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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション



少女の恋のカレイドスコープ。


 お盆の日、琳 鳳明(りん・ほうめい)は告白した。
 そのときに見たリンスの顔を、忘れられないでいる。
 驚いていた。
 慌てていた。
 ――顔が赤かったのは、照れかな?
 一瞬だけ合わせた目には様々な色が映っていた。
 何か、言いたそうにしていた。それをわかっていて、鳳明は足を止めなかった。だって、聞く勇気なんてなかったから。
 勇気は、いまも、ない。
 だから、あの日以来人形工房には行っていない。
 ――クリスマスに告白した時は、妙にはしゃいでたっけなぁ。
 ――あの時の自分が何だか恨めしい。
 ねえ、あの時の私。
 こんなに悩むと、苦しむと、思っていましたか?
 なんて、誰にともなく問いかけることは、総じて意味もないことで。


 さて、鳳明が悩んでいるのをいつまでも指をくわえて見ているだなんて面白くないので。
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)は行動に移すことにした。
 内容は単純にして至極簡単、明快な方法だ。
 工房に行く。ただし、いつもと違った道順で。さらには裏口から入る。
「ねえセラさん、どこに行くの?」
「ふふ。すぐにわかりますよ」
 言葉通り、すぐにわかると思っていた。
 道順が違えど、通っている場所はほぼ同じ。景色を見て、あれ? と思われてしまえば踵を返してしまうかもしれなかったのに。
 結局鳳明は、ドアを開けるその瞬間まで自分がどこに向かっていたのか気付いていないようだった。考え事をしていた……というか、上の空だった、というのも気付けなかった理由のひとつだろうが、だとしたらこの悩みは根深い。セラフィーナが思っていた以上に、根深すぎる。
 だからこそ、リンスに会えば治るのではないかと動いてみたのだけれど。
「…………」
「…………」
 まさか、二人して固まるだなんて予想だにしていなかったわけで。
「どうしたものでしょう」
 時を止めてしまった二人を前に、呟く。
「あれ? みんなしてなにをしているの? だるまさんがころんだ?」
 そこに丁度良く現れてくれたのは、
「クロエさん」
 最強の助っ人だった。


「…………」
 先ほどから、二人の間に流れるのは気まずい空気と沈黙のみである。
 セラフィーナとクロエに連れられて、鳳明とリンスは作業場にしている広間に来た。二人とも近くの椅子に座り、……沈黙。
 すぐ、傍にいるのに。
 どうしてか、ひどく距離を感じた。
 また、この重い空気が変わる気配もない。
 しょうがないよ、と鳳明は自己正当化の言葉を心中で吐いた。
 ――しょうがないよ。
 ――だって、リンスくんの前に立っただけで、嬉しさとか恥ずかしさとか、期待とか恐怖とか……色々こみ上げてきちゃって、どうしたらいいかわからなくなるんだもん。
 気を抜けば、一人百面相も容易に出来てしまいそうだ。
 いっそやってみせて笑いでも取ればいいのだろうか。いや、だめだ。たぶんいろいろアウトだと直感が告げている。
 ――でも……いつまでも黙ってちゃ、だめだ。……気まずい、よね。
 一緒に居て、つまらないと思われたくない。
 ましてや一緒に居たくない、なんてことは絶対に避けたい。
 ――だから、話しかけなきゃ。
 ――世間話でも、なんでもいいから……。
 と、思っても顔を見れないのだからどうしようもなく。
 ベタに天気の話でも、と考えはしたけれど、空の様子なんて見ていなかったものだから話を引っ張ってくる引き出しもなくて。
 悪循環の渦を、ぐるぐる回る。
 姉に会えたのか、とか。
 告白の返事、とか。
 私は友達以上になれるのかな、とか。
 ……それを聞いた後でも、また会いに来てもいいのか、とか。
 聞きたいことは、たくさんあるのに。
 聞かなくちゃいけないことや、聞いて仕方のないことも。
 たくさん、たくさん、頭の中を回っているのに、ひとつも言葉になりそうもない。
 ちゃんと、まっすぐ彼の目を見ようとしているのに、
「…………」
 ああだめだ。逸らしてしまう。
 ため息が漏れそうになったのを必死でこらえた。これ以上空気を重くしたくない。
「ぎくしゃくしてるのね」
 そこに投げられた言葉は、ひどく心配そうなものだった。声の主に視線を向けると、眉をハの字にしたクロエが、鳳明とリンスを交互に見ている。
「ぎ、くしゃく。してる?」
「うん。ふたりとも、みててつらいわ」
「あはー……うん、だよね」
 気まずそうにリンスを見たら、丁度リンスも鳳明を見るところで。
 ばちり、目が合った。逸らしたら、また相手の目を見ることが出来なくなってしまいそうで。
 だから今度は目が離せなくなった。
 あと、やっぱり。
 ――見て、いたいもん。
 ――わがままだな、私の心。
 見れないと思ったり、見ていたいと思ったり。
 ころころころころ、変わってしまう。
 振り回される身にもなってよ、なんて自分に怒ってみたりして。
 だけど、それを嫌だなとも思えなかったりして。
「久しぶり、だね」
 ゆっくりと、話しかけてみた。
「……うん」
 小さくリンスが頷いて返す。
「元気だった?」
「見ての通り」
「うん。元気そう」
「お蔭様で。琳は?」
「あ、私も。元気だよ。すごく元気」
「それはよかった。……ちょっと、気にしてた」
「あ。……えと、うん。それは、私、も」
「……あー。うん。だろうな、とは思ってた」
「あはは」
「はは」
 お互いに、そうか、気にしていたのか。
 そりゃ、どっちも近付くのを躊躇していたら距離は開いたままだよなあ、と妙に納得した。
 緩衝材になってくれたクロエに、ありがとうと言おうとしたけれど、彼女はもう広間に居なかった。


「あのね、えがおになったのよ。ふたりとも!」
 クロエからの報告を受けて、キッチンでケーキを作っていたセラフィーナは静かに笑みを浮かべた。
「そうですか。クロエさん、お手柄ですよ」
「えへへ。……でも、わたし、ほんとうになにもしてないわ」
「では、クロエさんの存在がすでに癒しなのですね」
「そうなの?」
「はい」
 言葉を交わしながら、生地を混ぜた。オーブンの余熱も終わっているし、あとは型に流して焼くだけ。
「チョコレートケーキね」
「はい」
「だれかのおたんじょうび? おいわいのひ? それともきねんび?」
 クロエの問いかけを受けて、そうですね、とセラフィーナは考える。
 今日が何かの記念日だとするならば、それは。
「お二人の表情が少し柔らかくなった記念日、でどうでしょう?」
「すてき!」
 さあ、幸せいっぱいのケーキを焼こう。
 これを食べて、もっと笑って。
 ――ワタシたちは、お二人の笑顔を望んでいるんですから。