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酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

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酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

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第4章 それぞれの選択2

 冷たい、白い鋼が貫いた。
(ああっ…!)
 ぴとん……ぴとん……ぴとん……
 剣先を伝った赤い滴が、池を作る。
 真っ赤な池。
 環菜が、玉藻前が、白花が。鋭い刃先に貫かれ、串刺しとなって池の縁に掲げられている。
 混ざり合った彼らの血が、池の中央に立つ漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の胸から下を染めていた。
「いや……やめて……殺さないで」
(死なないで、みんな…!)
「今、助けるから…っ」
 ねっとりとまとわりつく血を掻き分け、近寄ろうとするが、全く距離が縮まらない。
 生気を失ったうつろな彼らの目は、月夜を見ていた。
 まるで、己の血を食い物とする化け物を見るかのように。
 ぐるぐる、ぐるぐる回りだす。
 回っているのは彼らか、自分か。
     おまえが殺した  おまえが殺した
「だれ!? 私はそんなことしない!!」
     おまえが殺すんだ おまえのせいで死ぬんだ
     もっともっと死ぬよ
     だって まだ血が足りない
     こんなもので おまえは満足しない
     もっともっと殺そう その身が血に埋めつくされるまで
 顔を伝って落ちる、刀真の血をぬぐう。
 口腔内に満ちた血が、臓腑にまで染み渡る。
 これは誰の血? 私のもの? それとも彼のもの?
     愛しい者の血で満たされ おまえは息もできなくなる
     それがおまえの望み おまえの幸せ
「うそよおおぉっ!!!」
 虚空に向かい、月夜は絶叫した。



 七乃が無力感と焦燥感にさいなまれていたとき。
 2つ向こうで寝かされたヴァルキリーの少女を見守っていた周臣 健流が、智杖を手に立ち上がった。
 押し上げられたメガネの奥、固い決意を秘めた薄茶の瞳が、射抜くような眼差しで、自分と同じように昏睡状態のパートナーのそばについた者たちを順々に見る。
「彼女を目覚めさせるには石とやらが必要だ。ぼくはこれから石が保管されている宝物室へ行こうと思う。この中で、一緒に来る者はいるか?」
「おい、健流! なにバカ言ってんだよ? もう少し待てって。あっちでナリトのやつがつきっきりで携帯鳴らしてる。すぐに山葉とは連絡が――」
 彼の不穏さに気付いた松原 タケシが、リーレンを下ろしてあわてて駆け寄ってきた。
「これ以上待てない。石を渡しさえすれば彼女は元に戻るし、外のあの化物たちも退かせることができる。そもそも戦う必要もなかったことだ」
「それは俺だって分かるさ! でも宝物室のあるフロアは不可侵区域だ。限られた者しか立ち入れない。クイーン・ヴァンガードだって許可なしじゃ無理だって知ってるだろ? そんな所へ侵入しようなんて、企てただけで退学もんだ!
 第一、あそこには山葉の築いた防御システムが何重にも渡って敷かれていて、いまだかつて1人として突破した者はいないって話で――」
「なら、わしらがその最初の者になってやろう」
 野太い声が話に割って入ってきて、はじめて2人は巨漢の男・三道 六黒(みどう・むくろ)の存在に気づいた。一体いつからそこにいたのか……なぜ気づけなかったのか不思議なほど、距離は近い。
 2人が自分を見止めたのを見てから六黒はゆっくりと、虎を思わせる動作で残りの距離を詰めた。
「あんたは? 蒼学生じゃないよな?」
 六黒の放つ威圧感に、本能的にタケシは健流の方に身を寄せながら訊く。
「わしか。わしは三道 六黒という、ただの通りがかりの者よ。表では物騒な化物が派手に暴れておるようではないか。大体の事情は、ここへ来る都度都度で聞かせてもらった。
 ひとのシマへ入り込んで暴れておるあの化物どもを倒し、目にものを見せてやるのも重要ではあるが、それでここの者たちを目覚めさせられる保証があるわけでもなかろう。
 この者たちを救うには、宝物室にある物を差し出す方法が一番てっとり早いという、そこの若者が正しい」
「人命優先、よく言ったものです」
 六黒にだけ聞こえる声で、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)が脇からささやいた。
 じろりと六黒に見下ろされて、悪路はうす笑いを浮かべつつ一歩離れる。
「オレも賛成だ。化物退治は彼らを救ってからでもできるだろう」
 遠巻きに見守っている人々の中から出てきたのは国頭 武尊(くにがみ・たける)だった。彼もまた、蒼空学園に降り注いだ不自然な流星と死龍の姿に、ただ事ではないと悟って乗り込んできたうちの1人だ。
「おまえたち蒼学生が宝物室に許可なく立ち入るのは問題でも、パラ実のオレにそんな縛りはない。なんだったら、事に乗じたオレに脅されたとでも言えばいいさ」
「ばかな! 宝物室には女王器だって保管されてあるんだ! そこを襲えば立派にテロリストだぞ!? 他校生とか関係ない、あんただってただじゃすまされない!」
 気色ばむタケシに、しかし武尊は仕方ないさとでも言うように、肩をすくめただけだった。
 六黒や悪路も同様、それがどうしたという構えで立っている。
「みんな、頼むから山葉と連絡がとれるのを待ってくれないか…」
「そんなの悠長に待ってらんないわよ!」
 ずい、と霧雨 透乃(きりさめ・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)月美 芽美(つきみ・めいみ)を従えて前に出てきた。
「大体その石とかっていうの、もともと拾い物だっていうじゃない? 持ち主が現れて、どうして返してあげるのが悪いの? 拾った物を勝手に自分たちの物にすることこそ犯罪だよね?」
「だから、そういう問題じゃなくて…」
 説得がうまくいかないことに、タケシは頭を掻きむしった。
 もともとこういうことは苦手なのだ。口がうまいのは健流の方で、タケシは体を使う方が慣れている。
「石以外には一切触れなければいいんでしょ? 涼司ちゃんだって、これが緊急事態だって分かってくれるわよ。あんな化物に襲撃されて、命にかかわる負傷者が出て、学園の危機なんだから。そんなときにここにいない涼司ちゃんが悪い!」
 これでもし、ナンパや合コンのために携帯オフってるんだったりしたら、もうギッタンギッタンの袋叩きにしてやる、と誓う。
「それで、この件でもし分からずやなこと言ったりしたら、私がガッツリ蹴り入れてやるんだから。このバカ! って」
「だけど、防御システムはどうする気だ?」
「そちらについては私にお任せください。少々時間はかかりましたが、罠の配置場所は全て把握済みです」
 悪路が笑顔でヒラヒラと手の中の小型端末機を振って見せる。
 かなりハッタリの過ぎる言葉だった。
 ひと気のなくなった廊下の空調基盤から侵入し、情報収集や博識、先端テクノロジーを駆使しても、分かるのは蒼空学園の内部構造のみで、宝物室周辺はブラックボックス化している。天才プログラマー・山葉の敷いたファイヤーウォールは鉄壁で、何をもってしても突破できず、悪路の放ったS&D(Search&Destroy)やAW(Alterations Worm)といったウィルスはことごとく燃やされてしまった。
 見ることができたのは第三防御システムまで。それはある意味、山葉が威嚇としてわざと見せている部分でもある。
(そこから先は出たとこ勝負ということになりますが……まぁ、捨て駒はいくらもいるようですからね)
 ようは自分が宝物室へたどりつけさえすればいいのだ。だれがどうなろうと知ったことではない。幸いにもみんな血の気が多そうで、自分から罠に向かって突っ走ってくれるだろう。死ぬ前に破壊してくれれば万々歳だ。
 六黒の影でほくそ笑む悪路に気づく者はいない。
「けど…」
 周りを取り囲んでいるだれも、自分の味方をする者がいない。
 それでも果敢に反対意見を口にしようとしたタケシは、応援を求めるように無言の健流にちらちらと視線を飛ばした。理性的な彼なら、あるいは事の重大さを分かってくれたと思ったのだが、反対に冷たい敵意のこもる視線を浴びてしまっただけだった。
 これは分が悪い。そう悟ると、タケシはあきらめるように、ガックリ肩を落とした。
「……分かった、分かったよ。おまえら、俺がどう止めても行くんだろ」
「山葉に連絡は取り続けてくれ。許可が出ればそれにこしたことはない」
「ああ。何か分かったら携帯ですぐ連絡するように言っとく。わざとオフってんじゃないぞ。
 それから、くれぐれも気をつけろ。アスールは自分のためにおまえが傷つくことは望んじゃいない」
 真摯な目をして自分を気遣うタケシに、健流が頷く。
 お互い、それは嘘だと分かっていたが、タケシは気づかないフリをした。
「じゃあな。俺ももう戻らないと」
「おまえはどうするんだ? さっき運んでいたのはリーレンだろう」
 その名に、タケシはぎりりと奥歯を噛み締めた。
「リーレンだ。けど、俺は退学にはなりたくないんでね。あの番犬みたいな死龍を引きずり下ろす。そんで、みんなが正門で足止めしてくれてる間に、裏からこっそり病院に運ぶってわけ。
 今、移動用の担架を手分けして作ってもらってる。外科病院ならなんとかなるかもしれないからな」
「そうか」
 健流には、病院へ連れて行くにはあまりに人数が多すぎるように見えた。それに、手術で取り出す危険性も未知数だ。たとえ外科手術で取り出すことに成功したとしても、全員を手術するには時間が足りないのではないか?
 だが、選択肢は多い方がいい。
 それにおそらく、成功する確率は宝物室へ向かう自分たちより高い。
「お互い、信じる方法でがんばろーなっ」
 ぶんぶん手を振って、タケシは走って行ってしまった。
「さて。どうやら向かうのはわしら7人だけらしいな」
 ぐるりと体育館中を見渡して、六黒が結論づける。
「では行くとするか」
 その言葉で、全員が背を向けかけたとき。

「オレも行く」
「マスター!?」
 大助が立ち上がった。



「ノルンちゃん、我慢して……頑張ってね、ノルンちゃん…」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は意識不明のノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)を胸に抱き込んで、よろけながら廊下を走っていた。
 ぱりんぱりん。割れた窓ガラスの破片が、踏まれてさらに小さく砕ける。
 つるりとすべって、転んでしまった。
「…………ノルン、ちゃん…」
 ノルンを叩きつけまいと、庇ったせいで切れた手の甲や腕の痛みをふり払って、明日香は再び駆け出した。
 回復スキルはすべてノルンのために。効果があるかどうかも不明だけれど、もしかしたら自分の痛みを治す分の、このSPでノルンの命をつなぎとめられるかもしれない。そう思うと、1SPも無駄にはできなかった。
「きっと、彼方さんとテティスさんなら、なんとかしてくれるですぅ。だから、だから…」
 お願いだから、死んじゃったりしないで。
 明日香は涙がにじみそうになって、あわててぶるんぶるん頭を振った。
 泣いても何のたしにもならない。むしろ、泣いてしまったら力が抜けて、心が折れてしまう。ここから、もう一歩も動けなくなってしまうだろう。
(ノルンちゃんを助けるためなら、何だってするのです。どんな我慢だってできますぅ。だから……だからノルンちゃん、生きて…!)



「これで全部かな?」
 教室の中で動けなくなっていた生徒を発見し、治療班に救助の連絡を入れたあと、エントランスホールに向かって2階の渡り廊下を走りながら、皇 彼方(はなぶさ・かなた)は同じく隣を走るテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)に訊いた。
「たぶん。見逃しはないと思うけど。クイーン・ヴァンガードのみんなにもう一度回ってもらう?」
「いや、戦いが激化すればあいつらの方が危なくなる。救助した人たちと一緒に体育館に行ってもらってくれ。もしもってことがある。避難した生徒の防衛にあたってもらった方がいい」
「そうね」
 頷いて、テティスはHCの向こう側で待機しているクイーン・ヴァンガードに指示を伝えた。
「これってやっぱり寺院の仕業だと思う?」
「どうかな。やつらが単独で、しかもあんな化物を従えて乗り込んでくるとは思えない。でも、陽動や便乗って可能性もある」
 コントロールルームでピーピーうるさく鳴っていた警報が思い出された。だれかがメインに接触しようとして、引っかかったのだ。
 今は鳴り止んでいるが、また起きないとも限らない。
「ったく。こんな大変なときに山葉のヤツは、どこに姿くらましやがったんだ」
「花音とも連絡がとれないし。もしかしたら2人で地球に行ってるのかも」
「そういやトレード失敗でボヤいてたな。1週間もあったらどうのこうのって。資金不足は蒼学存続にもかかわってくるし……それでか?」
 ちら、とテティスを見る。テティスは、さあ? と肩をすくめただけだった。
「とにかく、今は俺たちでどうにかするしかないわけだ。とりあえずは外のあの巨大な死龍だな」
「ええ。これ以上校舎を破壊されたらたまらないもの」
 2人して、階段に続く廊下を曲がったとき。
「彼方さん、テティスさん…! 見つけたですぅ…!」
 2人を呼び止める明日香の叫び声が、廊下中に響いた。



「宝物室へ続く通路のカメラ全部映し出してくれ!」
 明日香から生徒たちによる宝物室襲撃を聞いた彼方とテティスは、制御室へとって返していた。
 外の化物も気にかかるが、それより宝物室が……いや、宝物室へ向かう生徒への対処の方が先だ。
 彼方の指示に従って、メインパネルに複数のカメラからの映像が表示される。
 さまざまな角度から映し出されたそれは、同一の場所を映しているものもあるし、別の区画を映したものもあった。
「第一防御に続く通路に1グループ。結構近くまできてるな…。
 それと、東校舎の方にそれらしい1グループ」
 その人数に、ちッ、と舌打ちが出る。
「あれは……刀真? まさか彼が?」
 集団の先頭を進む樹月 刀真(きづき・とうま)の姿を見て、テティスが息を飲む。
「明日香?」
 確認を求める彼方に、明日香はぷるぷると首を振った。
「そちらは知らないですぅ」
「そうか」
 彼方は携帯を取り出した。
 直接本人に訊いた方が早い。



「いや、俺たちは止める側だ」
 彼方からの質問に、刀真は足を止めて答えた。
 壁に設置された監視カメラの先に彼方がいることを知って、そちらを見上げる。
「……知っている。7人だ。あの場でやりあうと関係ない人たちを巻き込むことになりそうだから、通路で待ち伏せをすることにした。……いや、説得は無理だろう。止めるやつもいたが、反対に説き伏せられていた。宝物室にある石さえ渡せばパートナーは助かると、彼らは信じきっている」
 敵がそう言っているというだけで、何の保証もないのに。
 脳裏に浮かびかけた月夜の姿を意識的に押しつぶし、刀真は携帯を切った。
 今、心を乱してはならない。
「彼方、何か言ってた?」
「俺たちに合流するからここで待てということだ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の質問に答えながら、刀真はリダイヤルボタンを押す。
「凉司……早く出ろ」
 だが携帯は数度の発信音のあと、伝言を残せというメッセージに切り替わっただけだった。
『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない――』
 花音の番号も同じだ。
「くそッ!」
 パチン、と音を立てて閉じ、コートのポケットに突っ込む。
 山葉との連絡は、諦めた方がいいかもしれない。
 それは、合流した彼方とテティスも同意見だった。
「とりあえず明日香には連絡を取り続けるよう頼んできたが、正直望み薄だと思う」
「そうか」
「1つ訊きたいんだが、彼方やテティスのロイヤルガードの権限でその石を宝物室から持ち出すことは可能なのか?」
 天川 翠(あまかわ・すい)からの質問に、彼方は首を振った。
「無理。俺たちにそんな権限はないよ」
「できたとしても、それで解決するとは思えないわ」
「賛成だ。いきなり非戦闘員のいる学園に攻撃を仕掛けてくるような卑怯者の言う言葉など信じられるものか」
 一考するにも値しないとばかりに、三船 敬一(みふね・けいいち)が吐き捨てた。
 それには翠も頷かざるを得ない。
 石だけ取って、約束を果たさない場合もあるのだ。特に、敵と交戦してしまっている今となっては。
「だが、学生同士で争うというのもどうかと思う。それこそ敵の思うつぼかもしれない。こうして私たちを争わせることが」
「だからといって、ほかに方法があるか? 彼らだってパートナーの命がかかってるんだ。万に1つと思ってこの方法に賭けているかもしれないのに、納得させるだけの持ち札は俺たちにだってないだろう? それとも天川は、パートナーを助ける方法を教えてやれるのか?」
「う……だが…」
「天川さん、争いたくないという気持ちは分かります。でもこうなってはそれは無理というもの。ですから、最低限の争いですむようにしましょう。
 彼らを防御システムで止められるならよし。もし突破してきたなら、武器を取り上げる方向でいきましょう。無力化して、戦意を喪失させるんです」
 三船の言葉を補うように、白河 淋(しらかわ・りん)が肩に手を乗せて言う。思いやりのこもった視線で見つめられ、翠はこくんと頷いた。
「あー、もおっ! そんな悠長なこと言ってられないんだよ!」
 ガリガリッと頭を掻く彼方。
「いいか! 絶対ここで止めなきゃならないんだ。さもないとあいつらは確実に死ぬ!」
「なんだと!?」
 壁際に退いて成り行きを見守っていた刀真が身を乗り出した。
「第一のレーザー、第二の神経ガス、第三の火炎放射までなら彼らも突破するかもしれない。だけど第四以降は彼らのレベルでは不可能なんだ。ADP(Automatic Defense Program)が見敵殲滅モードに切り替わる。絶対にだれも生きて通さない。
 だから、彼らを助けたかったら、たとえ両足の骨を折ることになったとしても食い止めるんだ」
「そんなばかな! 相手はテロリストではなく、ただの学生ではないか! 自分の学園の生徒を殺す気か!?」
 血相を変えた敬一の非難に、彼方の顔がこわばった。
「ああ、そーだよ! ADPに敵と生徒の区別がつくか!
 俺もこんなこと言いたかねーよ! けど、だからって防御システムをトーンダウンさせるわけにいかねーんだよ!! この騒ぎに乗じて宝物室の女王器狙ってくるやつがいないって言いきれねーだろーが!! そうなったらおまえに責任とれんのか!? ぁあ?」
「落ち着いて彼方」
 ドカン。
 美羽のミニスカかかと落としがきれいに決まった。
 毎度のことなので、踏み倒されて床で伸びている彼方に、テティスもいまさら驚かない。
「いっ……つつ…。
 美羽! おまえなぁっ」
「私たちが言い争ったってどうにもならないでしょ。足を折るとかいうぶっそうな話は最終手段として置いといて、全力で彼らを食い止める。それでいいんじゃない?」
「どちらにせよ、時間切れだと思います」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がディテクトエビルで侵入者の気配を感知する。
「大勢の人の気配がこちらへ近づいています」