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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

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第4章 それは、どっちかといえば混沌のような……

 その人物は唐突に現れた。
「おさんぽおさんぽ〜、あれ? ここどこ?」
 子供っぽい、いや、まさに子供としか表現のしようがない少女が1人で荒野を歩いていた。口から漏れる言葉からして迷子になったことが窺えるが、それにしてはこの状況は異常と言えた。
 そして少女は迷いに迷った挙句、どういうわけか学ランを着た不良どもの陣地に足を踏み入れたのである。
「おじさんたちだれ〜?」
「ん?」
 声をかけられた不良の1人――実はE級のたかはしは、一瞬誰が話しかけてきたのかわからなかった。声のする方を向いてみれば、そこには小学生のような女の子。
「え、誰って。どう言えばいいかな……。そう、怖〜いお兄さんだよ」
 硬派を気取る不良としては少女をこの場から遠ざける必要があった。なぜならば、女子供には手を出してはいけないからである。
「ここにはね、お兄さんみたいに怖い人たちがいっぱいいるんだよ。だからお嬢ちゃん、今すぐにここから離れようね。ここはお嬢ちゃんのような子供が来ちゃいけないところなんだからね〜」
 できるだけにこやかに話しかけ、少女の不安を取り除き、その上でこの場から引き離し、安全な場所へと避難させようとする。自分はこの後起こるであろうケンカに参加できなくなるかもしれないが、子供をほったらかしにしたとあっては、それこそ袋叩きにされかねない。
「おいたかはし、お前何やってんだよ」
 仲間が何やら子供相手に何かをやっているのに気がついたのか、不良がもう1人駆け寄ってくる。それは同じくE級のまつもとだった。
「ん、ああ、いやこの子がどうも迷子らしくてな。だからすぐに安全な所に避難させようとな」
「ああ、そういうことか。確かにここは女子供の来るような場所じゃないからなぁ」
「まあ相手は契約者だから、時々子供でもやたら強いのがいたりするんだよな」
「そうそう。そういう時ってどうすればいいのかわかんねえんだよな。いくら強いからって本気で殴るわけにもいかないしさ」
 そして不幸はこの後すぐに起きた。
「おい……、お前ら、今、なんつった……?」
「うん?」
 相手していた少女の雰囲気が急激に変わる。
「子供? 私が子供だって言いました……?」
「言ったか、って……。まあ言ったけど?」
 その言葉が最後の引き金だった。
「おいおいバカにすんなよ。なめんなよ……。私はこれでも立派な大人だボケどもがー!」
 たかはしとまつもとにとって不運だったのは、この少女の正体が坂上 来栖(さかがみ・くるす)であったということだろう。
 来栖は契約時のショックで身体構成や人格が不安定となり、体は12歳程度で固定され、しかも2重人格となっている。不良たちと会った瞬間は、8歳程度の少女「くるす」が表に出た状態であり、今は大人の「来栖」モードである――ちなみに人格は自由に交代できるらしい。
 さてこの「来栖」だが、まず信念や信条が気分によって常に変わる自称神父であり、愛煙家であり、そして何よりも子供扱いされることや見下されることが心底嫌いなのである。しかも武術は使えるわ、サバイバル技術に長けているわ、武器の扱いもお手の物だわと非常に危険である。
「え、え、何、何事?」
 突然の少女の豹変。2人はそれにどう対処していいのかわからなかった。
「お前ら、覚悟してる人ですよね……? 人を見下すってことは、その見下された相手にフルボッコにされるかもしれないってことを覚悟してきているってことですよね……?」
「えっと、あの……?」
「というわけで、問答無用じゃー!」
「どわっ!」
 その言葉と共に来栖は拳を突き出すが、2人は殴られる寸前、腰を引くことで回避する。
「ほう、避けますか。まあそれはいいでしょう。この後じっくりと命中させればいいんですから……」
「たかはしさん、大丈夫ですか!?」
「まつもとさん、何事ですか!」
 その騒ぎを聞きつけたのか、2人の舎弟が救援に駆けつける。そして舎弟たちの目に入ったのは、鬼のような表情をした少女が指を鳴らして戦闘態勢を整えている瞬間だった。
「ほう、そうですか。あなた方が言ってみれば上司ですか。なら話が早い。この場でお前らを殴り倒して、お前らを貰い受けます。これは確定事項です。というわけで――」
 その場で来栖は構えた。中国拳法を模倣した独自スタイルによる格闘術。そして繰り出されんとするのは「朱の飛沫」を乗せた寸勁のような拳。
「大人しくぶっ飛べやー!」
 叫びと共に、E級2人の前に飛び出してきていた舎弟たちを殴り倒し、その服を燃やす。
 それが皮切りとなり、乱闘の第2幕が上がった。

 ごとうとむらかみによる第1陣を突破した要とアレックスが来栖の乱闘シーンを目撃するのは容易かった。何しろ来栖は朱の飛沫を連発してやって来る不良たちを燃やしているのだ。乱闘の現場においてこれに気がつかない者はいないだろう。
「お〜、あの子すごいね〜。殴った相手が黒焦げになってるよ」
「どう見ても契約者だなありゃ。っつーか、やたら怒り狂ってるぞ。あれはさすがに近づかない方がいいな」
「うん、それもそうだね。じゃあ私は別の不良さんを相手にするか〜!」
 もはや鬼のように不良の相手をする来栖は無視し、要は近くにいる不良の相手をし始める。
 だが今回は今までと少々状況が違った。要はこれまでと同じ調子で不良を殴り倒していたのだが、それにしては非常に「倒しやすくなっていた」のである。
 戦闘に参加せず、要の後ろで傍観していたアレックスがその理由に気がついた。要に気がつかれないように、数人の契約者が彼女のバトルをサポートしていたのである。
 まず1人は草薙 武尊(くさなぎ・たける)だった。彼はまず不良たちや要、アレックスの体を利用して隠れ身を行い姿を隠しておくと、要が不良を殴る瞬間にこっそり飛び出し、近くの不良たちにブラインドナイブスの一撃を叩き込む。攻撃が終わるとすぐさま隠れ、また飛び出しては一撃。それだけではなく、時には鬼眼によって不良たちをこっそりビビらせもした。
(ふふふ、これを続けていれば要殿がいつかは四天王を討ち取るであろう。それに、我が要殿に討たせるよう仕込むことも、周りに悟られぬであろうからな)
 彼の行動は全て要のサポートだった。高島要という新進気鋭の存在のアピール、それを行うために、彼は持てる技の全てを駆使していた。
「おっと、向こうが密集しているようであるな。ならば……」
 不良たちが密集しているポイントを見つけると、武尊はバーストダッシュでそこに飛び込み、近くの瓦礫を不良たちの足元に置く。
「ぐおっ! こんなとこに何で瓦礫が!?」
「痛えっ! 足引っ掛けた、マジ痛え!」
「ギャーッ! こ、小指があっ! 小指の爪があっ!?」
 瓦礫はまさに武尊にとって、トラップを仕掛けるための小道具だった。
(あ〜、足の小指は痛い……。だがこれも全て要殿のため)
 それを確認すると、武尊は悶絶する不良たちにブラインドナイブスで追い討ちをかけた。
「いやはやまったく、面白いパーティーであるな!」
 攻撃を叩き込むと、またバーストダッシュで要の近くに戻る。こうして武尊のサポートは続くのだ。
 もう1人、いや1人とそのパートナーはゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)である。この2人は武尊のように要を助けるのが目的、というわけではなく、どちらかといえば要の行動を面白がって付き合っているという方が正しい。
 何しろこのような言葉を口にしていたのだ。
「要ちゃん……。ヤベェ、こいつ、面白すぎるだろ! 旅は道連れって言うしな、ちょっと遊んでやるか!」
「いやはや心のままに行動するとは素晴らしい! 暴れたいのなら暴れさせてあげることこそ救世。とはいえ、大荒野は危険ですので私もお供しましょうか」
 そして2人のサポートが始まった。
 ゲドーは、要の攻撃時は何もしないが、要が攻撃されそうになる、あるいはダメージを受けた際にフラワシに備わった能力を使って要の防御・回復を行い、シメオンは後ろでこっそりと嫌悪の歌、怒りの歌、悲しみの歌等、自身が「救世の歌」と名付けたメドレーソングを歌い、そして時にはこっそりと要が荒ぶる力を発揮できるようにと立ち回る。
(ま、フォースフィールドはいらないよな。見たところ、属性攻撃を飛ばしてくるような奴はいなさそうだし)
 それならば、普通の人間には見えないとされているフラワシでこっそりとサポートするだけだ。もっともゲドーとしては、要に火の玉や電撃が飛んできたならばすぐさま力場を展開してこっそり守るつもりでいた。
「……ところでさっきからな〜んか楽なんだよね。不良さんが勝手にぶっ飛んでいくし、こっちはいつも以上に力が入るし」
「気のせいじゃねえの?」
「ええ、きっと気のせいですよ」
 要がそれらのサポートについて疑問を浮かべる度に、彼らは「気のせいだ」と言ってごまかす。
「そっか〜、気のせいか〜」
「……いや、どう考えても、ん?」
 どちらかといえば頭が悪い要はごまかせても、近くにいた常識人のアレックスはさすがにごまかせない。2人のサポートはアレックスには丸わかりだったのだ。だがゲドーもシメオンも揃って秘密にしてもらうようにアレックスに目配せする。
(あん? こっそりやるからいいんだと? ……いやまあ、別に妨害とかしてるわけじゃねえから、いいけどよ……)
 全力で呆れたような表情をされるが、2人はそれでもめげない。なぜならば、見ている方が楽しいからだ。ゲドーもシメオンも自身が不良相手に無双することは考えない。今回はあくまでも要の動向を見守って楽しむのが目的なのだ。
「あ、そういえば知らないところで不良さんが勝手にやられてるみたいだけど、それも気のせいなのかな?」
「ああ、それはどう考えても気のせいなのだよ」
 同じくサポートしていた武尊も2人に倣ってごまかすことにした。