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リアクション
第四章 執事喫茶の優雅なひととき 3
ところで、この執事喫茶。
終始和やかなムードで営業されており、これといって目立ったトラブルはなかった。
では、POAの妨害が全くなかったのかというと、実はそうではない。
「……今来たお客様方に気をつけて」
あらかじめ【禁猟区】を張って警戒していた北都から、他の執事たちに密かに連絡が回る。
「わかった、任せとけ」
「ふむ、承知いたしました」
こういった厄介な「お嬢様」の対応に当たるのは、主にソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)と空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)。
どこか妖艶で少しツンとした雰囲気を漂わせるソーマに、一人だけ珍しい和装執事という出で立ちの狐樹廊は、どちらも多少目立つ存在であるため、相手に目をつけられやすいのではないか、という読みもある。
さらに、あらかじめサクラとして紛れ込んでいるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、これまた暗号による合図を受けて、先に近くの席で小さな騒ぎを起こし、あっさり強制退店となることで相手の気勢をそぐ。
「ちょっt、離しなさいよ! 私は客なのよ!?」
「申し訳ございませんお嬢様。例えお嬢様と言えども、他のお嬢様方に多大なるご迷惑をおかけする行為があった場合は、早々にご出発いただくこととなっております」
さすがは歌劇団員のリカイン、事前に聞かされていなければ誰もサクラだとは疑うまい。
それをあっさりとつまみ出すことで、「これは勝ち目がないぞ」と思わせる、という策略である。
しかる後に、エオリアがさりげなく【殺気看破】を行う。
すでに騒ぎを起こす気が失せているようであればそれでよし、まだ何かする気であれば……こちらも次の手を打たざるを得ない。
「あのね、私はね……!」
険悪な雰囲気になりかかったところにやってきたのは狐樹廊。
「お嬢様?」
「何よ」
相手の視線が自分の方に向いたのを確認して、さっと一度自分の顔を手で覆い、すぐにその手をどける。
その一瞬の間に……狐樹廊の顔には、見事なひげめがねがかけられているのである。
「……ぶっ!!」
ダメ押しとばかりに、吹き戻しの仕込まれた巻きヒゲが左右にぴーんと広がる。
「あははははははははっ!」
この精神と腹筋へのダイレクトアタックを受けて、無事でいられるものは少ない。
大抵は予期せぬ二段構えの攻撃に大爆笑した後、やがて我に返ってこう呟くことになるのである。
「……って、私何怒ってたんだっけ。なんだか怒ってるのもバカらしくなったわ」
もちろん、中にはこれすら通用しない本当に厄介な「お嬢様」もいるにはいたのだが。
「お嬢様。お手を」
「え?」
ソーマの言葉に、言われるままに手を差し出す「お嬢様」。
そんな彼女の前にひざまずくと、ソーマはまるで騎士が貴婦人に対してするかのように、その手の甲に口づけを……するついでに、【吸精幻夜】で大人しくさせる。
「お嬢様方、よろしいでしょうか」
相手が複数の場合は、エースがそちらに向かい、うまく注意を引いて【ヒプノシス】でまとめて眠らせる。
こんな感じで、ほとんど荒事らしい荒事もなく、今日も執事喫茶の平和は守られたのであった。
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