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ザナドゥの方から来ました

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ザナドゥの方から来ました

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第5章


 タワー前が一層の混乱を見せていたその頃。
 『炎の通路』ではフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が一人、炎の噴き出す通路を進行していた。
「ザナドゥの情報は少しでも多いほうがいいと思って来たけど……」
 フレデリカの心には今、奇妙な苛立ちと暗い衝動が押し寄せていた。
 どうやら微妙にザナドゥ時空の影響を受けているらしい彼女は、自らの内から湧き上がる破壊衝動と戦っていた。

 今の彼女の心象風景を映像化するならば、角の生えた悪魔『ヤンデリカ』と羽の生えた天使『クーデリカ』の戦いが見られるだろう。

『だからさぁー、どうせ炎耐性上げてあるんだからさぁー、こんなトラップさっさと発動させてちゃっちゃと片付けたほうが楽っしょ?』
 ダルそうに主張すつヤンデリカ。それに対してキラキラと瞳を輝かせたクーデリカは反論する。
『だめですよそんなの! 他の人がいたら危ないじゃないですか!! それにこの先どんな状況があるかわからないのですから、少しでも体力は温存しておかないと!!』
『えー、いいじゃんよぉ、面倒くさいよ。他にもコントラクターは入り込んでるんだから楽勝だって』
『そんなわけないでしょう、敵はただでさえやっかいな魔族だというのに……』
 ヤンデリカとクーデリカの脳内会議がまとまらないうちに、フレデリカの本体は炎の通路をずんずんと進む。
 普段の彼女と違って脳内会議にスペックの大半を持ってかれているフレデリカは、うっかり炎のトラップを発動させてしまう。

「――フッ!!」
 だが、魔法の仕掛けで発動した炎を、フレデリカは片手を薙ぐだけで消してしまった。
 片手にはめた4つものファイアーリングは伊達ではなく、さほどのダメージもないままに通路の進行を再開する。
 より早く炎の通路に侵入した彼女は、炎のトラップを少しでも解除することで、他のコントラクターが攻略しやすくする算段であったのだ。
 ただ、思わぬザナドゥ時空の影響で脳内会議にエネルギーをとられて、方法が少し荒っぽくなっているだけで。

 だが、いくら本人に炎の耐性があるといっても炎のダメージそのものを無効化できているわけではない。多少ついてしまった傷もリジェネレートで回復できるとはいえ、やはり賢い方法とは言えない。
 それでも今のフレデリカに自分の身を省みる余裕はない。
 また一歩、通路を踏み出すと、炎のトラップが作動した。

「――危ない!!」
 しかし、今度はフレデリカが炎をかき消す前に、その炎の前に氷の塊が飛来する。
「え?」
 誰かが横から氷術をかけて、フレデリカを守ったのだ。
 そしてその隙に、もう一人の誰かがフレデリカにタックルをかけるような格好で、炎を回避する。

「――よっと……ずいぶん無茶をしているじゃありませんか、ねぇ?」
 フレデリカにタックルをかけたのは、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)だった。
 お宝の香りを嗅ぎつけたレティシアは、パートナーのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)と共に地下通路に侵入してきたのだ。
 さきほど、炎のトラップを氷術で相殺したのがミスティである。

「あ、ありがと……」
 脳内会議で忙しかったフレデリカの自我が戻ってくる。
 頭を振る。ザナドゥ時空の影響化とはいえ、自分の心のうちで冷静を欠いてしまうとは。


「――まったく、兄さんに笑われちゃうわね」


 フレデリカの呟きに、レティシアは笑みを浮かべた。
「落ち着きましたかねぇ? あちきは大広場にある『鍵水晶』をいただきに来たんですよねぇ、
 もし良かったら一緒に行きませんかねぇ」
 その意見に、ミスティも同意する。
「そうね、一人よりは安全性も高くなると思うし、またさっきみたいな無茶な進み方をされても困るしね。
 無茶・無理・無謀はうちのレティの専売特許かと思ってたけど。
 ……そういえば、さっき炎を受けたところは大丈夫?」
 苦笑いをしたフレデリカは、二人に向けて頷いて見せた。
「大丈夫。傷は治るし……これ、フレイムワンピースだから。
 ところでいいの? 同行するのは構わないけど、せっかくのお宝、横取りされちゃうかもしれないでしょ?」
 もちろんそんな気はないけれど、と内心呟くフレデリカだが、レティシアは屈託のない笑顔を浮かべて、言った。


「――あはははは……そんなこと、考えもしなかったねぇ」
 と。


 そんな一行の後ろから、激しい物音がした。
 妨害者は何もトラップだけとは限らない。この通路にはの主グレーターワイバーン ワムワの配下のモンスターがうろついているのだ。

 ちょうどフレデリカとレティシアが出会った場所は三叉路になっている。彼女らがやって来た方向とはまた別の通路から、誰かがモンスター達と戦闘を行なっている物音が聞こえた。
「――急ぎましょう、あちきたちの目的はブラックタワーの開放のために鍵水晶を手に入れること……雑魚と戦闘して時間を稼いでもらっているうちに、目的を達成してしまいましょう」
 先を急ごうとするレティシアに追随しながら、フレデリカは軽く振り返った。
「でも……あっちで戦っている人達は大丈夫かしら?」
 そんなフレデリカを促しながら、レティシアは進む。
「大丈夫でしょう……こんなところに来るということは、腕に覚えはあるはずだねぇ。
 それに……普通に戦闘してるにしても、あれはうるさすぎだねぇ。たぶん、派手に戦って通路の雑魚魔物をできるだけ引き付けて、多くのコントラクターを先に行かせようとしてるんじゃないかねぇ」
 その言葉に、フレデリカは頷いた。
「な、なるほど……確かに……」
「さ、先に行こう!!」
 ミスティに押されて、フレデリカもまた先を急いだ。


 ところで、その戦闘を繰り広げている一団であるが。
 そこにいたのは、ライカ・フィーニス(らいか・ふぃーにす)とパートナーのレイコール・グランツ(れいこーる・ぐらんつ)。そして、パラ実の自称正義のヒーロー、ブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)であった。

「正義フレイムナーックル!!!」

 事件の解決のために炎の通路へと侵入したブレイズは、手近な敵に爆炎波によるパンチを叩き込む。
 しかし、この通路のモンスターのほとんどは竜眷属のモンスターで、また炎の通路に配置されるくらいだから、炎への耐性は強い。

「――ちっ、効き目が薄いか!!」
 そのブレイズの後ろから、ライカが驚きの歌で援護した。
「大丈夫〜♪ がんばって〜♪」
 単純なブレイズはその応援でますます燃え上がり、モンスターに突進していく。
「サンキュー、ライカ!! うおりゃあああぁぁぁ!!!」


 ただうるさいだけ、だったという。


 だが、ブレイズもただうるさいだけではない。そのうたれ強さは驚異的で、何度モンスターに攻撃を受けてもすぐに立ち向かっていく。
 雑魚モンスターたちもブレイズの打たれ強さに辟易したのか、一箇所に集まってトラップを作動させることにしたようだ。

『今だ!!』
 モンスターたちが合図をすると、通路の奥から強力な炎が通路一杯に広がって吹き込んできた。
 その威力は、先ほどフレデリカたちが解除したトラップとは比べ物にならない。

「おおっとぉ!!!」

 そこに飛び出してきたのが、蔵部 食人(くらべ・はみと)である。
 『魔装大盾ヴェイダーシールド』を構えて炎をガードする。
 その巨大な盾は自分以外にも3人くらいまでなら守れるという大きさを誇っており、この状態で炎をガードするのには最適な盾と言えた。
 ところで、食人以外の3人とは、この場合誰のことであろうか。

「ねえダ〜リ〜ン! ボクを装備して変身ヒーローになってよ〜!!」

 食人の背中には、パートナーである魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)が抱きついている。
 本来、魔鎧であるシャインヴェイダーは食人に装着される重要な戦力なのだが、今はザナドゥ時空の影響でいささか役に立たない現状だ。
「ったく……どうしてこうなったんだ……とはいえ、放っておくわけにもいかないしよぉ……」
 ぼやく食人だが、背中に抱きついた状態で魔鎧として装着されていると勘違いをしているシャインヴェイダー本人としては、脳内大活躍中なのだ。
「……えへへ♪」
 となると当然、食人以外の3人のうち、一人はシャインヴェイダーである。

「あ、ありがとう……! この盾スゴいね、カッコいい!!」
 ライカは食人の盾に守られながら、礼を言った。ライカは能天気なところもあるが、それゆえ人見知りせず、外見にとらわれずに人を判断することもできる。ともすれば目つきの悪さでと顔の傷痕で誤解されがちな食人に対しても、自然体で接することができるのだ。
 ライカは続けた。
「お兄さんも正義のヒーローなの? みんなスゴいよね!!
 私も……すごいキックを放てるわけでも、腕からビームを出せるわけでもないけど……少しでも役になてればいいなって、そう思うんだ!!」
 その様子を見て、食人は笑う。
「ああ……そうだな……俺も、そう思うよ!!」

 そのライカと共に、食人のシールドで守られているレイコールは、炎の様子を探った。
「しかし、すごい威力の炎だな。しかも弱まる気配がない……どうなっているんだ」
 この時点でふと人数を確認すると、食人が構えた巨大な盾、ヴェイダーシールドにはシャインヴェイダーとライカ、そしてレイコールの3人が守られていることになる。


「あちゃちゃちゃちゃちゃ!!!」


 残念ながら、ブレイズは丸コゲだったという。


「ブ、ブレイズさーーーん!!」
 ライカは叫ぶが、今は炎の中に飛び出していくこともできない。辛うじて食人が造ってくれた死角に身を置き、炎が弱まるのを待つしかないのだ。
 だが、その様子を見てモンスターたちは笑った。


『ふふふ……そろそろ炎は弱まるが、貴様らに勝ち目はない。この炎に包まれた空間の中では、ザナドゥ時空の影響がよりいっそう強まるのだからな!!』


                    ☆


 ライカ・フィーニスは一般人。
 好きな食べ物は抹茶プリン、楽しいこととヒーローが大好きな女の子である。

「え、抹茶プリンって……バナナの立場はっ!?」
 どうやら早速ザナドゥ時空に侵されたらしいライカに突っ込んだレイコール。
 しかし、その彼も次の瞬間にはザナドゥ時空の影響に晒されることになる。

「思い出した……私は伝説のツッコミファイターであることを。
 数奇な運命によって前々世あたりからそうだった気がするのだ!!」


 前世はなんだったのか気になるところですね。


 ザナドゥ時空の強化が完了したところで、炎の勢いがおさまり、再びモンスターがやって来る。
「よし行くぞライカ!! この私の『至高のハリセン』の前に敵はない!! ――合・体!!」
 レイコールはおもむろに、手にしたハーフムーンロッドの先に手にしたハリセンを結びつけた。
 これにより、伝説のツッコミファイターが使うにふさわしい、『攻撃力を持ったハリセン』が誕生したのである!!


 誰かこのツッコミファイターに突っ込んであげてください。


「これは……ひどい……」
 食人は思わず呟いた。
 そのまま、ライカとレイコールはモンスターと混戦を繰り広げながら、更に通路の奥のほうへと駆け込んで行ってしまう。
「あ、おい待てって!!」
 急いでその後を追う食人。


 後に残されたのは、黒コゲになったブレイズただ一人である。


 そのブレイズに、声をかける者がいた。
「――おいおい、随分派手にやられてるじゃないか……さあ立てよブレイズ……いや、正義マスク」

「あ……あんたは……」


                              ☆