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リアクション
7
その頃、停電爆弾が解除されたことなど全く知らない閃崎 静麻(せんざき・しずま)とマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)は、病院にいた。共に大病院に山を張ったのだが、送電設備、自家発電装置、薬品貯蔵室と何時間も駆けずり回った末に、遂に爆弾を見つけることが出来なかった。
「はずれ……かな」
「そのようだな」
「まあ……それならそれで、患者の受け入れも出来るし、いいんだが」
二人は駐車場の車を眺めていた。出入りが激しい。世の中には病人や怪我人がたくさんいるんだな、とぼんやり思う。
「ご心配頂きまして」
背後からの声に、二人は振り返った。医者だろう、白衣を着た背の高い男が缶コーヒーを二本持って立っている。
「爆弾はなかったんですね?」
「そのようです」
とマクスウェルが答えると、籠手型HCを見ていた静麻が「何だよ」と舌打ちした。
「どうした?」
「変電所で停電爆弾は見つかったらしい」
「解除は!?」
「無事、終わったそうだ」
「そうか。それはよかった」
マクスウェルはホッとした。
「そうだな。無事だったんだから良かったというべきだな」
「しかし、他の爆弾はまだなんでしょう?」
医者は二人にコーヒーを渡した。
「ええ、確かにね」
「じゃ、うちにある可能性も……?」
「そう……これからって可能性はあります」
マクスウェルの言葉に、静麻も頷いた。
「一休みしたので、もう少し探してみます。コーヒー、ご馳走様です」
「いえいえ、こんなものですみません」
医者は人のよさそうな笑顔を浮かべた。
「先生、お名前は?」
静麻は医者の名札を見た。ロビンソンとある。
「後で看護師にいい噂流しておきますよ」
「勘弁してください。ただでさえ結婚目当ての彼女らから、言い寄られて困るのに。どうせなら悪い評判にしてください」
その様子があまりに真剣だったので、静麻とマクスウェルはつい笑ってしまった。ロビンソンが立ち去り、自分たちもコーヒーを飲み終えると、もう一踏ん張りとばかりに二人は病院へ戻った。
駅ビルであるデパートに隣接するように、ショッピングモールがあった。当初はデパートとの確執があったものの、今は双方、うまく住み分けが出来ているようである。
そのショッピングモールに爆弾を仕掛けるに違いないと考えたのは、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)、常闇 夜月(とこやみ・よづき)、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)、医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)の四人だ。
が、貴仁は夏を前に水着セールを行っているブティックの前から動こうとしなかった。
「あのう貴仁様、他の店は探さないのでございましょうか?」
「うーん?」
貴仁はビキニから目を離さずに声だけ返した。
ブラックマントを羽織った些か怪しい人物が女性用の水着をじっと眺めている様子は、更に怪しさを増しているが、女性を三人連れているとあって店員から通報されることは辛うじて免れている。プレゼント用だと勝手に勘違いされているようだ。
「もし愉快犯だった場合」
「はい」
「多分、見えるところにいると思うんですよね」
「では、この辺に?」
「案外、リア充、爆発しろ! とか言っているかもしれませんね」
夜月は周囲を見回した。平日ではあるが、人は多い。怪しいと思えば、誰も彼もが怪しく見える。
「誰が……」
「ねー貴仁、これどうかな、ボクに似合うかなっ?」
実に明るい、いっそ能天気とも言える声が夜月の言葉を遮った。
「し、白羽様、このような時に……」
「だって爆弾が見つからなきゃ、ボクの出番はないもの」
白羽はアーティフィサーだ。仲間内では解体を担当することになっている。
「ふむ、そなたのナイスバディを強調させるためには、やはり黒がよかろう」
と言ったのが外見年齢七歳の房内だったので、店員は目を丸くし、やはり警察に通報すべきかしらとヒソヒソ話し始めた。
しかし房内の正体は魔道書だ。それも日本最古の医学書「医心方」のはずだが、書いてあるのが房中術のため、言動がエロい。房中術とは何か、という質問に対しては、ここでは書けないようなエロいこととだけ記しておく。
「黒は地味じゃない?」
「いやいや、その大きな胸をきっと強調してくれるじゃろう」
「じゃあ、これにしようかな……」
取り敢えずこの二名は、爆弾を探す気がないようである。ちなみに白羽は泳げないので、見せるためだけの水着である。
「た、貴仁様、別のお店に移動しませんか?」
「そうしたいのは山々だけど、他の店は見ちゃったでしょ」
「まだ三階と四階があります」
「……俺が高所恐怖症だって知ってて言ってます?」
「……そうでした」
そうでない人間には理解できないのだが、高所恐怖症の貴仁にとって、今いる二階ですら、足が竦む高さなのだ。それでさっきから水着を見ているのかと夜月は納得した。その後ろは吹き抜けで、下の階が丸見えだからだ。
「まあ、二人が喜んでいるようですしね」
「それならば、わたくしが見てまいりましょうか?」
「一人で?」
さすがに貴仁が振り返った。
「それは危険です」
「わらわがついていってやろうかの?」
「それは別の意味で危険です」
「しょうがないなあ。ボクがついていってあげるよ。あ、貴仁、この水着買っておいてね」
白羽は選んだ黒の水着を貴仁に渡し、自分はさっさと夜月の腕を取った。
「行こうか、夜月?」
そしてさっさと三階へ上がっていく。
房内は不満そうに、
「わらわが危険とはどういう意味かの?」
と、貴仁を睨んだ。腹が立ったので、自分の体型に合う水着を三着ほどカゴに叩き込む。
「そ、それ買えってことですか?」
「脱がされんだけ、ありがたく思え」
貴仁は眩暈がしてきた。ふらふらと店の前の長いすに座り込み、怖々下の階を覗き込んだ。
着ぐるみが、風船やらおもちゃやらを渡している。どうやらスキルの【物質化・非物質化】を使用しているようで、おもちゃを消したり出したりしているのだが、子供にはマジックに見えるのだろう、喜んでいた。しかもそれを貰った子供は、ご満悦だ。
なかなか平和な光景に、貴仁の頬も緩む。高さを忘れた、ゆったりとした時間だ。
着ぐるみはバイトらしく、時折、時計を見ていた。午後二時半。妙なことに、まだおもちゃが残っているのに、着ぐるみはその場を離れてしまった。トイレかとも思ったが、おもちゃを放置というのは、ないだろう。時間で上がったにしてもおかしい。現に残されたおもちゃに、通りがかりの子供がおずおずと手を伸ばし、逃げ出した。
職場放棄か?
貴仁は首を傾げ――俄かに青ざめた。
――まさか。そんな。
「房内! あの着ぐるみを探せ!」
「どうした主様?」
貴仁は二階から飛び降りようとして――やっぱり目が眩んだので、エスカレーターへと駆けた。房内は渋々水着をカゴに入れたまま、後でまた来ると言い残して後を追った。
貴仁は走りながら、籠手型HCで夜月と白羽に連絡を取った。
「着ぐるみが配っていたおもちゃを探せ! 子供たちが持っている! 俺は着ぐるみを追う!」
房内もそれで気がついた。
「わらわがあの着ぐるみを脱がしてくれるわ!」
妙な足音を立てる着ぐるみだった。しかしそのおかげで、追いついた。房内は着ぐるみへタックルを食らわせたが、その手は空を切ってしまった。どたりと腹から地面に落ちて、強かに打ちつける。
「【ミラージュ】か!」
近くの横道では、ふう、とローゼ・シアメールが息をついていた。頭部だけ外すと、中から可愛らしい少女の顔が現れた。
「あぶなかった〜」
どうにか【ミラージュ】で誤魔化したものの、その辺に二人がいる間は動けない。何しろローゼの本体はこの着ぐるみなのだ。通常時もこの格好でいるから目立って仕方がない。
なので、
「パパがお迎えに来るの待ってよ〜っと」
のんびり待つことにしたローゼだった。
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