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 銀色に輝くキッチンは、なんだか「ザ・料理人!!」と言った雰囲気で、いかにもプロ仕様の高級食材が似合いそうである。
 しかし、今、その銀色に輝く空間には、甘い香りが漂い、アラザンやチョコレートスプレーといった色とりどりのチョコレート用の飾りや、ハートや星の形の抜き型、そしてラッピング用のピンクのボックスや赤いリボンの置かれたテーブルがあり、そしてなにより、女の子たちの楽しそうなきゃっきゃっとはしゃぐ声で溢れている。

 湯せんしたチョコレートで洋服が汚れないように、とキッチンの入り口にたくさんのエプロンがかかっていて、好きなデザインのものを選ばせてくれるのも、ラズィーヤの心遣いのひとつだろう。もちろん、お持ち帰り可。
 しかし、たくさんの可愛いものを前にしたら、迷ってしまうのが女の子のサガ。そしてもちろん姫野 香苗(ひめの・かなえ)もエプロンのかかったハンガーを出してはしまい、また別のモノを出しては見る、を繰り返していた。
「うーん。このメイドさんっぽいエプロンも可愛いし……。でもこっちの花柄エプロンはロリィタ服に超似合うよね……!」
「香苗ちゃんっ!なに迷ってるのー?なぁんて、あたしもどれにしようか決められないんだけどさっ」
 同じようにエプロン選びをしていた秋月 葵(あきづき・あおい)が、つつつ、と香苗のそばにやってきた。葵は水色とピンクのストライプのフリルエプロンと、白地に赤のステッチ、胸元に大きなリボンのついたエプロンを自分の身体に交互に当てて見せた。
「ねぇねぇ、どっちが似合うと思うっ?」
 香苗はうーん……と見比べて
「どっちも可愛いし、似合うけどぉ……。そうだなぁ……」
 人のモノでも、やはり迷ってしまうらしい。しかし、そこに横からすっと伸びる手が。
「ストライプのほうが、いいと思うよ」
 桐生 円(きりゅう・まどか)はストライプのエプロンを手に取ると、もう一度、葵の身体に当ててみる。
「うん。こっちのほうがいいね」
「ほんと?……香苗ちゃんもそう思う?」
「……うん。可愛いと思うよ」
「香苗くんは、こっちのにしなよ」
 円はそう言うと、香苗の持っていたエプロンのうち、メイドさんっぽい白いエプロンを取ると、香苗の身体に当てた。
「あ、ありがとうっ」
 円は迷いのない動作で、黒いシンプルなエプロンを自分のために取った。
「二人とも、チョコレート作るんだろ。今日は、歩ちゃんが教えてくれるんだ。ボクも教えてもらうし、みんなで作ろうよ」
 香苗と葵は顔を見合わせると、笑顔になって円の後についていった。

 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)はみんなのために、どんなチョコレートを作ろうかと、考えてきたレシピと、キッチンの中の材料を眺めていた。
 良質のカカオやフルーツの香り、愛らしい見た目のチョコレート飾りを見ているだけで、歩の料理好きの心がうずいて、早くたくさんのお菓子を作りたいな!という気持ちになってくる。
「あゆむー!またせたっ」
 ちび亜璃珠がシャーロットの手を引っ張りながら、ととと、と走ってきた。
「あっ。走っちゃダメですよ」
 小夜子が後から、たぶんみんなの分なのだろう、エプロンを数枚抱えながら追いかけてくるのが見える。亜璃珠は円となにか話しながら歩いてくる。
「なんだか、お菓子作りを教えてもらえると伺ったもので。よろしくお願いします」
 シャーロットは礼儀正しく自己紹介をして、歩に手を差し出した。シャーロットの凛とした佇まいに、歩はどぎまぎしながらその手をそっと握った。
「あの、はい!よろしくお願いします」
「歩ちゃん。今日はどんなチョコレートを作るつもりなの〜?あたしはトリュフが作りたいんだっ」
 葵がいつの間にか、歩の隣にちょこんと立って言った。
「もちろん。大丈夫だよっ。トリュフも作ろうねっ」
「歩おねーさま。私もっ。私もっ!」
 葵の横で理沙がぴょんぴょんととび跳ねている。
「あ、理沙ちゃんも。もちろん一緒に作ろうねっ」
 歩がそう答えて周りを見ると、なんだかけっこうな人数が歩のところに集まってきている。なんだか、大変なことになりそうな予感だけど……。
「よし!じゃあ、ここにあるレシピの中から、作りたいものを選んで。必要な材料を取りに行こう♪」
 歩は用意したレシピのメモを広げた。

「うん、やっぱりコレが一番似合うかな。日奈々、可愛いよ」
冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)のために見立てたエプロンのリボンを結んであげた。薄いピンクに控えめなレースのついたエプロンは、色白の日奈々によく似合っている。千百合は満足げにうなずいた。
「……千百合ちゃん、ありがとう……ですぅ」
 日奈々は千百合の腰にそっと抱きつくように腕を伸ばした。その腕を千百合はそっと受け止める。日奈々は千百合のエプロンにそっと指を這わせて、その感触を確かめる。
日奈々は目が見えないが、その分、他の感覚に優れているので、普段困ることはない。それでも、千百合のことであれば、毎分毎秒、どんなことでもより近い場所から、感じ取っていたいと願う。
「千百合ちゃんのは……デニムのエプロン」
 日奈々は千百合の大きな胸にぽふっと顔を埋める。千百合はそんな日奈々の気持ちも受け止めながら、優しいまなざしを向け、日奈々の髪を撫でた。
「日奈々、今日はがんばろうね。日奈々からのチョコ、楽しみにしてるから」
「チョコ……なに作るかは……ナイショ、ね」
「うん。あたしも日奈々に喜んでもらえるように、がんばるね!」
「はい。私……がんばる、ですぅ……」
 日奈々が顔を上げてにっこりと笑うと、千百合もその笑顔に心が洗われる気分になった。千百合は日奈々の手を取ると、キッチンの空いている作業台に向かって歩き出した。
「ここ、空いてますか?」
そんな二人の深い愛情を「羨ましいな」と思いながら見つめていたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、まさか話しかけられるとは思っていなかったので、慌ててしまった。千百合は隣の人のいない作業台を指している。
「ぁっ!はい。あの、いいよ!大丈夫だよ!」
 ミーナの前で手際よくチョコレートの湯せんの温度を確認していた菅野 葉月(すがの・はづき)も顔をあげた。
「そこは誰も使っていないと思いますよ」
 葉月が、丁寧に、感じの良い笑顔を向けると、日奈々と千百合も丁寧に礼を述べて、頭を下げた。他の人に感じの良い葉月の、そういうところがステキだなと思う反面、こんなシーンでもついつい胸がきゅっと苦しくなる感覚を、ミーナは自分の気持ちとして感じていた。
「ミーナ、チョコレートは刻めた?」
 葉月は湯せんの温度が変わりすぎないように、火を少し弱め、ミーナのほうへと周りこんできた。
「まだ、ちょっと粗いけど、まあ溶けるかな。でも、このへんはもうちょっと……」
 葉月はミーナの後ろから、ふわりと腕を回した。小さな手ごと包丁を握ると、チョコレートのまだ大き目の欠片を刻みはじめた。
「ほら、左手。ちゃんとしないと手を切るよ」
「う、うんっ。大丈夫だよっ!」
 ミーナは思わずぱっと葉月の顔を見た。思ったより近距離に葉月がいて、ミーナは目を逸らし、俯いた。