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美緒と空賊

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美緒と空賊

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第一章

「くれぐれも無理はしないでくださいね、美緒さん」
「もちろんわたくしたちがしっかりお守りするつもりですけれど……相手は“黒髭”。油断は禁物ですからね」
可愛らしい百合園女学院の制服に身を包んだ冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、意気込みながら泉 美緒(いずみ・みお)の手を握りました。
「は、はい! 宜しくお願いします! 一刻も早く皆を助けなくては……」
「大丈夫ですよ。こうやってみんな協力してくれるんですし」
「意気込みすぎてはダメですよ。焦って失敗しては捕まっている皆さんが危険です」
釘を刺しながらも二人の顔は心配そうです。捕まっている生徒たちのことも勿論ですが、二人は美緒が暴走して怪我などしないかも心配でした。
近しい人間が捕えられてしまった以上仕方のないことだとわかってはいますが、だからと言って美緒が無理をすることを望む人間などおりません。
そう思ったからこそ、みんな集まってくれたのです。
すぐそこで百合園女学院の制服に着替えている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の二人もそうでした。
「よしっ、着れた♪ 似合う?」
きゅっ、とリボンを留めた美羽は、くるりと回転して見せました。ふわんふわんとバルーンスカートが揺れ、ひらりひらりと袖にあしらわれたフリルが波打ちます。
「とても似合いますよ、美羽さん」
「いつもミニだけど、これも可愛いよね。一回着てみたかったんだ!」
「それにしても……百合園の生徒さんをさらうなんて、何を考えているのでしょう」
「身代金も人身売買も目的じゃないとするとホント意味不明だよねぇ」
「名声が欲しいのでしょうか……」
「もしそうなら交渉も優位に働きそうですわ」
ベアトリーチェの言葉にそう言ったのは八薙 かりん(やなぎ・かりん)でした。
かりんは黒髭に名声とある程度の自由を与えることで味方につけようと交渉しようとしていたのです。
「私掠免許を与えれば容易に靡くでしょう。これで王国再建に近づきます」
「うまくいくといいね」
葦原 めい(あしわら・めい)も頷きながらリボンを結びました。
「でも、そんな交渉するのにそのカッコで行くのかい?」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が苦笑しながら、ラビット隊員の制服に身を包むめいたちを眺めました。
「正式な交渉には正式な服で行かなきゃね!」
「なるほどねぇ……」
「美緒ちゃんも今度着てみてね!」
「へっ!? あっ、はい」
めいに振られて、美緒がうっかり頷きます。それを横目に見ながら、シリウスはリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)に向き直りました。
「おい、リーブラ! 準備は出来たか?」
「え、ええ。髪を結ってみましたわ。これでばれないといいのですけれど」
「結構雰囲気変わるもんだな。これでぱっと見でばれることはないだろ」
シリウスの私服にツインテールという、何ともちぐはぐな衣装に頷いて、シリウスは苦笑しました。
「うん、まぁ、何かあれば俺に任せろよ、なっ!」
「シリウス……何か言いたいことがあるのなら言ってください」
「何でもないって!」
慌てて取り繕うシリウスや、各々に準備を整える少女たちを見てレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)は溜息をつきます。
「一応囮に名乗りを上げてみましたけど……男でも大丈夫なのか……」
「じゃあ女装してみりゃいいじゃねぇか」
そんなレリウスにハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)はへらへらと笑みをこぼしました。
それにため息をつきながら、何を言うのだろうとレリウスは冷めた目を向けました。
「いやですよ」
「いいからやってみろって。男がいるからってばれて作戦が台無しになっちまったらどうすんだよ」
「俺が女装した方がばれるでしょう。こんなにごつい女性がいますか」
「ごめんって! 俺が悪かったからそんな冷めた目で見るな!」
「エヴァルトも女装しますか~?」
そんな二人を見たコルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)の無邪気な問いに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は引きつった笑みを浮かべました。
「いや……やめておく。俺はいざとなったら操舵士とか整備技師だって言い張るさ。こいつも義手だって言い張れば何とかなるだろ」
そう言いながら真新しい装備を翳してみせました。
「救出ついでに腕試しさせてもらうぜ」
「私も下っ端くらいなら倒せると思いますわ~」
コルデリアも穏やかな眼差しに僅かに真剣な光を宿らせます。
各々が僅かに緊張した空気を纏うと同時に、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は凛とした声で言い放ちました。
「皆さん、準備は整いましたわね?」
「それでは行きましょう」
「はい!」
美緒の高らかな返事とともに、一同が力強く頷きました。