薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

Trick and Treat!

リアクション公開中!

Trick and Treat!
Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat!

リアクション



26.はろうぃん・いん・ざ・あとりえ。そのじゅうなな*パーティのあとに。


 ハロウィンが終わり、後片付けを手伝ってくれていた数人も帰ると。
 そこに残ったのは、静寂。
「祭りの後に似た寂しさがあるね……」
 従業員だから! と、帰るように促すリンスの申し入れを断って、茅野瀬 衿栖は片付けを手伝っていた。
 リンスはただ黙々と片付けているけど、何を思っているのだろうか。
 寂しい?
 それとも、静かになってほっとしている?
 前者でも後者でも、嫌だなあ、と衿栖は思う。
「ねえ、リンスてんちょー? 聞いてる?」
「うん、聞こえてる」
「聞いてると聞こえてるじゃ意味全然違うじゃない、もう……」
 飾り付けも取って、床やテーブルの掃除もして。
 明日からまた、人形作りや販売もできるように整えて。
 一息ついた。
「あーあ、ハロウィン仕様の人形欲しかったなー……」
 自分が買う用に、一体確保しておいたのだが。
 売り切れを知って、泣き出した子供にそれを譲ってしまったのだ。
 可愛かった。
 欲しかった。
 だけど、諦めた。
 ――従業員なんだから、二の次二の次。
 ちょっと悲しいけれど。
「茅野瀬」
「なにー?」
「ほら」
「……へ?」
 素っ頓狂な声が出た。
 だって、差し出されたのは欲しがっていたハロウィン仕様の人形。
 もらえるの? という思いより先に、
「なんで売らなかったの!?」
 ――完売して、がっかりしながら帰って行くお客さんだって居たのに!
「だってそれ試作だから。試作品売りたくないし」
「試作ぅ……?」
 どこがどう、試作なのか。
 売っていてもおかしくない出来じゃないか。
「いいからもらっとけば。要らなきゃ孤児院にでも寄付するけど」
「もらうもらう。もらいます」
 慌ててがばっと人形を抱き、自分のものだとアピールしてやる。
 すると、リンスが少し笑ったように見えた。
 ……意地悪く。
「課題だから」
「……は?」
 二度目の、素っ頓狂な声。
「俺が試作で作ったその人形を超える人形を作ってくること」
「な……」
「期限は特になし。その代わり俺から突然の打ち切りあり」
「によそれー! か、勝手じゃない!?」
「じゃ、いつまでも人形作れなくていいんだ?」
「……う……」
 意地悪な言い方だけど。
 勝手な言い分だけど。
 だけど、それは。
 ぽんぽん、とレオンがエリスの頭を撫でた。
「……わかってるわよぅ」
 ただそれを、素直に認めたくないだけ。
「あーあ。もう。やだなー」
 課題が、じゃなくて。
 こんな気分で居る自分が。
 だから、さくっと気分を入れ替える!
 ビシィとリンスに指を突き付け、
「顔を洗って待ってなさいよ! こんな課題、ちゃちゃっと終わらせちゃうから!
 その代わり、それまで工房お手伝いのお仕事、お休みもらうからね!」
「ねえ茅野瀬、洗うのは、首」
「あげ足取らないーっ! ほら、レオン、行こうっ! クロエちゃんまたねっ!」
「ばいばーい!」
 陳列棚の低いところの掃除をしていたクロエに手を振って、工房を出る。
 ハッパをかけられた。
 そしてそれに乗った。
 だったらやるだけ、やってやる。


 衿栖が去ってから、リンスはそれに気付いた。
 見慣れぬお弁当箱が、机の上に置いてあることに。
 ――ああ、そういえば、病院で約束したような。
 退院したら、栄養のあるお弁当を作ってあげるとか、なんとか。
 普通に渡していけばいいものを、どうしてこういう渡し方をするのか。
 謎ではあったが、心遣いは単純に嬉しい。
「あ、でも」
 ――お弁当箱、いつ返そう?
 あの挑発にも似た言葉を受けた衿栖としては、課題をクリアするまでは工房に来ないだろう。
 レオンが一人で来ることも考えづらいし。
 ――ま。それまで預かっておきますか。
 いつ食べようかなあ、なんてぼんやり考えつつ。
 人の居なくなって、広くなった工房で、椅子に座って背伸びをした。


*...***...*


「……ん……」
 志位 大地が目を覚ますと、見慣れぬ天井がそこにあった。
 そして横を向くと、
「――っっ!!!?」
 ティエリーティア・シュルツの寝顔。
 とはいえ、一緒に寝ているわけではない。大地が寝ているベッドに、ティエリーティアが頭を乗せて眠っているだけだ。
 身体を起こすと、床にころんと丸まって、シーラ・カンスが「いけませんわぁ〜……」と寝言を言っていた。この部屋に、大地とティエリーティアのツーショットを撮りに来て、そのまま騒ぎの疲れに襲われ眠ってしまった……という感じだろうか。
 そう考えていたら、何があって自分がここで寝ているのかに思い至った。
 ――ティエルさんの手作りスイーツを食べて、卒倒したんでしたっけ……ということは、リンスくんのベッド、ですかね?
 スプリングがギシギシ悲鳴をあげる、あまり上等ではないベッドから立ち上がり。
 風邪を引かないようにと、ティエリーティアに掛け布団を掛けてやる。
「ぅにゃ……?」
 その感触に、ティエリーティアは声を上げる。が、起きなかった。
 ――可愛い、ですねえ。
 柔らかそうな頬にかかる金糸の髪。白い肌に影を落とす長い睫毛。少しだらしなく開いている口元。
 安心して眠っている。そんな表情。
 しばらく寝顔を堪能してから、ハッとした。
 ――俺は今、どれくらいこうしていたのでしょう?
 なんとはなしに、ベッドに触れる。……今まで横になっていたはずのベッドが冷たくなる程度には、見惚れていたようだ。
 いつまでもそう、ティエリーティアの寝顔に見惚れているのも無礼な気がしたし、家主不在の部屋に留まり続けるのも申し訳ない。それに、ハロウィンパーティで騒がせてもらったことの礼も言いたかったしと。
 床で眠るシーラにも、ブランケットを掛けてから。
 リンスを探しに、部屋を出る。
 しかし、工房に出たら出たで、
「……おや」
 騒ぎ疲れたのか、リンスも寝ていて。
 どうしたものか、と苦笑い。
 ――ティエルさん一人、置いて帰るわけにもいきませんし。シーラさんも居ますし。
 それに、リンスにだって挨拶してから帰りたい。
 ――とりあえず、風邪を引かないように何か掛けるもの、ですね。
 もう一度部屋に戻るが、ブランケットは二人に使っており、かけられるものがない。
 大地はしばし考え、自分の上着を脱いでリンスの肩に掛けた。まあ、ないよりはマシだろう。
 クロエは、外で遊んでいるのだろうか? それとも、一度また『還った』のだろうか。
 定かではないが、工房はとても静かだ。
 静けさの中、大地はリンスの眠るテーブルの近くに椅子を引いて、自分の荷物から読みかけの小説を取り出し読み始める。
 カチ、カチ、カチ、と時計の秒針の進む音と。
 工房の外、木々を風が揺らす音と。
 どこか遠くで、パトカーだろうか、サイレンが鳴っている音と。
 すぐ近くから聞こえる、小さな寝息。
 緩やかに、ただ緩やかに、流れていく時間。
 読みかけの本を読み終えて、顔を上げる。
 そして、工房の中がすっかり暗くなったことと、誰ひとり起きてこないことに苦笑して。
 ――そろそろ、起こして回りましょうか。
 あまり長く寝ても、夜眠れなくなってしまうし。
「ティエルさん、シーラさん」
 声を掛けに、部屋に入る。
「ティエルさ……」
 窓から入る月明かりを受けて、いっそ神秘的なまでの美しさの彼女を見て。
 時間が止まったのではないかと錯覚するほど。
 見惚れてしまった。
 さっきより。さっき以上に。
 触ってみたい。
 やましい気持ちなど欠片も入る余地がないほど、素直にそう思い。
 そ、っと頬に手を伸ばしてみる。
 瞬間。
「……志位?」
 寝惚けたような、ぼんやりとしたリンスの声。
 驚きにびくりと肩が震え、ティエリーティアへと伸ばした指先が、固まる。
「…………」
「……あ、いえ、あの。俺はですね、ティエルさんを起こそうと」
「わー、やらしー」
「やらしいって、ええ!?」
「むにゃ……? 大地さぁん……?」
 騒ぎが夢の世界にまで届いたのだろうか、ティエリーティアが目を覚ます。
 そして、無防備な笑顔を向けるのだ。
 大地がどんな想いをしていたか、とか。
 工房でどんな騒ぎがあったか、とか。
 まったく知らない、無邪気な笑顔を。
 大地とリンスは、顔を見合わせ苦笑する。
 敵わないなぁと苦笑する。
「?? どうしてふたりとも、笑ってるんですかー? 何か楽しいことがあったんですか?」
「うん」
「とても、素敵なことでしたよ」


*...***...*


 そういうわけで。
 波乱含みのハロウィンは、幕を閉じました。
 とはいえ、10月31日は、零時になって日が変わるまで、続きます。
 仮装行列に来れなかった人も、あるいはホームパーティをしているのかもしれません。
 とりっくおあとりーと。
 はっぴーはろうぃん。
 笑顔になれる、魔法の言葉を口にして。
 甘い甘い、お菓子と言葉に頬を緩めて。

 Happy Halloween!!


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいははじめまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 今回、参加者様の4割以上、60余名が工房に集まったので、わたしは「ああ、工房床抜けないかなあ。リンスくん、人混み苦手とか言いつつ、こういうのは平気なんだなあ。わたしみたいだなあ」という感想を抱きながら執筆しました。
 どうでもいいですか? はい。すみません。

 内容について。
 相変わらず長いです。
 前回よりも人数少ないのに、前回の文字数を越しました。どういうことなの……。
 そして、ページ分けもそろそろひどいことになってきてます。
 もしも今後100人シナリオとかやることがあれば、もう目次作った方がいいですね、きっと。うん。

 ハロウィンというイベントは、日本ではあまりメジャーではないのでしょうか。
 わたしには、ハロウィンの記憶はありません。キャロリングならあるんですけどね。讃美歌歌ってお祈りするからからお菓子頂戴! って。
 それに似てるのかなーと思うと、楽しそうだなーと思います。でもやらないんだよなあ。機会がない。一度、やってみたいものです。

 ……あ、いや、思いだしました。都内某所の下着屋さんに行った時、柱の陰にこっそりとメッセージがあったんですよ。
『秘密の言葉。店員さんに、トリックオアトリートと言ってみて!』
 確かそんな文章でした。
 で、レジでそう言ったら、飴玉をもらいました。美味しかったです。
 でもなんか、ちょっと、恥ずかしかったです。
 店員のお姉さんに笑われました。可愛かったなあ。

 おっと。だいぶ脱線していますね。そして長いですね。何文字書くつもりなんでしょうね。
 そうそう、灰島からの連絡があります。一番大事なこと忘れてたよ、これだから灰島は。

 灰島、このリアクションを公開したら、小休止を頂きます。

 まだ何も詳しく決めては居ませんが、12月下旬までお休みをいただくつもりです。
 理由は、オリジナルの作品を手掛けたいからです。ライターとの両立は、少々難しいので。
 たぶん、一ヶ月くらいで帰ってくると思いますが(ほら、リア充爆発しろ! なイベントがあるじゃないですか。ね!)。
 なのでそれまで、ちょっとおやすみ。

 では連絡する事もしましたし、締めの挨拶に向かいましょうか。
 今回もご参加いただきました皆様。
 素敵なアクションをくださった皆様。
 文字数制限のあるアクション欄で、わざわざ灰島に私信を下さったあの方やこの方。ありがとうございます。お返事は長い長い個別メッセージです、ふふふ。いつものことですけどね!
 それでは、ぜひまたお会いしましょう。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。