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地祇さんとスカート捲り

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地祇さんとスカート捲り

リアクション


第三幕 ヤキ入れ万歳



 学園内、教室棟に繋がる開けた連絡路。高さにして二階に相当する木で囲まれた空間は今、赤色が混じり始めた太陽光に照らされていた。上層と下層を支える柱が光に焼かれるその場所で、、
「さて、そこでこそこそしている貴様は何の用じゃ?
 洲崎はブラックコートで気配を消していた青年、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)と対峙していた。
「……ふ、通じないか。ならば真っ向から俺の意を聞いて貰おう。エッカートも出てきていいぞ」
 エヴァルトが言うと、彼の後ろ、太めの柱の陰からロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が姿を現す。
「あのさエヴァルト、出てきておいて何だけど大丈夫なの? 報告ではこの地祇は男の子を操っちゃうみたいだけど」
「そうだな。だが聞いた話じゃ操られた場には必ず洲崎がいた。ならば有効射程がある、と判断するのが妥当だろう。距離も何も関係なくその場に居るもの全てを操作できるなら、俺のような気配を絶つ者を警戒する必要すらない筈だしな」
「正解、と言っておこうかの。……三十メートル以上距離があってはわしは男を操作出来ん」
 エヴァルトへの頷きを返答とした洲崎は、
「で、お前の意見とは何じゃ? 折角じゃから聞いてやる」
 偉そうに胸を反りかえらせて問うてきた彼にエヴァルトは眼を伏せながら、
「洲崎、お前は何故、捲りを昭和と表現した? 何故、こんな馬鹿騒ぎを引き起こしたんだ?」
「愚門じゃの。わしは一貫して言っておろうが。皆昭和を忘れていて、物事に対する許容の心を失くし、少し悪戯をしただけで腹を立てる。古き時代の系譜は教育や世代が変わったにせよ、古いと一蹴されてはならないものなんじゃ、と」
 地祇の演説を耳に入れたエヴァルトはまず頷いた。けれど、続いて首を横に振った。
「……確かに、昭和はそういうものへの規制はかなり甘かった。それが昭和らしいと言えなくもないだろう」。
 だが、とエヴァルトは高らかに宣言する。
「思い出せ、昭和に誕生した数々のヒーロー達を! 白黒の映像であっても、少年少女の心の中では鮮やかに色づいて輝いていたヒーローを! そして、人々に夢と希望と勇気の意味とを教えてくれた数多のロボットを!!」
 そうだ、と彼は洲崎へ人差し指を指すポーズ付きで、
「ロボこそが昭和の時代! よってスカート捲りなどという下らないことで伝道するより、ロボで伝道するのが普通! 誰もが考える良質な方法だ!」
「いやエヴァルト、それちょっと古すぎない?」
 エッカートのツッコミをエヴァルトは意識の外に置いた。
 そんな彼らによって全力で叩き込まれた意見を洲崎は真っ向から受け止めた。そして口元を吊り上げる獰猛な笑みを浮かべ、
「若い、若いのう! 女子よりロボを好むとは、貴様はわしとはまた違った昭和派閥に居る様じゃ。だが、嫌いではない。その心意気や、良し! よってこういった趣向をプレゼントしよう。――ザ・転換!」
 洲崎は左の手をエッカートに向ける。
 変化はその一秒後に訪れた。
「あれれ? エヴァルト、ボクの顔ちょっとだけごつくなっているんだけど」
 エッカートの頭部が、男性化したのだ。それだけではなく、身体も僅かに、ほんの僅かに色彩が変化している。
 それらの変化をエヴァルトはこう評した。
「こ、これはまさか伝説の――――最終回限定変型モード!?」
「ふふ、メカの微妙な変化でも、番組の後半になって来ると大きな要素を持つ。貴様は気が済むまでそれを見ているがいい。何せ数十秒で効果は消えるからのう。わしは別の場所へ行く」
 言い残し、洲崎は移動を始めた。ゆっくりと浮遊し、エヴァルト達の頭上を抜けて行く
「ま、待て!? 逃げるな!」
「……エヴァルト、こっち見ながら言われてもどうしようもないよ?」
 だが彼はエッカートから目を離せないでいた。
「くくそう。追わねばならぬが番組のラストでしか見れないものを見過ごすわけには……。何と言う罠を残してくれたんだ……!」
「いやそれエヴァルトしか引っかからないから。というかボクに番組はないよ……」
 エッカートの変型が解ける数十秒後まで、エヴァルトはそこから動けなかった。


 意見のぶつかりあいから無事に逃れた洲崎には、再度の襲い掛かりが発生していた。
「そこ動くな! 当たらないでしょうが!」
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)がロケットシューズによる加速を利用して、必死の形相で捕らえようとしていたのだ。
 接近する度にサイコキネシスをしかけるものの、
「ふはは、残念じゃが念力はわしにはきかんのでな、捕らえることなど出来ぬよ」
 小さな体での不安定な移動で尽く回避されていた。
「じゃあ、……直接当てるわよ!」
 伏見はサイコキネシスによる衝撃を選択した。空間を面で打ち、空気の打撃として洲崎へ伝える。
 地祇に与えられる結果は風圧にも似た大気の壁との衝突で、
「ぶあっ!? く、弱めのツッコミとはやるのう嬢ちゃん!」
 大気を突き抜けた時にぶつけたのか、鼻の辺りを赤くしながら笑みを浮かべる。
「公衆の面前で捲られる側の気持ちがすこしゃー分かったかこのやろー! 反省しなさい!」
「ふふ、ワシを追いまわすのは結構じゃが貴様、加速器や念力の余波でセルフパンチラしている事は気付いておるのか?」
「な!?」
 大声でまくし立てていた伏見の勢いが若干弱まる。
 やや内股気味になって、念力も僅かに弱くなった後、彼女は顔を赤らめながらも、
「う、うるさい。不可抗力、必要経費よ! スパッツはいてるから問題ない!」
 加速と攻撃を止めることはなかった。むしろ開き直りに近い感覚で体の力を強めている。
 そんな彼女の様子を見たじゃあ、と洲崎は不敵に笑い、
「おーい、健全な男どもよー。ここに絶好の拝見ポイントがあるぞー!」
 大声を周囲にばら撒いた。
 その宣伝効果は絶大で、お年頃の少年達の視線が一気に伏見へと集中する。
「な、何て事言ってくれるのよ!?」
「歯は、経費なのじゃろう? ならば存分に見せてやるがよいでな!」
 洲崎以外からも到来し始めた注目に、伏見は体の縮めを多くした。
「うむうむ、やはり女子はそうして恥じらいを持たねばな」
「この変態が――!」
 伏見は叫ぶも、内股や縮こめが続行中であり、機敏な動きはもうそこに無かった。
「はっはっは、そこで大人しくしているのじゃ。……と、お? 面白そうな奴じゃな、あれは」
 伏見から視線を移した先に居るのは、豪快な欠伸を天にかます閃崎 静麻(せんざき・しずま)と、彼の両脇で共に歩くレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)閃崎 魅音(せんざき・みおん)であった。
「おおう、久々に両手に花じゃな。……いや、むしろここは全員花にしてしまった方がわしが捲れるではないか!」
 名案だ、と感触を得た洲崎は矢のような速度で静麻に接近し、
「転換!」
 前提抜きで術を吹っかけた。静麻の外見と性別が一気に反転する。
「ったく、勉強は疲れるぜ――って、あ?」
 欠伸を終えた静麻は、両脇で目を丸くしている少女らの反応を眼に映した後、自身の変化に気付き、
「……何で俺女になってんの?」
 問うた瞬間、
「隙ありじゃ!」
「……ああ?」
「きゃー! ボクのスカートが!」
 洲崎はセーラー服姿となった静麻とドレスを着る魅音のスカートを腰付近まで一気に捲った。必然、静麻の男物、そして魅音のイチゴ柄下着は公に晒される。
「ふえーん、見られたー」
 涙を目に浮かべる魅音とは対照的に、静麻は顔をレイナへ向け、
「……何で俺セーラー服着てんの?」
「聞きたいのはこっちですというか、捲られまでしたのに何でそんなに冷静なんですか……」
「いや別に、野郎のパンツ見た見られたって騒ぐこっちゃねえだろ」
「ま、まあそうですけど。……何か釈然としないものが――」
「もう一丁隙あり――!」
 レイナが言葉に出来ない何かを絞りだそうとしていると、またも洲崎が突っ込んで来た。
 しかも今度手が伸びるのはスカートではなく、レイナの上半身で、
「キャッ!」
「うははー。スカートを履いてないからといって何も出来ぬと思ったら大間違いじゃぞ」
 胸を装甲の上から触られた彼女はたたらを踏み、数歩後退しながら洲崎を睨みつけて、
「こ、殺しますよ……!」
 殺気を周囲にばら撒き始めたレイナの肩を女体化した静麻が抑え、
「おいおい穏やかじゃねえな。――こういうときはこれって相場が決まってるだろ?」
 と、一本の武器を渡した。それは、
「ハンマー? ……これは何処から?」
「企業秘密。細かい所は気にすんなって。ほら魅音もこれもて」
「ん、わかったよ静麻おにー、……おねーちゃん」
 彼はもう二本、折り畳みしきの大型槌を取り出し、一本をまだ泣きっ面を保持している魅音に渡す。そして、
「おーい、そこの地祇。俺らにやったこと分かってんなら、今度されることも解ってるよな?」
「勿論じゃよ。貴様も態々ハンマーをチョイスるとは中々分かっておる」
 向けられた勧告に理解を示した洲崎は、だがの、と前提し、
「それら全てはわしを捕らえられての話じゃ――ぞっ!!」
 またも、静麻ら目掛けて突っ込んだ。
 眼で追うのがやっとの高速。
 しかし、レイナの殺意と、魅音の怒り、そしてお約束という現場の概念的力が作用した結果、
「捲っちゃめーなの!」
「ま、喰らえよ」
「光になって死ね――――!」
 三者三様の言葉と打撃を持って、洲崎は地面に叩き込まれた。
 重さと威力ある槌の三連撃は洲崎だけでなく、その環境にも作用した。
「あ、やべ、床抜けちった」
 頬を掻きながらぼやく静麻の身体は、
「ふははは、やはりツッコミはハンマーに限るのう!」
 下層でまだまだ元気のよい洲崎の声を聞く頃には、男のものに戻っていた。