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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

リアクション





07:オーディション セッション式だと 知ってたら(その3)




 そして10分少々たってからオーディションが再開された。ステージにあいた穴は大きなベニヤ板で塞がれておりパフォーマーが怪我する心配はない
「さて、それではそろそろ再開したいと思います。次のヴォーカルは牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)さんです。
 白ゴスの天使の衣装と蒼と白のレッグウォーマーを着て光る箒で空中から登場する。
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の<空飛ぶ魔法↑↑>で軟着陸。
 ナコトと一緒にダンスをしながら<幸せの歌>を歌いアピールする。
 イコンとも生身で渡り合えるほどにアルコリアの魔力が高いので、皆ノリノリである。
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)もメモリープロジェクターで舞い散る桜や草原など様々な演出を行う。さながらそこは劇場であった。
 <空飛ぶ魔法↑↑>で観客席も飛び回りながらアピールする。パンツが見えるが見せパンなので気にしない。カメラ小僧達は慌てて空に向けてシャッターをきる。
 そして演奏が終わると、一旦一礼をして、妖しく微笑んでからそのまま空を飛んで帰っていった。

「はい、ありがとうございました。ハッピーですねー。でもいいのかなー、スキル使っちゃって。まあいいや。幸せなので。では、続きましてはヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)さんです」

 ステージ袖――
「ヨーさん、お水ッス。頑張ってくださいッス」
「ありがとう、サっちゃん」
 パートナーのサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)がヨーフィアに水を持ってくる。それを飲んでからステージに出るヨーフィア。
「おおおおおおおおおおおおおおおお」
 観客席(主に男性)から歓声が沸いた。
 それもそのはず。ほとんど半裸の踊り子衣装だったからである。
 曲が始まるとヨーフィアは情熱的なレゲエで観客席を魅了する。
 そして曲の後半に入ると一転して転調。日本舞踊風の曲と踊りで静と動の対比を生み出す。
 歌はバンドは使わずフレイも歌わずヨーフィアのアカペラのみ。響く声が客に魅せる。
 そして、歌が終わると、投げキッスをしながら去っていく。
 それに観客席はまた湧いた。
 リンダなどハァハァしながらヨダレを垂らしているほどである。

「いやー、蠱惑的でしたね。さて、それでは次に行きましょう。次は御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)さんです」
 千代は半脱ぎ遊女コスで登場すると、教導団の観客から熱い声援を浴びた。
「本来私は、教導団でも異色の不戦派急先鋒な立ち位置なので、好戦的なことは好みません。
 しかしながら止められない戦いがあるのならば、可能な限り犠牲者を出さないことをテーマとし、歌を歌わせていただきます。
 さて、オーディション歌のタイトルは「帰るべき処」。この歌は戦いで死に急いだり、無茶をしたり、功を焦るパイロット達に、帰るべく処、そして帰りを待っている人がいることを語りかけることで、平静な気持ちになっていただけるようにする歌詞&メロディで構成されております。最終的には「歌」で戦いが回避できるようになるレベルの歌姫を目指し今日も頑張りますわ!」
 秋葉原四十八華星の一人としてもソロデビューを狙っている。
「で、もし千代が合格しちゃったらあたしがイコン操縦するわけか。大丈夫かよ、マジで」
 バーバラキア・ロックブーケ(ばーばらきあ・ろっくぶーけ)はそうつぶやきながら舞台袖で千代のアピールを見守っている。
 一応御空と紫音の事前レッスンにも参加しているが不安で不安でしかたがなかった。
 さて、千代だが大人の女の魅力を余すことなく発揮して観客席を魅了している。
 しっとりとしたバラード系の歌だが、戦うものの心に確実に響いていた。
 そしてアピールが終わると静かに一例をして袖に引っ込む。
「ありがとうございました。大人の色香ですねえ……癒されますねえ……さてどんどん行きましょうつぎは赤城 花音(あかぎ・かのん)さんです」

 ――出番のしばらく前
「花音、僕が用意した飲み物と食べ物以外口にしてはいけませんよ……」
 リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が花音にそう耳打ちしている。
「リュート、さすがにそれはみんなに失礼だよ……」
「まあ、何事も無く無事に終わればいいのです。皆さん、自分の音楽表現に懸命だと思いますがね……」
「……うん。それにしてもみんなすごいね。大丈夫かな?」
「自分の音楽に専念なさい。歌で希望を灯すのでしょう?」
「うん。そうだね」

 と、舞台からアポロンの声が聞こえてきた。
「次は、赤城 花音さんです!」
 そして花音はオレンジ基調のブレザーとキュロットスカートでステージに立つ。
「私は歌でみんなの心に希望の灯を灯すのが願いです。それじゃ、歌は『楽園』! いくよー!」

君の願いが翼になる つなぐ手と手で高く飛べるよ
混迷の時代に僕らは出会った 生まれた意味を探してた
悪戯な運命に 勇気で踏み出そう 
託された希望 眠る記憶の誇りを呼び覚まして

あの日…思い描いた景色 見守る真夏の陽射し
誰もが幼い頃は純粋 汚れを知らない心

暗闇の中で 僕らは楽園に想いを馳せる 
何時か叶える夢 たどり着ける約束の場所
共に生きる喜びを 咲き誇る笑顔の花
響きあう歌声は 優しさに包まれて 今 羽ばたく

澄みわたる未来 歩き始める世界へ…

 花音の歌が終わると拍手があふれた。
「希望に溢れているいい歌でした。さてフレイにこれまでの感想を聞いてみましょうかねー?」
 アポロンが振るとフレイは
「どれも甲乙つけがたしですね。誰を選ぶかは、難しい作業になりそうです」
「たしかにそうですねー。でもちゃんと採点しててよ? それじゃあ、次はエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)さんです」
「あまり歌が得意ではないですが、知ってる子守歌を歌います。せめて会場の皆さんに心地よく聞いてもらえたらな……と思います」
 エルノはそう言うと声変わりしていない少年の柔らかなソプラノで子守唄を歌い始めた。
 
 ……Lay Lay Lay Lay Lay Lay
 ……Lay Lay Lay Lay Lay Lay

 静かに、締めくくられる。
 静かな拍手。
「いやー、またもや男の娘のにおいがしますが素晴らしい歌でした。さて、それでは次はシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)さんです」

 ――楽屋
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)はシフにジリジリと迫っていた。
「さあ、シフ。これを着るんだよー」
「ちょ……ミネシア……この衣装は……」
「だめだよー。アイドルになるんだからー。可愛い服を着なきゃだめだよー」
 そう言ってミネシアが差し出したのはスカイブルーの可愛らしいワンピース。ノースリーブ、ミニのフレアスカートにフリルがあしらわれているものだった。
「だめだよー! シフも女の子らしい格好しないとさ。それに女の子の憧れなんだよ、アイドルって。ちゃんとソレっぽい格好してかなきゃ!」
「くっ……わ、わかりました! 目指すはアイドル……ですものね、格好もそれらしい物で……」
 観念してシフは着替える。
 そして呼び出し。
「この格好……やっぱり恥ずかしい、ですけど……でも、こんな女の子らしい服を着るのは初めてかもしれませんね」
「ほらほらー、観念していくんだよー」
「わかってます」
 そしてシフはステージに上がった。
 恥ずかしそうにしながらも、精一杯の笑顔で客席に語りかける。
「歌に想いを乗せて、敵・味方分け隔てなく心に響かせるように。そんなアイドルを目指して頑張りたいと思います。常に全力で、自分のベストを尽くしていきますので……よろしくお願いします」
 そして演奏が始まる。
 
 アイドルらしいアップテンポの歌が歌われて会場の雰囲気をまとめる。
 そして演奏が終わると拍手が起きて、一礼してシフは退場していく。

「はい、ありがとうございました。次はオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)さんです」
「得意なジャンルはゴスペルやアカペラですが、きっとポップスやロックも歌えると思います!
 ゴスペルの起源を皆様はご存じでしょうか?
 黒人が自分たちを人間として・人格として扱ってくださる主なる神様に、感謝や喜びの気持ちを歌にして表現した「魂の叫び・祈りの歌」というのが始まりです。
 皆様にゴスペル(福音)を届けられればと思いますのでよろしくお願いしますのです!」
 
 そしてオルフェリアにあわせて楽器のメンバーがバックコーラスを始める。
 ゴスペルが、始まった。
 そんなオルフェリアを見つめる影が一つ。
 夕夜 御影(ゆうや・みかげ)であった。
(ご主人と一緒に、イコンの操縦をするにゃー)
 彼女にはオルフェリア合格後のヴィジョンだけがあった。

(戦ったら人を殺す、戦わなかったら仲間が死んだ。どうすればいいのかわからない……私は行き詰まりだ)
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は沈んだ顔をしながら客席にいた。
 だが、オルフェリアのゴスペルを聞いているうちにだんだん力が出始めてきた。
 これが福音なのだろうか……
(皆様は自分にできることを成し続けるのですね……)
 自分が殺した兄妹のドッグタグを握りしめる。
(決めました……)
 オリガは静かに席をたって会場を後にする。
 オリガは教官たちが集まっている部屋に行く。
 そこには、このドッグタグをくれた教官もいた。
「教官……」
「カラーシュニコフか……どうした?」
「パイロット以外にも戦う方法、人を助ける方法はありますし、私は戦うことに、殺すことに、仲間が死ぬことに、慣れることは今でもできません。でも…………負うべき自分自身の重荷を私は知りましたから」
「ガラテヤ人への手紙か……兄弟たちよ。もしもある人が罪過に陥っていることがわかったなら、霊の人であるあなたがたは、柔和な心をもって、その人を正しなさい。
 それと同時に、もしか自分自身も誘惑に陥ることがありはしないかと、反省しなさい。互に重荷を負い合いなさい。
 そうすれば、あなたがたはキリストの律法を全うするであろう。もしある人が、事実そうでないのに、自分が何か偉い者であるように思っているとすれば、その人は自分を欺いているのである。ひとりびとり、自分の行いを検討してみるがよい。
 そうすれば、自分だけには誇ることができても、ほかの人には誇れなくなるであろう。人はそれぞれ、自分自身の重荷を負うべきである……だったな」
「はい。私は重荷を背負います。オリガ・カラーシュニコフはイコンパイロットになります」
「……やっと吹っ切れたか」
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)がそこにいた。
「景勝さん……」
「はーい。景勝ちゃんだよん。なんとなく後をつけてみたんだがね、オリガちゃんが吹っ切れて良かったよ」
「わたくし……」
「おっと、多くは語らなくてOK。ただ覚えておいて欲しいのは戦士への鎮魂歌は戦場でしか歌えないってことだ」
「それは……」
「あいつだって望んで戦場に出たんだ。あいつの霊を慰めるためには、俺達が戦って戦争がない世界をつくるしかないんだぜ」
「戦争がない世界……」
「そうだ。ほんの十年か二十年の平和でも世界は良い方向に変わる。永遠ならざる平和のために、俺達は銃を取るんだ」
「永遠ならざる平和……そうですわね。永遠の平和なんてありませんでした。でも、次の世代のために、平和な世界を作るのも今を生きるわたくし達の勤めですわね」
「そういうこと。さ、会場に戻ろう。そして歌を聞こう。戦いの歌を。平和の歌を……」
「はい!」
 そうしてオリガと景勝は会場へと戻っていった。

 ジラエル・フランベルジュ(じらえる・ふらんべるじゅ)はパートナーの鷺ノ宮 麗(さぎのみや・れい)を励ましていた。
「大丈夫です。あなたの全力を出し切るんです」
 ジラエルは麗がこの企画に参加するに当たり全面的に賛同していた。
 そのため食べ物や飲み物を差し出したりメイクの手伝いといったことを行う。
 麗は白いシンプルなデザインのワンピースに白いブーツ。化粧も最低限だった。
「それでは、次は鷺ノ宮 麗さんです!」
 アポロンの呼び出しが聞こえる。
「頑張ってください、麗」
「うん」
 麗は頷くとステージへ上がっていった。
「皆様はじめまして、【女性ヴォーカル部門】参加者、天御柱学院中等部2年パイロット科鷺ノ宮麗と申します。
 このオーディションに参加した理由はただ一つ、地球とパラミタ、双方の力になりたいからです!
 歌の力というものは素晴らしいです。世界の境も種族の壁も越えることができます。
 しかし、歌うだけでは解決できないこともあります。その時戦うだけの力が必要です。
 私には歌と戦う力、両方があります。この思いを世界に響かせたいのです。是非私に投票して下さい!宜しくお願いします」
 そして演奏が始まり麗は一生懸命に歌う。そのころ舞台裏では珍騒動が起きていた。

「だから僕達をバックダンサーとして雇わないかと言っているんだよ」
 それは長羽 陣助(ながばね・じんすけ)とパートナーの石屋 達明(いしや・たつあき)だった。
「だからこのプロジェクトはイコンでの戦闘を前提としているのでバックダンサーというものがそもそも考えてないんです」
 アポロンが必死に説得する。
「だったらイコンでバックダンスをすればいいだろう?」
「それはおいおい考えますが今回はバックダンサーは募集していません。今回のところはお引き取り願えませんか?」
「陣助、いいんだ……行こう」
「達明……いいのか?」
「ああ。どうせオレの踊りはコメディアン向けだ」
「そうか。ならいいんだ……すまなかった」
 頭を下げると二人は立ち去っていった。背中が寂しげである。
 そして麗の歌が終わろうとしていた。
「ああ、行かなきゃ!」
 アポロンは舞台に上がる。
「はい、ありがとうございました。次は――」