|
|
リアクション
3.試合(前半)
「さぁ! 両チームの1番手の選手がコートに入場してきマァース……」
卓上マイクを通して、キャンディスの解説が場内に響き渡る。
「審判長により、コイントスが行われましたヨ!」
「……【東チーム】がサーブ権をとったようデース!」
ネット近くに立つ審判長の説明が、ワイヤレス・ピンマイクを通じて流れる。
「では、試合の説明に入らさせて頂きます」
「・1セットマッチで、30点先取した『チーム』の勝ち。
・選手の交代は、試合の最中であっても随時OK!
以上のルールを踏まえ、今回の試合は
『1ゲームのみの団体(チーム)戦で、1セットマッチの中でめまぐるしく選手が交代し、対戦する』、
という形式を取らせて頂きます」
「特にご指定がなかった選手についてですが。
マスターの裁量で、一律適切な位置に交代要員として組み込まれております。
そのため、組(ペア)としての勝利は、『相手の組(ペア)を交代に追い込んだかどうか』でみてください。
チームの勝利は、もちろん得点の合計(30点)できまります」
「コートは左側が『西シャンバラ』側のコート、右側が『東シャンバラ』側のコート……」
「……タイムアウトは30秒間。前半と後半の間で1回行われます」
「なお助っ人NPCを呼ばれた方は……いらっしゃらないようですね。
そうした次第で、【必殺技】、【必殺防御】、【必殺サポート】のみ使用することを許可致します」
キンッ。
高い音。
審判長の手により、【必殺技】、【必殺防御】、【必殺サポート】が解禁された音だ。
「それでは只今より、【ろくりんピック】ビーチバレーの試合をはじめます……」
■
【西チーム】戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)&リース・バーロット(りーす・ばーろっと)組 対 【東チーム】真口 悠希(まぐち・ゆき)&上杉 謙信(うえすぎ・けんしん)組。
西チームの応援席から、疑問の声が上がる。
「しかしなんで、先陣が小次郎達なのさ?」
「リースが根回し使って、操作したらしいぜ」
「へぇ……そりゃ、やる気のあるこって。じゃ、気合い入れて応援すっか」
小次郎達は左側のコートに入り、守りの姿勢をとっていた。
「リース殿、今のうちに、打てる手はすべて打っておきなさい!」
「はい! 小次郎さん!」
リースは自身に【博識】と【財産管理】、【必殺アタック】対策として【強化装甲】と【エンデュア】を施す。
「先手必勝です! 全力を尽くしますよ!」
「はい!」
温和な口調で答えて、リースは防御専門としてレシーブの体勢に入った。
対する悠希・謙信組は右側のコートでキョロキョロと周囲を見渡している。
「やあ、さすがにビーチバレーなだけはあって、華やかですねぇ……」
悠希絶句。
観客席には、露出の多い女性の姿がちらほらと目立つ。
(彼女達の格好がエラいことになってしまったら……ボクも大変なことになってしまいそうですね!)
「悠希、見るでない!」
謙信が一喝する。
「よいか悠希。
この謙信は生涯不犯を貫き通し
不敗の軍神と称えられたのだ……
煩悩に惑わされるでないぞ!」
「大丈夫です、謙信さま」
悠希はにこやかに笑って、サービスゾーンに立った。
「ボクの心は、静香さまのもの……花は1つで十分です!」
試合は双方の必殺技の応酬となった。
謙信がアタックを放つ。
「ただのアタックとは! 舐めた真似を!!」
リースは冷静に【博識】と【財産管理】を駆使して、敵の攻撃地点を予測する。
「ここですわね!」
「ナイスレシーブです! リース殿!」
宙高く飛んだボールは、ネット際にちょうど良い位置で落ちてくる。
「流石はリース殿! ここまで読んでいたとは!」
小次郎は、とどめの一撃を使用した【必殺アタック】を放つ。
「【スナイプ】のおまけつきです! 悠希殿の方が『弱い』のですか? 顔面に叩き込んでみせます! 覚悟っ!」
「そうはいかんぞ!」
喝っ!
【必殺防御】でレシーブで防ぐ。
「ただの防御ではないぞ! 我が風林火山で防御力をアップさせた【必殺防御】じゃ! これではそなたの【スナイプ】も役には立たんのう」
「くっ!」
「今度はこちらが攻める番です!」
通常攻撃の後、悠希は謙信とアイコンタクト。
【必殺アタック】の体勢に入る。
「【車懸アタック】、行きます!」
チャンスボールが、悠希達の頭上に落ちてくる。
ていっ!
ジャンプ一番!
2人は同時にボールを相手のコート目掛けて叩きこんだ。
「ボールに凄まじい回転を加えたアタックですよ! あなた達に取れますでしょうか?」
「ご心配なく! これくらい!」
リースはボールの落下地点を素早く計算すると、ダッシュ!
「【強化装甲】と【エンデュア】で、十分ですわ!」
……だが【必殺アタック】と言うだけはあり、通常スキルでの対応は不可能だ。
こうして、結局小次郎達は3失点の後、交代することとなった。
「小次郎さん、申し訳ありません」
リースはシュンとなって肩を落とす。
「私の読みが、甘かったばかりに……」
「私達はベストを尽くして戦いました。先陣の役割は果たしたつもりです」
胸を張って帰りましょう! とリースを促す。
「それに、【西チーム】は人数も多い。私達が失点したところで、チームの勝機を失った訳ではありません!」
■
【西チーム】金住 健勝(かなずみ・けんしょう)&レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)組 対 【東チーム】真口 悠希&上杉 謙信組。
「金住 健勝&ジーナ・アラトリウス組は、本人たっての希望で前半での出場デース!」
報道席の、今はお馴染となった解説者の声が流れる。
「でも、どうして前半が良かったの?」
「もちろん! そこはチームの勝利のためにネー! パルメーラ」
一方の左側コート内。
健勝は真面目そうな面を紅潮させて、応援席をちら見していた。
(うーん、うーん、さすがはビーチバレー。
ことに女性陣の眺めは、壮観でありますな!
ヒラニプラに試合会場を誘致して下さった、団長殿に感謝! 感謝! であります!)
とか何とか考えていることは、秘密である。
「どうかしました? 健勝さん」
「い、いや、何でも……」
咳払いを1つ。
「では、行くであります! 我がチーム『シャンバラシューターズ』の名にかけて! 必ずや見事敵を玉砕して見せるでありますよ! レジーナ」
「はい、健勝さん……で、でで、でも、あの、その名前はあまり大声で言わない方が……」
「ん? どうしたであります? 恥ずかしがることはないでありますよ! レジーナ、サービスエリアに行くであります!」
「サーブは相手チームからです……」
「…………」
試合が始まった。
「さあ、今度こそ! 我が【西チーム】が勝つでありますよ! レジーナ」
「はい、健勝さん!」
「……ところで、私の作ったサインは大丈夫でありますか?」
「指が上が高め。
指が下が低め。
人差し指が右サイド。
中指が真ん中。
親指が左サイド、ですね!」
「で、私が攻撃とサーブ、サインを担当するでありますから……」
「私は防御、レシーブ、トスを担当すればよいのですね?」
ディテクトエビルを行いながら言う。
「これで、妨害対策もOKですわ!」
「流石は、レジーナ! では、守るであります!」
悠希側からサーブが放たれる。
「行くであります! 【必殺アタック】」
健勝はボールの流れを読む。
スナイプ、シャープシューターを用いた正確で鋭いアタックを放った。
「そこに! もらうであります!」
「何だと! では、【必殺防御】でどうだ!」
悠希側の【必殺アタック】には、レジーナがつく。
「行きます! エンデュア!」
精神力を高めて、果敢なブロック!
「私の【必殺ブロック】、いかがなものでしょう?」
「ありがとうございます……ハッ! まだ、試合は終わってないのであります!」
健勝は人差し指を出す。
「右サイドにトスですね? その前に……」
レジーナはヒールを使う。
「はい、回復完了! これで私達は無敵です!」
「まずい。健勝達は【ヒール】を使い始めたぞ!」
【東チーム】の応援団は、にわかにざわつき始めた。
「悠希達は体力の回復にまでは頭が回っていない。このままでは! 我がチームが負けてしまう!」
団長! と全員がクロセルを一斉に見る。
クロセルはふふふ……と不敵に笑う。
「大丈夫です! こんな時のための妨害君達なのです! さあ! 出番ですよ! みなさぁ〜ん!」
「はぁ〜い!」
「じゃ、悠希君達の見えないところで、敵の目につく所に立たなくっちゃね!」
【東チーム】応援団長のクロセルの命を受け、妨害工作員の面々――レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とミア・マハ(みあ・まは)は、「味方コートの後ろに位置し、敵の目線の先」にある位置に潜り込んだ。
「しかし、レキの格好は、反則じゃぞ?」
ミアは溜め息と苦笑を同時にやってのける。
「百合園の水着の上に、白い上着。そんな清楚な格好で、誰が工作員と思うもんかのう」
「でも、気づく人は気づくよ! だから、人影からそっとね」
つっと顔を上げた拍子に、レキの瞳にスタイルの良い女性の姿が映る。
16、7歳といったところだろう。
「うん! あの子でいいや!」
ニマッ と笑う。
そうっと近づく。
「食い込みっ!!」
「健勝さん、ディテクトエビルに反応が!」
「何?」
いやぁああああああああああああああああああっ!
女性の悲鳴とレジーナからの連絡もあって、健勝は敵側の応援席を見る。
なんと! 水着両脇を掴んで上にあげた少女のあられもない姿があるではないか!
「うお! 貴様! なんつー目に羨ましい技を!」
「では、トドメ!」
ミアがレキの背後に回り込む。
「済まぬ、レキ。これも我がチームのためじゃ!」
「え? 何? 何すんの?」
目を白黒させているレキの巨乳を両手でしっかりつかむと、思いっきり揺らし始めた。
ぶるるんぶるるんぶるるんるん!!
「ああ〜ん、何にすんだよぉ〜、ミアのぉ、ばかぁ〜ん」
「らめぇ〜、みちゃいやぁ〜っ!」
2人のとんでもない姿に、会場はくぎ付け。
ついでに、健勝は……健勝も?
(そうだわ! 健勝さん)
(大丈夫かしら? こういうの駄目だって、試合前に言っていたような気が……)
レジーナは振り返って青ざめる。
顔面にアタックを決められ、ブッと大量の鼻血を拭いて地に伏す健勝の姿があった。
「何という、嬉し恥ずかしい妨害をするでありますか! ノックダウンでありますっ! ……ガクッ」
【西チーム】選手交代。
【東チーム】は、また1組の敗者を増やした。
得点は【東チーム】に1点追加され、得点は4点となる。
■
【西チーム】天貴 彩羽(あまむち・あやは)&天貴 彩華(あまむち・あやか) 対 【東チーム】真口 悠希&上杉 謙信組。
「大丈夫か? 悠希?」
謙信が背をさする。悠希達の体力は、先程の試合でつきかけている。
「ええ、大丈夫です! 謙信さま」
悠希は疲れた笑顔を向けた。
「さ、次も勝ちに行きましょう! 静香さまのために!」
コートに入ってきた彩羽は彩華は、2人の様子を【精神感応】で意見交換していた。
(どうやら、あと一押しみたいね? 彩華)
(うん! 彩華達の息の合った連係プレイでトドメ! ですぅ!)
「必殺! 『マキシマムアタック』!」
バシッ!
彩羽はインパクトの瞬間に【サイコキネシス】で加速させる。
「この弾丸アタックが、今のあなた達に防げるかしら?」
悠希達はヘロヘロになりつつも、チームのため、【必殺防御】で防ぐ。
攻防があって、悠希側へのチャンスボール。
すかさず撃ちこまれた【必殺アタック】を【必殺ブロック】でとめようとする。
「彩華!」
「彩羽〜」
2人同時に左右からクロスするように飛ぶ。
「『クロスブロック』よ!」
「通させてもらいますっ! ボクの『車懸アタック』!」
バシンッ!
悲鳴を上げたのは、彩羽達の方だ。
「きゃあああああああああああああああああっ!」
「ボールの勢いに、弾き飛ばされちゃうですぅ〜!」
2人はボールを防ぎはしたものの、蹴散らされる。
勢い余ってユニフォームがめくれ上がった。
彩羽の巨乳が、ポロリッ。
ブブ……ッ!
アタックの体勢に入っていた悠希達は、鼻を押さえてうずくまった。
「いかん! 女性に免疫のない年頃だ!」
謙信はすかさず、悠希を背にかばう。
「これぞ、【必殺サポート】!
悠希、見るでないぞ!
見るなら私の背中でも見ておけ!
……で、でも本当に見つめちゃダメだからなっ!」
「何なのよ? それは!」
彩羽達はツッコミを入れつつ、衣服を整える。
……しかし、疲労のせいもあって悠希ノックダウン。
「もういいぞ! 悠希! 謙信!」
「2勝もしたんだ!」
「後のことは、チームメイト達に任せろ!」
応援席から、観客達の喝采が送られる。
【東チーム】は交代することとなった。
【西チーム】は初得点。1点ゲット!
■
【西チーム】天貴 彩羽&天貴 彩華組 対 【東チーム】弁天屋 菊(べんてんや・きく)&ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)組
試合開始前。
コート外に設けられたフリーゾーンにて。
菊とガガは、フェンス越しに【東チーム】応援席にいる今一人のパートナー親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)を呼び寄せた。
「あたし達は勝つためには何でもすんぞ!」
「へ?」と卑弥呼。
「妨害かよ? 菊」
バキボキと、ガガは指を鳴らす。
菊は頷いて。
「だが、妨害をすんのはコート外からだ! あたし達じゃねぇよ」
「? 誰がすんだよ?」
「卑弥呼――」
ガシッと肩を掴んで。
「頼んだよ! その額の鏡で相手チームを目眩まししてくれ! 何、2、3回でいいのさ! 頼むぜ」
彩羽側のサーブで、試合が始まった。
菊が通常攻撃でアタックを放つ。
「【先の先】! こんなの通用しないですぅ〜!」
彩華が横っ跳びで、レシーブに入る。
ピカッ。
応援席から、眩い光線が。
目が眩んだ彩華はボールを落とす。
彩羽が駆け寄った。
「何? 妨害なの? なんて卑怯な!」
「え? 妨害じゃないよー♪」
卑弥呼はすっとボケて、周囲にアピール。
「たまたまだよー。それに、鏡はアクセサリーだもん! しょーがないよね?」
「ひっかかるおめーらが間抜けなんだよ! じゃ、こっちから行くぜ!」
菊は唇の端を舐めて、サーブの姿勢に入る。
その後も妨害された彩羽達は手も足も出ず、3失点の末交代に追い込まれた。
「でも、彩華達は1勝したですぅ〜!」
「そうよ! 【西チーム】では現状一番の功労者だわ!」
彼女達の言葉通り、2人は【西チーム】の救世主として温かく向かいいれられる。
2人がコートから出るのを待って、【西チーム】は交代要員を送り出した。
サーブ権は【東チーム】に移る。
【西チーム】クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)&麻生 優子(あそう・ゆうこ)組 対 【東チーム】弁天屋 菊&ガガ・ギギ組
【東チーム】の応援席では、暑さにふーふーいう卑弥呼の姿があった。
「暑いし、ノルマは終わったしねー。もう妨害はいいよね? 菊」
左側のコートサイドでは、試合前に作戦会議を行うクレーメックと優子の姿がある。
「では、私の指示通りに動くのだ! 優子」
「ええ、クレーメック」
「それにしても、麗子は何をしているのやら……」
クレーメックは端正な眉を僅かにひそめる。
(私の妨害は邪魔されたということか)
(となれば、攻撃あるのみ! さて、私の頭脳プレーに相手はどこまで持ちこたえることが出来るものか……)
「クレーメック、パワーブレスをかけるわね?」
「ああ……頼む」
優子の声に、クレーメックは冷静に頷く。
「ついでに【必殺防御】もだ」
「『24時間戦えます』、ね? わかったわ!」
2人に防御技をかける。
「疲労そのものが発生しなくなるわ。一定時間だけど」
「そうか。では、必要最小限の動きで行くぞ! 試合は力ではない、『体力がものを言う』ことを思い知らせてやる!」
「はっ!」
クレーメックが【必殺アタック】「消える魔球」を撃つ。
「優子、合図と共に、右端に飛ぶのだ!」
「はい!」
「今だ!」
クレーメックの指示と共に、優子は右に移動。
菊のアタックを防ぐ。
「さすがはクレーメック! 【西チーム】きっての戦術家ってことかよ!」
菊は舌打ちする。
戦術家は冷笑で答えるのみだ。
「菊! いつまでも全力はマズイぜ」
「ああ。呼吸も、あたしらの方が上がってる、か……」
(必要最小限の動きかよ!)
参ったぜ! と菊は頭を抱える。
「こうなったら。必殺技のオンパレードと行こうじゃん!」
菊は、
【必殺アタック】(反動で巻き上がった砂をボールと一緒に相手選手に叩きつける)、
【必殺防御】(ネット際で壁となりつつガードラインと組み合わせ、後ろにいるパートナーの守備力を強化)
で徹底抗戦する。
ガガも、
【必殺技】(音速を突破する速攻攻撃)、
【必殺防御】(尻尾をつかって守備範囲を拡大)
で本気を出す。
「疲れた時は【必殺サポート】さ!」
菊が詠唱すると、自軍選手への水分や燃料補給を的確に瞬時に行うハイパーバトラーが現れた。
「しかも、スキル『ティータイム』のおまけつきさ」
「ひゃあ、回復したぜぇ、菊。凄ぇな!」
「汚い真似を……!」
肌に付着した砂を振り落としつつ、クレーメック達は肩で呼吸をはじめた。
菊の必殺技は「まきあがった砂」のため、審判の判定は「不可抗力」だ。
(しかも優子の【必殺防御】は直接ボールを防ぐ技ではない)
優子は申し訳なさそうに、肩をすくめる。
既に2点を失っていた。
(相手が回復スキルを使うとなれば、最小限の体力消耗に押さえてさえ、相手の方が有利だ……さて、どうする?)
だが、他に良い案が浮かぶはずもなく、クレーメックは3点を失い、交代した。
【東チーム】に3点が入り、得点は7点。
早くも6点差だ。
されど長時間に渡る攻防に、菊達の体力回復は追いつかない……。
■
【西チーム】九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)&冬月 学人(ふゆつき・がくと)組 対 【東チーム】弁天屋 菊&ガガ・ギギ組。
「禁猟区には反応ないね」
コートから周囲を見回して、学人はようやく警戒を解いた。
「東チームの妨害工作は、用意周到だ、って聞いていたけど……」
「油断するな、学人。だが、今は全力で行くことだけを考えようぜ!
弱っちゃいるが、相手は強敵だ。
クレーメック達の活躍を無駄には出来ねぇ」
「……そうだね、ロゼ。僕達は、正々堂々と行こう!」
そして俯きざま、学人はひっそりと溜め息をつくのであった。
(ロゼは単純だから。僕がしっかりしないとな…やれやれだね……)
「うちは小細工なしで勝ってやるぜ!」
ジェライザ・ローズのアタック!
コートの中央へ。
菊達はよたよたとボールに追いつくのが精いっぱい。
「チャンスボールだ!」
「いや、ここはしっかりとカバーだよ! ロゼ」
防御専門の学人がカバーのついでにトス!
ジェライザ・ローズの攻撃!
「この調子なら、勝ちも見えたかな?」
「くそっ! このまま終わってやるかっ!」
「ああ、菊! ガガが奥の手を使ってやる!」
ガガは文言を唱え始める。
「【必殺サポート】! 食らいやがれ!」
火術の炎が相手コートに消えて行く。
「そっちだけ、気温を上昇させる体力を奪う業さ。辛くなるぜ? ふふふ……」
ジェライザ・ローズ達のコートは灼熱地獄となり、蜃気楼が立ち上る。
ピピーッ!
審判員の笛。
「これは、反則だ! 『コート内での相手チームへの妨害行為』は禁止だぞ! すぐに技を解きなさい!」
……かくして、菊達は失格。退場となった。
だが、彼らは大量得点を稼ぎだした上、2勝もした「英雄」だ。
「よし、菊達に続け!」
【東チーム】からは新たな交代要員がコートへ送り出される。
得点は【西チーム】に1点入り、2点。サーブ権も西側に移る。
■
【西チーム】九条 ジェライザ・ローズ&冬月 学人組 対 【東チーム】赤羽 美央(あかばね・みお)&ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)組。
新たな刺客を前に、ジェライザ・ローズと学人は気合いを入れ直す。
「よし、今度も正攻法で攻めてやるぜ!」
「うん。ロゼは攻撃専門、僕は防御専門だね!」
だが試合はあっけなく終わった。
3失点の末交代となる。
「レベル差がある上に、パワーブレスを掛けられちゃ、な」
「おまけにここ一番に【必殺ブロック】じゃ、手も足も出ないよ!」
しかし、ブーイングを言っても仕方がない。
「ま、1勝しただけでも良しとするか。【西チーム】の中にあっちゃ、数少ねぇ『勝者』な訳だし……」
ジェライザ・ローズ達は次のチームメイトに希望を託して、コートを後にした。
得点は【東チーム】に3点加点し、10点となる。
両チームの点差は、8点。
【西チーム】ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)&キャプテン・ワトソン(きゃぷてん・わとそん)組 対 【東チーム】赤羽 美央&ジョセフ・テイラー組。
「ここらで、『スポーツマンシップ』とやらを見せてやろうぜ!」
ジャジラッドはキャプテンに目配せをして、いやらしく笑う。
「【自称小麦粉】と【妖精の粉】……こいつを相手コートにぶちまけたら、どうなるか……」
右側のコートを見た。
美央が残り、ジョセフがサービスエリアに向かうのが見える。
「きたねぇ? 結構! 勝てば官軍さ!」
「了解です! ジャジラッド」
ごくごくごく……キャプテンは腹が膨れるまで水を飲む。
ジャジラッドは手荷物を服の下に隠すと、素知らぬ顔で左側のコートへと歩いてゆく。
そして、ジョセフがサーブを放った。
「よし! いい球ですね、もらいましたっ!」
「打ち合わせ通り、【必殺アタック】でなぁ! キャプテン」
ジャジラッドの指示に片手で答えて、ダイレクトで相手コートに返そうとする。
「飲み溜めた水、お見舞いします!」
ジョオオオオオオオオオオオオッ!
キャプテンは一気に口から大量の水を放出。
ボールを弾き返そうとする。
が――。
ピピーッ!
審判の笛。
「こんなに水をまかれたら、この暑さだ! サウナ状態にさせてしまう。『コート内からの相手チームへの妨害』だ! 退場!」
……ジャジラッドとキャプテンは退場となってしまった。
「水で固まった相手コートを、整地してやろうと思ったのによぉ……」
ジャジラッドは技と大声で言った。
ついで小声で。
「……で、そのときこいつをまこう! と思ったのに、よぉ……」
服の下を押さえる。
【自称小麦粉】と【妖精の粉】の感触がある。
「スポーツマンの鏡ですねぇー……」
キャプテンの空々しい声と、【東チーム】からの拍手が、むなしく空に響き渡るのであった。
得点は【東チーム】に1点入って、11点。
サーブ権は【東チーム】のままである。
【西チーム】小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)&コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)組 対 【東チーム】赤羽 美央&ジョセフ・テイラー組。
「いくよコハク! 防御はお願いね」
「大丈夫だぜ! 美羽、任しとけって!」
2人はガッツポーズを作ると、爽やかに左側のコートへ入った。
「連携プレイでは負けないつもりさ! 声出していこう! 美羽」
一方の【東チーム】側・コート内。
「やっっっっっと、まともな相手が来たようですね……」
「ハイッ! 美央」
美央はパワーブレスの準備に入った。
「ビーチバレーでカヤノさんを倒した私達は伊達じゃないですよ! これで、一気に西の牙城を突き崩すのです!」
「イェース! ではミーも、そろそろ本気で攻めるとしますネー」
ジョセフは舌なめずりをして、サーブの姿勢に入る……。
試合は必殺技と必殺防御の応酬となった。
「美羽! 行ったぜ!」
「うん! コハク!」
美羽は呪文をとなえつつ、ジャンプ!
上半身が大きくしなる。
「これが私の【必殺アタック】だよ!!」
バリッ バコンッ!
美羽はボールに雷術をまとわせた「サンダーボール」を放つ。
「これで決まりだね!」
「ふっ、甘いですね。美羽さん」
美央はふわっと両手を動かす。
オートガード。その後、何層にも渡るオートバリアが雷術の効果をはぎ取って行く。
「私の【必殺ブロック】です」
ファランクスによる構えを取った美央は、フォーティテュードによる硬い精神を使って、そのままボールを自陣の上に飛ばす。
「サンダーボール、やぶれたり! です」
「何っ!」
「では、今度はこちらの攻撃に移らせて頂きます。ジョセフ!」
「イェース、ネー! 美央」
ジョゼフがアタックの姿勢に入る。
「させるか!」
コハクは、美羽を背でかばいつつ【必殺防御】の体勢に入った。
翼をはばたかせて突風を起こし始める。
「【ウィンドウォール】――君のアタックは風の壁で受け止めてみせるさ!」
「ユー! それは、どうかな?」
ジョゼフはコハクにアボミネーションを使った。
「ミーの【必殺アタック】は、一味違うネー!」
「うっ! 卑怯な!」
「卑怯? まだこれから紅の魔眼、ファイアストーム、それに奈落の鉄鎖の地獄が君達を待っている、っていうのにネー! アハハハ……」
ピピーッ!
審判の笛。
「アボミネーションの畏怖効果は『コート内での相手チームへの妨害行為』に当たります。
赤羽選手とテイラー選手は、失格。退場を命じます……」
「そんなバカな話が、ありますデスカー? 美央」
コートを出た所で、ジョゼフはおいおいと涙にくれた。
美央は気丈な笑みで、パートナーの涙をそっとぬぐう。
「ルールを甘く見ていた――それがすべてです。しかし私達は2組も下した『勝者』なのですから! 堂々と帰りましょう!」
美央の言葉通り、2人は【東チーム】の面々から「よく頑張った」と称賛された。
得点は【西チーム】に1点入り、3点。
サーブ権は【西チーム】へと移る。
だが、ほぼ同レベルの争いだったために、美羽側の体力消耗もまた激しい……。
■
【西チーム】小鳥遊 美羽&コハク・ソーロッド組 対 【東チーム】クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)&ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)組
……試合は、ほぼワンサイドゲームだった。
とはいえ、【必殺】系の技を持つ選手たちのため、僅差の展開となる。
最終的にはクライス達が1点先取し、美羽達は力尽きて、交代となった。
「体力の差、か。仕方がないかな?」
「よく頑張ったぜ! 美羽。強敵を1組下したしな!」
コハクはいたわるように、そっと美羽に肩を貸す。
「僕達は『勝者』なんだ! 胸を張って【西チーム】に戻ろう! あとは仲間達が何とかしてくれるさ!」
これで、得点は【東チーム】12点。
サーブ権は【東チーム】に移る。
■
【西チーム】大岡 永谷(おおおか・とと)&熊猫 福(くまねこ・はっぴー)組 対 【東チーム】クライス・クリンプト&ローレンス・ハワード組。
試合前のひと時。
左側・【西チーム】のコートサイドでの一幕。
「福、ふーくってばっ! もう!」
やる気のない福に、永谷は呆れ顔で約束した。
「分かったよ! 勝ったら、『パラミタ満漢全席』でも奢るからさ!」
「ほ、本当かい? トト? 1勝でもいいの?」
「ああ、いいさ」
永谷は頷く。
「よーし! じゃあ、あたいも本気出していくからね!」
「その調子だ! 福」
ようやく士気の上がったパートナーに、ホッと一息つく永谷なのであった。
(やれやれ、でも久々福の幸せそうな顔が見れて良かったかな?)
一方の、右側・【東チーム】のコート内。
「クライス、強敵が出てきたぞ!」
ローレンスが眉をひそめる。
「何でそんなことが分かるんだ? ローレンス」
「『気』が……今までの選手達とは違います! 何、でしょう? このやる気は!!」
ローレンスは福を指さす。
両目が闘志のために、メラメラと燃えあがっている。
「このままでは、私達はやられてしまいます! 必殺技で行きましょう! 主」
「ああ、任せてくれ! ローレンス!」
審判に促され、両チームの選手達はコートに入った。
クライスがサーブを打つ……。
「何ぃっ!? 『本人が消える魔球』だとっ!?」
クライスはキョロキョロと相手コートを見る。
【光学迷彩】を使った2人の姿は、フラッシュバックのように時折現れては、クライス達を混乱させる。
「敵は、どこだ! ローレンス!!」
「ここだぜ、もらったぁっ!」
福! と声をかけ、永谷はしっかりとトスを上げる。
「行ってちょうだい! あたいの全力アタック!」
福がパコッとアタック!
「間に合ってくれ、【必殺ブロック】ッ! 女王よ、僕に祝福を!」
クライスは後衛から、バーストダッシュでボールに食らいつく。
スキル全開!
「オートガード、オートバリア、女王の加護、ファランクス、バーストダッシュ、フォーティテュード、護国の聖域、ディフェンスシフト……」
ローレンスは指折り数えた。
「これだけあれば、確かに! 何にでも対応できそうですね」
クライス、ナイスブロック!
「跳ね返ったボールは、頂いたぜ!」
はい! と永谷は片手を上げる。
「行くぜ! 福。今度はCクイックだ!」
「分かったよ! トト。『パラミタ満漢全席』目指して、頑張るんだもんね!」
だが、体力の低下と共に、永谷達の【光学迷彩】を使った「通常攻撃」や「通常守備」は通じなくなりはじめる。
「トドメだ! 私の【必殺技】を受けてみよ!」
ジャンプ1番!
ローレンスはクライスのトスに合わせ、光術で相手の目を眩ます。
そのまま、軽いジャンプから速攻!
永谷達は防げるはずもなく、立て続けに3点を失った。
【西チーム】は選手交代。
「福、福……?」
しょぼんとして肩を落とす福を、永谷は下からのぞき込む。
「頑張ったって! 福」
「……………」
「だ・か・ら! 帰りに、試合会場近くの露店で好きなものを奢るよ」
「……え? ええ? ホント!? トト?」
「うん、『パラミタ満漢全席』には程遠いけど。露店もなかなか侮りがたいものさ!」
こうして2人は仲良くコートから去って行ったのだった。
得点は【東チーム】に3点入って、15点。
サーブ権は、以前【東チーム】のまま。
だが、「強敵」を相手に、クライス達の体力も限界に近づき始めている……。
【西チーム】林田 樹(はやしだ・いつき)&緒方 章(おがた・あきら)組 対 【東チーム】クライス・クリンプト&ローレンス・ハワード組。
連れのパートナー達と話し込んでいた樹は、章と共に応援席からフェンスを越えて入り込んだ。
「ふむ、アキラ。これは『美衣弛馬鈴』ではないのか!?」
「……え? 樹ちゃん」
章、絶句。
「それ、間違ってる。今回はビーチバレーだよ。パラ実の『アレ』とは、根本的に違うから」
章は【博識】を駆使して説明する。
暫しの後、わかったと樹は頷いた。
「要は2人制のバレーボールみたいなものなのだな?」
「うん、まあ……」
「勝てばいいのはどっちにしても同じなのだな? わかった、アキラ。行くぞ!」
「うーん、ホントにわかってんのかなぁ?」
章の心配顔をよそに、2人は左側のコートへ入って行くのだった。
「シャープシューターで、アタックだ! それっ!」
樹は正確にコート隅をついた通常攻撃を放つ。
レシーブ。フラフラとチャンスボールが上がる。
「必殺アタックだよ! 樹ちゃん」
「ああ、行こう! 俺達の、『シャンバララブラブ破璃拳』!」
それ!
2人は強烈なクロスアタックを放つ。
だがそれは相手側の【必殺ブロック】に止められる。
クライス側の攻撃。
「必殺アタック! もらいました!」
「そうはいかないのだよ! アキラ!」
「ほいきた、樹ちゃん!」
章はボールの球筋を見極めて、ジャンプ!
「捨て身の【必殺ブロック】、『人身御供』……って、僕が防ぐのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「アキラ……すまない……」
樹は合掌。
その傍で、章は顔面ブロック。
鼻血を出しつつ、どーだあーと中指を突き立てる。
「そんな! パートナーの『顔』を犠牲にするなんて!!」
「何たる忠義心! 敵ながら、あっぱれです! 主」
ローレンスは感涙にむせぶ。
「だが私達も体力が……これ以上相手の攻撃に持ちこたえられますかどうか……」
彼らの目の前で、ヒールで章の怪我を癒す樹の姿がある。
ローレンスの予感通り、クライス達は体力を使い果たした末に1点を失い、交代することとなる。
「僕達は、2勝だね!」
「ええ、主。成績としては上々です。しかも強敵ばかりを相手にした訳ですから……この後の選手達は、戦いやすくなることでしょう」
得点は【西チーム】に1点入り、4点。
サーブ権は【西チーム】に移る。
【西チーム】林田 樹&緒方 章組 対 【東チーム】鬼崎 朔(きざき・さく)&スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)組。
「あー……と。ここで、出場選手に関する情報デース!」
キャンディスは手元の資料に目を通す。
「蒼空学園の鬼崎 朔選手とスカサハ・オイフェウス選手ですが。両名は【西チーム】ではなく【東チーム】の選手として出場致しマァース」
「【東チーム】にいる友達の役に立ちたいんだって! 優しい人達だね」
パルメーラが補足して、解説は一旦うち切られた。
(友情……そうですね。でも、勝負に「優しさ」は禁物なのですよ、パルメーラ)
朔はスカサハを伴い、右側のコートに入った。
審判達が目礼する。
(【根回し】……)
自分がスキルを用いた人物達を眺め渡した。
(勝利のためなら、私はどんな手でも使うのです! 【西チーム】、覚悟!)
朔は不敵に笑う。
その意味は、試合開始直後に判明する。
「【その身を蝕む妄執】! 苦しみなさい!」
朔は攻撃に入ろうとした樹をひと睨みする。
それだけで、樹は恐ろしい幻覚の虜となった。
「反則だよ!」
章がすかさず審判に申し立てる。
だが、章の言い分は通らなかった。
「コタ君とカラクリ娘はどうしたんだよ? 妨害対策に回る約束だったのに!」
(それにもきちんと対策が施されていますよ。もっとも別の方々ですがね)
事情を知る朔は、サーブ権を奪い、サービスコートへと向かう。
(林田さんちのパートナー達の事情については、4章を参照です!)
ぱかんっ。
朔はサーブを放つ。
「さて、次の攻撃は『ブラインドナイブスを応用したアタック』でもしましょうかね?」
「舐めた真似を!!」
だが実際には違って、【必殺アタック】が放たれた。
「我が闇のアタック! 『二ヴルヘイム』を受けてみよ!」
「『二ヴルヘイム』?」
「闇術、アルティマ・トゥーレ、ドラゴンアーツを使った技です」
「……で、具体的にどんな技なのだ?」
「ボールに触れたら、即アウト! 戦意喪失してやる気が無くなってしまうのですよ!」
「何だと! おい! 飛ぶな、アキラ!」
だが気づいた時にはすでに遅く、章は【必殺ブロック】に飛んだ後だった。
ボールは章のやる気を反映したかの如くフラフラと相手チームに飛んで、アウトとなる。
「おい、おい、章!」
「…………」
「なぜ、げんなりした顔つきになっているのだっ!」
「……樹ちゃん? もう俺、やる気なくなっちゃたよ……」
「へ? やる気?」
「それにもう1勝したから、いいよね? 胸張って帰ろうよ」
「そ、そんなあーっ!」
かくして樹達は交代となった。
【東チーム】は1点入って、16点。
サーブ権は【東チーム】に移る。
【西チーム】影野 陽太(かげの・ようた)&エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)組 対 【東チーム】鬼崎 朔&スカサハ・オイフェウス組。
応援席から、朔達の戦いぶりを眺めていた陽太は、エリシアの説教にあっていた。
「まずいですわね? 陽太。敵は【根回し】を使用しているようですわ!」
「え? ……て、審判を抱き込んじゃった、てこと?」
きったねぇー、と陽太。
胸のソケットをもてあそぶ。
「いいえ、妨害も立派な作戦の一つですわ。私達【西チーム】はいささか勝負に対してきれい過ぎるのかもしれませんね」
「で、でも、それじゃ、審判の判定は頼りにならないのでは……」
「そこはきれいに勝てばよいのですわ」
おっほっほ、とエリシアは笑う。
「誰の目にも分かる勝利を掴めばよいこと。スキルにはスキルで対抗しますわ! いいですわね? 陽太」
「……念のために、【護国の聖域】使いますよ。妨害対策ですが、いいですか?」
エリシア達は、考え尽くした【必殺アタック】を駆使して戦った。
「いきますわよ! 【必殺アタック】!」
エリシアはコートの死角から現れる。
隠れ身を使用しているため、それは急にふっと現れたように見える。
「このタイミング! あなた方に止められて?」
「何の! スカサハ!」
「はい! 朔様!」
スカサハは六連ミサイルポッドを使った。
「必殺防御『ミサイル連発!』」
「ミサイルの爆風で勢いを削ぎ、『強化装甲』をかけた体での守備です! 何ものをも撃ちこませません! たとえ、それが【必殺アタック】であろうと」
「エリシアだけじゃないですよ!」
陽太が声を上げる。
朔はブラインドナイブスを応用したアタックを放つ。
「ひゃあ、まずはセルフモニタリング、セルフモニタリングと」
平静を保ちつつ、別のスキルを発動させる。
「防衛計画」「ナゾ究明」「博識」……。
「最適ディフェンス布陣は……と、ここですね!」
エリシアにカバーの指示を出して、陽太は安全にレシーブする。
「スキルを駆使した『守備』です。これで、君の通常攻撃は通用しませんよ? 朔」
「く……っ」
朔、絶句。
けれど次の瞬間、ひっそりと笑った。
(ならば、一気にカタをつけるまでのことですよ。体力のこともあることですしね……)
流れ玉を狙って、朔は飛んだ。
「行きます! 私の『二ヴルヘイム』!」
「ならば、俺は『魂のレシーブ』で応戦します!」
「駄目ですわ! 陽太!」
「大丈夫です! エリシア。僕の【必殺防御】なら、完璧です!」
【護国の聖域】が発動する。
レシーブした陽太に変化はない。
朔が声を上げる。
「闇術が効かない!?」
「これで、必殺アタックも効きませんよ? どうしますか? 朔」
「よくやりましたわ、陽太」
エリシアは陽太を踏み台にして、ボールに食らいついた。
高いトスだ。
「では、攻撃に出ますわ!」
相手に鬼眼でガンをつけて、プレッシャーをかける。
そこで――。
ピピーッ。
審判の笛。
「鬼眼の脅し効果は相手の攻撃力をさげるため、『コート内での相手チームへの妨害行為』に当たります。
陽太選手とエリシア選手は、失格。退場を命じます……」
……陽太達は失格。退場となった。
【西チーム】からは新たな交代要員がコートへ送り出される。
得点は【東チーム】に1点入り、17点。
サーブ権は東側のまま。
「陽太やエリシアほどの者が、スキルを活用しても勝てねえ相手ってことかよ!」
「まいったなぁ……」
【西チーム】の応援席からは落胆の声が流れた。
彼らを尻目に、スカサハはSPリチャージを使って、次の試合に備えていた。
「さ、やる気も再び出たことですし。この調子で頑張りましょう! スカサハ」
「はい! 朔様!」
だが――。
この後、誰1人予想し得なかった結末が、彼女達を待ち受けている……。
【西チーム】レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)&ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)組 対 【東チーム】鬼崎 朔&スカサハ・オイフェウス組。
コートに出てきたレティシアを、両チーム応援団は喝采で迎え入れた。
「まったく、水着ごときでこの騒ぎとは……」
パートナーのミスティは額を押さえる。
「しかし、なぜ、『蒼空学園の公式水着』なの? レティ」
「え? だってぇ。あちき、と言えば、これしかないですぅー。似合いますぅ?」
「はぁ、まぁ、それは……」
取りあえずは、レティシアの大きな胸に溜め息をつくミスティなのであった。
「胸が大きかろうと小さかろうと、試合には関係ないのですよ! 皆さん」
対する朔は、あくまでも冷静だ。
「我が『二ヴルヘイム』で血祭りにして差し上げます! 今度こそ!!」
しかしその考えは誤りであることを、朔は身をもって知らされるのであった。
本当に、『我が身』をもって――。
「チャンスボールだわ! レティ」
ミスティは屈む。
レティシアはミスティを踏み台にして、跳躍した。
「【必殺アタック】! 『スカイハイハリケーン』!」
レティシアは強力な回転レシーブを放つ。
対する朔側も、スカサハの【必殺防御】で対応する。
「さすがは、2勝もしている強敵ですぅ〜!」
「でも、相手はまだ奥の手を使ってないわっ!」
「『二ヴルヘイム』……」
戦意を喪失してしまう【必殺アタック】だという話だ。
「とはいえ、あちき達も【必殺ブロック】で防ぐよりほかは……。腹くくるしかないようですねぇ〜。」
そして、運命の時は来た!
「行きます! 『二ヴルヘイム』!」
朔が【必殺アタック】を放つ。
ドラゴンアーツで加速された弾丸アタックは、【必殺ブロック】でなければ無理そうだ。
「えーい、仕方がないですねぇ〜!」
レティシアは覚悟を決めた。
「飛びますよぉー! 『おっぱいブロック』!」
「やめて! レティ!」
ミスティは叫んだが、レティシアは既に【必殺ブロック】でとめた後だった。
ボールはおっぱいに当たって跳ね返り、そのまま矢の如く相手コートを目指す。
「そうはさせません! であります!」
スカサハがすかさず、【必殺防御】で対応……。
……で、事件は起きた。
「レ、レティ……レティ?」
「スカサハ……スカサハ!? しっかりするのです!」
パートナー達の声もむなしく、2名は戦意を喪失している。
「これでは、試合続行は……」
「……ええ、不可能ですね」
朔とミスティの申し入れにより、両チーム総入れ替えとなった。
最後にスカサハのレシーブがコースアウトとなったため、【西チーム】側にラッキーな1点が加算された。
「まあ、私達は運がいいのかしら? 勝ち逃げなのだから」
レティシアの看病をしつつ、ミスティは溜め息まじりに言う。
「けれど【東チーム】は朔達の連勝もあって、勢いづいているわ。12点差、ね……」
ここで、前半戦終了を告げる審判の笛が鳴った。
キャンディスの声が、場内に響き渡る。
「あ、ここで、30秒間の休憩に入りマスネ。後半戦が楽しみデース……」