法大好き、自称紅蓮の魔術師としては、痛恨のミスであった。
「初めましてー!!」
 謎の声とともに、ウィルネスト・アーカイヴスの魔道銃に打ち抜かれた大木が、バキバキと音をたてて幹の根元を粉砕されて倒れかかってくる。
「うわっ」
 ウィルネスト・アーカイヴスは、あわてて倒木を避けた。
「よろしくお願いします!!」
 葉の生い茂った枝を巻きあげるようにして、鋭い突きが降り注ぐように繰り出された。
「くそう、どこにいる!」
 武器による攻撃だけで、いっこうに姿の見えない敵に対して、ウィルネスト・アーカイヴスが叫んだ。いったん下がって魔道銃を撃とうとするが、すでに気力を使い果たしていた。
「しまっ……」
「仲良くしてください!!」
「あっ、いてっ!!」(V)
 カチカチと引き金の音だけがむなしく響いたとき、強烈な一撃が背後からウィルネスト・アーカイヴスの首筋にクリーンヒットした。あっけなく吹っ飛ばされたウィルネスト・アーカイヴスが、頭から地面に突っ込んでそのまま気絶する。
「もしもし……、もしもーし……?」
「つんつんつん……。気絶していますわ」
「うーん、挨拶もできないなんて、弱すぎるよ」
 謎の声が、倒れたウィルネスト・アーカイヴスを囲んで会話を交わす。どうやら、彼女たちが、メイちゃん、コンちゃん、ランちゃんと自称する今回の犯人らしい。
「やっぱり、僕らの仲間は別の所にいるんだよ」
「でも、あまり遠出をするのも、私たちには大変なことなのよ」
 残念そうに言うコンちゃんに、ランちゃんが釘を刺す。
「とにかく行ける所まで行ってみましょうよ。あたしたちとちゃんとお話のできる人がきっといると思うわ」
「うん。行きましょう!」
 メイちゃんの言葉に、ランちゃんが元気に答えた。
 
 
 七不思議
 
 
「さて、どこかに七不思議関係の本があるはずなのだが……」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、イルミンスール魔法学校の大図書室に無限に連なると思える本棚の壁を眺めながら言った。
「それよりも、私の本体の方を探してもらいたいわ」
 『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が、目的が違うとばかりに意見した。
「とりあえず、ゴーちゃん、レイちゃん、しっかりと探してね」
 『空中庭園』ソラに言われて、使い魔のゴーストとレイスがゆらゆらと宙を漂いながら本棚の方へと流れていった。
 さすがに、図書室にいた他の学生たちがぎょっとするが、そこは魔法学校である、すぐに「なんだ使い魔か」というつぶやきと共に半ば無視されていった。
「守護霊さんたち、頑張ってくださいです」
 『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)が声援を送る。
「いや、アンデッドのお化けだから守護霊じゃねえだろうが」
 都合がよすぎると雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が言った。
「だいたい、図書室みてえな公共の場所にアンデッドを連れてくるなんたあ、非常識にもほどがあるぜ。こういう所に入っていいのは、俺様みたいなプリチーなマスコットキャラだけなんだぜ」
 書架にもたれてふてぶてしく言う雪国ベアの顔の横に、トスっと禁書の栞が手裏剣のように突き刺さった。
「誰のせいでこうなったと思っているんですか」
 下から見あげるようにして、『空中庭園』ソラが雪国ベアを睨みつける。
「あれは事故だ」
 いけしゃあしゃあと雪国ベアが答えた。以前図書室に来たときに、あろうことか雪国ベアは魔道書である『空中庭園』ソラの本体を、他の本と一緒に書架のどこかへしまい込んでしまったのだ。
 この広大な本の海にあるたった一冊の本を探そうというのである。まさに気の遠くなるような話ではあった。
 だが、雪国ベアが返却した本を入れた書架を覚えていてくれたので、いちおうの目星はついている。そうでもなければ、一生かかっても見つけだすことは不可能だろう。とはいえ、このままその場所で見つからなかったら、誰かが借りていってしまったか、他の場所に移動してしまったのかのどちらかということになり、発見は絶望的になるのだった。
 魔道書は『空中庭園』ソラの半身である。もし本が損なわれるようなことがあれば、半身である『空中庭園』ソラもただではすまない。図書館の中であれば可能性は少ないとはいえ、やはり危険は計り知れなかった。
「でも、本体を無くせるなんて凄い余裕です。やっぱり姉様は凄いです」
 同じ魔道書である『地底迷宮』ミファが、キラキラした目で『空中庭園』ソラを見つめながら言った。自らの危険を顧みず、本体を知らない場所におけるなど、『地底迷宮』ミファにとっては凄く勇気のあることに映っているようだ。本当は無謀以外のなにものでもないのだが。
「とりあえず、俺様とカナタの目的は七不思議だ。後で、御主人たちとも合流するから、それまでに探し物はすませろよ」
 まったく反省の欠片も見せずに、雪国ベアが言い放った。
「それにしても、意志をもつ武器という物にもいろいろな伝説があるようだな」
 すでに資料となる本で机の上に塔を作った悠久ノカナタが困ったようにつぶやいた。
「意志をもった物と言えば、付喪神みたいな物が真っ先に浮かぶのう。古代王国時代の遺物であれば、招き猫がしゃべったとしても不思議ではないからな」
「招き猫……」
 悠久ノカナタの言葉に、雪国ベアが軽く眉を吊り上げた。
「古王国時代に招き猫があるわけねーだろ。それだったら、あそこで飛び回っているゴーストみてえなのが取り憑いたと考える方が早いんじゃねえのか。ほら、いつだったか、福神社で鏡餅が暴れだしたことがあったであろう?」
「うちの子は人様に取り憑いたりはしないわよ。でも、たちの悪い野良ゴーストならありえるかもね。まあ、私たちもある意味著者の意志の具現化した姿だから、私としては付喪神系を推すけれど……」
 本体探しは使い魔たちに任せた『空中庭園』ソラが口をはさんできた。『地底迷宮』ミファは、使い魔たちと一緒に、一所懸命自分の手で『空中庭園』ソラの本体を探してくれている。
「うむ、武器がモンスターに変化したのでなければ、亡霊が武器を持って人を襲っているという考えも悪くはないな」
「それよかよ、そんなに難しく考えないで、単なる野盗とか、パラ実の奴らが面白半分で人を叩いているって落ちじゃねえのか。森だったら、獣人ってこともあるだろうよ。まあ、パラ実でなくったって、問答無用で人を撲殺する伝説級の他校生徒が世界樹を徘徊したこともあったしよお」
 雪国ベアが、ブルンと身体を震わせて言った。
「あ奴が転校していった百合園女学院の者たちのことか? まあ、蒼空学園についで世界樹に騒動を持ち込む者たちであるからな。ないとは言えないが……」
「だろ?」
「やはり、犯人を実際に捕まえるのが早道か。本人たちを見れば、どんな魔物かは分かるはずであるからな。その上で、破壊するなり、封印するなり、除霊するなり、捕縛すればよいであろう」
「まあ、ややこしい相手じゃなけりゃいいけどな。ということで、そろそろ俺様のアルバトロスで出発するぞ」
「まだ見つかってないのよ!」
 急に出発を急かす雪国ベアに、『空中庭園』ソラが文句を言った。
「ならおいてくぜ」
「いいわよ、行くわよ。ミファちゃん、ゴーちゃん、レイちゃん出発するって」
「待て、アンデットはおいてけ。俺様の飛空艇になんか乗せないぞ」
「勝手についてくるからいいの。さあ、早く七不思議のことはすませて、後でソアたちにも一緒に本体を捜すの手伝ってもらいましょ」
 雪国ベアに言い返すと、『空中庭園』ソラたちは悠久ノカナタが本を返却するのを待って図書室を後にしていった。