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リアクション
*ままたちとのくりすます*
クリスマスの準備を始めるに当たって、二人で約束したことがあった。
なんでもみんなで一緒にやること。
部屋は色とりどりの色紙で作られた飾り。ツリーには、毛糸で作った手作りのオーナメント。
「クリスマスってすてきね!」
ようやく飾り付けの仕上げであるツリーのてっぺんに星を飾る大仕事を成し遂げた秋月 カレン(あきづき・かれん)は、ダンスを踊るように部屋をくるくると回って見回した。
銀色の瞳をきらきらと輝かせながら、まだツリーを見つめていた。
そこへ、サンタコスプレをしたゆるスターのマカロンとショコラを頭に載せた、私服姿の秋月 葵(あきづき・あおい)が大きな箱を持って現れた。
「はい、良い子のカレンちゃんにはママたちからプレゼントだよ♪」
受け取って、小首をかしげながらも受け取ると、恐る恐るリボンを解いて箱を開く。中には、色とりどりの色鉛筆のセット。そして、絵本だった。
「わぁ、わぁ……あおいママ、えれんママ、ありがとう!」
にっこりと笑う秋月 カレンに、秋月 葵もにっこりと笑った。料理の支度を終えたエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が、テーブルにご馳走を並べていく。
パラミタ七面鳥のローストに、色とりどりの野菜が入ったシチュー。そして、ケーキは二つも並んでいた。一つは秋月 葵の好きな苺のショートケーキ。もう一つは秋月 カレンが好きなショコラケーキ。
どちらも、サンタとトナカイのマジパンで飾り付けをされている。
「エレンすっごーい!」
「えれんママすっごーい!!」
「ふふ、喜んでもらえて何よりです。カレンちゃんが着てから始めてのクリスマスですから、がんばりました」
にっこりと笑うエレンディラ・ノイマンに、秋月 葵と秋月 カレンはにっこり笑ってダンスを踊るようにはしゃいでいた。
そして、あ、と気がついた秋月 葵は、頭の上にいる二匹にもプレゼントを渡した。
取って置きの高級ナッツをもらい、二匹は嬉しそうにぽりぽりとかじり始める。すると、頭の上に食べかすがぱらぱらと落ちてくるのだ。
「まぁ、困った子達ね。マカロンちゃん、ショコラちゃん」
「クリスマスだし、今日は許しちゃうよ」
「でもせっかくのおめかしが……」
すぐにハンカチを取り出して、エレンディラ・ノイマンは頭の上のくずを綺麗に払っていく。長い睫にもかかってしまい、ふーっと、エレンディラ・ノイマンが息を吹きかけてくずを取り攫う。
「ママたちとってもなかよしだね!」
秋月 カレンが二人のそんな様子を、心底嬉しそうに見つめてくるので、ママたちは思わず顔を赤らめてしまった。
「さぁ、シチューが冷めちゃいます。カレンちゃんも席についてね」
「はぁーい」
元気よくお返事をして、椅子に飛び乗るのを眺めていると、秋月 葵は小さく声を漏らした。視線の先にあったのは、いつぞや取った記念写真。
その中心には、ルーノ・アレエとニーフェ・アレエがいた。
「エレン、紅茶は?」
「紅茶?」
「ママたちのお友達からもらった、とっても貴重なお茶があるんだよ」
「ええ。食後に、ケーキと一緒にいただきましょう」
そういって三人で席に着くと、楽しい食事がはじめられた。長い時間煮込まれたシチューは、とろとろの野菜がたくさん入っており、秋月 カレンは心底嬉しそうにほおばっていた。
周りを見渡せば、要所要所に買った電飾やモールも使ってあるが、ほとんどが秋月 カレンを中心につくった手作りのクリスマス。
最初はうまく出来なかったが、輪をつなげて鎖状になるのを知って感動した秋月 カレンは、次に作るものはもっと綺麗に作ろう! と盛り上がり、色を交互に使うことを覚え、薄い色紙を遣って作る花も、最後には秋月 葵よりも上手に造れるまでになっていた。
「カレンちゃんが喜んでくれてよかった」
「うん! 本当に……」
ターキーローストにかぶりつく秋月 カレンの顔を、二人は眩しそうに見つめていた。
食事を終えると、エレンディラ・ノイマンが食事の皿を片付けている間に秋月 葵がゆっくりとケーキを切り分ける。マジパンは、もちろん秋月 カレンのところに並べられる。
「わぁ! サンタちゃんとトナカイちゃんだぁ!」
「ふふ、大事に食べてね」
エレンディラ・ノイマンが紅茶を入れ、人数分のティーカップに注ぐ。
甘く優しい香りが部屋いっぱいに広がる。秋月 カレンには、砂糖を2さじ入れ、差し出す。
「ふー、ふー」
「また来年も、みんな幸せに過ごせますように」
秋月 葵がそういいながら、祈るように呟くと、エレンディラ・ノイマンも同じく祈る。紅茶はいっぱいずつ分しかなかったので、そのあとはケーキを楽しんでいた。すると、急に秋月 カレンが立ち上がって二人からよく見える位置に立つ。
「カレンね、大好きなママたちのために、お歌をうたうの!」
にっこり笑う娘の姿に、二人のママは拍手でその歌声を待った。ハーフフェアリーの清らかな歌声が奏でるのは、地球のクリスマスキャロル。
二人は教えた覚えがなかったのだが、どうやら、自分で勉強して練習をしていたようだった。
歌い終えて、短いスカートのすそを持ち上げてぺこっとお辞儀をする。
「えへへ」
「とても上手よ、カレンちゃん」
「ウン。すっごく素敵だった!」
目じりに浮かぶ涙を拭いながら、2人のママと幼い娘のクリスマスパーティは、終わりを告げようとしていた。
*ワインと本気と*
その日、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が郵便屋さんから受け取ったのは、とても良い香りのするつつみと、お手紙だった。
宛名は、林田家一同の皆様へ。差出人は、ルーノ・アレエとニーフェ・アレエだった。
ぽてぽてと可愛らしい足音を立てて駆けていくのは、台所でクリスマスディナーの支度をして忙しいジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)のところ。
「こたちゃん、お手伝いありがとう。誰だったの?」
「ゆーびんやさんらおー。じにゃー、るーのしゃんとにーへしゃんからおてまみきたおー」
ん? と作業の手を止めて振り向けば、上品な箱と、それに添えられた手紙。開いてみると、中にはこう書かれていた。
『親愛なる林田家の皆様へ。
大変ご迷惑をおかけしたお返しには程遠いですが、とても珍しい紅茶を手に入れました。
今日この日に飲まれるのが相応しい品です。
どうか、皆様で楽しい聖夜をお過ごし下さい。
追伸。
この紅茶は、同封したもう一通の手紙にもありますが思いを届け、絆を深める紅茶です。
どうか、願いを込めながら飲んでください。
貴方達がまた来年も素敵なご家族であることを祈って私たちも飲ませていただきますね。
ルーノ・アレエ、ニーフェ・アレエより』
手紙を閉じたときには、緒方 章(おがた・あきら)が箱を開いてその中の手紙を読んでいた。
「ちょ、餅! なに勝手に見てやがりますか!」
「聖なる夜の紅茶か。これはまた珍しいものを見つけてきたもんだ」
「知ったかぶりしやがるなです。餅の癖に。ルーノ様が送ってくださった手紙なのですから、勝手に読まないで下さい。穢れます」
「な、穢れるとはどういう意味だこら!!」
「騒がしい。どうしたんだ? 喧嘩する家にサンタはこない……んだっけか? コタロー」
「さんたしゃんはよいこのおうちにくるのれすよー、あ、ねーたんねーたん!」
ため息交じりに、台所へと入ってきたのは林田 樹(はやしだ・いつき)だった。騒がしい2人ではなく、林田 コタローに問いかける。かえるのゆる族である林田 コタローが一生懸命に説明をすると、そうかそうか、とその緑色の柔らかな頭をなでてやる。
「なるほど。そんな由緒正しいお茶ならありがたく戴こう」
「では、食前に飲めるようにしたくいたしますね」
既にしたくのほとんどが終わっていたのかすぐさまティーセットを用意して居間へと向かう。
テーブルのセットも済まされてはいたが、静かな雰囲気の中で紅茶が注がれていく。
一人一杯分程度の量だったので、気持ち少なめについで、ジーナ・フロイラインも席に着いた。
「じゃ、みんなのむれすよ」
林田 コタローが乾杯のつもりなのか、カップを高々と持ち上げる。いつもなら笑いながら突っ込むところだが、今日の子のお茶はそうすることが相応しいように思えて、一同が同じようにカップを捧げた。
「こたは、るーのしゃんと、にーへしゃんと、じにゃと、あきと、ねーたんが、げんきになるよーにおねがいしますれす」
えっへん、と言いたげ言い放つと、林田 樹がくすくすと微笑んだ。
「おいおい、コタロー。そんないっぱいお願いしたら、紅茶もお願いをかなえるのが大変だろう?」
「うー、れもれも、こたはみんなげんきがいーのれす。みんなげんきらら、こたもげんきらお!」
「あはは、わかったわかった。じゃ、私もジーナ、アキラ、コタローと、贈り主の金銀の姉妹に幸あれ」
微笑みながら、林田 樹は願いを口にした。ジーナ・フロイラインと緒方 章は互いににらみ合いながら口を開いた。
「ワタシも、こたちゃんと、樹様とついでに餅も殴り害があるくらいに元気でいやがりますように」
「コタ君と樹ちゃんと、カラクリ娘も解体し甲斐があるくらいに元気でいやがりますように」
「「「「かんぱーい!」」」」
紅茶での乾杯を川切りに、林田家のクリスマスパーティは始まった。ジーナ・フロイラインが腕によりをかけた料理に舌鼓を打っていると、林田 コタローが大きな靴下を抱きかかえて、ソファに座りこんだ。そのとなりに、林田 樹も座る。窓側におかれたソファの上で、わくわくした様子で窓の外を見つめていた。
「ねーたんねーたん、さんたしゃんはいつくるのれすかー?」
「大丈夫。コタローはいい子だから、必ず来るよ」
「たのしみれすー」
そうした会話を、何度も何度も繰り返していると、林田 コタローはおなかいっぱいだったからというのも手伝って、静かに寝息を立て始めた。
手から離れた靴下にこっそりとプレゼントの箱を入れると、すぐに林田 コタローの手に抱えさせる。寝ぼけているのか、ぎゅうっとにぎって、これ以降はとても手放しそうになかった。
「親の気持ちというのは、こういうものなのだろうな」
柔らかな笑みを浮かべながら、ブランケットを林田 コタローの肩にかけてやると、囁くような声でジーナ・フロイラインが微笑みかけた。
「やっぱり寝ちゃいましたね」
「ああ、おかげでサンタ役に苦労しなくて住んだ」
「ワタシ、片付けしたらクリスマスプディング持ってきますね」
「ああ、頼む」
その背中を見送って、ゆっくりとした寝息に合わせて林田 コタローの背中をなでてやる。すると、今度は耳に息がかかるくらいの近さで緒方 章が囁きかけてきた。
「ね、樹ちゃん」
「アキラか。どうした?」
「正直に答えて欲しいんだ……僕のこと、どう思ってる?」
一瞬ぽかん、とした様子の林田 樹はうーん、としばらく悩んでから口を開いた。隣の優しい寝息を乱さぬ程度の大きさで声を発する。
「お前は『出来の悪い弟』だな。ジーナが『元気な妹』で、コタローは『娘』だな」
「僕は……樹ちゃんに男として意識してもらいたいんだ」
「……え、あ、いや……冗談だろ? 私はそれは冗談だと思っているぞ!?」
急に言われたことに驚くと、口元に人差し指を押し当てられる。その行動の意味が、隣にいる『娘』が起きてしまうかも知れないという意味だと悟り、身体を起こして緒方 章のほうに身を寄せる。
「ふざけたような口調でいつも言っているから」
「気持ちはずっと変わらないよ。樹ちゃん、僕の妻になってくれない?」
「な、そ、そんなこと!」
「しーっ! コタ君が起きちゃうよ。それとも……口を塞いじゃおうか、ね?」
ぎし、ソファが音を立てて、緒方 章の顔が林田 樹の顔に近づいていく。
ゴイイイィン
クリスマスプディングの乗ったシルバートレイが、緒方 章の頭に乗っかる(というか直撃する)。幸い、クリスマスプディングは無事だった。
「ナンカヤナヨカンハシテイタンダ」
「ジーナ、助かった」
「いいんです。樹様。まったく、この餅ときたら油断もすきもあったもんじゃない……樹様、あちらでワインをあけましょう? 餅抜きで」
「って、こら! お前は酒乱だろうが!」
「「しーっ」」
2人からそういわれて、緒方 章は押し黙った。その2人はにこやかな表情でテーブルに戻っていく。
緒方 章はずり落ちてしまったブランケットを林田 コタローにかけなおしてやると、テーブルへと戻った。既にワイン一口目でへろへろになっているジーナ・フロイラインの姿に、緒方 章はため息をついた、
「まったく、ふだんしっかりしてるくせに酒だけはダメなんだから……」
「アキラ、我々の介抱は任せたぞ?」
「は? なに言ってるの樹ちゃん」
「医術の心得はあるだろう?」
「や、あのね……」
「つべこべ言うな、やれ」
妖艶な笑みを浮かべる林田 樹の目も、既に酒が入っていた。その眼差しに負けて、緒方 章は頷くしかなかった。
いつの間にか鋳込んだのかわからない大量のワインが、一晩のうちになくなったのだが、林田 コタローはそんなことよりも知らない間に靴下の中に入っていたプレゼントに夢中になっていた。
寝不足だという緒方 章にさんざん見せつけた後は、大好きな二人に見せに行こう。そう思い、二人の部屋をノックしようとしていた。
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