薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

カリペロニア・大総統の館ガーディアンオーディションの巻

リアクション公開中!

カリペロニア・大総統の館ガーディアンオーディションの巻

リアクション


「ダークサイズの拠点カリペロニアで、オーディションが行われる!」

 ダークサイズの大総統ダイソウ トウ(だいそう・とう)が直々に空京放送局から発信し、参加者は続々とカリペロニアへと集まっていく。
 しかしそれでも、オーディションの宣伝はまだまだ足りぬと、たくさんのビラを抱えて空京へと足を運んだ、怪しげな人影が二つ。

「オーディションの見学者を大募集だにゃ!」

 一般の観客をオーディションに集めようと、なぜか白猫の着ぐるみにハニワ顔の白仮面でビラをまく、ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)
 見た目の変装だけでなく、言葉遣いも変えて、お手製のチラシをどんどん配る。
 通りの反対では、

「だーくさいずの戦闘員を募集中だお☆ あたしたちのこと、もっともぉ〜っと知ってほしいのにゃぁ☆」

 ナイン・ブラック(ないん・ぶらっく)は猫着ぐるみにフリフリゴスロリドレス。媚びるような声と上目遣いで、戦闘員募集のチラシをまく。
 ニコは往来激しい空京の大通りの中で、

「貴方の声が放送に乗るにゃ! ご来場の方にはもれなく50ダバスプレゼントにゃ! おっぱいとちっぱいを同時に観賞できるんだにゃ!」

 と、若干の嘘を混ぜながら、ちらほらと観覧希望者を募る。
 ナインの方も萌え萌え妹キャラを全力で演じ、主に一般男性に話しかける。

「おにーちゃんっ。一緒にニート脱出しよぉ? 正義の味方に殴られるだけの簡単なお仕事なのぉ。上司のガーディアンに従うだけで、時給900ダバスなんだよぉ?」

 ナインの不気味な上目遣いに、一般男性はぞっとした眼を向けながら、

「だ、ダバスって何?」
「だーくさいずで使えるお金っ。ダイソウトウ閣下がお悩み相談乗ってくれるし、だーくさいずって空京放送局の危機を救った闇の救世主なんだよ♪」
「そ、そうなんだ……」
「おにーちゃんもだーくさいず入ろ?」
「いや、俺はいいよ……」

 引き気味の男性の様子を見て、ナインはついにチッと舌打ちして、ガシッと男性の首根っこをつかみ、耳元で地の声でささやく。

「おいおいおいニーチャンよぉ〜。俺にここまでやらしといてそりゃあねェだろォ」
「そ、そっちが勝手にやってんだろ……」
「けェッ。こっちも遊びで悪の組織名乗ってんじゃねェんだ。この際はっきりさせようぜェ。戦闘員の見学に来るか、お詫びに1000G募金してくのと、どっちがいいよォ?」
「ひぃぃ、け、見学します……」
「あは☆ ありがと、おにーちゃん♪」

 こんな調子でニコとナインは一般人に絡みながら、カリペロニアへ人を集めていくのであった……


☆★☆★☆


「ここがカリペロニアか。ガーディアンの座は俺がいただく」

 長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が、気合いを入れて拳を握る。一緒に連れてこられた南 白那(みなみ・はくな)も緊張の面持ち。

「お、オーディションかぁ。私も頑張らなきゃ!」
「大丈夫だ白那。俺たちは俺たちのできるネタをするだけだ。結果は必ず付いてくる」

 プレゼン用の小道具の入ったカバンを抱え、淳二は白那を励ます。
 とはいえ、彼の言葉だけを聞くと、まるで芸人のオーディションに来たようにしか聞こえない。
 彼らは受付にやってくると、

「オーディションにやってきた長原淳二です。よろしくお願いします、先輩」

 と、神代 明日香(かみしろ・あすか)に律義に挨拶をする。

「せ、先輩ですかぁ。うふふ。じゃあこのカード下げて、あっちに進んでくださいですぅ。ふぁうぅぅ。今日は大変ですぅ……」

 カリペロニア上陸の第一の関門『受付』の明日香は、受付対応の合間を縫って額の汗をぬぐう。
 ダークサイズのリーダーダイソウ トウ(だいそう・とう)が、電波に乗せて大々的に告知しただけあって、大総統の館ガーディアンの応募者、ダイソウを倒すべく集った戦士たちが、次々に受付へとやってくる。
 幸いなことに、明日香の受付ブースの隣で、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)も受付業務を手伝ってくれている。
 小柄サイズの明日香と、すらりとした長身に黒いミニスカチャイナドレス、さらに超感覚で犬耳と尻尾を覗かせたリアトリス。
 対照的な受付嬢二人に、応募者たちもその好みに合わせてきれいに二列の長い行列を作り上げる。
 リアトリスも冷静な対応で、

「はい、ガーディアン希望者だね。じゃあこれに名前と守護したい階層を。君は正義の味方? じゃあこっちに名前と勝負方法を……」

 と、来場者たちをさばいていく。明日香はリアトリスにニコリと笑い、

「リアさん、ありがとぉです」
「ううん。ダークサイズが盛りあがったら僕も嬉しいからね。ハーブ園もモモさんに気に入ってもらえたみたいだし。もうすぐ全員通せそうだし、終わったらハーブティーを……ん? あれは……」

 リアトリスが行列の最後尾の方を見ると、見たことのある人影を発見する。
 その目線につられて明日香がその方を見ると、とたんに彼女の目が輝く。

「あっ、来たぁ!」

 小型飛空艇をチャーターし、カリペロニア島に降り立った秋野 向日葵(あきの・ひまわり)

「ここがカリペロニアかー。ダイソウトウのやつ、なかなかいい根城持ってるじゃない」
「まったく……少し目を離した隙にこんな大所帯を構えているとは」

 向日葵に続いて飛空艇から降りてきた大岡 永谷(おおおか・とと)が、忌々しげに、遠くの大総統の館を眺める。
 さらに騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、何故か目をキラキラさせながら続いてくる。

「す、すごいすごいっ☆ こんな立派な芸能事務所を構えるなんて、さっすがダイソウトウ先輩♪」

 永谷がきょとんとして詩穂を見る。

「ダイソウトウ先輩?」
「ダークサイズは精力的だなぁ。秋葉原四十八星華ももっとがんばらなきゃ! 向日葵ちゃん、今日のオーディションがんばろうね☆」
「え? うん、もちろんだよ!」

 ダークサイズを芸能事務所だと思い込んでいる詩穂。詩穂と向日葵とでそれぞれ思っているオーディションの意味はまるで違うのだが、永谷はあえて何も言わないことにした。

「おお、来たな、向日葵!」

 篠宮 悠(しのみや・ゆう)が、向日葵に近寄るなり、早速握手を求めて手を伸ばしてくる。

「向日葵……アンタの叫び、しっかり届いたぜ。オレは『絶刀戦士パラフラガ』! 悪の組織なんぞ壊滅に追い込んでやるぜ」

 早速パワードスーツを身に纏い、臨戦態勢を整えている悠の勇ましい姿に、向日葵も頼もしそうに笑顔で応える。

「気合入ってるね! 今日がダークサイズ最後の日だよ!」
「もちろんだ。ワタシたちは、悪の陰謀など逃しはしない!」

 と、悠の後ろに控える、5メートル前後の二つの巨体レイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)ランザー・フォン・ゾート(らんざー・ふぉんぞーと)も、グッと拳を握って突き出す。
 それを見た詩穂はさらに勘違いを加速させ、

「おおおー! ライダー戦士とロボットのコラボ! 斬新〜☆」

 と、新ジャンルのヒーロー企画に期待を寄せる。
 一方の向日葵は、明日香とリアトリスの前に連なる行列を怪訝そうに見ている。

「ねえ、あれなんなの?」

 向日葵の質問に、悠も同じく苦々しく行列を見て、

「噂に聞いちゃいたが、くそっ、ダークサイズめ。あれは第一の関門『受付』だ。大総統の館に行くには、あの可愛いゲートキーパーに通してもらわなくちゃならねえ」
「そして俺様たちは絶対正義。あの受付を突破するためには、きちんと行列に並ばないといけないってわけだ」

 ランザーが4メートル上空から補足の言葉を落とす。
 向日葵はそれを聞いて口をとがらせ、

「むむ〜、ダイソウトウのやつ! こうなったら受けて立ってやるよ!」

 と、素直に行列の最後尾に陣取った。

「じゃ、まず受付でもらったゲストカードを確認するから見せてくれ」

 オーディション応募者と敵対者たちは、明日香とリアトリスの受付を抜けるとトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が設置したテーブルで審査を受けねばらならい。

「応募者はこの願書に記入な。君は挑戦者か。じゃあこの『対DS許可申請書』を書いて」

 トマスに申請書を渡された氷見 雅(ひみ・みやび)は、タンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)と顔を見合わせ、トマスに聞く。

「ねえ、これ何?」
「見て分かるだろ。いかんせん参加者が多いからな。書類をリアトリスに届けさせる」
「誰に届けるの?」
「ダイソウさんに決まってるだろ。あ、対DS許可申請書と健康診断で合計35Gな」

 と、トマスは雅に手を出す。

「お、お金とるのー!?」
「当たり前だろ。カリペロニアにいくらかかってると思ってんだよ。応募者も挑戦者も、持ち合わせなかったら取りに帰ってもらうぜ」

 トマスはまるでどこかの役人のように淡々と業務をこなす。
 にべもないお役人の言葉に、拳を震わせてうつむく雅。
 その様子を見たタンタンは、さすがに心配したのか、雅の顔を覗き込む。

「雅。怒ったのですか? 今日は帰って寝ますか?」
「……ふふ、ふふふっふっふっふ……」
「?」

 雅はこみ上げる笑いを押さえきれず、肩を震わす。すぐさまバッと顔をあげ、

「セコイ! 相変わらずセコイわ、ダークサイズ! 組織がおっきくなってるくせに、ちゃっかり35Gせしめようなんてセコすぎる! あたしのライバルのくせにいつまでもこんなことじゃあ困るわ! 逆に気合が入ったわ。あたしの愛の鞭で、ダイソウトウに自分の器の小ささを自覚させなきゃ! よーし、絶対突破してやるわよー! タンタン、お金出して。もうノリと気合いでガーディアン突破よ!」

 と、何故か気合いの入った雅。
 タンタンはそれを見て、

「やっぱり進むのですか。おうちでゆっくり寝ないのですね。ふわぁ……」

 と、あくびをしながら二人分70Gを取り出した。
 雅はそれを受け取ると、トマスにグッと差し出す。

「さあ行くわよタンタン! 突破して70Gの元を取るのよ!」
「それもちょっとセコイ気がしますね……」

 一方、ようやく受付の順番が回ってきた向日葵。行列もほぼ落ち着いたらしく、せっかくだからと明日香とリアトリスの二人で向日葵の対応をしてあげている。
 明日香はニコニコしながら、仕事にかかる。

「お名前どうぞぉ」
「えへん、秋野向日葵だよ」
「では、こちらにサインをお願いしますぅ」

 と、明日香は今まで出したことのなかった四角い用紙を取り出す。
 リアトリスもそれを見てきょとんとする。

「明日香ちゃん、それって色紙……」
「えへへ」

 舌を出して頭を描く明日香を見て、向日葵はキュンときたらしい。喜んでサインをしてあげる。

「わはーい。じゃあこれどうぞ」

 向日葵のサイン色紙を抱きしめて、明日香は向日葵のために用意した特製のゲストカードを差し出す。

『空京放送局☆特派員 あきのひまわり』

「おおー、ゲストカードなんてあるんだね」

 向日葵は目的を忘れて、ゲストカードを眺める。しかし何気なくカードの裏を見た向日葵の顔が凍りつく。

「こ、これは……」
「向日葵さんっ。私からの挑戦ですぅ。大総統の館を攻略できなかったら、このバトルネームを名乗ってもらうです!」

 向日葵のゲストカードの裏面には、

『だーくさいず幹部☆魔女っ子サンフラワーちゃん』

 と書かれている。
 当然向日葵はわたわたしながら、

「な、何でよ! これダイソウトウのやつが勝手に……しかもダークサイズ幹部って何!」
「ふぅーっふっふぅ。私たちはダークサイズなのです。勝負に負けたら仲間になってもらうですっ!」

きゅぴーん

 とばかりに向日葵を指さす明日香。
 さらに詩穂が身を乗り出す。

「す、すごい向日葵ちゃん! これってダークサイズからのスカウトだよね!」
「そんなわけないじゃん!」
「羨ましい〜! よっし、詩穂もオーディションに受かって、バトルネームをもらうぞ〜」

 詩穂の中でバトルネームという言葉がどういう意味なのかは不明だが、彼女はなおさら闘志を燃やす。
 向日葵は当然カードを突き返し、

「普通のカードに変えてよ!」
「普通のカードなら入場料で10000Gいただきますぅ」
「高いよ!」
「ふぅーっふっふっふ。タダで入りたかったら、大人しくそのカードをつけるですぅ!」

 明日香は珍しくがんばって悪役を演じる。向日葵も何故かそれに圧倒されて、

「くっ、可愛い受付さんだと思ったら、油断ならないね、ダークサイズ!」
「そして監視のために、今日は向日葵ちゃんについていくのです〜」

 ブースからそそくさと出てくる明日香を見て、リアトリスは慌てて止める。

「あ、明日香ちゃん、お仕事は……?」
「リアさん、後は頼んだですっ」

 明日香はキリリとリアトリスの肩に手を置き、受付の業務を丸投げしてしまう。さらに彼女は拳を握り、

「それに向日葵さんの魔女っ子変身シーンは見逃せないです」
「変身なんかしないよ! ダイソウトウのやつが勝手に言ってるだけだってば!」
「またまたぁ〜。そんなこと言って、いざという時は……期待してるですぅ」
「変なフラグ立てないでよ!」
「どうでもいいが、早く先に進まないか?」

 延々と言い合いが続く状況に、しっかりと注意をしてくれる頼もしい永谷。
 永谷がトマスのいるテーブルをキッ見る。
 彼は、すでにトマスが応募者から小銭をせしめているのを観察済み。
 やはりそこを通過せねばならないのは覚悟しているようだ。
 とにかくリアトリスの案内で、トマスのテーブルへと進む、向日葵一行。

「君たちは挑戦者だな。では一人35Gだ」
「何でお金取るんだよー!」

 向日葵も例外なく、これまでの通過者たちと全く同じリアクションを取る。
 しかしトマスは、まるで感情をどこかに捨て去ったように、

「35Gだ」

 と、血も涙もない。

「もう何を言っても仕方がないぜ。オレたちの目的は、あくまで大総統の館の攻略だ。ここはさっさと進んでぶっ倒す!」

 悠の気持ちはすでに大総統の館に向いている。
 向日葵も彼に同意して、

「そうだね。ダイソウトウをやっつけて、35G取り返すぞ!」
「早くも目的がずれてきているな……」

 永谷がぽつりとつぶやく。

「さあ、書類を受け取りましたら、こちらへどうぞ」

 トマスのテーブルを抜けた先では、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が優しい笑顔で待ちかまえている。

「ここ『寺子屋魯粛』では、渡された書類の書き方を説明いたします。住所に氏名、年齢、所属学校、連絡先、緊急連絡先、また志望動機を……」
「書くとこ多いなー!」

 皆戦うためにやってきたのに、手続きの煩雑さに早速文句を言い始める。
 しかし子敬は続ける。

「こんなことで値を上げてもらっては困ります。参加者の皆様には、800字の小論文を書いていただきます。つまり応募者のプレゼン内容、挑戦者の戦闘方法です。これは館の入口で審査をいたしますので、決して適当な文章を書かないように」

 こんなはずではなかったと、すでに申請書と格闘していた風森 巽(かぜもり・たつみ)が、バンッとテーブルを叩く。

「冗談じゃねーぞー! 何で我が論文なんか書かなきゃならないんですか!」

 早速ツッコミボルテージの高い巽は、子敬を指さして糾弾する。
 子敬は優しい笑みを浮かべたまま、

「何故論文を、ですか……それは!」

 と、逆に巽を指さし返し、

「ルールだからです!」
「る、ルール……だとッ!」
「そうです。これは応募者と挑戦者の本気度を確かめるための神聖な過程! それをないがしろにしようというのであれば、あなたは正義の味方失格です!!」

 子敬は堂々と痛いところを突いてみせる。
 ぐうの音も出ない巽は、

「く、くそう。やってやる……やってやるぞおおおっ!」

 と、闘志を再び燃やして机にかじりつく。
 こんな調子でうまい具合に言い負かされ、応募者も挑戦者もトマスや子敬の言われるがままに手続きを進める。
 書類が埋まったところで、今度はミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の簡易テントへ連れて行かれる。
 ミカエラは白衣にメガネ、聴診器を身につけて、

「では、あなたが挑戦者に相応しいかどうか、健康診断『ミカエラ☆スキャン』を受けてもらうわ。さあ、上着を脱いで……」

 論文に続いて健康診断ともなれば、ここでもツッコミを入れたいところだが、言われることは分かっている。

「ルールだからよ」

 向日葵も腹を決め、ミカエラの診断に従う。
 ミカエラは普段絶対やらないであろう、ちょっとしたポーズを決めて、

「くらえっ! ミカエラアアァァ! スキャアアァァァァン!!」

 と、向日葵に聴診器をあて、身長や体重を計りはじめる。
 向日葵も少し同情的な顔をしながら、

「ねえ、それ誰にやらされてるの?」
「ほっといて……」

 ミカエラは顔を赤らめながら仕事を進める。

「最後に触診よ。はい、あーん」
「あーん」

 ミカエラは歯科医用の器具で向日葵の口を押し広げる。

「舌を出して……喉の奥は……正常ね。虫歯も、なし。まぶたの裏を見るわ」

 と、彼女は向日葵のまぶたをひっくり返して、眼球もチェックする。

「……ぷっ」
「ちょ、ちょっと! 今笑ったでしょ!」
「笑ってなんかいないわ。変な顔になったからって笑ったりはしない」
「口元がぴくぴくしてるよ。笑ったでしょ」
「生まれつきよ!」

 ミカエラは精悍な顔をなおさら引き締めてごまかす。

「向こうを向いて」

 ミカエラは向日葵の背中に手を当て、指でトントンとたたく。
 向日葵は前から聞いてみたかった医者への質問をついでにする。

「ねえ、このトントンって、何が分かるの?」
「……知らないわ」
「ちょっと! じゃあこれ意味ないじゃん!」
「かっこいいからやってみたかったのよ。さあ、こっちを向いて」

 ミカエラが真剣な面持ちで、向日葵の乳房を両手でふわりと包む。

「な、何すんのよー!」
「健康ね。進んでいいわ」

 はたして意味があったのかどうか、謎の健康診断を抜けて、ようやく受付が終了。トマス特製の立て札沿いに、大総統の館へと進む。