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女体化薬を手に入れろ!

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女体化薬を手に入れろ!
女体化薬を手に入れろ! 女体化薬を手に入れろ!

リアクション

「きゃああっ!!」
「くそッ!」
「北斗!?」

 なぜか、吹っ飛んだのは別の位置にいた睡蓮とイランダ、北斗だった。

「……あれ?」
 その結果に、小首を傾げる珂慧。
「だからあなたはノーコンなのよぅ。もうどうしようもなく、致命的に。少しは自覚したら?」
 ああやっぱり、と天を仰ぎつつ、ヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)はふうと吐息をついた。
 大抵の物事に興味を持てないというか、淡白な珂慧が、めずらしく自分からやる気になっているのを削ぐのは悪いと背後にずっと控えていたヴィアスだったが、口をはさまずにはいられない状況だ。
「……うるさいよ、ヴィー」
 ちょっぴり拗ねた声で珂慧が振り向く。
「ただちょっと……扱い慣れてないだけだよ。こういうの、初めてだから――って、うわっ!!」
 突然九頭切丸からの襲撃を受け、珂慧はあわてて飛び退いた。

「九頭……私は、大丈夫ですから…」
 道に倒れ伏した睡蓮が、弱々しいながら声をかけるが、彼女が攻撃を受けたと解釈した九頭切丸の攻撃は止まらない。

「え……ちょ……僕、戦闘ムリ…」
 とりあえず、唯一の攻撃スキル・朱の飛沫を放ったが、九頭切丸の発動した歴戦の防御術を用いた龍騎士のコピスによる技と重装甲アーマーによってあっけなく散らされてしまう。
 しかし距離をとることには成功した。
「えいっ」
 性懲りもなく(?)、機晶爆弾を投げつける珂慧。案の定、この機晶爆弾もまた、あさっての方向に飛んで壁を吹き飛ばす。
 しかし意外にも、これが功を奏した。

「きゃあっ!!」

 だれもいないはずの壁から、女の声がした。
 爆発の勢いで隠れ身の解けたソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が、その姿を現す。
 彼女はこの騒ぎのどさくさにまぎれ、笹飾りくんの持つ薬を奪取しようと狙っていたのだ。

「まったくもおっ!! ひとがせっかく真夏のブラックコート着用に我慢してたっていうのに!! 苦労がだいなしじゃないの!」
 こんな身近にひそんでいたことに全然気付けていなかった、新たな敵の出現に目を瞠る者たちの前、ソランはわめいた。
 その額からは汗だらだら。
 おそらくブラックコートの下も、汗まみれ。

「いらないわよ、こんな役立たずっ!!」
 えいえいっ。
 完全獣化し、狼になったソランは、ぺいっといまいましいブラックコートを脱ぎ捨てる。

「もう、こうなったら腕ずくよ! 笹飾りくん、覚悟っ!!」
 それに乗ったのがリドワルゼだった。
 ソランに合わせ、2方向からの同時攻撃を仕掛ける。
「させないのであります!」
 リリが再び迎撃に出たが、同時に2方向は狙えない。

「笹飾りくん、けいや――」
「駄目だ! イランダ!」
 飛び出して行こうとしたイランダのウエストに腕を回し、北斗が引き戻す。
「だって! あんなやつらに襲われたら、かわいくて愛らしい笹飾りくんなんか、ひとたまりもないわ! だから私が契約して、守ってあげるの!!」

「えっ!?」
 北斗の分の買い物袋も持って、離れたところでぼーっと傍観していた輝夜が、思わず声を上げた。

「……え? って…?」
「いや、べつに」
 失言した、と口を押さえる輝夜。


「……爆弾、もう1個しかない…。ヴィー、笹飾りくんを守――」
 珂慧の振り向いた先。
 信じられないことに、ヴィアスは笹飾りくんの笹竹に今まさにかぶりつかんとしていた。

「……ヴィー…?」
 僕たち、彼を守りに来たんだよ?
「――はっ、白菊。いえ、これは……そのぅ」
 ぱっと飛び退き、両手に持っていた醤油とみりんを後ろ手に隠したヴィアスだったが、珂慧はしっかりそれで味付けしようとしていたところを目撃している。

 だってだって、青々として、瑞々しそうで、おいしそうに見えたんですものぉ。

 白ヤギの獣人・ヴィアスには、笹飾りくんの笹竹は食べ物に見えたらしい。そして彼女は本能に忠実――と言えば聞こえはいいかもしれないが、ようは我慢のきかない性質の人だった。
 一度考えつくと、体がうずうずして、抑えがきかない。

  ――笹飾りくんの笹竹は着ぐるみだから、かぶりついたって出てくるのは綿なんですけどねぇ。


 そうする間にも、ソランとリドワルゼ、2頭の狼はそのすばやさで巧みにリリを翻弄し、笹飾りくんにぐんぐん迫る。
 ぐっと身構える笹飾りくん。笹手裏剣か、笹台風か!?

 しかしそこでまた、珂慧のノーコン爆弾攻撃が炸裂した――今度は笹飾りくんのすぐ横で。

「あっ……しまった」
 思わず口元に手をあてたが、もう遅い。

 機晶爆弾の爆発をモロに受け、笹飾りくんは盛大に吹っ飛んでいった。

  ――まぁある意味、攻撃は防げたのかもしれない。


 ひゅるるるる〜〜〜〜〜〜と何かが飛んでくるような音がして、いくつかの瓶が地面に落ちて割れる。大方爆発で笹竹につるしてあった紐が切れたのだろう。
 だが中には運のいい瓶もあって、2つが割れずに地面をコロコロ転がった。

「お。ラッキー」
 足元に転がってきた瓶を、リドワルゼが踏んで止める。
「行くぞ、シャオ」
「え、ええ…」
 笹飾りくんの無事が気になりながらも、シャオもまた、リドワルゼを追うようにこの場を立ち去る。ソランはとうに瓶の1個をくわえて、姿を消していた。


「笹飾りくーーーん! 待って〜〜っ、私と契約契約ーーっ」
「もうあきらめたら? イランダ」
 笹飾りくんを追って走るイランダと、そのあとをついて行く北斗と輝夜。


「くやしいのであります! この身が人型でありましたら、自分も追えたでありますのにっ」
 声からして男泣きしているっぽいリリの頭を、アリーセがよしよしとなでて慰めていた。


 睡蓮は爆発から彼女をかばった九頭切丸の腕に抱き上げられている。


 笹飾りくんの消えた空を見上げながら珂慧は。
「……僕の描いた似顔絵に、サインほしかったなぁ…」
 スケッチブックを手に、少し残念そうにぽつっとつぶやいていた。