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【S@MP】地方巡業

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【S@MP】地方巡業

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【十 逆襲の予感】

 二隻の中型飛空船のうち、一隻は単に墜落していくだけだったが、もう一隻は、月の宮殿の上空でエンジンを破壊された。
 つまり、このまま放置すれば、この中型飛空船は月の宮殿に激突し、爆発を起こしかねないのである。
 シュヴァルツとイスナーン、更にアクア・スノー、クイーン・バタフライ、和希ロボといった機影が、月の宮殿に向けて落下してくる飛空船の下部へと廻り込み、艦底を支えて持ち上げ始めた。
 勿論その分、月の宮殿を守る戦力はガタ落ちになるのだが、こうなってしまっては、もうどうしようもないだろう。放っておけば確実に、月の宮殿は中型飛空船と激突して、大爆発を起こしてしまうのである。
 最早、進退は窮まった。
 ラピスラズリ・ブラッドと配下のシュメッターリング編隊は、月の宮殿を包囲したまま、手を出さずに眺めてくるばかりである。
「くっ……嬲り殺しって訳か……!」
 操縦桿を懸命に押し、スロットルペダルを目一杯踏み込みながら、和希は悔しげに呻いた。
 その言葉通り、ラピスラズリ・ブラッドはゆっくりと観客席上空に進み出てきた。グラディウスやレイヴンTYPE−E、或いは聡とサクラのコームラントが追いすがってきたが、シュメッターリング二個小隊に行く手を阻まれ、ここまで到達出来なくなっている。
 つまり、今や観客席に居るひとびとの命運は、完全に暁央の手の中にあるといって良い。
 観客席とステージ周辺で、絶望が充満した。真一郎は奥歯を噛み締め、茉莉は今にも泣き出しそうな面で頭上を仰ぎ見る。
 ラピスラズリ・ブラッドのマニュピレーターがゆっくりと動き、陽光浴びて冷たい輝きを放つ機関砲の砲口を観客席へと向けた。
 しかし――その機関砲が火を放つことは、遂に無かった。
 突如、観客達の中から一陣の風が巻き起こった。精確にいえば、それはアルコリア達四人の、弾丸の如き突進であった。
『うっ……何!?』
 思わずアシュレイが外部スピーカーに動揺の声を漏らした。慌てて回避運動に入ろうとしたが、それよりも早く、魔鎧化したラズンを纏ったアルコリアの華奢な体躯がラピスラズリ・ブラッドの青いボディを貫通し、更に続いてシーマが青い機影の脇をすり抜けてゆく。
 勿論、ただ横を駆けてゆくだけではない。すれ違いざまに攻撃を仕掛け、ラピスラズリ・ブラッドの動力ジェネレーター部に、致命的な一撃を加えていたのである。
 更にナコトの大魔弾コキュートスが、ラピスラズリ・ブラッドの左脚部を消し飛ばした。
『ア、アルコリア!?』
 レイヴンTYPE−Eから、ミレリアが驚きの声を挙げた。ミレリアですら、アルコリア達の動きは、予測の範疇に入っていなかった模様である。
「因縁ある相手なの? 拘りあるなら露払いだけにするけど……勝つのが目的なら、このまま一気に、フクロにするよー」
 対するアルコリアは、ラピスラズリ・ブラッドの頭上で、艶やかに笑った。
『中々やらはるねぇ、姉さん……一杯食わされたわ』
 決して余裕は無い筈だが、それでも暁央は笑いを含んだ声で、アルコリアの奇襲を賞賛した。一方のアルコリアは依然として、笑みを絶やさずにラピスラズリ・ブラッドを眺め下ろしている。
「木の葉を隠すなら森の中って諺、ご存知ないのかしらぁ?」
 相手が暁央レベルの猛者であるのに加え、シュバルツ・フリーゲを駆っているともなれば、如何にアルコリアとて、生身のまま真正面から相対するのは自殺行為であった。
 しかし事前に、ミレリアから暁央手強しを情報として仕入れていた為、奇襲を成功させるに至った。いうなれば、ミレリアとの絆が生んだ勝利である。

 更に、どこからともなく突然霧が発生し、ほんの数瞬、視界が損なわれた。
 と思った次の瞬間には、ラピスラズリ・ブラッドが従えていたシュメッターリング二機が機関部を破壊され、徐々に高度を下げてゆく。
 見ると、絶影がいつの間にか、ラピスラズリ・ブラッドの背後を取って、アダマントの剣の切っ先を突きつけていた。
『形勢逆転、ってところですかねぇ』
 唯斗の穏やかな声が、却って凄みを利かせていた。
 このまま一気に始末をつけても良かったのだが、ここでもしラピスラズリ・ブラッドを撃墜してしまえば、残りのシュメッターリング編隊が暴徒と化し、それこそ容赦無く月の宮殿に殺到するだろう。
 であれば寧ろ、このまま暁央とアシュレイを生かしたまま退却させた方が懸命である。
 勿論、暁央の側も唯斗の考えは察知していただろうが、しかし下手な無茶はしない。調子に乗れば、本当に撃墜されかねない勢いが、アルコリアの視線の中に感じ取れたからである。
 暁央は、外部スピーカーに乗せて、鼻を鳴らした。
『ふん……宜しおす。ここは大人しゅう退かせてもらいまっさ。せやけど……また近いうち、お目にかかることもありまっしゃろから、そん時は宜しゅうお頼み申しますえ』
 いうが早いか。
 ラピスラズリ・ブラッド頭部のブレードアンテナ先端が、退却を指示するビーコンランプを発信し始めると、それまで月の宮殿の周辺に展開していたシュメッターリング編隊は、まるで潮が引いていくように、実に整然と退却していった。
 部隊の退却完了を見届けたラピスラズリ・ブラッドも、絶影が道を空けて脇に移動したところを、音も無く宙空を滑るようにして、バックステップのまま後退していく。
 助かった、と誰もが思った。
 最後の最後で大逆転にこぎつけたから良かったものの、あのまま何の策も無く、ただ抵抗し続けるだけであれば、間違い無く悲惨な末路を迎えていたことだろう。
 だが、敵が去ったからといって、手放しでは喜べない。
 受けた被害は甚大で、観客席の中にも少なからず、犠牲者が出ているのである。
 自分達にはまだ、決定的な何かが欠けている――S@MPメンバーのみならず、月の宮殿の一員として今回のライブに参加したスタッフ、或いは守衛部隊の面々は、自分達の力量不足や準備不足を痛感せざるを得ない。
 ともあれ、月の宮殿はタシガン郊外の飛空船ドックへ向けて、帰路に就いた。
 観客達の中に決してあってはならない被害を出したことで、事実上の敗北を喫したことになるS@MPメンバーの足取りは、極めて重かった。


『【S@MP】地方巡業』 了

担当マスターより

▼担当マスター

樹 和寿

▼マスターコメント

 こんにちは、代筆担当の革酎です。
 今回は樹和寿マスター体調不良の為、下名が代筆をさせて頂く運びとなりました。

 判定方法から描写手法まで、それこそ何から何まで樹マスターとは大きく異なる為、ガイドに記載されていたルール等もほとんど反映出来ず、参加頂いた皆様方におかれましては、大変困惑されたことと存じます。
 次回、樹マスター復帰の際に今回の結果も踏まえて、色々回収頂ければ幸いです。

 尚、今回は代筆の為、称号及び個別コメントは無しとさせて頂きます。あしからず、ご了承くださいませ。

 それでは皆様、ごきげんよう。

▼マスター個別コメント