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リアクション
序章 月のない夜に悪ははびこる
土の中のミミズも寝静まる静かな夜だった。
ここ、移動動物園の檻が立ち並ぶ空京公園でも、動物達は寝静まって……いるかに思えたが、基本的に動物は夜行性なのでとても元気だった。
ライオンやトラの猛獣の皆様方はウーウー唸り、ウサギやリスなどの小動物の皆様はただならぬ気配にきょどきょどし、ヘビだのワニだのの爬虫類の皆さんは無表情過ぎて何を考えているのかわからない。
真夏の夜に似合う喧噪を浴び、動物園の園長【ドン・バーバル】氏はステッキを振り回しながら、陽気に闊歩していた。
シルクハットに燕尾服、胸ポケットにはシルクのハンケチが一枚。黄金の髭を立派に生やした出で立ちはなんだか偉そう。男爵っぽい出で立ちとは裏腹に、妙にうさんくさい印象を与える紳士だった。
「園長、出荷するリストが出来ましたぜ」
人相の悪い飼育係が、不吉なリストをバーバル氏に渡した。
「……随分と買い手がついたな。流石はろくりんピック、人の集まるところには金も集まるとはよく言ったものだ」
「へぇ、経済効果はバツグンでやんすな」
「それで商品の運び出しはいつの予定だ?」
「明日の夜に運び出す手はずになってやす。サツには気取られてません」
「よしよし、空京警察の犬どもの鼻は潰れてるらしいな。運び出す前によーくこいつらを洗っておけ。毛皮にするにも剥製にするにも見た目ってのが大事だからな。それでもう数千ぐらいふっかけられるだろう」
「へぇ、わかりやした!」
そして、バーバル氏は檻を見回し、ニヤリと笑った。
「それでは、諸君。地球に行っても楽しくやってくれたまえ」
自分の身に降り掛かろうとするものに、動物たちは不安を感じたのかもしれない。
密談……、密猟……、密売……。
落ち着きのない動物たちの様子は、動物園に漂う闇の匂いを反映したもののような気もする。こちらの言うことはわからなくとも、アニマル達には天から授かった野生の勘というものがあるんである。
そんな中、ただ一頭だけ、落ち着いたゴリラがいた。
深い苦悩を背負った漆黒の眼差しは、新月の闇夜に何を思うのだろうか。
ゴリラはじっと目の前の光景を見つめていた。
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