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リアクション
ティンクに逃げられた一行は、再び何のヒントもなしでピーター・パンを探すことになりました。上空からは、すでにさんざん探し尽くしたので、今度は地上を歩いて探す事にしました。
といっても、やみくもに歩くには、この島はあまりにも広すぎるので、ウェンディの提案で、人魚の入り江に向かう事になりました。一行は、入り江に向かう林道を、ひたすら歩いていきました。ただ、歩くのではなく、道すがら、ピーターが隠れていそうな場所はないか目を光らせながら行きます。
先頭を歩くウェンディを、佐野 和輝(さの・かずき)が護りながら歩いていきます。
「しかし、ここは本当に地球で聞いた“あの童話”と似ているな」
和輝は辺りを見渡しながら言いました。
「ついでに、宝箱でも探してみるか。【ピッキング】を持っているから、ある程度の鍵は解除可能だし……って俺は何を? 仕事をしにきているのに、少し浮かれてるようだな」
その言葉にウェンディがクスリと笑いました。
「やっと、笑ってくれた」
和輝が言います。」
「え?」
とウェンディ。
「さっきから、ずっと黙ったきりだからさ」
「……ごめん」
ウェンディが言います。
「ここに来てしばらくは、懐かしさとか、使命感とかで気が張ってたから忘れてたんだけど、気が抜けたのかな……急にいやな事を色々思い出しちゃって」
「いやな事?」
「うん。まあ、つまんない事よ。でも、それを思い出すと、こうやって子供たちを助けに来た事が本当に正しい事なのか迷っちゃうの」
「そういえば、人生に絶望して家出してたとか言ってたっけ?」
「うん……誰も知らない場所に行きたくて」
「分からなくもないな、その気持ち。俺も、人生に絶望してた事が一時期あるから」
「え?」
「俺はね、事故で両親を失い、“やっかい者”として親戚をたらい回しされてたんだ。辛かったよ。おかげで、生きるために相手の顔色を伺うことばかり覚えちまった」
「そっか……」
「俺も話したから、アドバルーン。キミも話してくれよ」
「ウェンディでいいわ」
「じゃあ、ウェンディ、話してくれよ。話してしまえば楽になるかもよ」
「うん……」
ウェンディはうなずくと、ゆっくりと話しはじめました。
「あたしね、学校卒業してからずっと、出版社で働いてたの。ピーターとの出会いのせいか、子供の頃からずっと童話が好きで、でも自分では書けそうにないから、無名でもいい作品を書く童話作家さんを発掘する仕事をしていたの。小さな会社だったけど、あたしには天職だったわ。彼氏もいて、仕事も楽しくて、ずっとあたしの人生は順調なんだと思ってた。ところが、3ヶ月前、突然彼氏に別れを告げられちゃってさ……。あたし知らなかったけど、実は二股かけられてたんだって。バカみたいだよね。それでも、仕事があるからって頑張ってたのに、いきなりクビ宣告されちゃって。本が売れないから、人員削減だって言われてもね。今まで、あたしのやって来た事ってなんだったんだろうって思ったら、頑張りも努力も虚しくなっちゃった。人も信じられないし。ピーターの言うとおりよ。大人になってしまったとたん、世の中は灰色になっちゃうんだわ。あの子達だって、いっそ、ネバーランドで一生暮らした方が幸せなのかも」
「そっか……ウェンディにとっては、今が谷底なんだな」
「谷底? この先抜け出す事ができるのかしら?」
「ああ、きっとできるよ。俺も、できたんだから」
「そうかな……」
「地球には『夜明け前が一番暗い』ってことばがあるんだ」
「夜明け前が一番暗い?」
「苦難の期間は、終わりかけの 時期が最も苦しい。それを乗り越えれば、事態が好転するだろうってことさ」
「……ありがとう和輝……。今のあたしには、とても信じられないけど……」
「夜が明ければ、きっと分かるさ」
「ちょっとちょっと〜! くっつぎすぎだよー!」
和輝とウェンディの遥か後ろでアニス・パラス(あにす・ぱらす)がプンスカ怒っています。
「和輝ったら、なんであんなにウェンディと楽しそうにお喋りしてるんだよ! あっ、今ウェンディにさり気無く触った〜!」
「おちつくのよ、アニス。和輝は、あくまでも精神ケアとしてウェンディと話しているだけよ」
スノー・クライム(すのー・くらいむ)が言います。しかし、その背後に青い炎が燃えているように見えるのは決して気のせいではありません……。
アニスはぷーっと頬を膨らませました。
「む〜っ、和輝は格好いいから、ウェンディが好きになったら困るよ〜。でも仕事の邪魔になると、和輝に迷惑になるし……よし、『好きになるな〜』って念を送ろう!むむむ〜っ」
「ふふふ……おばかさんね、アニス。だから、和輝は、あくまでも精神ケアとしてウェンディと話しているだけだと言っているじゃない。だけど、似た経験をした者同士だからといって、少し会話が弾みすぎじゃないかしら? でも、これで和輝自身も過去の重圧が減ると考えると……あっ、またウェンディにさり気無く触った!? こ、この負の感情をどう処理すればいいのかしら? ふふっ、ふふふっ、敵が来てくれれば一番簡単に処理できるのだけど……」
その時、バサバサと木々をも吹き飛ばすような羽ばたきが聞こえ、巨大な鳥が上空に現れました。
「ネバー鳥だわ!」
ウェンディが叫びます。
「ネバー鳥?」
和輝が聞き返します。
「ええ。恐ろしく獰猛な鳥で、動いているものなら、なんでも食べてしまうのよ。もちろん、人間も」
ネバー鳥は一行を見つけると『ギャア!』と鳴いてこちらに向かってきました。
「あたし達のうちの誰かをさらっていく気だわ」
ウェンディは、短剣片手に身構えます。
巨鳥は、アニスに狙いを定めたようです。まっすぐにアニスに向かって滑空していきます。
「危ない! アニス!」
和輝が叫びました。ところが……
「人食い鳥?」
アニスは言います。
「ふん。それがなんなのさ……アニスは今、物凄く機嫌が悪いの!」
そして……
「サンダーブラスト!」
と、アニスは空に向かって手をかざしました。雷がネバー鳥を貫き、怪鳥は悲鳴を上げながら地上に落下してきます。
落ちて来た鳥の前に、スノーが目を光らせながら立ちはだかりました。
「ふふっ、ふふふっ、敵が来たわね」
目は光り、背中にはジェラシーの青い炎を背負い……。
「ピギャー!」
その、あまりの恐ろしさに、鳥は【適者生存】でスノーに屈服しました。
しかし……
「駄目よ! ちゃんと私と戦わないと、ほら私のストレス発散用のサンドバックになりなさい」
そういうと、スノーは全ての怒りをネバー鳥にぶつけました。
それから、さらにしばらく行くと、キラキラした入り江が見えてきました。
「人魚の入り江よ」
とウェンディが言います。
「人魚?」
ミューセル・レニオール(みゅーせる・れにおーる)が目を輝かせました!
「洋介、行こうよ! 私、人魚、見たい、見たい! っていうか、触りたい……」
すると、滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)が答えました。
「人魚か。確かに見て見たい気はする……つーか、もしかすると、人魚ならピーター・パンの居場所を知ってるんじゃないか?」
「知ってるかもしれない」
ウェンディがうなずきます。
「なにしろ、人魚達とピーターはとても仲良がよくて、ピーターはなんでも人魚達に話していたもの」
「なら、行ってみる価値あるよな」
「せっかく来たんだし、ボクも人魚みたいよ」
アゾートが言います。
「そうね。行ってみましょうか。でも、気をつけてね。人魚は美しい外見と歌で人を惑わせて、海に引きずりこむから」
そして、一行は人魚の入り江へとやってきました。
入り江にはたくさんの人魚達がいました。人魚達は水の中をすいすい泳いだり、岩の上で歌を歌ったり、虹の水で作った泡のボールで遊んだりしていました。
「うわー、きれいですぅ」
村雲 メイ(むらくも・めい)が叫びました。
確かに、それはとても美しい光景でした。洋介が見とれていると、1人の人魚が岩上から洋介をじっと見ているのに気付きました。それは、流れるようなブロンドの髪に象牙のような白い肌の、とても美しい人魚です。人魚は洋介を見て歌を歌いはじめました。それを聴いているうちに、洋介は、だんだん夢心地になってきました。人魚が笑いながら手招きします。洋介は、招かれるままふらふらと引き寄せられていきます。その途端……
「シャーーー!」
人魚が爪と牙をむき出して襲いかかってきました。
「!!」
気付いた時には、すでに目の前に爪が迫っていました。
あわや、引きずり込まれると思ったその時……
バァーー………ン
人魚の肩から血が溢れ出し、人魚は悲鳴を上げて水の中に落ちていきました。水面が赤く染まります。
洋介が振り返ると、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が魔銃モービッド・エンジェルを片手に立っていました。
「気をつけろ! 人魚は美しい外見と歌で人を惑わせて、海に引きずりこむとウェンディが言っていたはずだ」
「そうだった!」
洋介は我に返ります。
マクスウェルは、浮かび上がって来た人魚に銃を突きつけて尋ねました。
「ピーター・パンはどこにいる?」
しかし、仲間を撃たれて怒り狂った人魚達は、マクスウェルに襲いかかってきます。
バン、バァーー………ン
マクスウェルは襲いくる人魚達を、銃で次々に撃っていきました。
その様子を見ながら、洋介は思いました。人魚達に引きずり込まれるのはごめんです。しかし、なんとかしてピーター・パンの居場所を聞きださなければいけません。
「よおし……」
洋介はつぶやきました。
「行け! ミュー! 君に決めたっ! お前の好みの人魚を捕獲してくるんだ!」
しかし、既にミューセルは、洋介の号令より若干速く、人魚の捕獲というか、お触りする為、通常の約3倍のスピートで好みの人魚に向かって突撃していました。
「シャーーー!」
人魚が爪と牙を剥けてミューセルに飛びかかっていきます。
「そんな、恐い顔しちゃダメだよ!」
ミューセルはサイコキネシスで匕首を飛ばします。匕首は、人魚の顔すれすれを飛んで行き、人魚の髪が一房切れました。それで、人魚は一瞬の隙ができます。ミューセルは、それを見逃しませんでした。
「捕まえた!」
隙だらけの人魚を捕獲し、岸へと連れてくるミューセル。
「……ミューさん凄すぎです……まるで赤い彗星の何とかみたいです……」
メイがミューセルの機動力に唖然としつつつぶやきました。
岸に上げられた人魚は尾びれをバタバタさせてもがきました。洋介が近づいて言います。
「人魚さん。乱暴してすまんが、聞きたい事があるんだ。君たち、もしかして、ピーター・パンの居場所を知っているんじゃないのか?」
「シャア!」
人魚は答えるかわりに、牙と爪をむき出して洋介を威嚇しました。
「こわいですぅ……」
怯えるメイ。
しかし……
「だ・か・ら、そんな顔をしちゃダメだってば!」
と、ミューセルが人魚の体をくすぐりはじめました。
「こちょこちょこちょ〜」
「アハハハハハ。やめて」
人魚が爪と牙を納めて笑い出します。
「やめて欲しかったら、ピーター・パンの居場所を教えてよ! こちょこちょこちょ……」
「ヒー、アハハハ。分かった、分かったわよ」
「教えるてくれるの?」
「教えるからやめて〜」
「分かった!」
そういうと、ミューセルはくすぐるのをやめました。
「さあ、教えて。ピーターは、今、どこにいるの?」
「ピーター・パンなら、最近しょっちゅう『ピーターだけの秘密の隠れ家』に行っているって言ってたわ」
「『ピーターだけの秘密の隠れ家』ってどこ?」
「知らないわ」
「こちょこちょこちょ〜」
「わ〜ははははははは。ほ……本当に場所は知らないのよ〜。彼、誰にも教えようしないの。でも……でも、ティンカー・ベルならきっと知ってると思うわ……ひ〜〜」
もがく人魚にマクスウェルが銃を突きつけて尋ねます。
「で、そのティンカー・ベルはどこにいる?」
「し……知らないわよ」
マクスウェルは銃の引き金に手を当てました。
「どこにいるかは知らないけど、いそうな場所なら分かるわ。あの子は、ネバー・リリーの蜜が好きだから、きっとネバー・リリーの園にいるわ。ネバー・リリーの園は、ここから、森を抜けたところにあるはずよ」
命の危険を感じた人魚は、聞かれもせぬうとからペラペラと全てを話しました。
「だ、そうだよ?」
ミューセルは洋介とメイを見ました。
「そ……そう」
ふたりとも、唖然としてマクスウェルとミューセルの行動を見ています。
「さっそくみんなに報告しなきゃ! 行こ! 洋介」
「そ……そうだな」
ミューセルが行ってしまうと、洋介はぐったりしている人魚に「何か…すまん」と謝りミューセルの後を追っていきました。
「あわわ…すみません、教えてくれたお礼にこの埴輪あげます」
メイも人魚に埴輪を渡すと、洋介達の後をを追って走り去っていきました。
マクスウェルは人魚の体を水の中にもどしてやり、銃を片手に去って行きました。
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