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あなたと私で天の河

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あなたと私で天の河
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●また会えますように

 イベント会場の片隅場所で一人、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は星の海を見上げていた。
 なぜ、ここに来たのかはわからない。自然に、ここに行き着いていた。
 パートナーたちには一言も告げずに来た。
 家にじっとしていると、哀しみに胸をかき乱されそうだから。
 だからといって、賑やかな会場に足を踏み入れるのはためらわれた。
 ゆえにここで、一人、ただ空を見上げていた。
 グレンは救えなかった。
 ファイを。
 オミクロンを。
 クシーを。

「……コードネームC・U・R・N・G・E。個体名、『Φ(ファイ)』。本機に『興味』という機能は搭載されていない」
 無表情なファイ、しかしその胸には心があった。
「……借りは返した」
 そのときオミクロンは、かすかに微笑んでいたと思う。
「R U Crazy?」
 クシーの驚きは純粋、それは彼女が、完全に機械に取り込まれていない証明だったのではないか。

 三人のクランジを思う。短い接触ながら、鮮烈な印象を与えた彼女たちを。
(「………変わっていない……」)
 涙はない。むしろ、感傷的なものが一切ない。
 あるのは無力感だけだ。
(「………ファイを救えなかった…あの時から……俺は、無力なままだ……そのせいで……オミクロンも…クシーも……救えなかった……」)
 道を見失った気がする。
 己の腕を過信していたのか。
 自分を超人だとでも思っていたのか。
 わからない。
 …………。
 ……。

「だめだよ、そんな顔してちゃ」
 このときグレンの顔が、白いもので包まれた。
 レンカ・ブルーロータス(れんか・ぶるーろーたす)の腕だ。彼女の白い長衣の袖だ。
「どうして……」
 ここがわかった、というグレンの発言を、先にレンカが制してしまう。
「だめだよ」
 そして、彼女はそっと腕を放し、そこに座れとすぐそばの、芝生の上にグレンを引っ張っていった。
 グレンの腰を下ろさせ胡座姿勢にして、その膝の上に、ちょんと座る。
 そのとき槍の柄が、グレンの頭を軽くつついた。
「探したぜ。まったく」
 すっくと立つ姿は抜き身の青龍刀のよう。武人、李 ナタであった。
「らしくねぇな、このバカ」
 ナタはべたっとグレンの左側に座ると、槍を立て、くわと彼を睨んだ。
「一人センチメンタルかよ。え?」
 返事次第によってはこの槍に物言わす、そう言わんばかりの顔つきをする。
 そしてグレンの眼前には、よく見知った脚が、ぴったりとそろって現れていた。
「グレン……まだ出歩いていい身体じゃないのに……」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)である。
 先日の『ザナ・ビアンカ事件』でグレンが負った傷は重い。本当は、まだまだ安静が必要な状態なのである。
 実のところ、ソニア、レンカ、ナタはすぐに、グレンの足取りをつかんでいた。
 しかしどうすべきかわからず、距離を取って追跡しつづけていたのである。
 彼が空を眺め、数分間立ち尽くしているのも見ていた。
 そのとき、ソニアは困り果てていた。
「今のグレンにどう声をかけていいのか……。私は今まで……グレンがあそこまで落ち込んでいるのを見た事がありません……。どうすれば……」
 ちっ、と舌打ちしたまま、ナタも逡巡していた。
 しかしその沈黙を、レンカが率先して破ったのである。
(「それにしても……まさかレンカに助け船を出されるとはな……」)
 してやられた、という気がするも、ナタはほっとしていた。グレンが逃げ出さず、自分たち三人を迎えてくれたことに。
 そしてまた、レンカが流れを変えた。
「ねえねえ、今日はお願いが叶う日なんだよね?」
 グレンを見上げて、彼女は言ったのだ。
「なら『クランジのお姉ちゃん達にまた会えますように』ってお願いしよ?」
 ナタも同意する。
「『またクランジに会えるように』か……そうだな。……死んで英霊になって蘇る奴がいるんだ。アイツらにまた会える可能性だって無くはないだろ」
「それは……」
 無理なんだ、とグレンは言おうとした。
 しかし、ソニアが遮っていた。
「それは良い考えですね。私達四人が信じて、お願いすればきっと叶いますよ……きっと……」
 そうでしょう? 青水晶のようなソニアの目がそう告げていた。
 そうでしょう? グレン、あなたは、大切な妹を、がっかりさせるような兄ではないでしょう?
 沈んでいたグレンの口元が、ふっ、とほころんだ。
 そして彼は座ったまま首だけ下げた。グレンらしい、謝罪の表明だった。
「……信じれば…願いは叶う、か……非現実的だな……。
 けど……不思議だな……本気で信じてみたくなった……本当に……叶う気がしてきた」
 グレンは立ち上がった。
 迷いがないといえば嘘になるが、迷いは大きく減じていた。それよりも希望が、大きく育っていた。
 グレン・アディールは一人ではない。
 無力でもない。
 なぜなら素晴らしいパートナーたちが、そばにいるから。
 彼は黒い短冊を取り、
『ファイ、オミクロン、クシーにまた会えますように』
 と記したのだった。