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イコンお料理大会

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イコンお料理大会

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イルミンスールの森北部

 
 
「食材の確保ですか……」
「面白いじゃないか。イコンで狩りだなんて豪快だぜ」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の話を聞いて、ちょっとどうしようかと考え込んだレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)の後ろで、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が諸手を挙げて賛成した。
 せっかく面白そうなイベントだと思ってグラキエス・エンドロアを誘ったのに、今ひとつ乗りが悪いので気にしていたのだ。だが、イコンを使っての狩りなら、少しは乗ってくるだろう。
「そうですね、それはそれで面白いかもしれません。いちおう、戦闘訓練にもなりそうですし」
『それでは、さっそく出発するとしようではないか』
「えっ、今いったいどこから声が……」
 うなずいたと同時に、いずこからともなく声をかけられて、ちょっと驚いたレリウス・アイゼンヴォルフが周囲を確認した。
「悪い、驚かしちまったようだな。今しゃべったのはこいつだ」
 そう言うと、グラキエス・エンドロアが、着ていた黒いロングコートを軽く翻した。
『魔鎧のアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)という。お見知りおきを』
「魔鎧だったのですか……」
 納得しながらも、変わったパートナーだと思いつつレリウス・アイゼンヴォルフは自分のイコンにむかった。
 グラキエス・エンドロアの方は、すでにパートナーのエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が乗り込んでいるイーグリット・アサルトタイプのシュヴァルツに搭乗する。
 ほどなくして、レリウス・アイゼンヴォルフのクェイルが合流した。
「獲物は、イルミンスールの森近くにいる巨鳥類だ。それほど遠くはないから、イコンの移動力の差はあまり気にしなくてもいいだろう。俺たちの食材を待ってる奴もいるんで、一つ大猟といこうぜ」
 オープンチャンネルにした通信でレリウス・アイゼンヴォルフに告げると、グラキエス・エンドロアは出発した。
「巨鳥ですか。はたして、どんな鳥がいるのでしょうね」
「なんでもいいじゃねえか、かたっぱしから焼き鳥だぜ」
 またパラミタの生態系を把握していないレリウス・アイゼンヴォルフが興味深そうに言ったが、ハイラル・ヘイルは細かいことなどお構いなしだ。
「ふふっ、鳥だけとは限りませんよ。最近は、エリュシオンから恐竜などの流入もありますし、レッサーワイバーン、もしかしたらドラゴンなどとの遭遇もあるかもしれませんねえ」
 そんなレアな肉が手に入ったらどれぐらいで売りつけられるのかと、ポケット電卓でしきりに計算をしながらエルデネスト・ヴァッサゴーがつぶやくように言った。
「おもしれー、ドラゴンでねえかなあ、ドラゴン」
「いや、ちゃんと戦力の彼我の差は把握するべきですよ。相手がドラゴンでしたら、全力でかからないとこちらも無傷というわけにはいかないでしょう」
 甘く考えてはいけないと、レリウス・アイゼンヴォルフがハイラル・ヘイルを軽くたしなめた。
「ただじゃすまない……、それもまた一興ですね」
 ちょっと、思惑を秘めた笑みをエルデネスト・ヴァッサゴーが浮かべた。
『何、俺のサポートがあれば、それだけで主ならドラゴンの一匹や二匹ぐらい、簡単に倒せるであろう』
「さすがに、そこまではなあ。まあ、エルデネストやレリウスの協力があれば、きっちりと倒してみせるけどな」
 ちょっとした軽口にも聞こえるアウレウス・アルゲンテウスの言葉に、懸想するようにグラキエス・エンドロアが言った。
『あ、主は、俺のサポートだけでは役者不足だと……。いや、単に部隊規模の戦闘の話であるだけであるよな。俺がいれば充分だとか、なんで他の者を頼るのかとか、そんなことはちっとも思っていないのであるからな』
「相変わらず、おしゃべりな魔鎧ですね。服は、黙って着られていればいいものを。最近、私のまねをしているようですが……まあいいでしょう。おや、レーダーに何か映っていますよ。後は、きっちりとやってください」
 ちょっとうんざりしたようにアウレウス・アルゲンテウスの台詞を聞き流していたエルデネスト・ヴァッサゴーが、レーダーに映った影を報告した。
「聞こえたか、レリウス、俺が獲物の進路を妨害して足止めするか地上に叩き落とすから、そこを仕留めてくれ。くれぐれも、ちゃんと商品になるように止めを刺してくれよ」
 グラキエス・エンドロアが、パートナーたちのやりとりは放っておいてレリウス・アイゼンヴォルフに伝えた。
「ようし、ミンチだな。分かったぜ」
「今のは聞かなかったことにしてください。ちゃんとやりますから」
 血気に逸るハイラル・ヘイルにちょっと苦笑しつつ、レリウス・アイゼンヴォルフが答えた。
 それでいいと、ハイラル・ヘイルがちょっとほくそ笑む。
 
    ★    ★    ★
 
「あっちに、小麦畑があるよ」
「よおしー、分かったー」
 優雅に空を飛ぶ柾嗚の上から叫ぶ綾女 みのり(あやめ・みのり)にむかって、地上にいる椎名 真(しいな・まこと)が大声で叫んだ。
 目の前には、人の背丈の倍はありそうな小麦が群生している。
「結構な野菜が手に入ったな」
 背後に浮かべたタイムウォーカーの上に載せた各種の巨大野菜を振り返って、椎名真が満足そうにうなずいた。
 これだけあれば、料理をする者たちも食材に困ることはなくなるだろう。
 刈り取った小麦を積み込みながら、ふいに椎名真は他の巨大な物の気配を感じた。
「巨獣か? みのり、まさおくん、注意しろ。近くに何かいるぞ!」
 まさおくんと呼ぶ柾嗚にむかって、椎名真が叫んだ。
「うん、分かった……うわっ」
 答えたとたん、柾嗚の風切り羽の幾枚かが灰になった。上空からのレーザーバルカンの攻撃だ。
「イーグリット・アサルト!? おい、まさおくんは野生の獲物じゃないぞ!」
 あわててタイムウォーカーから野菜を引きずり下ろすと、椎名真はそれに飛び乗った。
 
「そうそう、いい調子です」
 ターゲットを指示しながら、エルデネスト・ヴァッサゴーが言った。
『なんだか、獲物に誰かが乗っていたような気がしたのであるが……』
「気のせいでしょ」
 ちょっと懸念を示すアウレウス・アルゲンテウスに、エルデネスト・ヴァッサゴーがしれっと答えた。
「とにかく、地上に追い込むぞ。後は、レリウスがなんとかしてくれるだろう」
 地上では、巨大なデスサイズを構えたクェイルが、まさに獲物を刈り取ろうと待ち構えている。
「威嚇射撃、第二射いくぞ」
 グラキエス・エンドロアが、柾嗚をターゲットスコープに捉えた。だが、そこにふいに椎名真が乗ったタイムウォーカーが高速で割り込んでくる。
『あれは、野生の鳥じゃない、人が乗っているんだ!』
 外部集音マイクが、椎名真の声を拾った。
「エルデネスト、なぜ言わない」
「聞かれなかったでしょう。私は、そばに大きな鳥がいると申し上げただけですよ。勝手に獲物と判断したのはあなた方ではありませんか。それとも、責任転嫁いたしますか?」
 自分は悪くないと、エルデネスト・ヴァッサゴーが責めたてた。
「とにかく分かった。攻撃は中止だ」
 あわてて武器を収めると、グラキエス・エンドロアは地上のレリウス・アイゼンヴォルフに告げた。
「あう。分かってもらえましたか」
 椎名真がほっと胸をなで下ろしたが、いきなり攻撃されて興奮した柾嗚が、反転してグラキエス・エンドロアのシュヴァルツに襲いかかってきた。
「ちょっと、まさおくん、止まって、止まれえ!」
 柾嗚の背では、必死に綾女みのりが制御しようと手綱を引いている。
「ほうら、手加減するからですよ」
 獣に情けが通用するものかとエルデネスト・ヴァッサゴーが言う。
『降りかかる火の粉は払おうとも、小さな命の火を無駄に消すのは愚か者のすること』
「そうだな」
 アウレウス・アルゲンテウスの言を入れて、グラキエス・エンドロアが回避行動をとる。
 
「あれ、やばくないのか?」
 下で見ていたハイラル・ヘイルが、レリウス・アイゼンヴォルフに言った。
「ですが、むやみに撃つわけには……」
 いちおうアサルトライフルを構えながら、レリウス・アイゼンヴォルフが答えた。
 反転してきた柾嗚が、背中に乗る綾女みのりを振り落とさん勢いでシュヴァルツに襲いかかろうとする。
「早い!」
 一瞬回避が遅れたシュヴァルツが、反転回頭しようとした。
 そのとき、両者の間の大気を切り裂いて、機晶ビームキャノンの輝きが通りすぎた。
 
「外したか……。だが、我からは逃れられぬ
はうぅ〜。外したかじゃないでしょ! 何、勝手にレールガン撃ってるんだもん!」
 残念そうに言うジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)を、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が叱りつけた。
 だが、その一撃に驚いた柾嗚があわてて空中でホバリングして止まる。その間に、綾女みのりが柾嗚をなだめて落ち着かせた。
『え、えーっと、威嚇攻撃、成功しました?』
 ゆっくりとアルマイン型イコン、深き森に棲むものを一同に接近させながら、カレン・クレスティアがとりなすように外部スピーカーで話しかけた。
「威嚇? ふっ、面白い冗談を」
 さすがに、エルデネスト・ヴァッサゴーが苦笑する。
『結果オーライだろ、みんな落ち着けや』
 場をとりなすように、ハイラル・ヘイルが言った。
 とりあえずその言葉に従って、一同が武器を収める。
「やれやれ、一時はどうなったかと……」
 ほっとしたのも束の間、椎名真が別の気配を感じた。
 森の梢を薙ぎ倒して、巨獣とそれと戦う巨鳥が現れる。
 どうやら、イコンの戦いに驚いて飛び出した巨鳥が、巨獣と出くわしてしまい、そのまま戦いを始めてしまったらしい。
「今度こそ、本当の獲物のようですね」
 レリウス・アイゼンヴォルフが、ブンとデスサイズを振って身構えた。