薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

ザナドゥの方から来ました

リアクション公開中!

ザナドゥの方から来ました

リアクション

                              ☆


 Dトゥルーの身体から、濃い闇の瘴気が溢れていた。
 激しい怒りに傷ついた頭部は醜く歪み、手にした剣の刀身もまた漆黒の瘴気で覆われている。

 Dトゥルーの闇術で気を失っていた緋桜 ケイとソア・ウェンボリスは目を覚ました。
 それぞれのパートナー、悠久ノ カナタと雪国 ベアはまだ気を失ったままだ。パートナーの介抱をしながら、ケイは呟く。
「どうしても……どうしても戦わないといけないってのか……」
 それに対して、Dトゥルーは怒りを露にした。

「……ここまでコケにしておいて、いまさら和平交渉でもあるまい!!
 戦う気がないなら、大人しく死ぬがいい!!」

 同じく正気を取り戻したレン・オズワルドはパートナーのノア・セイブレムを抱きかかえながらも、ケイとソアに合図をした。

「来るぞ――気をつけろ!!」
 その言葉通り、Dトゥルーの盾から無数の闇の弾が発射された。
「ちっ!!」
「きゃあっ!!」
 ケイとソアの二人も、コントラクターとしての腕前は相当なものなのだが、さすがにパートナーを抱えていては、防戦一方になってしまうのは仕方がない。

「こっちだ!!」
 その一行に、物陰からクローラ・テレスコピウムが声をかける。
 比較的大きな岩陰には、クローラの手によってカメリアがすでに避難していた。
 ケイとソアに続いて、レンもそこにやって来る。

「……どうして、眼を覚まさないんでしょう?」

 ソアの疑問に、クローラが答えた。

「おそらく……ザナドゥ時空の影響ではないかな。影響を強く受けている者ほど、Dトゥルーの闇術に敏感だったと仮定すれば……」
 なるほど、ザナドゥ時空がDトゥルーの秘術であることを考えれば、それもありえない話ではなかった。
 そして、倒れているメンバーとDトゥルーとの会話を思い出して、レンは呟いた。
「あるいは……単純にDトゥルーの気に入らなかったか」

 それも否定できない。

「何でもいいから、加勢するなら加勢してっ!!」
 その一行に、宇都宮 祥子の悲鳴が届いた。
 レプリカ・ビックディッパーを大上段から、振り下ろしてDトゥルーに盾を使わせる。
 そうすることで時間を稼ぎ、他のコントラクターたちが攻撃する隙を作ろうとしていた。

「タコラ!! さあ、大人しくしなさい!!」
 そこに、伏見 明子の歴戦の魔術が轟く。無防備なDトゥルーの鎧が大きくひしゃげ、緑色の血がほとばしる。

「……効いてる!!」
 ここに来て、Dトゥルーへの攻撃が通り始めたことに祥子は気付いていた。
 勢いのに乗った神皇 魅華星の光条兵器『メテオブレイカー』がDトゥルーの鎧に深々と突き刺さる。
「僕の分際で主の命令を聞かないとは……私の刃で一度生まれ変わらせてあげますわ」

「……Dトゥルー様」
 戦場の少し離れたところから、秋葉 つかさが声をかけた。
「……まさか……それでおしまいということは、ございませんわよね?」
 どこか挑発するような、浮世離れした声。
 その声に反応するように、Dトゥルーの声が周囲に響き渡る。

「――当然だ」
 と。
 それは、深く暗く、まさに地獄から響いてくるような声だった。


 唐突にDトゥルーの鎧を突き破って、数十本の触手が飛び出してきた。
「あうっ!!」
「うわぁっ!!」
「きゃあっ!!」
 その触手は至近距離にいた祥子は当然として、明子や魅華星の腕や足、腹部へと突き刺さる。
 まるで痛みを感じていないかのようなDトゥルーは、そのまま触手が突き刺さったままの祥子を吊り上げて、明子の方へと放り投げた。

「うわあぁっ!!!」

 触手によるダメージを受けた二人は、そのまま重なるようにして倒れこんでしまう。
「――くっ!!」
 何とか体勢を立て直した魅華星に、改めて触手が襲い掛かった。背後から数本の触手が絡みつき、身体の自由を奪う。
「……あらぁ……あまり傷つけるのはよろしくありませんわ……女の子はこうして可愛がってあげなくては……」
 魅華星に絡み付いているのは、つかさの触手だった。ぎりぎりと締め上げながら、身体中のありとあらゆる部所をまさぐる。
「ちょ……やぁ……」


「とりゃあああぁぁぁ!!!」
 それは、突然の攻撃だった。
 タワーのはるか後方から走ってきたかと思った一人の少女が、カメリアたちが隠れている岩場を蹴って飛び、Dトゥルーの頭上にヴォルケーノ・ハンマーを叩き落したのである。

「――ふん、新手か」
 だが、左手に構えた盾でその一撃を防いだDトゥルー。ハンマーを弾き返すと、その少女――天津 麻羅(あまつ・まら)――は岩場の前に着地した。
「麻羅!!」
 岩場の陰からカメリアが叫ぶ。そこに、六合大槍を構えて突進した琳 鳳明(りん・ほうめい)の鋭い突きが炸裂する。
「ハッ!!」
 しかし、その突きもDトゥルーの剣でいなされ、軌道を逸らされる。
「ふむ……筋はいいな」

 麻羅と鳳明が攻撃を仕掛けている間に、鳳明のパートナー、藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)が怪我人のガードにあたる。
「……」
 連れてきたガーゴイルで、怪我人を岩陰に運ぶ。

「お主ら……」
 呆然と呟くカメリア、前線に出た麻羅は言った。
「椿よ、苦戦しておるではないか。ここらわしらに任せて、今の内に体勢を整えるのじゃ
 お主を想う連中が、まだまだ動いておる。わしらはただの時間稼ぎじゃ」
 その言葉に、カメリアは叫ぶ。
「しかし――いかにお主らといえど……!!」
 そのカメリアを遮って、一人の少女がカメリアの前に出た。
 南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)だった。
「……」
 ヒラニィは、無言でカメリアのおでこにデコピンを見舞う。
「――あうっ!? な、何をする!?」
 慌てるカメリアに歯を見せたヒラニィは、岩陰から出て、告げた。

「どうじゃ、頭の血は下がったか」

「……ヒラニィ……」
 少しだけ落ち着きを取り戻したカメリアに、ヒラニィは告げる。
「お主は仮にもツァンダの地祇だろう。
 土地を侵された怒りは判る……だが、周りのものを見て、人々の声を聞く、それが地祇の仕事。
 きちんと周りを見れば、お主を助けようという連中が山ほどおるのに……気付かんはずはないよな?」

 カメリアの額を撫でるヒラニィに、カメリアの瞳が潤む。

「ヒラニィ……麻羅……すまぬ……」
 確かに、頭に血が上って突進してしまったのはカメリアのミスだった。結果として、同行してくれたレンも自分やノアを庇う都合上、戦闘に参加できないでいる。
 今の自分は、ただの足手まといだ。

「だが心配はいらない……頼もしい味方が来たからな!!」

 そう言ってヒラニィもまた岩陰を飛び出して、麻羅の援護に回る。
 後ろかやってきた二人組の気配を感じて、レンはぼそりと呟いた。

「……遅いぞ」
 と。

 やって来たのはクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)七刀 切(しちとう・きり)だった。
 ふたりは、そっとカメリアの両脇にしゃがみ込み、それぞれの手をカメリアの小さな肩に置いた。
「クドにぃ……切にぃ……」

「待たせちまってすまないねぇ、カメリア」
 クドの手から、暖かさが伝わってくる。
「さあ、一緒にあのタコ野郎から、この山を取り戻そう、カメリア」
 力強い切の手も、カメリアには心地よいものだった。

 その後ろから、ひょっこりと顔を出したのは水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)
「……とりあえず、みんな持ちこたえてるから、その間に何とかして」
 と、緋雨は岩陰から戦況を観察し、Dトゥルーの戦力の解析を行なう。
「しかし……何とかと言っても……」
 カメリアは口ごもる。多少の腕の覚えはあっても、カメリアの戦闘能力は大したことはない。むしろ今、ここに集まったコントラクター達の実力で排除できない相手を、カメリアが今更どうすることができるとも思えなかった。

「大丈夫、何しろカメリアは、お兄さんの大事な実の妹なんだからねぇ」
 クドの言葉に、多少の疑問を抱くカメリア。
「ん? ちょっと待てクドにぃ。いつ儂がお主の実の妹に……」
 しかし、反対側の切もまったく同じ様子だ。
「そうとも、このワイの実の妹カメリアなら、あんなヤツは敵じゃない!」
 切のほうを振り向いて戸惑うカメリア。
 クドは続ける。
「見ろ、このつつましく主張の激しい胸!! ちょっとツンとした態度!」
 切も続いた。
「ああ、艶やかなロング黒髪とゴスロリ着物!! でも本当はちょっぴり甘えん坊なカメリアは、ワイの理想の妹だ!!」

 その瞬間、カメリアが着ていた白地に椿柄の着物が、クドや切の言葉通りにゴスロリ着物に変化した。

「な、何じゃっ!?」
 カメリアは驚くが、その様子を見て緋雨は事もなげに言った。

「ああ――どうもその二人……ザナドゥ時空と物凄く強くシンクロしちゃってるみたいだから……あとはよろしくね、カメリアさん」

「え」
 見ると、クドと切は何か理想の妹論についての口論をしている。
「いいや、いくら切ちゃん相手でもここは譲れないねぇ、カメリアはお兄さんの妹でさぁ!!」
「いいや、いくらクドの言うことでも、カメリアはワイの実の妹――」
 と、そこで口論が止まる。
「……つまり……カメリアはお兄さんと切ちゃんの妹……ということは……」
「……そうか……つまりクドとワイは兄弟、ということになるな!!」

 驚きの真実に、二人はがっしりと抱き合った。
「おお、兄弟!!」
「よしカメリア、ワイらの妹の力をしっかりとあいつに見せ付けてやろうぜ!!」
 その言葉に、カメリアは叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待て二人とも!! 問題の解決になっておらん!! 儂が誰の妹であろうとも、戦力差に変わりはないではないか!!」

 そこに、更なる援軍が到着した。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)である。
「おお、美羽にコハクではないか!! 助かった、この事態を何とか――」
 美羽とコハクは、コントラクターの中でもかなり高い実力を持っている。彼ら二人ならばこの事態を何とかできるであろうと、カメリアは一縷の望みを託した。

 が。
 美羽とコハクの言葉に、カメリアの期待は粉々に砕け散ることになる。


「カメリア、遅くなってごめんね……うちの子をいじめたやつには容赦しないわよ!!」
「そうともカメリア、ここはお父さんとお母さんに任せておきなさい!!」


 まさかのご両親、登場。


「な、な、な、なんじゃそりゃーーー!!!」
 カメリアの叫び声が、やたらと長く響き渡ったという。