リアクション
● 「それにしても――中々似合っておるではないか? 見違えたぞ」 「からかうのは止めてくれ」 シャムスの姿を眺めて、グロリアーナは笑う。シャムスは慣れていなさそうに裾を握りながら歩きつつ、苦い顔を作った。しかし、決して嫌そうではなかった。多少はこの旅で、スカートというものにも慣れてきたのだろうか。 シャムスがいるのはエリシュ・エヌマの廊下だった。私室へ向かう途中で、廊下の向こう側からローザマリアが声を張る。 「シャムス! これから自動操縦だけどニヌアへ向かうわ! そろそろドレスから着替えても問題ないわよ!」 「ああ、分かった」 私室の前で別れる前に、グロリアーナが窓から見える景色を見て言った。 「見よ、そなたの愛した地だ――今はまだ、荒野やも知れぬが、其処で力強く生きる民の姿は、妾もこの上なく愛しく思う」 かつては、グロリアーナもシャムスと同じ、民を統べる立場であった英霊だ。そんな彼女に認められるということは、シャムスにとってもこの上ない喜びだった。 「……ありがとう」 「大変なのはこれからやも知れぬがな。共に歩んでゆこう、領主殿」 勇壮な笑みを浮かべて、グロリアーナはその場を後にした。それを見送って、シャムスは部屋へと入る。さて、動きやすい服に着替えようか。 と、そう思った時――突然その身体が横合いから引っ張られた。 驚くのも間もなく、誰かの両腕に抱きかかえられるシャムス。仰向けにされたとき、一瞬だけそれが誰なのか確認できた。 「セテカ……お前……!?」 その瞬間――シャムスの視界は遮られた。 唇に重なる柔らかい感触。なにが起こったのか、理解できない。だが、生温かい感触が唇から広がって、不思議な熱さが頬を染めた。 ようやく、視界が広がった。暗がりになっていたのは、セテカの頭が照明を隠していたからか。放心したように呆然となる彼女に、セテカは告げた。 「お前が好きだ」 なにも、言い返せなかった。 いや、というよりは、なにが起こっているのか理解が追いつかなかった。確実に言えることは、心臓の鼓動が速くなり、ひどく高鳴っているということ。耳朶の奥に響くのは、バクバクと鳴る心音だけだ。 「答えは急がない。考えておいてくれたら、それでいい」 現実感がない。 まるで夢でも見ているかのような心地だ。そういえば……セテカも閲兵式に出席していたんだったなと、かろうじて残されていた冷静な思考が思った。 「そのかわり、決めたなら覚悟しておけよ。おままごとのような恋愛にはならないぞ」 言い残して、セテカはシャムスをベッドに腰掛けさせると、窓へと駆け出した。 「お、おい……っ!?」 開いていた窓から飛び出すセテカ。 すでにエリシュ・エヌマは離陸を始めている。上空何十メートルもあるというのに、なにを考えているんだ。とっさに駆け寄って、シャムスは窓から身を乗り出した。 と、そこで、シャムスはバタバタと風になびく髪の下で、ロープが窓に括りつけられていることに気づいた。見下ろした先では、セテカがロープを伝って地面に降りている。 いつの間に準備していたのか……? 用意周到な彼らしいといえば、らしいのかもしれなかった。 「まったく……なんだっていうんだ……」 いまだ放心状態から抜けきれぬまま、火照った身体でぼふっと彼女はベッドに転がった。その手が伸びるのは、セテカの感触が残ったままの唇だった。 担当マスターより▼担当マスター 夜光ヤナギ ▼マスターコメント
シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。 |
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