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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
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 第17章

 
 若干怯えながら案内してきたサルカモ2匹が、一生懸命に手を伸ばして情報管理所を示す。恐らく“ここです、ここ”とでも言っているのだろう。
「随分と人が集まっているな」
 入口から覗き見える様子に、レンはそんな感想を抱いた。本棚と、そして床に座って本を読む皆の姿。何故か半身のガーゴイル……だと思う石像。
 レン達4人が管理所に入っていくと、サルカモ達は御役御免とそそくさと離れていく。戻る途中、彼等はガーゴイルの下半身を運んでいった。

『見せる気は毛頭無かったのだ。待たせて済まぬとは言わぬ』
 まずガーゴイルは、来訪時に挨拶をしてきた静麻と、そして霞憐に何冊かの本を渡した。それらは全て、アルカディア内の罠についての本である。
『役に立つかは不明だがな。私は役割故、此処から動いた事も無い。神殿の罠についても詳しくはないが、或いは何か書かれているかもしれない。侵入者を行方不明にする何かについて』
「いや、助かる。ありがとう」
『礼を言われる筋合いのことでもない。しかしまさか、このような事になるとはな』
「えっと……体は大丈夫なのか?」
 只の司書となってしまった現状についての言葉であったが、霞憐は心配そうな顔を向ける。『大したことではない』と“彼”は言った。
『石像の私に痛覚は無く、食事や排泄をするわけでもない。少々サイズが小さくなっただけだ』
 淡々とした答えだったが、その中には答え以上の無感情さが隠されている気がした。やはり、少し気にしているのだろうか。
 そうして2人は、ライナスを探しに来た皆に本を持っていった。

 要望に沿った薄い本をそれぞれに手渡すと、ガーゴイルは目録と書かれている残った1冊をカーペットに置いた。無言ではあったが、後は勝手に探して読めということだろう。ラグナはそこから技術書を幾つか選び持ってくると、のんびりと本をめくっていった。
「……なるほど、こういう仕組みになっているのですわね。操作を任されているのは、モンスター……、遺跡らしいといえばそうなのかもしれませんわ」
 色々と高度な技術が使われていたが、それを実際に扱っているのは情報管理者のガーゴイルではなく、サルカモというサルとカモノハシを足して2で割ったような魔物らしい。この神殿内で唯一、凶暴性の無い存在だ、とある。
 侵入者の言動を捉えるシステム等、彼女は面白そうな記述だけ書き写して興味の対象を智恵の実の本に変えた。朝斗達も集まり、車座になって本の内容を確認していく。
 そしてその隣で、佑也もまた薄い本を床に置いた。佑也の周囲にも、アクアや原稿用紙片手の山海経、望達が集まってくる。本は随分と大判で、表紙に書かれたタイトルは真面目な情報書というよりは商業企画で発売された解説本のようだった。その名も『読んで楽しい! アルカディアの雑学』。タイトルの下には、明日、友達に話してみよう! とか書いてあった。当時の萌え絵であろう女の子のイラストまで描かれている。

“アルカディア。それは、理想郷。この神殿では、訪れた者の希望、要望が叶えられる。そして、理想郷とは――究極の理想の世界はやはり天の国であろう。この神殿は、『アルカディアに行きたい』と発言した者を応援する”
 その文の下には、女の子。よく見ると“ナビゲーター・アルカディアちゃん”と紹介されている。
『そう……全力で応援するよ! ここに来れば、元気な人もすぐに天の国に行けるんだ。方法はちょっと選べないんだけど……。あ、一番楽なのは石化部屋かな? 一発だからね!  でも、石化じゃあ魂が残ったままだから……、痛いのを我慢してもらうのが確実かな?
 痛いっていっても一瞬だよ! 気持ちいいと思える人もいるかな? 初めて来た人にはサービスするよ! あ、でも、神殿を壊そうとしちゃダメだよ? ペナルティとして餓死してもらうからね!』

 ――さらりと物騒な事が書いてある。どこかの悪徳施設の紹介パンフレットのような内容だ。というか完全に誰かに見せる用だ。
『…………』
 多少興味があったのか、空中から本の内容を見ていたガーゴイルが釈然としない表情をしている。恐らく、自分の存在意義について考えているのだろう。
 それはそうと、本のページはめくられる。

『そうそう、神殿内には情報管理所があるよ! 図書館みたいなものかな? この雑学本を忘れた時に寄ってみて! 司書さんは超可愛いガーゴイル! あ、でも本は絶対に見せてくれないよ! ケチだよね!』

『……………………』
 ガーゴイルは照れるべきか怒るべきか、よく分からなかった。
「で、あの女の人は何だったの? 書いてある? この本を見ると、天の国へ案内する為の演出だったのかな、という気がしてくるけど……」
「女の人? ……ちょっと待て」
 突然名指しで宣告を受けた花琳が言い、佑也はページをめくる。
「……演出みたいだな」
 そこで、話を聞いていたアレーティアが読んでいた技術書から該当箇所を探して情報を補足した。
「声は音階入力も出来る合成音声、入力はそういった専門の機械があるそうですじゃ。多分、裏方のモンスターが担当していたんだろうの。床が透明になったのも手作業のようじゃよ」
 話し方がカタコトだったのは調教……もとい調声不足といったところか。

『奥にはちょっと賢くなったり記憶が戻ったりする実の種があるよ! それを見に行くのもいいかもね! 実について詳しい事が知りたかったら、また別の本を参照してね!』
 ――この本が作られた当時は、智恵の実は種の状態だったらしい。
『さて、入口は第1ワープポイント! 神殿のどっかに飛ばされるよ! 出口は無いから気をつけてね。あ、だけど外に出られるワープポイントもあるから、それを見つければ帰れるよ! もうちょっと天の国への楽しみを取っておきたい人用だね! 良心的だね!』

 皆は、何とも言えない気持ちで、多分突っ込みを入れたい時のような心境で本を読む。書いてある情報は確かに有用ではあったが、紹介方法が巫山戯ている。
「ワープか。そういえば……」
 佑也は探索中に見たある現象について思い出す。
「壁を攻撃してワープしたやつがいたな。あれは、やっぱり普通のワープとは違うのかな?」
「あ、それは……」
「ライナスさんの所に行くんだよ!」
 テレサと、そして休憩している動物達に囲まれもふもふ中のミアが壁を攻撃した際に起こる事について話をする。
「ライナスだって?」
 話を聞いて、静麻達や真司、朝斗達や陣も近付いてきた。テレサ達は彼等に、優斗がライナスとテレパシーで交信した事を説明し、その際に彼の口から漏れ聞いた内容について皆に話す。
「壁を攻撃した方は皆、もれなく同じ場所へワープしているようですね。脱出しようとその部屋の壁を攻撃しても、最初の位置へ戻されるだけで出られないとか」
「強制ワープかあ。にしても、とりあえずはセンセが無事で安心したな。真奈、その本にはワープ罠について何か載ってそうか?」
「そうですね……」
 真奈は、罠の解説書の内の1冊を開いていた。表紙もタイトルも手書きで、誰かのレポートか覚書のようにも見えた。ソフトカバーサイズで文字も小さく、それをメモリープロジェクターに記録していた真奈は、本の内容を皆も読めるようにと拡大投影させる。集まった皆が注目する中で記憶を辿るように、彼女は画像を繰っていった。
 それを眺めながら、陣は強制ワープの仕組みについて考えていた。

 1、遺跡の壁を攻撃すると隔離部屋に一方通行のワープ
 2、隔離部屋の壁を攻撃すると部屋の中央へ一方通行のワープ

 働いているのは、この2種類のベクトルである。
(何とかして、このベクトルを変更させれんやろうか。どっかに専用の装置とか無いんかな?)
 やがて、投影画像が目的のページに行き当たる。
「ここに、ワープについての記述があります」
 左側のページ上部にはスイッチを踏んだ時に発動するランダムワープと入口へのワープについて。その下には侵入時のワープについてが書いてある。脱出不可能となっている部屋のワープ機能については、右側の1ページ全てで扱われていた。
 そこには、ワープ先の変更について詳しく書かれていた。書き方からして、やはり当時の技術者が自分用に記録したものらしい。
 ワープ先の変更装置は2つ。侵入者の様子を監視して様々な操作をするモニタールーム。そして、隔離部屋。アルカディアちゃんの雑学書には『餓死させるための部屋』だと書いてあったが、実際に侵入者が餓死した場合、その遺体は回収しなければならない。サルカモ達が回収作業をしやすいように、外側の装置はモニタールームに設置したということだ。ちなみに、このモニタールームで壁を攻撃してもワープはしない。裏方部屋とは得てしてそういうものである。
「モニタールーム……って、どこや?」
「その部屋なら、俺達が通ってきた。遺跡を管理するモンスター達の控え室のようになっている所だ」
 顔を見合わせる陣達に、後方で話を聞いていたレンが声を掛ける。リーンも、機械人形から吸い出した地図情報を参照して頷いた。
「確かに、裏道らしき場所から行ける部屋があるわね。隔離部屋は……他から繋がる道が無いみたい」
 そこまで言って、あれ、とリーンは手を止めた。隔離部屋のすぐ近く、下の階に表示されている一際大きい部屋。
 ――智恵の樹がある場所と隔離部屋は、ごく近くにあるようだった。
「よし、上手くいけばセンセ達を救助出来るかもしれんし、行くか」
「では……行きましょう」
 真奈は画像投影を終了させる。技術者の記録には、装置には智恵の樹前へのワープ機能有とあったからだ。ベクトルを変更して壁を攻撃すれば、一気に智恵の実へ辿り着けるだろう。皆は全員で、サルカモ達の居るモニタールームに向かった。
『…………』
 ガーゴイルは管理所を去っていく皆の背中を無言で見送る。その表情は何処にでもいる石像と変わらず――何を考えているかは分からなかった。