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脳内恋人バトルロワイヤル!

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脳内恋人バトルロワイヤル!

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【一回戦第九試合】
茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)
キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)
VS
天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)
木内 福 (きない ふく)


「右コーナーからは『箱入り電脳お嬢様?!』茅ヶ崎清音&キャンディス・ブルーバーグがなんと自宅ネットから参加だッ!!! そして左コーナーからは『地上最強のカップル!!!』天空寺鬼羅&木内福の登場だッ!!!」


【清音ターン】
 清音は百合園の寮の一室でパートナーのキャンディスの手を取ると、彼女の目をジっと見つめて言った。
「お姉さま、私たち社交ダンスを始めましょう!」

 キャンディスは清音からの突然のお願いに戸惑った。そもそも、自分はもっぱら剣術や対術の訓練しか受けたことがない。
 特にキャンディスは女性らしい遊びは無縁で、社交ダンスがとても上達するとは思えなかった。
「すまないが・・・・・・」
 キャンディスがそう言い掛けた時、自分の手をジっと握り締めていた清音の手が震えていることに気付いた。
「まあ、そんなに言うのなら一回だけ」
「ほ、本当ですか?! やった! じゃあ、さっそく今からお洋服やお靴を買ってきましょう」
 今、思えばこの時に断っておけば良かった。キャンディスは後に何度もこう思うのだが、時既に遅かった。
「お姉さま、足を上げる時の角度はもっとこう↑ 思いっきり上げてください!」
 清音を男役に見立てながら、二人の社交ダンス練習は始まった。
「ほ、本当に社交ダンスでこんなことをするのか・・・・・・?」
 キャンディスは思い切り足を持ち上げさせられながら、鬼教官と化した清音に尋ねる。
「社交ダンスは基本的に男性のアドリブから成り立っています。殿方にお近付きなるためには、どんなアドリブにも対応できる応用力がなければいけません!」
 そう言って、清音はその後もキャンディスに無理難題をふっかけてくる。
「ほら、お姉さま! 私のことを殿方だと思って、胸をアピールしてみてください!」
「お、おう・・・・・・こんな感じでいいか?」
 キャンディスは、清音に薦められた社交ダンス養成ギプスを着て、その腕の部分についてある「バスト」というボタンを押してみた。
 すると、ギプスが勝手に肉を胸に寄せて、どこからどうみてもナイスバディな女性に一瞬で変身した。
「す、すごいなこの機械」
 キャンディスが驚きの声をあげると、清音は誇らしげそうに「ええ、お姉さまの体を墨から墨まで入念に研究した結果、出来たものですから」
「え・・・・・・」
 キャンディスは思わず言葉を失った。
 いつのまに自分は清音から個人情報を一体いくつ抜き取られていたのだろう。
「もちろん、私のためにしか使っていませんので、ご安心してください」
 清音は朝の挨拶をするかのようなすがすがしい笑顔でキャンディスに答える。

「なあ、清音。そろそろ男役も本当に男を用意した方がいいと思うんだが、どうだろう?」
 体格差の面を考慮しても、もっと複数の男性と踊って、研究をした方が効率が良いように思えた。
 だが、今まで一番効率を重視していたはずの清音は、キャンディスのその願いを却下した。
(お姉さまを独り占めにできるのはこの私だけよ・・・・・・)
 清音はいつの間にか、そのような秘めた想いを抱くようになっていた。
「私、いけない子かしら・・・・・・」
 清音は自分自身に問いかけてみる。だが、キャンディスに対する想いは拭い去れない。
 そして、今日もまた清音はキャンディスの社交ダンスの練習に付き合うのだった。
 

「清音×キャンディス=ジャスティスは萌え界のフィールズ賞受賞だッ!!!」


【天空寺ターン】
 鬼羅は福ちゃんと手を繋ぎ、公園を散歩していた。
「ねえ、鬼羅ちゃん。さっき、あそこのカップルの女の人の方見てなかった?」
 福ちゃんは、笑顔を崩さないまま俺に問いかける。だが、彼女は俺の手を引きちぎらんばからりにギュウギュウに握り締めてくる。
「そ、そんなことないって。あ、やべえ、手千切れるって! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ちょっとだけ気になって見ました!!!」
 俺が正直に答えると、福ちゃんは手を緩める。
「もう、鬼羅ちゃんったら嘘はよくないですよん。もぉ少しでジャーマンスープレックスするところでしたよ」
 福ちゃんはニコニコとしながら、俺に言う。
(や、やべえこれは本気の目だ・・・・・・)
 俺は福ちゃんを怒らせないように気をつけながら、公園を出ようとした。しかし、その背後から「鬼羅!」と呼びかけられてしまう。
「だ、誰?!」
 思わず振り返ると、誰かと思えばそこにいたのは俺のクソ姉貴姉だった。
「あ、ちょうど良かった。あんたに卵とマヨネーズ買って帰ってきてね。買ってこなかったら死刑だから」
 姉貴は弟である俺を便利な配達屋とでも思っているようだった。しかし、どうして俺の周りにはこうドSしか集まらないんだ……
「ね、姉ちゃん、タイミング最悪だよ・・・・・・」
 俺は恨めしそうに姉を見た。その近くで福ちゃんがにこやかな顔をしながら、姉の方を見ていたからだ。
(こ、これは全面戦争の予感だ……)
 この町から逃げる覚悟すらしながら、俺は福ちゃんと姉貴のドSツインタワーの世紀の邂逅を見守った。
「あ、鬼羅ちゃんのお姉さんですか。私、鬼羅ちゃんと結婚を前提に付き合っている木内福と申します。どうかお見知りおきを」
 しかし、意外にも福ちゃんはにこやかな笑顔を絶やすずに、姉貴に話しかけている。
(ふ、福ちゃんがとうとう姉ちゃんにまで取り入ろうとしている?!)
「あらあら、馬鹿弟の鬼羅から常々話は聞いておりますよ。ふふっ、これからも弟を半殺しにし続けてくださいね」
「もちろんですよ♪」
 そして二人は、ガッチリと固い握手を交わす。
 俺はもう二度と姉貴と福ちゃんから逃れられないという事実を噛み締めながら、その様子を呆然と眺めていた。
(あ、でもジャーマンスープレックスはやられると気持ち良いから、続けて欲しいかも……)


【バトルフェイズ】
 午後の部、最初の試合が始まった。
 清音の頭上には社交ダンス養成ギプスが、そして鬼羅の頭上には買い物袋が浮上していた。
 そして、二つの物体がぶつかり合う。
 最後まで残っていたのは社交ダンス養成ギプスであった・・・・・・


勝者:茅ヶ崎清音
成績:3勝2敗


【一回戦第十試合】
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
カティア
     VS
弥涼 総司(いすず・そうじ)
泉ハイネ


「右コーナーからは『危険な愛の逃避行』セレンフィリティ・シャーレット&カティアの登場だッ!!! そして左コーナーからは『人間BTO!』弥涼総司&泉ハイネの登場だッ!!!」


【シャーレットターン】
 シャーレットはシンシンと降り注ぐ雨に体を濡らしながら、公園で一人体を震わせている少女を見つけた。
「こんなところにずっといたら風邪引くわよ」
 そう言って、傘をそっと差し出す。だが、少女はこちらを一切見ずにただ体を震わせているだけだった。k
 シャーレットは、少女は家出か何かで家を飛び出したのだろうと思い、ずっとこの場所に放って置く訳にも行かず、とりあえず家に雨宿りさせることにした。
 動かない少女の手を取り、無理やりにでも引っ張る。そして十数分の格闘後、なんとかシャーレットは自宅のマンションに少女を連れてくることが出来た。
 びしょ濡れになっていた服を脱がせ、バスタオルで少女の体を拭く。そして、電気ストーブで暖をとらせてあげると、ようやく少女の体の震えは止まった。
「お、ようやく落ち着いたわね。あ、そうだ、あなたの名前って何て言うの? あたしはセレンフィリティ・シャーレットって言う名前なんだけど」
 シャーレットが名前を名乗ると、少女はピクリと少しだけ反応を見せた。
「・・・・・・カティア」
 風に吹かれれば、どこかに飛んでいってしまいそうなかぼそい声で少女は名前を名乗る。
「へー、カティアっていうんだ。いい名前だね。ま、私の方がかっこいいけど、なんちゃってね」

 この日からシャーレットとカティアの奇妙な共同生活が始まった。
 シャーレットが仕事から帰ってくると、カティアは頼んでもいないのに炊事洗濯などをやってくれていた。
 カティアはお手伝いなら協力してくれるようになったものの、口数だけは最初からほとんど変わらなかった。本当に必要な時だけ、一言ポツリと喋るのだ。
 しかし、シャーレットにはカティアの気持ちがなんとなく分かるようになっていった。今は楽しいのだなとか、今は悲しいのだなとか、ほんの少しの些細な変化あるけれど、長く付き合っているうちに見抜けるようになったのだ。
 そして、彼女が自分に何か隠していることにも気がついた。

 それが何かはあえて聞かなかった。
 だから、シャーレットの部屋に突然武装した兵士たちが侵入してきても「とうとうこうなってしまったな」というのが最初の感想だった。
「逃げて!!!」
 ほとんど初めて聞く、カティアの叫び声にはっとなりながら、シャーレットは逆に彼女の声がする方へと近付いていった。
 そこにいたのは、羽交い絞めに遭い、かつての仲間たちから乱暴されそうになっているカティアの姿だった。
「あんたら! こんな小さい声によってたかって手をだしやがってさ、恥ずかしくないのかい?」
 私がそう言って、怒鳴りつけると兵士たちは一斉に今度は私の方に襲い掛かってきた。
(お、襲われる・・・・・・)
 恐怖で身を縮ませるが、一向に兵士たちの攻撃はやって来ない。
 恐る恐る目を開けてみると、そこにはカティアの姿があった。そして、彼女の持っていた剣は血にまみれていた。

 それから私たちの逃避行が始まった。
 何故、何もしらない少女についていくのかって?
 それはあたしもカティアも愛し合っているからだよ。
 私は彼女から、何故あの時公園のいたのかを教えられ、そしてそれが未来予測計算されていたことにかなり近かったこと。
 カティアは私の孫の代に当たる人物のせいで困っている。そのため、タイムトラベルでこちらの時代に来てあたしを殺しにきたのだ。
 だけど、そこまでは良かったものの、だんだんとあたしと仲良くなってしまったのね。
「・・・・・・ここまで来れば、さすがに追っ手も来ませんし安心ですね」
「油断してはならない。あいつらいつどんな場所でも沸いてくる・・・・・・安心などという言葉はもう二度と使うことはないだろう」
 カティアは淡々と、しかし真実を述べる。
「あら、そうなのですか。じゃあ、もうずっとあなたと旅を続けるのねカティア」
「・・・・・・私じゃ・・・・・・不満か?」
 カティアが探るように私を見つめてくる。
「むしろハネムーンみたいでいいじゃない。私、愛の逃避行って嫌いじゃないわよ」
 そう言って、にっこりと微笑むとカティアもようやく顔を崩し、笑ってくれる。
 やはり、この人のためなら何でも出来る。私はそう思いながら、二人で眠りについた。


「無口で冷徹な暗殺者萌え〜なんて言ったら殺されるッ!!! 内側は真っ赤に燃えるシャーレット&カティアありがとうございましたッ!!!」


【弥涼ターン】
 俺はハイネの乗るペガサスのエナリの世話をするため、宿舎の外にある小屋へと来ていた。
 ペガサスは良質の草と水を与えなければ、翼が剥がれ、飛べなくなってしまう繊細な生き物だ。
 もし、戦闘中に空中でエナリがバランスを崩したりしたら、それに乗っているハイネは振り落とされてしまう。それを防止するために俺は、出来るだけエナリの健康保持に努めていた。
「弥涼、まだ眠っていなかったの」
 俺の不在に気付いて、探しに来てくれたハイネが背後にいた。
「ああ、もうすぐ戦争が始まるしな。出来るだけ俺もハイネの役に立ちたくて」
 俺はハイネと違い、ペガサスに乗ることが出来ない。そして、それは次の戦争にとって戦力外であることを意味していた。
「あ〜俺の心も純粋だったら、ペガサスが背中に乗せてくれるのにな」
「ふふっ、こればっかりはどうしようもありませんよ。それに、ペガサスは乗る人間の心の純粋さを判断しているのではありません。その者の意志の強さを測っているのです」
「意志の強さ? だったら、俺は意気地なしってことになるのか・・・・・・」
 心の純粋さなら負けるにしても。意志の強さでもハイネに負けてしまうとは、と考えて俺は落ち込んでしまう。
「いえ、落ち込むことはありません。だって、私の意志の強さは・・・・・・」
 ハイネは何かを言いかけて黙ってしまう。
「え? もしかして意志の強さを伸ばす方法でもあるのか?! ぜひ教えてくれ!」
 俺はハイネに問いかける。しかし、ハイネは恥ずかしそうにうつむいたままであった。
「・・・・・・誰にでも、という訳ではありませんが、私の例ではあのう・・・・・・好きな人を守りたいという思いがとても強いから・・・・・・ペガサスに乗ることが出来たのだと思います」
「そうか好きな人を守るために・・・・・・って、あれ?! じゃ、じゃあハイネの好きな人ってもしかして・・・・・・」
 俺が続きを言いかけようとした時、ハイネは俺の唇を塞ぐ。
「きゅ、急にどうしたんだハイネ?!」
「わ、私も本当は怖いんです、戦争が。だからせめて、この弥涼と会っている間だけでも明るくなりたいんです」
 それは、ハイネが今まで誰にも見せたことがない弱さだった。
 俺はハイネを抱きしめると、その華奢な体に驚いた。
(こんな体で戦争をしていたのか・・・・・・)
 ハイネを守ってあげたい。その時、俺の中の何かが覚醒した。


「ペガサス萌え〜って違うか! 弥涼&ハイネ、萌えと勇気をありがとうッ!!!」


【バトルフェイズ】
 とうとう一回戦もこれにて終了。
 シャーレットの頭上には傘が、 弥涼の頭上にはペガサスが浮上していた。
 二つの物体と生き物がぶつかり合う。
 最後に残っていたのは、伝説の生物ペガサス・・・・・・ではなく傘であった。


勝者:セレンフィリティ・シャーレット
成績:3勝2敗