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ブラッドレイ海賊団3~海賊船長と、その右腕~

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ブラッドレイ海賊団3~海賊船長と、その右腕~

リアクション

 突撃を止めた“黒髭”は一度美緒と意識を交代し、契約者たちと共にどうしたものかと作戦を練っていた。
「捕虜であるランスロットを引き渡すという名目で互いの船長同士の会談の場を設けるのはどうかしら? そして、あちらを叩き潰すだけではなく味方に引き込んでしまうというのは?」
 キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)が告げる。
「設けさせてくれればいいのですが、近付く以上攻撃してくるのではないでしょうか?」
 争うよりは話し合いで解決できるなら、美緒としては嬉しいことではあるけれど。
 それを行う過程に、争いが起こってしまう可能性がある。
「小規模な戦いは起きるかもしれませんが、年若い女性同士腹を割って話し合うことが出来れば、ブラッドレイ海賊団を取り込める可能性もあると見ますわ」
 キュベリエのパートナー、金死蝶 死海(きんしちょう・しかい)も告げた。
「やはり小さな戦いは起きてしまいますよね」
 頷きながら、話し合いの場を設けるにしてもどのように相手に接触を図ったものか、と美緒は考える。
「……ええい、まどろっこしい!」
 考えている途中、“黒髭”が表に出てきてしまった。
「話し合うにしてもまずは接触だ。突撃するには人手が足りねえ……島側から近付くのも一手あるかもしれねえが……」
「失礼するよ」
 そこへ幸祐がパートナーのヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)とローデリヒを連れて訪れる。
「雅羅が島の調査中に行方不明になってね、こちらを訪れてみればあの島にはブラッドレイ海賊団が居ると聞く。また連れ去られてしまったのではないかと考えたんだが……」
「その可能性は高そうですね」
 ラナ・リゼット(らな・りぜっと)が眉を寄せ答える。
「金髪の小娘か。また手間かけさせやがって……」
 “黒髭”も呆れたように呟いた。
「作戦を練っていると聞いて、俺にも1つ案がある」
 そう告げる幸祐の作戦を聞こうと、“黒髭”は黙った。
「ブラッドレイ海賊団が停まっているというのは恐らくこの入り江です」
 依頼を受けた際に貰っていた島の簡略地図を広げて、話し始める。
「……なら、まずこちらの船で入り江を封鎖し、出て来ようとする海賊船をフルボッコで撃破すれば、撃破された海賊船が障害となって、艦隊での攻撃は不可能になり、軍勢の差は一変する。後は、陸に上がった部隊が入り江を完全に包囲し、救出部隊が海賊の旗艦を制圧すればいい……」
「挟み撃ちか……確かにいいかもしれねえが、ネックはやっぱ数だな」
 幸祐の作戦に“黒髭”は頷きはするものの、数の問題で行き詰まってしまう。
「魔獣群れをけしかけることは可能ですわ。微々たるものかもしれませんが」
 亜璃珠が告げるのは野性の蹂躙の力のことだ。
 魔獣たちの力を借りれば、確かに数多く見えるかもしれない。
「じゃ、救出部隊には幾人か割いて、残りの者たちで数を割り増して見えるような技使いつつ突撃、ってところか」
 どうだ? と確認を取るように、“黒髭”は仲間たちを見回す。
 元より突撃のつもりであった仲間たちを中心に、皆が頷き合った。



 一方その頃、ブラッドレイ海賊団の船では――。
(船長と一番隊隊長というより、どうみてもお嬢様と付き人にしか見えない)
 雅羅を引き連れて船へと帰ってきた船長・エヴァンジェリンと、一番隊隊長・エセルバート。
 甲板で雅羅と共にテーブルについた彼女に、ティータイムの用意をする彼の姿は、背景にも見えるプライベートビーチさながらの場所を含めると、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)には、そうにしか見えなかった。
「改めてようこそ、我がブラッドレイ海賊団へ。歓迎するわ。可愛い子が来てくれるなんて、嬉しい。ほら、お茶でも飲んで」
「いや、私は……」
 勘違いに気付かず、雅羅を入団志願者だと思い込んでいるエヴァンジェリンは、余程彼女の入団が嬉しいのか、テンション高く、話しかける。
 雅羅はというと、勘違いを訂正できぬほど矢継ぎ早に繰り出される言葉に、戸惑いを見せていた。
(ブレッドレイ海賊団自体も新しいながら三番隊まで作れるほどの資金力を考えると……ひょっとしてどこかのお嬢様でただの暇つぶしなんじゃないだろうか。なんてことも考えちゃうよなぁこの状況。おまけにドラゴンライダーのヤツはいないのに何故か雅羅ちゃんだけいるしー。帰っちゃおうかな俺様……)
 そんな2人――傍で控えているエセルバートも含めれば3人の様子を見ながらゲドーは思う。
(なんて余計な事考えてないで……)
「ジェンド、伝えたとおりお願いするよ」
「任せてくださいですよ、ゲドーさん」
 “黒髭”を迎え撃つ前にやておくべきことがある、と彼はパートナーのジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)へと声を掛ける。
 海賊団本隊へと合流前に、合流した彼にしてもらうこととは。
「対象は、ラナ・リゼットですね」
 呪詛をかけることだ。
 非契約者である“黒髭”こそ狙い目であるけれど、それよりも魔鎧であるラナの存在の方が不用意に狙えば返り討ちにあってしまいかねない、やっかいな存在だとゲドーは考える。
 そこで、ジェンドに力を借りて、ラナに呪いをかけ、彼女の体調を崩すことで、今回の戦いに参加させなくする算段だ。
 ジェンドはラナの姿を思い浮かべつつ、呪いをかけていく。
 一方、ゲドーのもう1人のパートナー、シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)はアーダルベルトの下へと向かっていた。
 先日の傷が癒えていないため、自身は戦いには出ないつもりだが、アーダルベルトに渡すものがあるため、そして船長やエセルバートに伝えておきたいことがあったため、ゲドーが召喚したのだ。
「アーダルベルト、あなたにこれを渡しに来たのです」
 彼の部屋を訪れてシメオンが差し出したのは、透明な液体の入った小瓶――魔法薬:トワイライトだ。
「これは?」
「攻撃力を極限まで上げることの出来る薬です。大体3分くらいしか持ちませんけれど」
 眉を寄せたまま、アーダルベルトは説明を聞く。けれども、
「力増幅の薬か……だが、俺はそういうのには頼らねえ主義だ」
 一蹴するように告げると、シメオンへと小瓶を突き返した。
「そう言わず、せめて受け取ってください。それでは」
 突き返された小瓶をアーダルベルトの手に握らせて、シメオンは部屋を出る。
 それから、甲板へと向かうと、雅羅と共にお茶している船長へと近付いた。
「どうも、キャプテン・エヴァンジェリン。知ってます? そちらの彼女、先日、二番隊に協力してたんですよ?」
「なっ!?」
 軽く挨拶してから、雅羅を指し、シメオンは告げる。
 雅羅はそれを聞いて言葉に詰まる。言い返したくとも、言い返せる状況ではない。
「あら、そうだったの? 入団に先駆けて、協力してくれるなんて、嬉しいわ!」
 真実を言えず戸惑う雅羅と、喜ぶエヴァンジェリンの様子を見つつ、シメオンは傍に控えるエセルバートの耳元へと口を寄せる。
「……とまあ、嘘ではないのですが、協力といっても、『人質』として、ということです。彼女は入団しに来たわけではなく、たまたま居ただけでしょうから、お気をつけください」
 声を潜めてそう告げて、シメオンはその場を後にした。