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Tea at holy night

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Tea at holy night
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リアクション

 微笑ましい様子を眺めていたのは、七姫 芹伽(ななき・せりか)だった。仲間たちが楽しげにおなべを囲んだりさけたり談笑している中、手の中には機晶姫姉妹が配っていたお茶の葉がある。
 テーブルには、ティーセットがいくつも置かれている。このお茶を飲むために、誰でも入れられるようにしてあるのだ。

 七姫 芹伽ため息をついた。思い人と飲めば、絆を深められるだろうと思って無理を押して二つもらったのだ。だが、今このお祭り騒ぎの中にいる思い人に声をかける勇気がない。

「や、芹。一人でどうしたの?」

 そういって、耳に触れてくるやさしい指。聞き覚えのある声に振り向くと、夕月 綾夜(ゆづき・あや)は赤い瞳を細めて微笑んでいた。

「そのピアス、つけてくれてるんだね。嬉しいよ」
「あの、あ、え?」

 その後ろには、ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)がにっこり笑って立っていた。どうやら、彼女が差し向けてくれたらしい。
 小さな勇気をもらって、七姫 芹伽はゆっくりと呼吸をしてから口を開いた。

「あの……綾夜……この紅茶、一緒に飲んでくれない?」
「紅茶を?」
「私、貴方が好きなの! 貴方を愛して、貴方だけを追って、このパラミタへ来たの! そのためだけに耀夜と契約したの! だから……少しでも、絆を深めたくて……」

 小首をかしげる夕月 綾夜に、七姫 芹伽は一気にまくし立てるように喋った。夕月 綾夜の背中を、ルナティエール・玲姫・セレティがぽん、と押した。
 押されて、驚きを隠せないままに赤い瞳に涙を浮かべている女性の手をとった。

「……芹」
「は、はい!」
「さびしい思いをさせていて、ごめんね。今まで全く気がつかなかった」
「綾夜……」
「僕も芹のこと、女性として好ましく思っているよ。ただ、真剣に考える時間が欲しい。真剣な想いに対して、大切に考えたいんだ。それでもいいかな」
「うん……ありがとう。いいの、気にしないで」
「それじゃ、一緒に紅茶を飲もう。そして、君の周りの絆も深められますように」
「私の、周り?」
「僕のためだけに来たからといって、耀夜との絆はただパラミタにくるためだけのものじゃないはずだよ。芹が、来年も絆を大事に出来る素敵な女性でありますようにと、僕は祈るよ」
「ありがとう……私のために願ってくれて……」

 顔を真っ赤にして、その言葉を受けていると夕月 綾夜も頬を赤らめる。

 2人の後押しをしたルナティエール・玲姫・セレティは、少し遠巻きに眺めながら胸をなでおろした。セディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)が肩をぽん、と叩いた。振り向くこともなく、その近づいた雰囲気だけで愛しい相手だと分かり、ルナティエール・玲姫・セレティは微笑んだ。

「俺たちも、紅茶を飲もうか。セディ」
「ああ」

 適当なソファに腰掛け、ティーカップで乾杯をするとゆっくりと甘い香りを楽しむ。ふと、思い出したようにルナティエール・玲姫・セレティが口を開いた。

「そういえば、色々ばたばたしていてこうしてのんびりするのは、久しぶりだな」
「ああ。これからも、きっとたくさんのことがある」

 しみじみとしたように、セディ・クロス・ユグドラドが呟いた。すると、カップをローテーブルにおいて、床にひざをついてルナティエール・玲姫・セレティの手をとった。

「私は、例えどんなことがあろうとも私はルナを護り支え続ける。私に夢を、目標を与えてくれたお前を、いや。お前となら、この途方もない目標も達成できる」

 にっこりと微笑む褐色の表情に、ルナティエール・玲姫・セレティも微笑み返す。

 思い起こせば、強引な契約から、婚約。気がつけば結婚までしていた。めまぐるしい時間の流れだった。

「俺も、セディのおかげで変われたよ。二人がいたから変われたんだ。だから、この紅茶に願うよ。来年もまた、セディやみんなと笑いあえますように、って」
「愛しき我が姫、ルナティエール。来年も、私がお前のたてとなり支えとなれるよう。お前を取り巻くものがいつも笑顔であれるよう、私も願いを込めよう」

 頬を染めあい、笑いあう夫婦はもう一度カップで乾杯を交わすと紅茶を飲み干した。


 不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)は、鍋の支度ができたときいて嬉々としてパーティをしている談話室へと戻った。プレゼントに、可愛らしいマスコットを見つけてそれを今の今まで包んでいたのだ。

「はぁ、ちーちゃん喜んでくれるかなぁ」

 最近濃い中になったばかりのおまけ小冊子 『デローンの秘密』を思い浮かべ、不束 奏戯は桃色のため息をついた。

『わぁ、素敵なプレゼント!』
『あたしのために?』
『それじゃ……あたしのプレゼントは……あたし自身を上げなきゃ、釣り合わないよ、ね?』
「なんつってなんつってなんつって」

 脳内妄想を爆発させながら、(といってもそれ以上は妄想しようがないほどに経験はないのだが)用意されたという鍋の前に座る。おいしそうなチゲ鍋だ。肉も魚もごった煮ではあるが、良いだしが出ていそうだ。

「うんうん、どれどれ……」
「あ、奏ちゃん! あたしのおなべはこっちだよ☆」

 にっこりと笑う恋人の言葉に、おや、と視線を動かす。それはどう見ても、ハロウィンのディスプレイ(ぜったい売れ残り)みたいな魔女の鍋(何故か土鍋だが)に見えた。

「ちーちゃんの、手作り……あの、緑色の……?」
「うん。ヘルシーっぽくておいしそうでしょう?」

 花のように微笑む恋人の言葉に、男不束 奏戯はそちらに箸を向けた。まるでスライムを掴むかのようなどろりとした液体は、肉団子?のようなものを掴むと、ぬっとりとした透明な粘っこい糸が引いていた。

「えへへ、最初の味見だよ。みんな、奏ちゃんに遠慮して手をつけなかったんだ」
「うん」

 顔が引きつっているのを、何とか抑えようとしながらとりざらに肉団子を乗せる。すると、そいつはうごめいて箸に食らいついた。そのまま腕を伝って、無理やり口の中に入っていこうとする。

 明らかに、生きている!?

 その場で遠巻きに眺めていた一同の気持ちは一つになっていた。
 だが、愛さえあれば乗り越えられるを信条に生きていこうと誓った脱★不遇宣言をした不束 奏戯はその飛び込んでくる何者か(やけにぬるぬるとして粘っこく、喉に絡みつく生臭さのある何か)をかみ締め、飲み込んだ。
 すぐさま、体中が拒絶反応を起こして痙攣が始まる。それでも、頬をわずかに染めたおまけ小冊子 『デローンの秘密』は顔をのぞきこんで問いかける。

「どうかな? 奏ちゃん!」
「……ちーちゃんの料理は、世界一……だよ★」
「わぁ、嬉しい、嬉しいよ! 奏ちゃん!!」

 ぎゅ、とおまけ小冊子 『デローンの秘密』が飛びついて喜ぶと、鍋がひっくり返ってしまう。それからかばおうと、必死に痙攣する身体に鞭を打って愛する彼女に引っかからないようにし、蹴り上げる。あさっての方向に飛んでいった生態兵器は、ひとまず目の前から消えた。
 薄れゆく意識の中で、不束 奏戯は喜びをかみ締めていた。
 それを、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)はとても嬉しそうに眺めていた。

「ふふふ、幸せそうですね。オルフェはその幸せな時間を邪魔しないようにするのですよ」
「いいでねーワタシは食事が出来ないから……しょんぼり」

 ゆる族のミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)はため息をついた。だが、オルフェリア・クレインナーがぎゅうっと抱きしめて、ポケットの中から色とりどりのリボンを取出しした。

「もふもふのミリィさんを、もっとかわいくして楽しくしてあげるですね」
「えへへ、うれしいなぁ」

 赤いリボンと緑のリボンをくくりつけ、ヤドリギや鈴を取り付けてニコニコと楽しんでいると、先ほどまで傍にいた愛しい人の姿が見あたらない。

「セルマさん!? あうう、夢中になってたら見失っちゃったァ……」
「ルーマならあっちだよ」

 指差した方向には、困った表情で座り込むセルマ・アリスの姿。あ、と声を出すとぽんぽん、とミリィ・アメアラは肩を叩いた。

「いってらっしゃい。オルフェリアさん、ルーマのこと、よろしくお願いしますねー」

 表情は伺えないがとても優しい声色に、オルフェリア・クレインナーは頬を赤らめる。もう一度だけぎゅっと抱きしめると、「また、あとでね!」と言葉を残して向かった。
 その背中を、中の人は感慨深げに見つめていたのだった。



「はぁ、正悟に怒られるんだろうなぁ」

 到着して、すぐに倒れてしまった如月 正悟を見舞っていたセルマ・アリス(せるま・ありす)は、申し訳なさそうな顔で額の上のタオルを取り替えてやる。
 それをみて、如月 正悟にひざを貸しているルクレーシャ・オルグレンはにっこりと微笑む。

「大丈夫ですよ」
「だけど、俺がバイト休んだりしたからこんなことに……はぁ……リア充爆発しろって怒られそうだ」
「爆発したいんですか?」
「あ、いや……俺が爆発したら……悲しむ人がいるから、ね」

 ぼっと顔を真っ赤にしたセルマ・アリスにルクレーシャ・オルグレンはくすくすと笑って後ろを指差す。

「その困るお方が、来られたみたいですよ?」
「え、あ! オルフェリアさん!?」
「セルマさん……爆発しちゃうんですか?」

 小首をかしげながら見つめる金色の瞳が、わずかに潤んでいた。違うということ、必死になって伝えているとオルフェリア・クレインナーは思い出したように手をを叩きテーブルに向かうと、ティーセットをもって戻ってきた。

「あの、一緒に紅茶を飲んで欲しいのです……この紅茶は、一緒に飲み交わしたものたちが、絆を深められるそうなのです」

 赤く染まった頬で、そう呟くかわいい恋人に、セルマ・アリスはにっこり微笑んだ。

「ええ。それじゃ、向こうのソファに行きましょう。静かに飲めそうですから……ええと、正悟のことお願いします」 
「ええ。どうぞごゆっくり」

 にっこり笑ったルクレーシャ・オルグレンに見送られて、二人は暖炉の前のソファに腰掛けた。さりげなくリードしているようにも見えたが、セルマ・アリスの心臓は今にも爆発しそうだった。ティーセットを置いて、先に腰を落ち着けると、オルフェリア・クレインナーは一言断ってからソファにつく。

「隣、お邪魔しますね」
「また、来年もよろしくお願いしますね」
「はい。来年も……その先も、できれば」

 恥ずかしそうに睫を伏せたオルフェリア・クレインナーが愛おしくなって、肩に触れようと手を伸ばす。だが、だが、そこまでして大丈夫なのか! 思わず息が荒くなる。心臓は止まってしまいそうだった。
 わずかに、オルフェリア・クレインナーが傾き、セルマ・アリスに肩に肩を触れさせた。

 その柔らかく暖かな感触を得て、今度はすっと肩に手を回した。心臓はまだバクバクしており、緊張でそのまま固まってしまいそうだったが、伝えたい言葉は伝えられそうだった。

「オルフェリアさんが隣にいてくれる。それだけで、今は幸せです」
「オルフェも、オルフェも幸せですっ!」

 もっと強く抱きしめてもらえるように、セルマ・アリスの胸に擦り寄った。顔が熱いのは、きっと暖炉の熱のせいだろうと思い、二人は目を閉じて幸せをかみ締めた。



「リア充爆発しやがれええええええ!!」
「あ、目が覚めました? 正悟さん」

 叫びながら意識を取り戻した如月 正悟が目を開くとそこにいたのは、ルクレーシャ・オルグレンの姿。というか、その胸。

「お? な、なんだ?」
「よかった。あのまま倒れてしまったから心配していたのですよ?」

 ようやく今の自分の状況を把握して、如月 正悟は起き上がろうとするが、ぼふ、とルクレーシャ・オルグレンの下乳に顔面で激突する。

「動いちゃメーですよ。ルクレーシャ・オルグレンは正悟さんの傍を離れないのです。だから、安心してお休み下さいませ」
「……あ、ありが、とうな……」

 胸に顔を思わずうずめてしまった事実と、この柔らかな腿に頭を乗せている状況で、顔が真っ赤になったがこれ以上身体を動かすことはできない。
 心音が早まっていくのを感じながらも、目を閉じた。

 がんばった自分への、サンタさんからのごほうびなのだろうと思うことにした。

「あ、そうだセルマさんから伝言です」
「伝言?」
「今俺が爆発したら、悲しむ人がいるから、だそうです」

 その言葉を、いつもの状態で聞いたら一発殴りに行っているのだが、今日は我慢してやろうと思った。

 明日以降、バイトで顔を合わせたらぶん殴ってやる。そんなことを胸に誓った。
 あ、いや、目の真にある殺人的な胸ではなく、自分の胸に。







 まったりとした時間が流れる中で、天海 護(あまみ・まもる)は聖書を開き、賛美歌を口ずさんでいた。静謐な空気が、その部屋には満ちていた。
 恋人記念日、としてすっかり扱われているクリスマスではあるが、今日持ち込まれたこの紅茶は、その恋人記念日に拍車をかけるためのになってしまった。

「でも、きっと恋人のためじゃなくて遠く離れてしまった家族のこととか、祈るためのものなんだろうな」

 紅茶にまつわる物語を、少しだけ調べてみた。
 本当はお姫様と騎士様は兄弟だ、という節もあった。真実はわからないし、信じる人にとってそれが真実になる。
 だから、間違っているなんてことは言えないけれど、家族を思うために、友を思うために飲むのは勿論間違いじゃないはずだ。

 遠巻きに眺めながら、祈りの言葉を口にしながら紅茶を口に含む。

「聖なる夜に、皆に、どうか神のご加護があらんことを」

 そう、ささやかな時間を過ごしていると、今度は天海 北斗(あまみ・ほくと)の悲鳴が響き渡る。
 どうやら、不束 奏戯が投げた鍋が飛んできているようだった。

「うわあああああ!!!! かなぴーのバカああ!! こっち飛んでく……うわああああああああああああああああああああ!!!!!」

 最初の悲鳴とは打って変わって、耳を劈くような悲鳴に一同が談話室の一番広い部屋に集まる。緑色の鍋を頭から被り、中身である肉団子? や、キャベツ? まみれになった彼は、まるでそのまま溶け出しているかのような容貌でそこに立っていた。
 鍋の中身の色は緑色だったのにも関わらず、どす黒くなった液体に、紫色のオーラを纏っている。
 邪悪としか思えない何かの物質にまみれて、天海 北斗はそのまま倒れこんだ。

 にゅちゃあ……という不気味な粘音を立てて、すぐさま立ち上がる。だが、目と思わしきところは赤く光り、それは既に天海 北斗ではない何者かのようだった。

「なになに。騒がしいんだけどー」

 鏡 氷雨がため息混じりにその場に入ってくると、天海 北斗の姿を見るなり、あーあ、とため息をついた。

「まったく、あんな鍋作るからだよ……あ、そうだ」

 と言って取り出したのは、人口雪を吹き付けるためのスプレー。それをどろどろの何かに吹き付ける。真っ白に固まっていくそのどろどろが、動きを鈍くしてようやく停止する。

「あとでちゃんと片付けるんだよー」

 他人事のようにそういって、からのスプレー缶を放り投げ、味が比較的まともなチゲ鍋を食べるためにレンゲを握った。

 天海 北斗はこのときのことを後にこう語る。

「リア充爆発しろ、この一言に尽きますよ」