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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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第一章 廃教会の「少女の少年」

ま、文字通り乗りかかった船だし。
出来るだけ協力しましょうかねえ。……眠いけれども。
うーん……すごい面倒そう…… クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)(遙か大空の彼方・後編)


女と自分が大好きでしかも暴力肯定、なにごとにも口より体って兄貴と、母親以外の女性の存在を認めない少年愛好者の弟の双子って、いるだけでまんま犯罪者の気がする。
あーなんで私はあんなのと契約してしまったんだろう。
気の迷いにもほどってもんが、ふんがぁ。
マジェスティックの名家の令嬢テレーズと悪名高きアンベール男爵の結婚を阻止しようと、身分詐称ホームレス兄弟が息まいてでていってしまったので、私、セリーヌは、中央教会とは名ばかりの廃墟でお留守番中です。
しっかし、塵と埃と煤と破片だらけの、焼け跡ボロ家の掃除も、黒衣と皮ジャンの洗濯も、なんだか今日は面倒だし、昼寝でもしようかな。
変態のクセに生真面目なルディは、昼寝なんか絶対させてくれないし、ニトロの前で昼寝してたら、猛犬に生肉をさしだすようなもんだしで、あいつらがいるとまともに昼寝もできないんだよ。

んんん。
濡れてて、生あったかくて、私の頬を這いずる、それは。
ジョン? 
いいえ。犬のジョンはニトロとケンカしてどっかに行っちゃったんだ。
猫のみーにゃんは、メスって理由でルディに毎日、説教され続け、子猫を連れてでていった。
なら、これって。

「ニトロ! な、な、なめるな」

とっさに第一容疑者の名前を叫んじゃった。
何者かに頬をなめられてるのに気づいて、目をさました私の毛布の中には、見知らぬ男の人が一人、入ってて。

「やあ。お兄さんだよ。もっと、きみと一緒に寝たいなあ」

「エエエエエエエエエエ?」

「お兄さんはきみと仲良く
 
男の人が言い終える前に、ソファーの周囲にいた三人、男の子二人、女の子一人が、彼の頭を前から後から叩いて、毛布から引きずりだし、床に落っことしてくれました。
 ぼしゃん。

「わ、わ、わ、私は、昼寝していただけなのですが。あなたたちは」

「止められなくて、ごめん。
クドくんが急にソファーに乗って、きみの顔をなめだしたんで、びっくりしたんだ。
俺はクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)。薔薇の学舎の生徒さ。
きみはこの教会に住んでるセリーヌくんだよね」

「僕はクリストファーのパートナーでクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)
マジェスティックに遊びにきたら、この教会の評判をきいてね。のぞきにきてみたんだ。
そうしたら、セリーヌさんがここで眠っていて」

一応、自分の家(のような場所)で昼寝をしていても、それは、私の自由だと思うんだけど。
だいたいウチは、観光名所でもなんでもないよ。
クリストファーは、金髪で細身の、モデルちっくな美形の男の子。
自分に自信がありそう。
よーく見ると、髪で隠してる感じだけど、左のこめかみから頬骨の上あたりまで、薄っすらと刃物傷の痕があります。
カミソリで切るにしては場所がおかしいし、色男だから刃傷沙汰かな。実は、危険な人なのかも。
クリスティは、優しい感じの人。
こっちは銀色の髪をうしろでまとめて一つにしてる。メイクしだいでは、女性で通用しそうな女顔。

「ボクはいま貴様に痴漢行為を働いたばかりのクド公、クド・ストレイフのパートナーなのだ。
ボクの名前は、ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)
クド公が貴様の噂を聞いて、どうしても会いたいというから、一緒にここまできたのだが、初対面でクド公に寝顔をさらすとは、貴様はなかなか度胸があるのだ」

ハンニバル・バルカは、セーター、マフラー、耳あての似合う、セミロングの髪の小柄な女の子なのだが、口のききかたが生意気なのだ。
私は、別にさらしたくて寝顔をさらしたのではないのだ。
しゃべり方をマネしてみたのだ。どうだ、なのだ。

「俺らはここで偶然、クドくんたちに会ったんだよね。
でさあ、ここの主人らしい神父もいないようだし、セリーヌくんもヒマそうだし、どこか遊びにでも行かないかい。
一人でここにいるよりも、散歩でもしたらどうかな。
俺は、英国出身だからロンドンの街並みは懐かしいものがあるんだ。フフ」

クリストファーに誘われちゃった。
寝ているところを頬をなめて起こされて、ふいにそう言われても困るよね。
私がまずしたいのは。

「私、顔、洗ってもいいですか」
 
頭を抱えて床でうなってる痴漢以外の人たちの賛同を得られたので、私は洗面所へ移動して、洗顔して、身だしなみを整えてきます。
へえ、私目当ての来客だって。
な、なんだってェ!?

それなりに身なりを整えて、いつもの蜂蜜色のおかっぱ頭の男装少女の姿を鏡で確認すると、私は部屋に戻りました。
私の性別は女で、趣味嗜好も性癖も極めて正常なA型ですが、男装が好きです。
髪を短めにして、スーツにシャツにネクタイといった男の子の格好をしている方が自分に合う気がするんだよね。
体格的には、肩幅も胸の厚みも全然なくて、首も細いし、男にしては華奢すぎるんだけど、男の格好をするのが好きなだけで、男になりたいとか、女性を恋人にしたいわけではないし。

「お兄さんは、セリーヌさんとおしゃべりしたいんですよ。
男装好きな少女は、お兄さんのストライクゾーンにばっちり入ってます。
いえいえ、そこのパブでこの教会にセリーヌさんが住んでるって聞きましてね。会いにきたわけですよ。
さて、くっちゃべりましょうか」
 
帰還すると蘇生したなめ男が、私を迎えました。
反省の色のまったく感じられないのんびりした口調で、あきらかにこちらの感情を考慮に入れていない言葉を並べてるんですが、眠そうな顔をしたこのボケは、なんなんですか。
存在を無視して、他の人と話そっと。

「あのー、みなさん。
私は、ここの家事手伝いというか、ここに収容している患者二人のお世話係です。
ここは通称教会でして、普段は困った人がたずねにきたり、あとは、患者の友達のろくでなしたちが遊びにくるぐらいで、私に会いにくる人って、あんまし、ほとんどいません」

「セリーヌさんに質問があるんだけど、いいかな」
 
クリスティーが手をあげました。
あたしは人と会うのも、話すのもけっこう好きなんだけど、こう堂々と知らない人たちに、きみに会いにきた、って言われると腰がひけちゃうよ。

「どうぞ。なんでも聞いてもらっていいですよ」

答えられることなら、お話します。

「僕は二人の地球人と契約しているきみに興味があるんだ。
僕の知る限り、二人と契約したシャンバラ種族は、アムリアナ女王しか知らない。
セリーヌさんは、どんなふうに契約したの」

「あーたまにそれ、聞かれるんですけど、私もよくおぼえてないんですよ。
ニトロとルディはああ見えて実はかなりのお坊っちゃんなんです。
やつらの地球の実家はいまは、二人の弟さんが仕切ってるんですけど、三男が跡を継ぐ格好になったのも、なにかお家騒動があったらしくて、私は、気がついたらあの家にいて二人のパートナーだったんですよね。
どっちかに一服盛られて拉致されて、散々ひどいめにあわされて過去の記憶を消された可能性大です。
そんで、あの二人が屋敷をおんだされた時も、一緒にいて、それからは行く先々でよくもこんなにろくでもないことばっかりって、ふーむ、ほんとにもう、こうして人に話すと思い出してこっちが悲しくなるくらいだよ」

まったく、男装でもしてないとやってらんないでたらめの嵐の日々だ。
そして、いまも、私はその渦中にいるでごんす。

「ニトロとルディの二人についてはよく知らないんだけど、きみは契約時の記憶がないの」

「ええ。きれいさっぱり」

私の回答にクリスティーは、この話どう思うって感じで、クリストファーに視線を送ります。
どう思うもなにも、私は、毎日が火の車なんで、これ以上の面倒なら思い出さなくてもけっこうよ。

「今度は、みなさんに私から聞きたいんですけど、建物のほとんどがひび割れたり、傾いてる壊れかけのマジェスティックに、安くない入場料払って遊びに来て、私と話してて楽しいですか」

「いい質問なのだ。
正直、ボクは楽しくないし、ボクとしては貴様と話しているよりも、パブの親父が言っていたこの教会に住む兄弟が首をつっこんでいるきな臭い話に、ぜひ参戦したのだ。
貴様もパートナーたちが人助けに行っているというのに、こんなところで惰眠を貪っているから、クド公になめられたりするのだ。
そちらの方も、貴様を外へと誘ってくれているのだし、ボクらと一緒にみんなで貴様のパートナーをフォローしに行くのがいいのだ」

ほう。やる気まんまんだな。ハンニバル・バルカ。
私もきみを早くルディに会わせてやりたくなってきたよ。

「そーですね。
私がクリストファーさんと遊んでる間にバカ兄弟の弟がケガでもしたら、ケガをさせた相手だけでなく、なぜか私にも口撃の五倍返しがきますからね。
兄の方も放っとくと、雲海に沈められるか、塀の中に収容されて音信不通になりかねないし。
最悪のケースを想像すると、ぬわわわ。やっぱり、行くしかないですね。
みなさんは、私ときますか?」

クリストファーとクリスティが頷いてくれた。
ハンニバル・バルカは偉そうに、ふんとか言いやがる。
お兄さんが、また私をなめるつもりか、斜め後方から必要以上に顔を近づけてきて、素早く私の側へきたハンニバル・バルカが鋭すぎるアッパーカットで、彼の体を宙に浮かせた。
どしゃん。
お兄さんが床に落ちた音です。