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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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    ★    ★    ★
 
「これとこれとこれをじゃなあ、買ってくれ」
「ちょっと待って、支払いは俺かぁ!」
「当然じゃろう」
「まあまあまあ、仲良しさんですねえ」
「違ーう!!」
 三度、二人は声を揃えて叫んだ。
「うーん、何やら、今日の購買は騒がしいな」
 騒がしいアキラ・セイルーンたちを横目で見ながら、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はイルミンスール魔法学校の購買で、冬の日用品を注文していた。世界樹の中は季節による寒暖の差は極端ではないものの、外の気候は結構厳しい。特に、冒険屋各地の調査に出ていくことの多いイルミンスール魔法学校の生徒としては、冬支度は大切な行事だ。
「エイボンは何かほしい物はあるか?」
「うーんっと、トマト……」
 本郷涼介が注文していったリストをチラリと見て、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が言った。
「なんでトマト?」
 不思議そうに、本郷涼介が聞き返す。
「だって、さっきの買い物、今日のお夕飯も含まれているのでしょう? その食材でしたら、お夕飯はずばり、ロールキャベツだと思います」
「おお、大正解だ」
 よく分かったなと、本郷涼介がエイボン著『エイボンの書』の頭をなでなでしてやる。
「えへへ。だったら、わたくしはトマトソースのが食べたいのですわ」
「いいだろう、作ってやるぞ」
 そう言って、本郷涼介は後で取りに来る物のリストにトマトを書き加えた。
「食事した後にもらいに来るので、それまでに揃えておいてくれ。さて、行こうか、エイボン」
 購買のおばちゃんに頼むと、本郷涼介たちは、お昼御飯を食べにむかった。
 
    ★    ★    ★
 
「いらっしゃいませ、御主人様。御注文はなんでございましょう」
「な、なんで、あなたがここにいるんですか!?」
 お昼を食べようと宿り木に果実に入った本郷涼介たちは、いきなり注文を取りにきたココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)に面食らって訊ねた。
「それがさあ、マサラとリンが無茶食いしやがってさあ。あまつさえ、珍しくペコが財布を落とすという……」
 がっくりと肩を落としながら、ココ・カンパーニュがいつもの調子で答えた。
「面目ない」
 すまなそうに、そばにいたペコ・フラワリーが頭を下げる。
「そうだよなあ。まったく」
「あなたが言うな!」
 尻馬に乗っかったマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)を、ペコ・フラワリーが、ガツンと頭の上から殴って黙らせた。
「まあ、運悪く、私の手持ちじゃ足りなくて。一応リンにお金取りに行かせたんだけど、帰ってこないし。――というわけで、臨時バイトなんですぅ、御主人様あ♪」
「ははあ、そうですか……」
 いきなり営業スマイルとひっくり返ったキャンディボイスに切り替えられて、本郷涼介が腰を引きながら答えた。すっごくかわいいけれど、地を知っているだけに、あまり素直に喜べない。それと、見たところ、こういうときに頼りになりそうなチャイ・セイロンとアルディミアク・ミトゥナの姿がなかった。
「では、特性ブレンドと、ミルクココアですね。かしこまりましたぁ、御主人様ぁ」
 注文を取ったココ・カンパーニュが、きゃぴきゃぴとカウンターに戻っていく。
「あらまあ〜。なんだか、とんでもないときに来ちゃったみたいですぅ……」(V)
 お昼を食べに来ていた神代明日香が、ちょっと引きつりながら言った。
「アイス、おかわりしてもいいですか?」
 そんなことには構わず、ノルニル『運命の書』が神代明日香に聞いた。
「いいわよ」
「わーい」
 ニコニコしながら、ノルニル『運命の書』が歓声をあげる。
「おかわりですー」
「はーい」
 ノルニル『運命の書』が手を挙げたので、マサラ・アッサムがパタパタと注文を取りに走っていった。
「それにしても、この間の料理勝負は、思わず高評価をもらえたな。私としても鼻が高いよ」
 修学旅行のアンケート用紙に記入しながら、本郷涼介がエイボン著『エイボンの書』に言った。
「あのときはお料理がうまくできましたし、何より、皆様が美味しそうに食べてくれたのがすごく嬉しかったですわ」
 ニッコリとエイボン著『エイボンの書』が本郷涼介に答えた。
 そこへ、小ババ様を連れたアルディミアク・ミトゥナと、チャイ・セイロンがやってきた。
「あらまあ」
 本郷涼介の姿を見つけたチャイ・セイロンが、軽く会釈する。
「いい所へやってきた。シェリル、お金持ってない?」
 助かったとばかりにココ・カンパーニュが、アルディミアク・ミトゥナに泣きついた。
「えっ、持ち合わせならありますけれど……?」
「助かったあ」
 ココ・カンパーニュに引っぱられて、アルディミアク・ミトゥナはミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)に足りないお金を支払いに行った。
「それでリーダー、ちょっと面白い話を小耳に挟んだのですけれどお」
 チャイ・セイロンが、彷徨える島の話をココ・カンパーニュにした。
「それは面白そうだなあ。ジャワが戻ってきたらみんなで行ってみようか」
 ココ・カンパーニュが興味を示す。
「でしたら、私はちょっと準備したいことがあるのですが、いいでしょうか」
「こばー」
 初めて見る小ババ様の姿に、ココ・カンパーニュが一瞬身構えたが、さすがにあのメカ小ババ様とはかわいさが違う。
「まあ、こちらもいろいろと入り用があるから、それまでここでバイトでもするかあ。すぐに戻ってくるんだろう?」
「ええ、もちろん」
 ココ・カンパーニュの言葉に、アルディミアク・ミトゥナが約束した。
「リーダーも大人になりましたね。以前だったら、絶対についていくと騒いだのに」
 ペコ・フラワリーがちょっと苦笑する。
「私は、日々成長してるんだよ」
 そう言って、ココ・カンパーニュが胸を張った。
「私も、彷徨える島の伝説には興味があります。ちゃんと準備して行きましょう」
 ペコ・フラワリーが言う。
「ああ。準備は怠りなく。買う物は買う。稼ぐ物は稼ぐ。というわけで――いらっしゃいませー、御主人様ー♪」
 そう言うと、ココ・カンパーニュは新たに店に入ってきたお客の方へと駆けだしていった。
「なんだか、今日はいつもと雰囲気が違いますね……」
「きっとサービスデーなのですら」
 いきなりココ・カンパーニュに迎えられて戸惑う大神 御嶽(おおがみ・うたき)キネコ・マネー(きねこ・まねー)が脳天気に答えた。