校長室
学生たちの休日7
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★ ★ ★ 「カップの配置は、これでよろしいでございましょうか?」 読書会の会場となるイルミンスール学生寮のユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の部屋で、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が食器をならべながら訊ねた。 「ええ大丈夫ですわ。後はあたしが準備しますから、アルティアちゃんは、みんなを迎えに行ってあげてくださいまし。寮枝が分からないで迷ってしまったら大変ですから」 「はーいでございます」 ユーリカ・アスゲージに言われて、アルティア・シールアムが世界樹のエントランスにイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)を迎えに行った。非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はすでに大図書室に行って、今日の読書会用の本を借りているはずだ。 エントランスに降りてみると、すでにイグナ・スプリントが来ていた。何やら、髪が生乾きらしく、しきりに気にしているようだ。 「うーん、以前空京で髪を乾かす道具という物を買ったのだが、今日初めて使ってみたのに、まったく動かなかったのだよ。どうも壊れていたらしい」 生粋のパラミタ人であるイグナ・スプリントは、まだ地球製の電化製品という物によくなれていないようだ。 「うーん、そうなのでございますかあ」 なんだかアルティア・シールアムもよく意味が分からないので、適当に相づちを打ってさっさと寮に案内することにした。 途中で、大図書室の前で非不未予異無亡病近遠を拾う。 「よかった、さすがにちょっと持てないなと思っていたところなんですよ」 借りてきた大量の本をどうやって運ぼうかと困っていた非不未予異無亡病近遠が、二人に手伝ってもらってようやく動き始めた。 ふうふう言いながら中央階段を上がって寮枝まで辿り着くと、待ちかねていたユーリカ・アスゲージがドアを開けて出迎えてくれた。 「今日はお招きありがとう」 借りてきた本をテーブルの上に積みあげてから、非不未予異無亡病近遠たちがあらためてユーリカ・アスゲージに挨拶した。 「それでは、ささやかなお茶会と、ささやかな読書会を始めたいと思います」 全員が揃ったので、ユーリカ・アスゲージが開会を宣言した。 どのみち、みんなで集まるのが主目的で、他は半分口実のようなものでしかない。みんなで集まってわいわい楽しもうというわけだ。 ところが、非不未予異無亡病近遠は凄く真面目に本を題材にちょっとした討論をする気満々だったようだった。 「ここにある本を軽く読んでもらうと分かる――と言うか、資料としてとりそろえてきた感じの方が強いのですが、いかがでしょうか」 そう言って、非不未予異無亡病近遠が提示したのが、カバラ関連と、密教系関連、仙道系関連、神道系関連、シャンバラの歴史書、スーパーストリング理論の本であった。 「これらはすべて別体系の魔法や、物理法則なのですが、実際はすべて同じ物で、方言のように、地方や時代で表現方法としての呪文や儀式が少しだけ違ってしまったものではないのでしょうか」 提示した非不未予異無亡病近遠の仮説は、ほぼ的を射ているものであった。地球では五千年の間に変化してしまったり分化してしまったが、パラミタでは魔法体系は術の発動過程などは別個でも、結果は同じ物となる。突き詰めていけば、個別の発動過程は、低レベルの汎用魔法では無意味だとも言えた。ただ、よほど高レベルの術者ではない限り、魔法発動の手順という物は必要となる。魔法発動のための補助として、それぞれが自分に合った使いやすい呪文などを選択しているのにすぎないのだ。 「ですから、現在のパラミタで、これらの魔法体系が分類されている現実は、ある意味逆輸入なのではないかと。ええと、皆さん、聞いてます?」 「はーい、難しすぎるでございます」 あっさりと、アルティア・シールアムが降参した。 ドライヤーさえ使えないイグナ・スプリントがうんうんとうなずく。 地球人である非不未予異無亡病近遠はある程度一般常識としての科学知識や歴史知識はあるが、それはユーリカ・アスゲージをも含めて、パラミタで生まれ育った者たちには直接的にすり込まれたものではない。彼女たちには、逆に非不未予異無亡病近遠の知らない歴史や技術の知識があるのだ。そして、それを重ね合わせて、初めて新しいシャンパラの技術や文化が生まれるのである。 「うーん、これをうまく突き詰めれば、より高位の理論を確立できると思うのですが」 「そうですねえ。それを探すことこそ、イルミンスールならではのロマンかも」 軽く両手で握り拳を作って、ユーリカ・アスゲージが同意した。 「でも、あわてることはないと思いますですから、今はお茶とケーキを楽しみましょう。今日は休日なのですから」 ユーリカ・アスゲージは、そう言ってニッコリと微笑んだ。
▼担当マスター
篠崎砂美
▼マスターコメント
ちょっと遅くなりましたが、休日の7です。 最近、新情報を引き出そうというアクションが多いのですが、可能であれば極力応えるつもりではありますが、現実的には諸般の事情で、マニュアルやグラシナ以外の新情報はまず提示することができません。 可能なのは、既存情報の分析や考察となります。 ただ、それも量が多いと確認作業に大変手間取るため、ハイリスクなアクションとなることは御了承ください。 6月15日、誤字脱字修正。名前の修正。種族の修正。音声リンク修正。その他細々修正。