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●ゆる族狂想曲

「マテや、こらぁ!!」
 南臣は叫んだ。
 幕が引けたあとも役が抜けず、軽ぅ〜く寄付金詐欺未遂金を謀るオットー
 後ろから追いかけるのは、藍澤ヴィナルドルフ、メサイアの四名。大きな騒ぎにならぬよう、相手の裏をかいて追い詰めていたが、少々、騒ぎが過ぎている。
 追いかける南臣は真剣だ。
 『真・キマクの闘技場』での1ターンキル&オーバーキルした恨みと、折角集めた、ろくりん基金を詐欺する鯉(オットー)を判官の能力で取り締り、メサイアに突き出す復讐に燃えている。
「OH! ミーにはこれが必要なのネ!」
「いい加減、役の世界から戻って来い!」
「ママぁ! 鯉が走ってるーー!」
 走り去ろうとしている南臣の側で貴族の子供が言った。
 南臣はくるりと振り返り、右ナナメ45度のナイスアングルで言う。
「タシガン貴族のキミが、そんな言葉遣いではイケナイよ☆(キラッ♪)」
 ちょっと意識して腰にクる声を出してみる。
 隣にいた母親らしい女性は恥らうような表情をした。
「まぁっ…(ちょっと可愛いですワ)…うちの子ったら…おほほほっ」
「いいえ、良いんですヨ……マダム」
 ちょっと薔薇背負ってる感じで言ってみた。
 だがしかし、南臣の甘い時も、次の瞬間でぶち壊される。
「あ、鯉が逃げたー」
「…なん…だとぅ!? では…」
 それだけ言うと、オットーを追いかけ始める。
「まったく…オットー殿はっ…!」
 すべてのトラブルもスマートにスピーディーに、華麗に解決しなければと思っていた藍澤は逃げるオットーを見据えて呟いた。
 薔薇学の名に恥じぬような会にする為、努力してきたというのに、今になって走り回る事態になるとは。
 騒ぎはあくまでエレガントに相手を素早く無力化が基本。
 藍澤はダッシュすると、オットーに迫り、容赦なく背中に正拳突きをした。
「ふっぐぉ!!」
 オットーはバタッと倒れた。
「少し気分の悪くなった方がいらしたようです」
 藍澤はいつもの如く、冷静な様子で言った。
 ただそれだけなのに、それがとても怖かった。

「それかわいいねー」
 三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)に言った。
 テディから借りた薔薇学制服で寛いでいる。
 のぞみは皆川 陽(みなかわ・よう)の知り合いで、沢渡 真言(さわたり・まこと)と一緒に招待されていた。
「似合うって言われても…陽の方が似合うと思うし」
 テディは言った。
 皆川は給仕はせず、彼女たちの相手をしていた。
「ご、ごめんね…テディ」
「陽は接待してるんだからいいんだよ」
「で、でもぉ…」
「座って彼女たちの相手をしてくれた方がいいし」
「うん…」
 陽は頷いた。
 そこに陽を発見したルシェールが椿とソルヴェーグを連れてやってきた。
「あ、陽君がいたっ!」
「ルシェール君…あ、椿ちゃんも」
「元気でしたか?ルシェール君」
 クロス・クロノス(くろす・くろのす)もやってきた。
「パーティーの時以来だね、クロスさん。俺は元気だよぅ」
「そう、良かったわ。あら、陽くんのお友達ですか?」
「は、はいですっ」
 ミツバ・グリーンヒル(みつば・ぐりーんひる)はぴょこんと立ち上がって挨拶した。
 テディとユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)を同い年ぐらいと思い、一生懸命話しかけていたのだが、他にもたくさん人が集まってきて緊張している。
「はじめまして、俺はルシェールだよぅ。あなたのお洋服可愛いね」
「あ、あのっ…テディさんの…真似で、す…」
「似合ってるよ」
「ありがとうございます」
 ルシェールに服を褒めてもらい、ミツバは照れて下を向いてしまう。
 そこに、妙に胡散臭く明るい調子の声が聞こえてくる。
「秘蔵の薔薇学グッズはいかがアルか〜? レアものアルよー」
 妖しいものを売るマルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)
「ユーリね、オペラのあとのごはんとお菓子が楽しみなんだけど、それって、お菓子のオマケなの?」
「お? 買ってくれるアルか?」
「ちょっ、ちょっと待って! あのね、ここのご飯とお菓子にオマケはつかないよ?」
 ルシェールはユーリエンテに言った。
「お子様ランチとは違うんだけどなあ」
「ユーリエンテ、お子様ランチってしらなーい」
「あのね、オマケついてるんだよ?」
「えー、いいなあ! たべたーい」
「こ、ここにはないから」
 自分より小さい子の相手が初めてらしいルシェールは、マルクスから引き離そうとユーリエンテをむぎゅ〜っと抱きしめた。
「買うのか、買わないのか、どっちにするアル? 残り少な…」
「だっ、ダメぇ! そーゆー売り方するときって、在庫があるときだよっ!」
 ルシェール、なかなかに鋭い。
「むう…」
「あ、こんなところに居やがったなっ!」
 学園外部の客人を避け、北条 御影(ほうじょう・みかげ)豊臣 秀吉(とよとみ・ひでよし)はマルクスをとっちめようと小走りにたってきた。
 羽目をはずし過ぎて薔薇の学舎の評判を落としそうな人が居たり、不審な行動を取る人がいたら注意したりと、北条は一所懸命警備の仕事をしてきた。
 注意を呼びかけたり、何かで困っている人が居たら進んで手助けしたり。
 良識と節度を持って見回り警備活動に従事してきたのに、それを邪魔する存在の一番は、【自分のパートナー】だったのである。
「しまったアル!」
「学舎の品位を下げるようなマネはするな、このバカ!」
「下げてないアルよ」

「下げてると思う…」(ルシェール:談)
「俺も同意だ」(北条:談)

「嘘吐くな、ヴァカ! 普段からテロだの、何だのでどんなに問題が多かろうとも、貴賓や他校生が来る以上は、事故も不祥事も絶対に起こさせたくないとか。何としても平穏無事な催しにしないとなーとか。…一番心配なのが、自分のパートナー共だって事が頭の痛い現実なんだとか!」
「めっちゃ、独白ってゆーか、心の声がダダ漏れアルよ〜」
「言わせてるのはおまえらだ」
「と、殿ッ! わしは何もしておりませんですじゃ」
 秀吉は言い返した。
 もちろん、昔の人物ではなく。英霊で、分霊の、サルな秀吉だ。
「どっちもなんだよ」
「稼げる時に稼がないと生きていけないアルよ〜」
「そんなぐらいで生きていけないなら日干しになれ! 生きていてごめんなさいと言うまでボコにされたいのか、お ま え はっ!」
「まだ生きていたいアルよ〜。それじゃぁ、みなさん。さよーぉならアルー」
 マルクスは逃げはじめ、オットーが逃げた方向へと走っていった。
「待てっ!」
 北条と秀吉もその後を追いかける。
「じゃぁ、僕も追っかけるよ。陽は待っててくれな!」
 それだけ言うとテディも追いかけた。
「あ、待って〜、俺も行くよー!」
 ルシェールも追いかけた。
 そこをケンカしながら歩いてくる、神代明日香、百千万億 真綾。お菓子を抱えた、エリザベート。
「だから、エリザベートちゃんはこっちのお菓子のほうが好きなんですぅ」
「だって、昨日はこっち食べてたですぉ」
「あ〜も〜、どっちだっていいですぅ…あ、ハロウィンのオバケですぅ」
 エリザベートは骨右衛門を指差した。
「わーーい! へんなやつ、まてぇ!」
「にいさまぁ! いじめちゃイヤよー」
 背中に籠を背負った骨骨を追い掛け回す、貴族の子供たち。籠の中にはお菓子がたくさん入っている。
 賑やかなパーティーの中、子供たちは走り回り、お菓子を投げた。
「えーい! お菓子だぞー!」
「わぁーたすけてくれーでござるー!」
 子供たちに追いかけられる骨右衛門はどこか楽しそうだった。
「オットー、待て!」
「ミーは捕まるわけにはいかないのネ」
「だから、もういい!」
「南臣さん、廊下に追い込んでください」
「合点承知!」
 逃げるオットーたちと追い回す生徒たち、その後を走る骨右衛門と貴族の子供。
 それを見て、貴族たちは何かの余興だと思い、気にせず、逆に微笑んでいた。
「御用だぜ、オットー!」
「ミーは永遠に不滅なのネ〜」
 乱痴気騒ぎのパレードは立食パーティー会場内を練り歩いた後、見事、藍澤の華麗なる立ち振る舞いにて幕を閉じた。