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リアクション
第二章:謎のブローカーを追え!!
まだ第一回戦が行われている頃、パワードスーツに着替えたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、今回の大会のブローカーであり、イルミンスールから薬の小瓶を盗んだという犯人を探して、蒼空学園の教室をパートナーのロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)と共にしらみ潰しに捜索していた。
まずは校長室に冷やかしに行った彼であったが、二人はどこかへ出払っていて留守であった。
「なんだかんだ言って、エリザベート校長は御神楽校長を信頼してるな。渋々とはいえ頼ってくるとは。喧嘩する程なんとやら、か。 シャンバラが東西に分かれたと言っても案外二人が東西をつなぎ止める要になるのかもしれないな」
エヴァルトがそう隣のロートラウトに言うも、彼女の興味は下で行われている武道会にあり、無視されてしまう。
「おい、聞いてるのか?」
「え? 何?」
「……何でもない」
「あ、そういえば作品……一応、騒動で壊されたって言えば、単位もらえるかなぁ? ボクらもトーナメントに出たかったなぁ」
「……俺の力作……ペットボトルを加工して形だけでも本物に近づけた1/10スケールのイコン……か、あれはこの前の虎のオブジェ騒動の時に潰されたんだよ」
ブンブンと頭を振ったエヴァルトがロートラウトに言う。
「ああ、もう! それはいい! いいか、まずはリングがよく見える教室をしらみ潰しに探す。 いなければ逆に見えない教室を探す。無線機や携帯での連絡をしているなら、盲点となる場所にいるはずだ! ブローカーがな!!」
「はーい、それで捕まえたら、その時ちょっと欠けちゃったボクの肩部装甲の修理費も払ってもらうんだよね」
「当たり前だ。只でさえ金欠なのに!」
ふと、エヴァルトがとある教室の前で足を止める。
ロートラウトにも制止を指示し、こっそり扉に耳を当てる。
「いやぁ、まさかとんちゃんが負けるなんてなぁ」
「俺も筍にゃんに今月の全小遣い投入したのにさぁ」
「君はオッズで一獲千金を狙いすぎだよ」
話し声を聞いていたエヴァルトがロートラウトに指示を送る。素早くロートラウトが教室の反対側の扉へ、スタンバイする。
これでブローカーがいれば逃げ道はないハズだ。
「よし!」
息を吸い込んだエヴァルトが、教室の扉に手をかけ、勢い良く開け放つ。
「おまえら! そこま……ムゴォッ!?」
エヴァルトの口を抑えたのは、教室内にいた三船 敬一(みふね・けいいち)である。
「やぁやぁ、ゴメンな! こいつ、俺のツレでさぁー」
三船が明るくそう言うと、顔面蒼白で振り返った生徒達はまたオッズが示されたモニターを見ながら談笑を開始する。
「おまえ……どういう……」
エヴァルトが抗議の声をあげようとすると、三船が先程までとはうって変わった真剣な表情で呟く。
「マルトリッツもブローカー追いかけてるんだろう? 俺もだよ」
「何?」
「俺は賭けをしに来た客として先に潜入してたんだ。ここで、ある一定の時間が経てば売上金を回収する生徒がいる。そいつを追うんだ」
パッとエヴァルトから手を離す三船。
「信じていいんだな?」
「もちろん。ここで騒いでみろ、核心に迫る計画がパーだぞ」
小声で話すエヴァルトと三船の前で、一人の生徒が教室に入ってくる。
「さて、胴元からの最新オッズが発表されました。皆さんモニターを御覧になり、どんどん賭けて下さいね」
生徒が笑顔でそう言うと、皆モニターを見ながら議論を始める。
「サンジェルマンとゆるアル人形のオッズは、2対3か、意外と渋いなぁ」
「俺はネンドオー戦に全財産かけるぜ!!」
その間に、大量の紙幣や金貨を回収した先程の生徒が教室を出て行く。
すかざすエヴァルトと三船もこっそりと教室を出て行く。
「上の階段を登っていったな……」
「急ごう!」
先程の生徒にスルーされるかの如く廊下の窓から試合を熱心に観ていたロートラウトを引きずりながら、エヴァルトは三船と共にその生徒の後を追い階段を駆け上がっていくのであった。
「何!?」
「チィ、しまった!!」
「わー、ピンチ!!」
階段を駆け上がった三船とエヴァルトとロートラウトの前には三体の虎の形をした工作がいた。
先程の声はそれを受けての三者三様の声である。
「あー、もう! つくづく俺って虎と相性悪いんだな!!」
臨戦体勢に入るエヴァルトを三船が止める。
「よせ! 工作は工作でしか倒せない、忘れたか?」
「……警備も万全かよ、どんな頭いいブローカーなんだよ!!」
「オレの回転力の前に敵は無い !」
ふと、声が聞こえたと思った次の瞬間、発熱回転しなか?ら突撃してきた物体が虎の工作を一斉になぎ払っていく。
やがて回転が止まると、大きな空き缶、小さな空き缶、台座、モーター、固形燃料、ザラメ(綿菓子材料) 等を組み合わせて製作された工作と、その背後に影野 陽太(かげの・ようた)が立っていた。
「なんとか間に合いましたね。俺の工作もなかなかのものでしょう?」
影野が笑顔を見せる。
「この工作は……?」
「綿菓子製造機です。よろしければご馳走します」
影野の甘い提案に飛びつこうとするロートラウトの首根っこを抑えるエヴァルト。それをチラリと見て三船が言う。
「影野もブローカーを?」
「はい。捜索や情報通信での情報収集をして、別の賭博会場を突き止めて潜入していたんですが、どうやらそこはダミーだったみたいなんです」
「ダミー?」
顎に手を当て、影野が目を瞑る。
「ええ、賭け事は行われていましたが、遊びのメダルを使っての事なのでそれ以上は聞き出せませんでした。犯人は周到な準備をしてこの大会に望んでいます……一体、何が目的なんでしょうね?」
「それはブローカーを捕まえればわかるさ……と、いけねぇ! さっきのヤツは!?」
三船が見ると、綿菓子に拘束された生徒が廊下に横たわっている。
「俺が捕まえておきました」
影野がピースサインを三船に送る。
「さて……それじゃあ、ブローカーの所へと案内してもらいましょうか?」
拘束された生徒がニヤリと笑う。
「俺ですよ。探偵さんがた?」
「何?」
「ブローカーは俺だって言ったんです。お生憎さま」
顔を見合わせる一同。
三船が詰め寄る。
「嘘だったらタダじゃすまさないぞ?」
「代替わりしたんだ。ついさっきな。だから俺が二代目ブローカーだ」
「……詳しく」
影野が詰め寄ると、生徒は皮肉たっぷりに言う。
「ふん、環菜の狗め……この大会を開いて初代をおびき寄せるつもりなんだろうが、それは既にあの人がお見通しなんだよ!」
狗……そう呼ばれてカッと頭に血が昇る影野であるが、冷静に交渉しようと怒りを咬み殺す。
「……あの人? あの人とは誰……」
「その前に、小瓶はどこだ!?」
三船が割って入る。
「小瓶? 俺は金以外のものなんて見たことがないね」
エヴァルトは影野によって駆逐された虎の工作を見つめていた。
「こいつら……どこかで見たことある気が……」
エヴァルトと三船、そして影野達が捕獲した生徒を問い詰めている頃、第一回戦が終了したリングの様子を窓から見ながら小瓶を盗んだ犯人を追うのは朱宮 満夜(あけみや・まよ)とミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)、東雲 いちる(しののめ・いちる)と長曽我部 元親(ちょうそかべ・もとちか)とエルセリア・シュマリエ(えるせりあ・しゅまりえ)たちであった。
元親の提案で、賭け事の客としてとある教室で行われていた賭けに参加し、ブローカーの正体を暴こうとしたいちるであったが……。
「くぁーッ!!! ふざけんな!! 何でスノーベイダーが負けるんだよぉぉっ!!」
「任せておきな!」と自信たっぷりで参加し、賭けに敗北した元親のちゃぶ台返しによって、その絶好の機会を逃していたのである。
当然、後処理としてその場に居合わせた生徒達から情報を得ようとはしたものの、予想以上のかん口令の効力なのか、誰一人として有効な情報を持つ者はいなかった。
トボトボと、胸にくまのぬいぐるみを抱えて歩くいちるにエルセリアが声をかける。
「そのくまを参戦させればよかったのに」
いちるがより強くくまを抱き抱える。
「こ、このくまさんは戦わせたりしないですよ〜。夏休みにおばあ様に教わって作ったんですから。そりゃあちょっと不格好ですけど……。戦って壊れたりしたら嫌ですから」
「まぁ形だけなら負けちゃいな……いや可愛いぜそのくま。ちょっと不格好なだけで...縫物苦手なんだもんな。いちるは」
元親程ではないにしろ、エルセリアもいくらか賭けで貴重な小遣いを失っている。そのためか、少し気が立っていた。
そんな三人の様子を見ながら、満夜が溜息をつく。
彼女はこういうトンデモ事件の背景には、いつものようにイルミンスールが関わってるのが気になり、毎度の尻拭い、もとい、事件を解決するため、冷静かつ地道に犯人を探索しようとしていた。
そして踏み込んだ教室でいちる達に出会い、行動を共にするようになったのである。
そんな学校長の尻拭いに奔走する満夜の尻拭いとしてミハエルはお供を申し出ていた。
大会の前に、満夜が自信あり気にミハエルに見せた工作がある。今、彼女が手にしている箒であり、名前は悪という名の地雷除去にちなんで『スイーパイズマイン』と言う。
いつかは購買の「魔法の箒」に頼らず空を飛べるようにと、イルミンスールの森に落ちていた枝や間伐材で作成し、普段は部屋掃除用であるこの箒に薬品をふりかけて作った箒戦闘要員である。
「これがあるから私は平気です」
そう笑顔で語った満夜を見てから、ミハエルの心中は穏やかな時など一切無かった。
「(賭け事に関わる人間にろくな奴はいないからな。 満夜を一人で野放しにすると、彼らの慰み者になりかねん)」
満夜も、ただ闇雲に捜索していたわけではない。大会の裏方を務める生徒の数名と密に連絡を取り、何か手がかりがないかを探っていたのだ。
しかし、情報と言えば、先程の一回戦で虎のような工作が相手を瞬殺しただけ、というもの位であった。
そしてこちらで掴んだ情報といえば、賭け事ごっこしてた生徒数名を通報した事位である。
特に目新しい情報もなく、途方に暮れていた彼らの前に、第二回戦の組み合わせの発表アナウンスが聞こえてくるのであった。
マイクを手にしたイチローが声高に第二回戦の組み合わせを読み上げている。
「えー、今手元に情報が来ました! 第二回戦の組み合わせは、レオVS拷問くん一号、ビートルVS萌えっ娘メイドエイミーちゃん、宦官ダムVSスーパースノーマン、イブニングムーンVSキャタピラASANOスペシャル、サンジェルマンVS騎凛セイカ人形、メタルノヴァVSクレイエル……以上、6試合が順次行われます!! 尚、カゲロー選手のプロトタイガーはシード枠なので、二回戦はお休みです!」
その頃、蒼空学園のさらに別の教室のすぐ傍の廊下で戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)と対峙するのは、神和 綺人(かんなぎ・あやと)、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)、神和 瀬織(かんなぎ・せお)たちであった。
「引け……引けば危害は加えるような事はしません」
鎖十手を構えた小次郎に、綺人が静かに口を開く。
「どいてください。あなたと戦う理由はないんです。僕らはエリザベート校長以外に、小瓶の薬を手に入れた人を洗っているだけなんですから」
「それで、ブローカーを捕まえる気でしょう? それは今はまださせられません」
綺人の前にクリスと瀬織が一歩進み出る。
「アヤ、お話で済ませられない場面だと思います」
「同感です。綺人、ここはわたくし達が……」
「駄目だよ! 二人共、早く小瓶を盗んだ犯人をを捜し出して校長達に突き出し、一緒に図画工作武道会見ようって言ったじゃないか! 怪我でもしたらどうするんだよ!」
綺人達の会話を聞いていた小次郎が指をパチンと鳴らすと教室から一人の生徒が顔を出す。
「例の物達を呼んで下さい」
「了解! 本当頼りになるなぁ、小次郎は」
パンパンと肩を叩かれた小次郎が一瞬、嫌そうな目をするのを綺人は見逃さなかった。
「あなたは……もしかして?」
「綺人、話は後です」
「え?」
綺人が振り向くと、「ガルル!」と唸るワイヤーで作られた虎の工作が三体、廊下の端から走ってくる。
「こいつらはブローカーの放った校内を警備する工作です。ここまでよく辿り着きましたが、これでチェックメイトですね」
小次郎が言うと、クリスがフンっとクレセントアックスを掲げる。
「こんな猫ちゃんくらい、私が!」
そう言って、則天去私で薙ぎ払う。
「え!? ……嘘、効いてない!?」
「工作は工作でしか倒せないか……綺人、今こそ夏休みの工作を……!!」
瀬織がバッと綺人を見るが、綺人はキョトンとした顔で、
「え? 宿題の工作? 水彩画だよ。実家の庭を描いたの……」
「……クリス!」
「私もアヤと同じで水彩画て?す。アヤのご実家の庭園ですよ?」
今度は瀬織を綺人とクリスがじーっと見つめる。
一つ咳払いをした瀬織が照れたように言う。
「……わたくしも水彩画ですよ。綺人のように上手く描けませんでした。……美術は苦手です」
「なーんだ! みんな同じだねー」
「本当ですね、フフフ……」
微笑みあう三人、笑っていないのは小次郎と三体の虎の工作である。
「ガルルーッ!!」
「「「逃げろぉぉぉぉぉー!!」」」
一目散に走りだす綺人達、それを追いかけて三体の虎が走っていく。
小次郎はそんな綺人達を見ながら、「許してくださいね」と呟くが、第二回戦の始まった校舎の外からの歓声で、その言葉はかき消されてしまうのであった。
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