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第二章 執念

 閃光が≪サルヴァ≫を追い掛けていた生徒達に目にも見えた。
「大変!? 急いで何かに捕まらなくちゃ!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)も他の生徒にならって近くの建造物にしがみ付く。
 歴史博物館の≪機晶式ジィビナイド・カノン砲台≫から発射された弾丸は、衝撃波を巻き起こしながら大通りを突き進んでくる。
 遥か向こうでレンガ作りの床が剥がされ、屋台が吹き飛び、≪氷像の空賊≫の身体が砕け散っていた。
「セシル! あいつ何かする気だぞ!」
 そんな時セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)に装備された魔鎧グラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)が声を張り上げる。
 衝撃波から身を守ろうとしていたセシルが視線を向けると、≪サルヴァ≫が二の腕の血管を浮き上がらせ街灯を引っこ抜いていた。
「……まさか!?」
 セシルが≪サルヴァ≫と物凄い勢いで向かってきている弾丸を交互に見つめた。
 ≪サルヴァ≫が街灯を槍投げのように構え、向かってくる弾丸を睨みつける。
「きっと弾丸の落とす気ですわね。そんなことさせませんわ!」
 セシルが≪サルヴァ≫を止めるために駆け出した。
「芽美ちゃん、私達も行くよ!」
「了解よ」
 セシルの後に緋柱 透乃(ひばしら・とうの)月美 芽美(つきみ・めいみ)が続く。
 だが、そんな何としても止めたい彼女達の前に≪荒くれ者≫達が立ちふさがる。
「邪魔ですわ!」
 セシルのスマッシュアンカーでの攻撃を、≪荒くれ者≫は真っ向から受け止めると、別方向から別の≪荒くれ者≫がセシルに殴りかかる。
「セシル!」
 グラハムが【残心】によりセシルを防御させ、直撃を免れた。
「助かりましたわ」
「パートナーとして当然のことをしただけだせ」
 セシルは体制を立て直し、再度≪荒くれ者≫達の突破を試みる。
 そして同じように足止めをくらった透乃の方は自身の身長の倍ほどある巨漢と交戦していた。
「くっ、なかなかやるじゃん」
 激しくぶつかり合う拳。
 お互いが力を込めた一撃を拳が割れるまでぶつけ合う戦い。
 両者一歩も引かない戦いだった。
「なら、私がスピードで……!!」
 このままでは長期戦になると判断した芽美は一人スピードを生かして≪荒くれ者≫達の間を抜けようとした。
 だが、そんな芽美を狙って比較的足の速い≪荒くれ者≫達が一斉に攻撃をしかけてくる。
 その様子を見ていた四谷 大助(しや・だいすけ)が≪サルヴァ≫を止めに行こうとする。
「なら、オレが行く――!」
「貴様の相手は私だろうが!!」
「――!?」
 走り抜けようとした大助は殺気を感じてバックステップを踏んだ。
 大助の前に神豪 軍羅(しんごう・ぐんら)が立ちふさがる。
 ≪サルヴァ≫を止めたい生徒達だったが、妨害にあって誰も止めることができなかった。
 そして≪サルヴァ≫が街灯を空へと投げつけた。
 ――次の瞬間。
 風を引き裂く轟音と金属同士がぶつかる甲高い音が響き、生徒達は吹き飛ばされた。

 壁に叩きつけられてふらつきながら立ち上がる大助。
 砂煙の中で大助は砲撃の結果を知るべく、空賊船に目を向けた。
 すると空賊船の後方に見えていた山の中腹に、ぽっかりと大きな穴が空いていた。
 ――そして
「そんな、ばかな……」
 ……空賊船は未だに航行を続けていた。
 空賊船の側面から煙が上がってはいるものの、墜落する気配は感じられない。
 ≪サルヴァ≫が歓喜に満ちた笑いを上げた。
 
 ――作戦は失敗したのだ。 
 
「だったら、書物を奪って目的を達成できないようにするですぅ」
 生徒達が愕然とする中、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が≪サルヴァ≫から書物を奪うべく駆け出した。
 空賊船が陽動なら、≪サルヴァ≫の目的が達成できなくすれば引かせることができると考えたのである。
 駆け出したルーシェリアを見て、≪サルヴァ≫がニヤリと笑った。
 次の瞬間。周辺の民家から爆発が巻き起こった。
 爆発に巻き込まれた生徒や≪荒くれ者≫がダメージを負った。
「な、なんですか!?」
「危ない!」
 驚いて足を止めたルーシェリアにアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が横からとびかかり、間一髪で足元から噴き出した火炎を回避した。
「あ、ありがとうですぅ」
「いえ、ルーシェリア殿が無事でよかったです」
 アルトリアは優しく微笑むと、殺気立った視線を火炎の向こうに隠れた≪サルヴァ≫に向けた。
 ≪サルヴァ≫の姿は大通りを遮断するように吹き上がった火炎により見えない。
 そして、数秒間吹き続けていた火炎が消えると、生徒達の目に飛び込んできたのは意地の悪いを浮かべる≪サルヴァ≫ではなく、黒いマントを纏った集団だった。
 アルトリアが憎らしく黒マントの集団を睨みつける。
「これでは誰が≪サルヴァ≫かわかりませんね……」
 黒マントを羽織り顔を隠した集団は、多少身長や体格にバラつきがあるものの、≪サルヴァ≫に似たり寄ったりの体格をしていた。
 生徒達が困惑していると、突然黒いマントの集団が四方に駆け出した。
「なっ!? 逃がしませんですぅ!」
 どいつが≪サルヴァ≫なのかわからない以上、街の外へ逃げられる前に一つ一つ確かめるしかない。
 生徒達は黒マント達を追ってバラバラに駆け出した。