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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ(前編)

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2. 食事会


 食事会――、もといミネルヴァ軍とパラミタの生徒たちとの異世界間会合。作戦会議(ブリーフィング)はトロイア基地内の会議室にて行われた。
 ミルヴァ軍からは司令官のフィンクス・ロンバート大将と先ほど帰投したばかりのマシュー・アーノルド中将が出席していた。
 アセトは帰投後の機体チェックのため、整備班とドッグにいる。代わりにテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)がマシューの秘書官を務める。
 テレジアはブリーフィング用のパワーポイントを大きくスクリーンした。
「会議の前に、全員に報告することがある――」
 まず口を開いたのはフィンクスだった。
「20分前、そちら側の捜索部隊に異変があった。第一捜索ポイントにて2機の機体が突如ロストしている」
 出席者がざわめく。マシューはすでにフィーニクス内で通信により事の報告を受けていた。真人をその捜索隊に合流するように言ったのも、消失した2機の戦力補強と、捜索をさせるためだ。
「それはドールズと交戦して、ということですか?」
 瀬名 千鶴(せな・ちづる)がパラミタ側の技術資料を配りながら言う。PC上のデータをこの世界のPCと並列化できないため、全て紙に出力した。
「交戦記録はない。ドールズと同じく、虚空へと消えたそうだ」
「それは、その消失した2機がドールズに何らかの接触をしたのではございませんか?」
 デウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)が尋ねると、「可能性はある」とフィンクスは返した。
「消失した2機の捜索は現地の部隊に任せ、我々は話すべきことを話そう」
「議題は、今後の軍事作戦と開発計画です」
 テレジアがスライドショーを展開する。話はマシューが行う。
「まずは防衛計画から。現在、パラミタとの軍事協定により、ミネルヴァ軍の戦力は一時拡大している。イコン導入により対ドールズ防衛に関して割ける戦力量が飛躍的に上がっている。
 しかし、未だ敵の総数も正体もわかっていない。ここにあるのは今まで出現したドールズの出現平均数でしかない。相手はこれ以上の数のドールズを参戦させてくる可能性もある。その場合、条約に基づく応援要請の上限を超えるかもしれない。
 そこで、今展開している、敵本拠地の捜索作戦だ。この作戦により敵地が判明すれば、敵の総数もわかってくるだろう。場所さえわかれば、防衛ではなく、こちらから攻撃を仕掛けられる」
「ドールズの出現傾向には周期的な特徴はないのですか?」
 綺雲 菜織(あやくも・なおり)の質問にマシューは「有る」と応える。
「基本周期は7日前後。襲来する数は今出ている通りだ。たまに3日で攻めてくることもあるが、その場合の襲撃数は少ない」
「ドールズも戦力編成に時間をかけているということでしょうか? 相手の戦力上限もきになります」
「その点関しては、技術部からの意見がある」とフィンクス。
「敵はおそらく、量子化による《テレポート》を使用している可能性が有るとのことだ。ドールズの出現と撤退時の観察記録から、黒いの靄に高エネルギ反応を確認している。
 しかし、その《テレポート》で送り、そして戻す事のできるドールズの数が決まっているのだろう。とのことだ」
「やっぱり、あの黒い靄がドールズの謎を解き明かす鍵ですか」
 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が呟く。
「そうだ。そこで、次回の防衛での作戦として、ドールズの鹵獲作戦が持ち上がっている。パラミタ側からの提案だ」
 パラミタの防衛戦力代表として菜織が説明に立つ。
「鹵獲作戦は、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の立案の元、パラミタのイコン数機によって行われます。同時に黒い靄の拿捕も実行。可能ならば、これも回収いたします。靄が魔法物質という可能性もありますが、物質ならば拿捕することも可能であろう。その他の人員は、まず、第一次防衛ラインにて専守防衛に専念し、敵戦力を削ぎます」
「鹵獲に関してはそちらが所有する機体が、我々の空軍機よりも有効的だろう。作戦はそちらに全面的に任せる。本作戦ではミネルヴァ軍はイコンのバックアップに回る」
 そうフィンクスが宣言する。
「続いて技術支援についてです」とテレジアが議題を進める。
「現在の支援状況としては、パラミタ側の技術と機晶機器などを基地に送り、紙媒体による資料の提示を進めています。しかし、ミルヴァ軍側からの技術のパラミタへの譲渡が滞っています」
「コチラからの技術と機器の譲渡は『ウェスタ』での承諾がとれなければ、可能ではない。現時点では技術流出はできないが、基地内部での情報公開はしている」
 とフィンクスが説明する。この情報公開もパラミタ側から軍事支援にきた生徒たちを『一時的に軍の一員とする』ことで、法のグレイゾーンをついているまでだ。
「それはしかたないかもね。この世界の技術をパラミタに持って行ったら、技術革命が起こりそうだし」
 AirPADの非固定展開画面の表示を眺めて、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が言う。このような機器は特に現代に浸透しやすいだろう。
 しかし、技術独占に走る者や企業が出ないとも限らない。特に元校長の一人が首を突っ込みたがるような話でもある。
「パラミタ側から提供した技術資料としては、【鏖殺寺院イコンの解析資料1】や【機晶技術マニュアル】を用意しました。パラミタの魔法技術を説明するには時間がかかりますが、機晶技術に関してはこの世界の技術との組み合わせは十分に可能かと思います」
 と十七夜 リオ(かなき・りお)が配られた資料について説明する。
「機材の搬入準備はすでに整っている。後はゲートを通ってここに持ってくるだけなのだが――。これに関してフィンクス・ロンバート空軍大将に頼みがある」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)が申し開きをする。
「機材をオリュンズの研究施設ではなく、この基地に設置させて頂きたい。今後の対ドールズ兵器とバーデュナミス開発に尽力するためにも、技術者を一箇所にまとめて、開発に取り組むための研究拠点が必要だと俺は考えている」
「その理由は?」
「この基地ならば搬入が容易なこと。それに我々の機材はオリュンズの人にとっては如何わしいものに写らないとも限らない。基地内軍備の拡張なら、議会にも文句は言われないだろう。双方の技術者を集めれば、開発も進みやすい。防衛に余裕のある今こそ、開発場所を分散しないことです」
「確かに、開発効率化にはそれが必要だろう。許可しよう。第八ドッグを開ける。そこを隙に使うといい。隣接する部屋の幾つかも使えるようにしておこう」
「なら、俺も頼みがあります」
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)も申し出る。
「パラミタの技術者が常駐するなら、そちらの医務官のご厄介に成ることが増えるだろう。それに備えて、技術研修も兼ねて、俺を基地の医務室で働かせて欲しいんだ」
 パラミタとの医療技術の違いも有るだろう。殊、【薬学】知識はつけておきた。
「医療班に伝えておこう。人員が増えるのは向こうにとっても幸いだろうし、そちらの研究者たちの体調管理はそっちで任せておきたいところだ」
 フィンクスがそう述べたところで、会議は中断した。
 スクランブルの警報がなる。ドールズの襲来を伝えるものだ。
 マシューはAirPADを開いて、アセトを呼び出す。
「BD−01Pの整備状況はどうだ?」
〈偵察飛行から帰ったばかりですので、燃料の補充、各種点検が終わっておりません。絶賛整備中です〉
「パラミタの防衛軍はすでにゲート付近に配備しています。直ぐに迎撃可能です」
 そう美幸が伝えると、マシューは頷いて言う。
「作戦通り、防衛は任せたぞ。アセト、作業を整備班に任せてお前は司令室に来い」
〈了解しました〉
「会議はこれで一旦中止とする。私はこの後『ウェスタ』で会議がある。技術提供に関しての許可と資金捻出を決定させなければならない。あとは任せたアーノルド中将」
 そう言って、フィンクスは席を立つ。マシューは敬礼し見送った。
 会議室を出るフィンクス。足早に基地地下ターミナル駅に向かう。
 その途中、彼の前に天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)が立ちはだかった。
 そして、イキナリ土下座するなり、彼は言った。
「オレをバーデュナミスに載せてくれ! おーねーがーいーすーるー!!!」