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女体化薬を手に入れろ!

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女体化薬を手に入れろ!
女体化薬を手に入れろ! 女体化薬を手に入れろ!

リアクション

 それは、なんの変哲もない、ただの午後だった。
 普通に授業を受け、普通に友達と談笑し、普通に放課を迎える。


 師王 アスカ(しおう・あすか)はいつものように画材道具を手に、ラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)を連れて待ち合わせ場所へと急ぐ。今日は宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と一緒に外でスケッチをする約束をしていたからだ。
「いい天気ねぇ〜。まさにこれぞ夏って感じ。この強い光線なら、色鮮やかに生えるでしょうね〜」
 今流行の歌をふんふん鼻歌で歌いながら、町へ出て行く。


 インターネットアイドル・海音シャナこと富永 佐那(とみなが・さな)は、衣装の詰まった紙袋を手に空き教室へ入る。
 化粧をほどこし、空色のウィッグにエメラルドグリーンのコンタクト、細部にフリルのついたヘソ出しアイドルルックに着替えたら、彼女はもはや海音シャナ。佐那の面影はどこにもない。
「ふふっ。この夏の暑さに負けないくらい、今日は熱く燃えさせてみせますからっ」
 コンパクトに向かってウインクをしたシャナは、足取りも軽く路上パフォーマンスを予定している場所へと向かう。


 会合場所へ向かうリムジンの中、書類の内容を頭に叩き込みながらも、隅の方で、今朝のノーンとのやりとりを思い返している御神楽 陽太(みかぐら・ようた)。 


 オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)は無邪気に、今日のお夕飯は何にしようかと考えつつ、教室で数枚の特売チラシを前にペンを走らせてマーキングをしている。


 そしてセルマ・アリス(せるま・ありす)は。
「シャ、シャオ? それにリドも? これ一体何!?」
 教室を出た早々パートナーの2人に急襲され、ロープでぐるんぐるん巻きにされた挙げ句、体育倉庫に蹴り込まれていた。
「ここで少しの間、おとなしくしててね」
 にっこり笑ってさるぐつわ用の布を持ち上げるシャオ。
「リド、どうして? ――むぐっ」
「すまないな。オレにこの女をどうこうできるほどの力はないんだ」
 本当にそう思っているようにうなだれて、リドは立ち去った。



  ――はたして本日のセルマの運命やいかに!?


☆               ☆               ☆

 放課の鐘の音が響くとともに、教室から生徒たちが飛び出していく。
 部活へ急ぐ者もいれば、帰宅部と称して町へ出ていく者もいる。
 笹飾りくんもまた、帰宅部の1人だった。

 プレゼントでもらった赤いリボンでカバンを背側にくくりつけ、とっとことっとこ歩いていく。
 その後ろについているのは雅刀を持つ武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)である。小さな笹飾りくんの歩幅に合わせ、ゆっくりと歩くその姿は何の気負いもなく、自然体に見えたが、常に周囲に殺気看破を張り巡らせており、これにひっかかる者あれば神速で即座に先手を打つ考えだった。

 ふと、曲がり角を前に、笹飾りくんの歩みが止まる。
「ん? どうした」
 先を見ると、下を向いて表情を隠した少女が立っていた。
 牙竜は反射的、笹飾りくんを背後にかばい込み、雅刀に手をかける。

「さ、笹飾りくん! 初対面でいきなりだけど、これ、つるさせて! お願いっ!!」
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は短冊を持った手を突き出した。
 グッとこぶしで握りしめているためほかの者には見えないが、実はそこには大きく太文字で『バストアップ!』と書かれている。
 恥ずかしさのあまり笹飾りくんを直視できず、先からずっと視線を泳がせているため、彼女は自分が差し出している相手が牙竜であることに、全く気付けていなかった。

 殺気看破が一切反応しないということは、害を為す気は全くないということだ。
 とすると、決めるのは笹飾りくんだと牙竜は元いた位置に退く。

 笹飾りくんは牙竜を見、ミーナを見、笹竹を向けた。

「あ、ありがとう!!」
 ミーナはパッと表情を輝かせ、笑顔で笹竹に短冊をつるし始める。

 それを背後の路地影から見ていたエヴァルト。
 これだ! と思った。意図を叫びながら近寄れば、目つきの悪さから誤解されることもないんだと。
 思い立ったが吉日だ。
 短冊を掲げ、路地から飛び出して走り寄った。

「――む。この気配は!?」
 鋭く感じ取った牙竜がそちらを振り返る。

「笹飾りくん! 初対面でなくいきなりだが、これを――げふゥッ!!

 牙竜の雅刀が右脇腹に入り、エヴァルトはその場に両膝をついた。
 向き直った牙竜が黒鞘に収まったままの雅刀を見せる。
「安心しろ、峰打ちだ。もっとも、急所にまともに入ったからな。しばらくは動けんだろう」

「な……ぜ…」
 激痛にまともな息もできないながら、どうにかそれだけを口にする。
 短冊をつるしたいだけで、敵意はない。
 殺気看破にはひっかからなかったはず、と言いたいらしい。

 そんな2人の真上に、人影が落ちた。

「なぜなら発していたのは僕だからさ!! くらえ、ゾディアック・レイ!」
 太陽を背に、氷雪比翼による飛行状態からの先制攻撃!

「うわあっ!!」

 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)の手から放たれたコイン型光条兵器が、まぶしさに目をすがめた牙竜を背後に吹き飛ばす。とっさに急所をかばって出した雅刀を砕かれつつ、牙竜は曲がり角の壁に背中を打ちつけた。

「これで邪魔者はいなくなった。
 さあ笹飾りくん! 僕と1対1の勝負だ! 負けたらきみには女になってもらうよ!」
 ビシッ。レオは笹飾りくんに向かって人差し指を突きつけた。

  てんで意味が分からなくて全くついていけてない方のために解説しよう!

 彼は平等院鳳凰堂 レオ。おそらく日本で1、2位を争うくらい画数の多い苗字と、やはり日本で9、10位を争うんじゃないかなぁ? なぐらい画数の少ない名前を持つ者である。
 長いサラサラキューティクルヘアーをポニーテールにまとめ、外見性別:女である彼。
 しかし彼は真実女になるため女体化薬がほしくて笹飾りくんを襲撃しているのではない。

「他の人間を女体化させるなら――本人が女の子になったって、しょうがないよね?」

 という、他人にはよく分からないリクツで動いているのだった。

『笹飾りくんはつるされた短冊に書かれた願いをかなえただけだしぃー』
とか
『かなえられた本人は永久女体化して喜んでるかもしれないじゃん』
とかいう考えは思いつかなかったらしい。
 あるいは無視したか。

 つーか、着ぐるみな笹飾りくんを女体化したって外見変化なくて面白くないだろ、というツッコミもあるんだが。
 本人はいたってマジなんだから仕方ない。
 こうなったらやってもらいましょう!

「いくぞ!」
「!」
 ジャキン! と彼が構えた聖杭ブチコンダルを見て、笹飾りくんもついに彼からの敵意を悟ったか。
 ――シビビビビッ!
 麻痺薬の塗られた笹手裏剣が、彼の背負った笹竹から放たれた。

 カツカツカツッ ――音を立てて地面に突き刺さる笹の葉型手裏剣。

「こんなもの!」
 行動予測とミラージュで笹手裏剣を最小限の動きで避けたレオは、一気に間合いを詰める。
「笹飾りくん、覚悟!
 秘剣――スターダスト・ブレイカー!」

  ――秘剣って、あなた持ってるのパイルバンカーですが。 


「うおおおおおっ!!」

 笹飾りくんの頭上、聖杭ブチコンダルを振りかぶる。
 狙うは頭の少し上、着ぐるみ部分!
 そこを壁に縫いつけて動きを封じるつもりだったのだが。

 彼はすっかり忘れていた。
 失念していた。
 と、ゆーか、最初っから数に入れてなかった。
 この場には「戦闘力ほぼゼロだけどかわいい子好きはだれにも負けないっ!」ミーナがいることを。

「こんなちっちゃい子をいじめちゃだめーッッ!!」

 横からどーーーーーんっ。

 ミーナに突き飛ばされ、レオはごろんごろん道を転がった。
「い、いたたたたた…」
 鼻打った、と顔面を押さえているところへ笹飾りくんの必殺技・笹台風炸裂!
「うわっ!!」
 レオは一気に巻き上げられてしまった。

「……くそ。こんな風――」
 と、ぐるんぐるん潮流ならぬ風流に巻かれながらも、氷雪比翼を発動させようとしたレオだったが。
 次の瞬間、笹飾りくんへの攻撃を防ごうと走り寄っていて一緒に巻き込まれてしまった牙竜の石頭とガッツリ頭をぶつけることになってしまった。
「いっ……いたたたた…っ」
 目から火花が飛び散ったかと思うくらいの激痛にうめいた彼に何かが投げつけられた。
 パリン、と腕に当たってガラスか何かの割れた音がして、口に何か、液体のような物が流れ込む。

 投げつけたのは、真下にいる笹飾りくん。
 ――ということは、つまりこれって…?
 股間に手をやり、ひと言。

「……うっっっわーーーーっ!! ちょっとちょっと! なんで私が女の子になってるわけーっ!?」
 うそー! やだー! 何コレー? ありえなーい!
 吹き飛ばされる間中、レオのかわいい悲鳴だか怒号だかが、ツァンダの町中に響いていたらしい。

「わー、すごいんだねー。笹飾りくん、つよーい」
 ぱちぱちぱち。
 ミーナが拍手する横で、笹飾りくんは少し誇らしげに胸をはる。
「暴力、よくない。あの人たち、反省が必要」
「だよねー」
 にっこり笑顔で応じるミーナ。

 彼らの後ろ、牙竜の急所攻撃にいまだ立てないでいるエヴァルトの手から、そのときピューッと風が短冊を奪い取っていったのだった。

☆               ☆               ☆

 一方、笹台風によって吹き飛ばされた先の空き地で、レオはへたり込んでいた。
 スレンダーなぺったんこ胸は服の引っかかるところもなく、上着も下着もすべり落ち、腰のところでたまってしまっている。
「うっ、うっ、うっ……ひどいじゃない、こんな体……もうおムコに行けないかも」
 空き地で半裸でこのセリフ。
 聞きようによってはものすごいシチュエーションだが、本人は全く気付いていないらしい。

「だれか、これは夢だって言ってよ! 目が覚めたら全部元通りになってるってー!!」

 わっと泣き伏してしまう。
 あまりの出来事にすっかり脱力してしまい、立つ気力もなくなっていた彼の後ろに、立つ人影が…。
「牙竜…?」
 すんすん鼻をすすりながら涙目で振り返ったレオに見えたのは、棒のような何かを大きく振りかぶった黒い影だった。

 バールでどすんとね。

「!!」
 突然背中のど真ん中で炸裂した痛みに目を瞠り、レオは前のめりに倒れた。

「ああっ! アヴドーチカさんっ、そんないきなり…」
 空き地に半裸で座り込み、泣いている少女に歩み寄ったと思ったらいきなりバールをフルスイングしたアヴドーチカを見て、結和は血相を変えた。
 あわてて少女の横に膝をつく。
「……よかった。気絶してるだけね」
「施術のついでに眠らせてやったのだ。すっかり取り乱しているようだったからな。目が覚めれば気持ちも落ち着いているだろう」
「眠らせたいならほかに方法はいくらでも――あっ、アヴドーチカさんっ」

 施術は終わったとばかりにバールをかつぎ、再び歩き出すアヴドーチカ。
 気絶している少女を介抱するべきか、アヴドーチカのあとをついて行くべきか……結和は互いを何度も見比べる。
 しかし次にアヴドーチカがぼそっとつぶやいた言葉

「私の施術を希望する者の気配は、向こうか」

 のひと言で決まった。
 ついて行ったところで何もできないかもしれないけれど、かといってアヴドーチカから目を離すわけにもいかない。
「ごめんなさい」
 詫びるようにぎゅっと少女の手を握ったあと、あたふたアヴドーチカのあとを追う。


「あー、いたいた」
 入れ替わるように現れたのは、葵だった。

「んもー、また気絶してるー。これじゃあコメント取れないじゃないっ」
 憤慨しつつも、うつ伏せに倒れたレオの女体化した体を見――葵はそっと、その手に自分が笹飾りくんからもらった薬『巨乳薬』を握らせたのだった。



 そしてすぐ近くのとある家屋からは。

「るっ、ルオシンさんーーーっ!?」
「ああっ! アヴドーチカさんっ、そんないきなり…」

 コトノハと結和の悲鳴がしていた。


「大丈夫だ。目が覚めたら体調は元に戻っているだろう」