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狙われた少年

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狙われた少年

リアクション

   二

「騒がしいでござるな」
 窓に顔を向け、真田 佐保(さなだ・さほ)は言った。「少し、見回ってくるでござる。後は頼んだでござる」
 佐保と共に何名かが出て行くと、明倫館の治療室は五人だけになった。一人は言うまでもなく当麻(とうま)だ。
「母さま、心配しているだろうな……」
 ぽつりと呟くのに、ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)が励ますように言った。
「大丈夫だよ。ちゃんと他の人がお使いに行ってるから。『当麻君はうちの子と仲良くなったので泊まります』って」
「見ず知らずにそんなことを言われても、余計心配になるだろうけどな」
 ぼそりと言ったのは、影月 銀(かげつき・しろがね)だ。ミシェルはパートナーを睨み付けた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと明倫館の人間だと名乗ったはずですから」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が言い添える。
「明倫館でも信用できない奴はいるぞ」
「あんた、心配性だな〜」
 いたって呑気な声を上げたのは、机に胡坐をかいているトーマ・サイオン(とーま・さいおん)だ。
「だいじょぶだって。そんなに心配なら、オイラひとっ走り行って、見てこようか?」
「全てが終わったときには、君がその『友達』になるんですから、その当人が行ってどうしますか」
「ここにじっとしてんの、つまんないよ」
 トーマは口を尖らせ、当麻を見た。「な、お前もそう思うだろ?」
「おれ別に……家で遊ぶの、嫌いじゃないし」
「お前、いつも何してんだ?」
「色々……絵を描いたり、折り紙したり」
「つまんなくない!?」
「え……」
 トーマの大きな声に、当麻は口ごもってしまった。こら、と真人はトーマの頭を小突いた。
「自分に出来ないからって、否定するんじゃありません」
 トーマはとにかくじっとしていられない。忍者になりたてのこの少年に、「忍ぶ」ことを教えるために、二人は明倫館に来ていた。
「そういえば当麻、お前は神社で何をしていたんだ? 一人だったのか? 友達は?」
と、銀。
「引越しが多いから、友達はあまり……。神社では、石を探していました」
「石?」
 当麻はこくりと頷き、ポケットから小さな袋を取り出した。口を開けると、様々な形と色の小石が転がり出てきた。
「へえ、綺麗ね」
 ミシェルが褒めると、当麻は僅かに頬を赤らめた。その後ろから、トーマが首を伸ばして言った。
「いいなあっ」
「……いる?」
「くれんのっ!?」
「うん、半分あげる」
 ベッドの上に石をあけ、それを半分に分ける当麻とトーマを見て、ミシェルは微笑んだ。
「トーマ君がいてくれてよかった。私じゃ護衛は無理だし、遊び相手にもなれないし」
「医者の後で治療したのは、お前だろう」
 銀の言葉に、ミシェルは表情を曇らせた。
「どうした?」
「うん……ちょっとね。それより銀、当麻君、絶対守ってよ。こんな小さな子を襲うなんて、どんな理由があっても許せない!」
「ああ。ま、外には他の連中もいるし、ここまで来ることはないだろうが」
「油断してちゃ駄目だよ! 絶対に、何が何でも、指一本触れさせちゃ駄目だからね!」
「……お前、何怒ってるんだ?」
「怒ってない!」
「怒ってるだろう」
「怒ってないってば!」
「あー、【ディテクトエビル】を使ってますから、取り敢えず、敵が来たら分かりますよ。俺と影月さんと二人で守れば、大丈夫ですよ。いざとなれば、トーマもいますし」
「おうっ。オイラに任せとけ!」
 トーマが力瘤を作って、ニッと笑う。
「よろしくね、御凪さん! トーマくん!」
 ミシェルは真人の手を力いっぱい握った。彼女にはどうしても許せないことが一つあった。それを言えないのが、また苦しく、当麻のことを思うと哀しくてならなかった。