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大規模模擬戦

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大規模模擬戦

リアクション



4
 上空の部隊は基地に近づき始める。3000メートルの高度を飛び対空ミサイルの有効射程範囲から逃れている。ただ、これだとコームラントの大型ビームキャンでも地上に届かないので対空ミサイルを破壊する地上部隊の動きを待ちながら高高度での機動戦を続けていた。
 
「【リーディッシュ小隊】全隊に告げる。我らはこのまま前進。約15秒後に敵地上部隊と接近する」
 ゆかりがそう全小隊員に告げる。
(模擬戦とはいえ、任官後初めての部隊指揮だ……ここで手抜かりがあっては……)
「水原少尉、気負うな。落ち着いていけ」
 そんなゆかりを見ぬいたのかクレアが声をかける。
「はい」
「カーリー、大丈夫だよ」
 ゆかりのパートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が囁く。
「うん。ありがと」
 そしてゆかりは深呼吸すると指揮を開始した。
「歩兵分隊、斥候。10分後に帰還」
『了解』
 ジェイコブとセレンフィリティが答える。
「それにしてもセレンとセレアナはいろんな意味でデンジャラスだな」
 水着姿の二人を見てジェイコブがつぶやく。
「よし、戦車発見! まだ気づかれてない。手榴弾を転がせ」
 ジェイコブの指示のもと手榴弾が転がされ戦車のキャタピラを破壊する。
 白兵戦を行う兵士にとって、手榴弾は頼もしい味方と言えた。威力がそこそこありなにより音がしない。
 防御力の低い歩兵にとっては、敵の攻撃を受けないことが重要になる。そのため隠密性の高い手榴弾は最高の武器であった。
「真夜中の森の中、しかも、視界不良、となれば、歩兵の本領を発揮できるまたとない環境だな。存分に暴れてみせるぜ!」
「【ニーベルンゲン】。ポイント5・4・8。射撃願います」
 フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)が貸し出されたHCでポイントをリンクしながら通信する。
「こちら【ニーベルンゲン】、了解。デカイのぶっぱなすぜ!」
「ギュンター、射撃姿勢よしだ!」
サミュエル・ユンク(さみゅえる・ゆんく)が告げる。
「照準宜し、ファイエル!!」
 木々をなぎ払いながらギュンターのコームラント【ニーベルンゲン】の大型ビームキャノンが戦車に迫る。
 しかし夜間で雨天ということもあって、レーダーに捉えている情報だけではやはり狙いにズレが出てしまう」
「【ニーベルンゲン】、ポイント4・6・4に修正!」
「了解! ファイエル!」
 修正された着弾情報により今度は正確に戦車に命中した。
「【アオドラ】到着っす。姉貴、いくっすよ」
「了解! やっぱり出力30%はキツイわね」
 サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)が出力の低さを嘆く。
「さて、弟子共、準備はいいかい?」
 オペレーターのリカインが二人に聞いてくる。
「問題なしよ!」
「歩兵は任せて!」
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)がそう言いながら強化人間兵を狩って回る。
 アレックスは高速機動(20)で命中率と回避率をあげると、木にぶつかって停止した。仕方が無いので鉄の守り(50)で防御を固め戦車隊の真ん前に出る。
 そしてクラッカーを投擲し爆発。
 しかし完全には全滅させれない。反撃を受ける。
「くっ……」
「でもさすがヴァラヌスだね。装甲が厚い」
 ダメージを抑えつつ後退する。
「あげぁげぁげぁ!」
 ジガンが笑いながら、敵部隊の背後に回りこんでワイヤーアンカーで動きを封じると、イコン用光条サーベルで戦車を切り裂く。
 爆発。
 向きを変える戦車を尻目に離脱。アサルトライフルを撃ちながら戦車砲の射程圏外に逃れる。
「いけ、オールドワン!」
 エッツェルは不気味な連接剣を左腕から伸ばし鞭のようにしならせると、対空ミサイル車両を切り裂いた。
「歩兵の相手はあたし達に任せなさい。きっちり、料理してやるから!」
 セレンが叫ぶ。敵の武装が対イコン用ということを逆手に取り、指揮下の分隊にはサブマシンガンを装備させてある。
 情報撹乱で敵の通信を妨害し、敵の歩兵に肉薄する。樹木に隠れながら。
「いまだ! 撃て!!」
 サブマシンガンが一斉に火を吹き密集している敵歩兵をなぎ倒す。
 パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は対空ミサイル車両を鹵獲すると、空中の敵味方識別信号で「味方」となっているイコンの攻撃を始める。
 意外なところからの攻撃に上空のイコンたちはたじろいだ。
 続いて第二射。コームラントに狙いをつける。だが周囲の戦車が「造反者」に砲口を向ける。
「まず!」
 ミサイルを発射してからすかさず離脱する。
 間一髪。なんとか脱出できた。
 めいはキャタピラ走行で小回りの効かない戦車に対してキラーラビットの俊敏性を活かして翻弄しながら地形を盾にしつつ接近していった。
 そしてウサ耳ブレードで障害物の樹木ごと戦車の装甲を切り裂く。
「めいさん、敵イーグリットが急降下!」
 カリンが警告する。
「了解! ニンジンミサイル発射!!」
 ミサイルを発射するがまだ1000メートル程度。イーグリットに回避されてしまう。
 イーグリットが降下しながらアサルトライフルを撃ってくる。
「きゃあああああああ!」
 ダメージを受けながらもさらにミサイルを発射する。
 今度は高度500メートル。数発外れたものの何発かは命中する……かに見えた。
 しかしビームマチェットで切り払われ微弱なダメージしか与えることができなかった。
 回避行動。
 そしてさらにミサイル発射。しかし装甲に阻まれてダメージを与えられない。
「もう、もっとパワーが必要だね!」
 そこにフリーで動いていた未沙が援護に駆けつける。
 ワイバーンクローで斬りかかり、ダメージを与える。
 それでもまだイーグリットは落ちない。
 さらに一哉とカイが援護に入る。
 コームラントの大型ビームキャノンを発射。
「カイ、タイミングを合わせますよ!」
 雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が告げる。
「了解。偵察はだいたい終わった。あとは戦闘に参加してもいいだろう、行くぞ【LuNa】!」
 その後連携して未沙のワイバーン【ヤクト】のガトリングガンと、カイのイーグリット・アサルト【LuNa】のマシンガンの波状攻撃が行われる。合間に【ヤクト】が攻撃を受けるがそれほど大きなダメージは受けない。
 三人の集中砲撃を浴びてイーグリットは落ちる。
「やった、未沙!」
 孫 尚香(そん・しょうこう)
「お姉ちゃん、すごい!」
 朝野 未羅(あさの・みら)
「姉さんすごいですぅ〜」
 朝野 未那(あさの・みな)が歓声を上げる。
 三人はシミュレーターの外のモニターで訓練の様子を観戦していた。
 そして観戦しつつもチューニングや動きの癖を観察する。
「空中の全小隊は斜線陣を敷け!」
 教官からの命令が入る。
 その命令に従って斜めに布陣する学校側のイコン。
 それに対して敵のイコンは前衛の左翼から後衛の右翼の方へと流れるように戦力が吸い込まれていく。
「今だ! 【ハロウィン小隊】突出! 右翼から左翼へと動き敵の戦列を撹乱せよ!」
「了解ぃ!」
「やっと出番か。今回は音楽がないから助かる」
 茉莉とダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)が交互にそういう。
「行動予測プログラム順調だ、僕」
「じゃあ、行くわよ。銃撃しつつ回避優先」
 そして【ハロウィン小隊】が敵の戦線を撹乱する。
 回避を優先しているので3回に1回程度しか被弾しない。
 しかも前方で戦っている味方がいるため攻撃が集中することもない。
「よし、これなら実戦でもカノンのところまで行けそうね!」
 茉莉はそう確信すると左翼へと抜け切り、再度反転して敵の群れに突入する。
 【ハロウィン小隊】の敵に与えた攻撃によるダメージは微々たるものだったが、敵の混乱はひどく統率が取れない状態になっていた。
「【アルファ1】よりアルファ各機へ。ポイント3・2・9のイーグリットに集中攻撃!」
 御空が新たに指示を出す。
「了解! ブラスターカノン励起! エネルギー充填開始!」
 大吾が背部フライトユニット付属のビーム砲にエネルギーの充填を開始する。
「オーケー。エネルギーチャージ完了。大吾、いつでも行けるよ!」
「よし、タイミングを合わせるぞ!」
「うん!」
 大吾が暗視できないので西表 アリカ(いりおもて・ありか)のダークビジョンで照準を合わせる。
(ヴェルリア、オーバーブーストだ)
 パートナーのヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)に精神感応で語りかける。
(了解)
「皆さん、【イクス】が囮になります!」
「オーバードブースト! 奴に喰らい付け!」
 加速2と高速機動(20)を併用し全身のブースターを使って加速し、高速且つ変則的な機動で敵に接近する【イクス】
 敵の注意が【イクス】に集まる。
 しかし【ハロウィン小隊】のせいでばらばらになってしまった敵部隊が【イクス】を集中して狙うのは難しかった。
「みんなが前に進むための道を、作ってみせるよ!」
 和葉がマジックカノンの狙撃準備をする。
「和葉、無茶はしないでくださいよ」
 神楽坂 緋翠(かぐらざか・ひすい)がシミュレーターの外から通信を入れる。
「わかってる!」
「よし、【ミッシング】狙撃準備完了!」
 ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)がそう叫んだことがきっかけとなった。
「よし、全機【イクス】を援護。3・2・9のイーグリットに集中攻撃!」
『ファイア!』
『落ちろ!』
『いっけえええええ!』
 3機の攻撃で爆発するイーグリット。
 そこに【イクス】が突っ込みもう一機のイーグリットに腰だめのクレイモアを放つ。
 それはコクピットに命中し、一撃でイーグリットを落とす。
「今度のイーグリットはグリモワールのコピーだ! 各機、一斉に攻撃だ!」
 孝明の指揮でグリモワールのコピーイーグリットに集中攻撃が行われる。
 それは【イクス】を攻撃しようとしていたイーグリットで、【イクス】はビームマチェットで斬りつけられてダメージを負うが、大型ビームキャノンやアサルトライフル、マジックカノンの集中砲撃を浴びて爆発する。
「すまない、助かった」
 加速をやめ攻撃をした瞬間の【イクス】はまるっきり無防備だった。そのため、少なくないダメージを受けた。
 その【イクス】をHP回復支援(30)でアリスとドールが回復させる。
 そして、そろそろ弾丸が尽きてきたイコンたちが順番にリロードを行う。
 リロードの合間は無防備になるので庇い合いながら戦闘を継続する。
 だが、強化されたAIはその攻撃の緩んだ一瞬の隙を見逃さなかった。
 まず後退して戦力を集結させると再編成を行った。
 しかも数に劣る敵は戦力を集中させることを選んだ。
 イーグリットが凸陣形を形成しコームラント残余3機が背後に構え、その周囲を随伴飛行歩兵が取り囲む。そして、あろうことか地上の【リーディッシュ小隊】目がけて急降下を始めた。
 カノンのイーグリットとミレリアのシュヴァルツ・フリーゲは健在。果たして、どうなるのか……