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あなたと私で天の河

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●ダディクールの夜は更けゆく

 遅い時刻になってきても、やっぱりいるのだエンドレス腹ぺこたちは。
「ええい、まだ肉が必要になるとはな! 待っておれ、肉は逃げんわ!」
 もう何度目になるかわからないが追加のビーフを運びつつ、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は呼ばわった。運ぶだけではない。空いた網の上でガンガン焼く。
 そんな彼女に対し、
「ダディクール!」
「ダディクール!」
 とコールが飛んでいた。
 しかしそのたび、
「我はダディではないわ!」
 とツッコミを入れるジュレールはなかなかに律儀なのである。まあ、縁起物とはいわれているが、せめて「レディ(lady)とかにできなかったのだろうか。
「こっちもお肉がほしいですぅ〜」
 かんかんとフォークでテーブルを叩き、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)がジュレールを呼んだ。エリザベートは今日の服装に迷ったが、最終的には、汚れてはいけないので普段の扮装を選んでいた。といっても汚して良いというわけではないので、大きな白い前かけ……要するにエプロンを胸元にしっかりつけていた。長い髪は結って背中で括っている。
「すごいなぁ、エリザベート校長、まだ食べるの?」
 すっかりデザートモードになり、シャーベットをつつきながらカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が目を丸くした。
「いえ、エリザベートちゃんの場合は……」エリザベートのすぐ後ろに侍す神代 明日香(かみしろ・あすか)が答えた。「もともと食べるのがそれほど早くないので」
「それに、ピーマン一個食べるのにすっっっごい時間がかかったんですもん」
 明日香のパートナーノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が言う。ノルニルもそう食べるのが早いほうではないが、ふーふーしながら熱い肉も食べてやはりアイスクリームを食べているのだった。
「止まってるのかと思いました」
 ノルニルの言葉に、
「で、でもぜんぶ食べたです〜ぅ」
 エリザベートは抗議した。いくら小ぶりとはいえ青くて苦いピーマン一個を、少しずつ、少しずつ食べて完食したのだ。無理強いはされなかったものの、明日香が「がんばって食べてみましょうね」と言ってくれたのでエリザベートも頑張ったのである。好き嫌いが激しくわがままなエリザベートとは思えない偉業である。
「そうですよ〜。たしかにエリザベートちゃんは一個、大嫌いなピーマンをちゃんと食べました。えらいです」
 明日香は素直に褒め、エリザベートの頭をなでた。
「えへへ、明日香さんが見守ってくれてましたからねぇ〜」
 明日香のおかげで、エリザベートは着実に成長できているのだ。明日香は自覚していないかもしれないが、エリザベートの人格形成に、彼女の存在は大きく影響しているのである。
「というわけで、肉である。食べられよ」
 ジュレールが肉を目の前に置くと、エリザベートは嬉々として言った。
「わぁ、だでぃくーるですぅ〜♪」
 ジュレールはこんどは「ダディではない」と突っ込まなかった。ちょっと嬉しかった。
「ボクもデザートデザート、シャーベットかアイスおかわりー。まだー?」
 スプーンをカチカチ鳴らしてカレンが求める。
「ええい、カレンもか! なんでも我に頼るではない! 持ってくるから待っとれ!」
 文句を言いながらも楽しそうなジュレールにカレンは眼を細め、
「はい、もうすぐ焼けますよ−」
 と、明日香に世話を焼いてもらい素直に笑っているエリザベートにも、やはりカレンは幸せな気持ちになるのだった。
「バーベキューは楽しいですぅ」
 ころころとエリザベートが笑うのが聞こえる。
(「良かった、大ババ様のことで最近、エリザベート校長沈み気味だったから……」)
 ダディクールなこの夜が、少しでも校長の助けになってくれたのは素晴らしいことだ。
 よーし、とカレンは思った。
(「ボクも、大ババ様のことを思うと辛い。けれど、いつまでもくよくよしてたって仕方ないもんね。笑っていこう!」)
 カレンは呼びかけるのである。天の河にも届けとばかりに、元気に。
「さあ、校長、終わったら次はデザートにしましょう!」

 かくて、ダディクールなこの夜は更けていくのだった。