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「少女を誘拐しようとは不届き千万許すわけには行かない。制裁を銜えてやる!」
 ドラゴンライダーの御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は剣を取った。
「バイクに乗ってる奴らをかたっぱなしから狙うぞ。風花とアルスは遠距離で。俺はアストレイアと共に突っ込んでやるぜ」
「私の紫音をやらせはしません」
 強化人間の綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)は魔道銃を手にし、
「わららが貴公らを裁いてやろう」
 魔道書のアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は、肩慣らしを言わんばかりだ。
「アストレイア」
「我、魔鎧となりて我が主を護らん」
 魔鎧のアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は頷き、紫音に換装した。
 白銀のロングコートを纏った紫音は、剣を向け、言った。
「お前ら尻尾を巻いて逃げた方が身のためだぜ! と言っても引かないんだろうな、仕方がない手足の一、二本は覚悟してもらうぜ!」
「ヒャッハー! 邪魔するんじゃねぇぇぇぇ!」
 パラ実生にとっては、まさに邪魔なのだ。
 それも大きな壁で、大きな山で、大きな試練で。
 そんなとてつもない邪魔な障害物。
 力の差は明らかだった。
 風花は紫音に愚直に向かうパラ実生のバイクのタイヤ目掛けて、引き金を引いた。
「アアアアッ!?」
 情けない声をあげながら、制御の利かなくなったバイクを必死に運転するパラ実生。
 そこにアルスの天のいかづちが追い討ちにかかる。
 頭上から降り注いだ一撃にハンドルを握ったままのパラ実生はバイクと一緒に電撃を浴び、骨の髄まで痺れて倒れた。
「クソガァァァ、反則だろぉぉぉぉ!?」
 間一髪で飛び降りた後ろに同乗していたパラ実生がそう声を上げると、目の前には既に紫音が立っていた。
「だから言ったろ? 逃げた方が身のためだって」
「ヒィィィ!? タンマ、タンマッ!」
 それがあまりにも哀れ過ぎて、紫音は剣を使うまでもなく回し蹴り一撃でパラ実生を気絶だせた。
(……主ッ!)
 もう1台、2人のパラ実生が紫音の死角からボーガンで攻撃を仕掛けてきたが、魔鎧となったアストレイアの声をあり、コートを翻してその攻撃を防いだ。
「私の紫音に手を出さないでって、言っているのに!」
 風花は二度引き金を引き、敵の武器とタイヤを無力化した。
「哀れじゃのう。数で押してもこの程度じゃからな」
「ウルセェェェェェ!」
 倒れ際に苦し紛れで放ったアーミーショットガンがアルスに向かったが、炎の精霊がそれらを全て燃やし、溶かしつくした。
 レベルの差を痛感したのだろう。
 パラ実生は自分達のことを棚上げに言い訳を始めた。
「おっけ、わかった、わかった! だから弱い者苛めはやめようぜ、兄弟!」
「そうそう、苛めはかっこ悪いぜ、な、な?」
「はっはっはっ……面白いことを言うな!」
 笑顔で大笑いする紫音を見て、ホッとしたパラ実生達だが、
「なんて言う訳……ないだろぉ!」
「ンギャーーーーー!?」
「ヒィィィィ!?」
 紫音に足蹴にされ続けるのであった。

 パラ実生だけではやはり劣勢なのは明らかだった。
 だが、そんな彼らを目くらましとしてうまく利用した者達が、シルキスに迫っていた。



「静麻お兄ちゃんのケチンボー。いいもんいいもん、ぐれてパラ実生になるんだもん!」
 剣の花嫁、閃崎 魅音(せんざき・みおん)は頬を膨らませながらそう言った。
 パートナーであるテクノクラート、閃崎 静麻(せんざき・しずま)に置いてきぼりをくらったためだ。
(魅音が反抗期に入りましたか。発作みたいなものなので適当に付き合って……パラ実とはいきなりぶっ飛びましたね)
 魅音に同行した機晶姫、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)は相変わらずのことに苦笑するが、これはこれでいい機会だと思っていた。
(ですが契約者相手の本気の戦いはそう機会はありませんのでよい機会です)
 兜をしっかり被り、素性が分りにくい状態を保ちながら、気を引き締めた。
 同じく同行している機晶姫のクァイトス・サンダーボルト(くぁいとす・さんだーぼると)は何も言わぬが、共に戦ってくれそうだった。
「普通に戦ったら負けそうだし、悪役らしくじわじわ痛めるんだもん」
 むふーと気合を入れる魅音は、戦闘の間隙を縫ってシルキス達に近づいた。
 氷術とアシッドミストを組み合わせた、冷たい氷の霧をシルキスの周りに一瞬で展開した。
 しかし、それに素早く対応する者がいた。
 メイガスの神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)だ。
 ファイアストームで氷の霧を一瞬で溶かしつくした。
「何者ですか!?」
「バレちゃった!? もっかいやるもん!」
「貴方達はパラ実生じゃない……? なら、裏切りですか!?」
「違うもん! 悪役だもん!」
 魅音は再び氷術とアシッドミストを展開するが、
「何にせよ、女の子を誘拐して、見世物にしようとするなんて……許せません――ッ! お仕置きですっ、ファイアストーム!!」
 互いのスキルを打ち消しあい、辺りは水蒸気の霧が発生した。
 その中を、クリュティとクァイトスが駆け抜ける。
 クリュティは轟雷閃で槍と盾に電撃を纏い、加速ブースター全開で体当たり攻撃を一気に仕掛けた。
「ふっ!」
 シャンバラ人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、クリュティの攻撃をディフェンスシフトで受け止めた。
「セレン、そっちはお願い!」
「了解よ! じゃ、ちょっと行ってくるね、シルキス」
「そ、そんな格好でですか?」
 シルキスは思わず、ソルジャーのセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)を呼び止めた。
 彼女は水着姿であり、それはどうしても戦闘向きだとは思わなかった。
「こっちの方が動きやすいからー」
「気にしないで、シルキス。その姿はセレンのアイデンティティみたいなものだから」
「は、はあ……」
「そうだ、元気になって夏になったらあたしが似合う水着選んであげる。じゃあね」
 そう笑顔で言って、クァイトスに向かった。
 クァイトスはメモリープロジェクターを利用して上空に飛び、爆薬の代わりに大量の水を搭載したミサイルポットのミサイルを全弾発射した。
 セレンフィリティはそれを着弾する前に銃で撃ち落す。
 いくつか落としきれなかったミサイルが着弾すると、水蒸気爆発を起こしたが、シルキスに近いものは1つもなかった。
 セレアナと戦闘状態にあるクリュティは、脚部装甲にあるバンカーを利用し、急停止した。
 それに対応できず前に突っ込む形となったセレアナを、鋭角な曲がりで避け、シルキスの元へ蹴り飛ばした。
 が、その前に飛んできたセレアナを有栖が受け止めた。
「大丈夫ですか?」
 有栖はパワーブレスをセレアナにかけ、戦闘の補助をした。
「私があなた達の補助をします。だから前衛をお願いします」
 不安そうに見つめるシルキスと目が合った。
「不安なのね。人間、不安がらない人はいないわ。でも大丈夫よ。不安を感じるうちは、人は簡単には死んだりしないから」
 セレアナはそう言うと、再びクリュティと対峙した。
 ランスでの突きに、今度はクリュティがディフェンスシフトで防御に撤する番だった。
 ミサイルを撃ち終えたクァイトスは、スナイパーライフルを構えた。
 セレンフィリティもスプレーショットで対抗するが、見下ろして撃つのと見上げて撃つのでは、圧倒的に不利だった。
「サンダーブラスト!」
 有栖が再び援護に入り、下がり始めたセレンフィリティの体勢を立て直す時間稼ぎをした。
 シルキスは未だ、不安がった瞳をしていた。
 だからセレンフィリティはもう一度笑って言ってやった。
「いつもこんな連中と戦ってるけど、怖くないと思った事は一度もない。でも、戦うより怖いのは逃げること、逃げたらずーっと逃げっぱなしだよ」
「……逃げっぱなし……ですか」
「うん、そうだよ!」
「もう一度前に出て頂けますか!? また氷術がきそうです」
「了解! じゃ、行くよ!」
 セレンフィリティは一気に駆け、クァイトスの死角である真下に潜り込んでは射撃を繰り返した。
 これには回避行動を取るので精一杯だった。
「もっかい氷術いく、よ……、ふぁー、不良になる為に夜更かししたらおねむになっちゃった……。もうだめー、お休みなさーい……むにゅ……」
 戦いの終わりは、唐突だった。
 魅音が寝てしまうと、クリュティは方向転換して、彼女を拾って引き上げだした。
 元々魅音についてきただけなので、彼女が戦わないなら引くだけであり、それはクァイトスも同じだった。
 プロジェクター展開したまま退却し、まるで嵐のように過ぎ去った。
「な、何だったんでしょうか……?」
「さあ?」
「とにかく、シルキスが無事で何よりです」
 即席で戦い抜いた3人は、守り抜いたことにほっと一息ついていた。

「ここにいたのか。……どうしたんだ? まるで大規模な戦闘をしてきたみたいで」
 その帰り道、戻った静麻は3人を見て、そんな印象を受けていた。